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しおりを挟むクルーソン家に到着すると、お屋敷の前にはズラリと人が並んでいた。思わずギョッとした。ナニゴトだろうか。恐る恐るだが、それでもじっくりと見た。
中央にはおそらくジョセフ様のご両親と思しき男女の姿。その左右にはジョセフ様のお兄様だろうか、2人の男性が立っている。その後ろには使用人の方々。町中から集めたのかと思うくらいの人々が整列している。
しかもだが、お屋敷はものすごく大きい。当然ではあるけど、子爵家の我が家とは比べ物にならないし、同じ伯爵家のレナード様のお屋敷よりもはるかに大きかった。さすがに王城と比べるわけにはいかないけど、知らない人に王様がお住まいと嘘を言っても信じるのではと思った。こういうことは不敬に相当するので考えはすぐ捨ててしまうけど。とにかく、このお屋敷を維持するためには、使用人の数も半端ないよね。
こういうところで働いたら、さぞかし技術が身に付くだろうなぁと考える。仕事ならいくらでもありそうだ。人手不足の時はぜひ声をかけてほしい。
そんなことをぼんやり考えているうちに、ジョセフ様に手を引かれ私は人々の前に立つ。ここで後悔。もっといい服を着るべきだった。私が持っている服の中では上等の部類に入るのだが、絶対に見窄らしく見えているだろう。ジョセフ様の嫁には相応しくないのが丸わかりである。
人々の視線が私1人に注がれているのがわかる。怖い。怖いが、逃げることもできない。引き攣った顔をしながらも挨拶をする。目上の人への挨拶はこの方法でよかった、はずだ。が、様子がおかしい。挨拶を受けた相手の様子が明らかに動揺している。
間違えた!どうしよう。
しかしやってしまったことは取り返しがつかない。せめてとんでもなく失礼なことではないと願おう。そう思い直し誰かが何かを言うのを待った。すると。
「な、なんて優美な」
「王侯貴族でも見たことないぞ」
「尊い」
しばらくしてそんな声があちこちから聞こえ、やがてウォーという雄叫びにも似た声が響いてくる。
「やめてくれ!ライラが怯えているだろう」
大人数の雄叫びよりも大声のジョセフ様。一瞬で静寂が訪れたが、耳がキーンとなっている。
「だってぇ、あまりに素晴らしいんだもの」
「王命とはいえ、ここまでの当たりを引くとはさすが我が息子だ」
「神のご加護ですね」
「クルーソン家の領地に眠るご先祖と英霊に感謝せねば」
何だかテンション高く話されている。気に入ってもらえたのだと解釈するが、居心地の悪さも感じてしまう。買いかぶりすぎではないだろうか。本当はそんな人間ではないのに。
「ライラ、父のウィリアム、母のエマ、長兄のフリッツに次兄のリアムだ」
順番に紹介していただく。ジョセフ様はご家族の中で一番背が高いのだが、お義母様も含めて長身のご一家だ。騎士のジョセフ様が一番険しいお顔立ちではあるが、その険しさを抜いたらお義母様にそっくりだとわかった。ジョセフ様が女顔というわけではないのだが、でも元は綺麗なお顔立ちだと実感した。
「ライラでございます」
私はもう一度丁寧にお辞儀をした。もう一度使用人の方を中心にどよめきが起きた。その後、やや呆れたような顔をしたジョセフ様にエスコートをされ、私は室内に招かれたのだった。
「オリビア、ちゃんと観察した?」
ライラが部屋に入るのを確認しながら、エマはメイド長のオリビアに聞く。
「はい、抜かりなく」
オリビアは小さくうなづいた。
王命により息子に嫁ができた。相手は子爵家の娘ライラである。社交界にデビューもせず、存在すらはっきりしなかった令嬢だ。聞いた時は大丈夫なのかと心配になった。しかしメイリンの報告では問題ない、むしろいい縁談だとのことだが自分で確認するまで納得できなかった。
第一印象は貧相。飾り気のないその装いに心の中で舌打ちを打ってしまった。とはいえ、あまり派手な様子であればそれはそれで気に入らない。しかし、彼女の挨拶に目を奪われた。彼女の持つ品格に圧倒されたのだ。それは生まれ持つ気品というものであろうか。使用人たちからもどよめきが起きた。
「あのような原石にお目にかかれるなど、まさに奇跡と言えましょう」
オリビアはそう言うと力強い眼差しを向けてきた。
「私の持つすべての力を使い、ライラ様を目覚めさせましょう。今日この時のために私は存在したのです。そのくらい、今私は感動しています」
オリビアがやる気を見せてくれてよかった。彼女に任せれば大丈夫だろう。エマは微笑んだ。ライラを最高の淑女に仕立て上げる。それが義母である自分の役割なのだ。エマはオリビアとその後ろにいる数人のメイドたちに指示を出す。明日から忙しくなるけど、楽しみでもある。エマもオリビアと同じく感動を感じていたのであった。
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