30 / 61
30
しおりを挟む数人のメイドを紹介され、私はある部屋に通された。私の部屋だというそこは花柄の壁紙に可愛らしい家具、窓辺にはピンクのカーテンが下げられレースがアクセントになっている。はっきりいえば可愛らしすぎるお部屋であった。
「お嬢様のお部屋、と皆様がお呼びになっているお部屋です」
メイド長のオリビアに言われる。
「お嬢様のお部屋?私が使わせて頂いたら申し訳ないのでは」
クルーソン家にお嬢様っていらしたかしら?でもお嬢様のお部屋を私なんかが使ったら汚れてしまうわ。と、不安になってしまう。
「いえ、お呼びしているだけです」
は?呼んでるだけ?どういうことかよくわからない。私が首を傾げていると
「旦那様も奥様もお嬢様が居られればと思っておいででした。しかし恵まれなかったので、将来お嫁様をお迎えになった暁にはと思われ、お部屋をご用意していたのです」
用意されたお部屋は成人した私が使うにはかなり可愛らしいものと思う。
「旦那様も奥様も大層お喜びでいらっしゃいます」
オリビアは顔色ひとつ変えず淡々と語る。本当にお義父様もお義母様も喜ばれているのだろうか。と、思ってしまう。
「それでは準備に入らせていただきます」
準備とは?オリビアの後ろに控えるメイドたちの目が光った気がした。
「夕飯前の準備でございます。正装とは申しませんが、お着替えをしていただきますので」
確かに私の服装ではダメなのだろう。しかし服は持っていない。
「奥様がこの日のためにご用意したドレスがございます。私どもにすべてお任せください」
いえ、結構ですと言える雰囲気ではなかった。そのまま私は服を脱がされお風呂に入れられたのである。
過去、人に体を洗ってもらうという経験はなかった。本来私も貴族の端くれ。そういう経験はあるべきだろうが、私にはない。だから恥ずかしいという気持ちもあるし、つい自分でやろうとしてしまう。
「ライラ様、お任せください」
「緊張されてますね、大丈夫でございますよ」
何度も声をかけられる。
「私ではご心配でしょう。申し訳ございません」
ついには謝られてしまう。自分たちに落ち度があると思われたのだろう。決してそんなことはないのに。悪いと思う気持ちから少し力を抜いた。私にそんな価値はないのに。そう思うと辛い。彼女たちはジョセフ様の妻になる私に支えてくれる人たちなのだ。
お風呂が終わると次は丹念にお化粧をしてもらう。化粧は好きではないし、そもそも化粧をしたことがなかった。婚約破棄されたあの夜会の日に初めてしたくらいなのだ。確か「化粧くらいしないとレナード様に恥をかかせる」と言われたのでやむなく見よう見まねで粉をはたいた。化粧品も母のお古だった。若いんだから化粧品なんて必要ないと買ってもらえなかったからだ。
「さぁ、できましたよ」
声をかけられ鏡を見た。誰だ、これと思うくらいに化けた私がそこにいる。
「ライラ様の肌はお綺麗ですわ、どのようなお手入れをされてらしたのですか」
聞かれても答えられない。お水でバシャバシャと洗う程度のことしかしていないからだ。化粧をした自分に慣れないのは仕方がない。ドレスも薄いイエローでふんわりとしたデザイン。可愛らしい妖精のような感じだが私が着ているのが申し訳ない。自分が自分でないようで恥ずかしい。
「素敵ですわぁ」
「よくお似合いです」
「ジョセフ様、驚きますよ」
そりゃ、驚くよね。私なんかがたくさんのメイドに囲まれて磨き上げられて化粧されて。とても綺麗で可憐なドレスを着させてもらって。そんな価値ないのに。私はジョセフ様の隣に立つ人間ではないのに。
そう思うとなんだか悲しくなってきた。ジョセフ様にはもっと相応しい人がいるはずなんだ。私なんかじゃなくて。こんなドレスや化粧が似合う価値のある人。
「そろそろお時間ですわ」
「参りましょう」
夕飯の時間になったようだ。私はメイドに先導されて夕飯を取る部屋に向かう。いつものように笑顔で。本当は泣きたくなるくらいに心は辛い。なぜだろう。私の顔は笑顔なのだ。この状況を喜んでいないのに。
168
あなたにおすすめの小説
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。
彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。
さて、どうなりますでしょうか……
別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。
突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか?
自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。
私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。
それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。
7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。
どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~
クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。
同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。
ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した…
誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる