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しおりを挟むメイリンからの手紙を何度も読み返した。そこには新しく仕える事になったライラ様のことが事細かく記載されている。
ライラ様。王命によりジョセフ様の奥方になられた方。子爵家の令嬢とのことだが、社交界にも出たことがない無名の令嬢。
ジョセフ様が第一騎士団を辞めて国境警備についたこと、王命により婚姻しなくてはならなくなったこと。それはクルーソン家の使用人たちに少なからず動揺を与える出来事だった。
ジョセフ様が優秀であることは分かりきっている。新たな任務は致し方ない。婚姻に関してもいずれは対峙する事柄であろう。王命であるというのも理解はできる。しかし何故、彼女でなくてはならないのだろうか。彼ならもっときちんとした家柄の令嬢がお相手になるべきだ。使用人たちは納得できなかったが、王命である以上従うしかない。
貴族の婚姻には相当の意味がある。婚姻による結びつきが利益をもたらすのだ。だが、クルーソン家に何の恩恵があるのだろうか。聞けばライラ嬢は婚約を破棄されたと聞く。いわば傷物令嬢である。そんな女性が国の英雄と讃えられるべきジョセフ様にあてがわれるのだ。王命とはいえ酷な話だ。
しかし王命である以上どうすることもできない。ライラ嬢は王妃様の信頼も厚く、謁見が許された人物である。どういうつながりがあったかわからないが、失礼な態度は許されない。礼節を持って接するべき人物なのだ。
メイリンの手紙では、ライラ嬢は素晴らしい女性であると書かれていた。彼女も王命により満足な準備期間も取らせてもらえず、ジョセフ様のもとに来られた。貴族女性が住めるような場所ではないのに嫌な顔もせずに自分で掃除をして家を整えていた。料理は一流。ジョセフ様が満面の笑みで食事を楽しまれている。いつも笑顔で隊員からも親しまれている。
メイリンが嘘を言う人間ではないのは知っている。だが、ここに書かれていることは本当のことなのだろうか。だとしたら、ライラ嬢とは何者なのだろうか。
メイド長のオリビアは手紙をしまうと窓の外を見た。もうじきジョセフ様とライラ嬢がやってくる。
「オリビア、ちょっといいかしら」
部屋に入ってきたのはエマ様。彼女も王命により、いきなり姑となり嫁を迎えることになった。どんな人物かわからないのに家族として接しなくてはならないのだ。想像すると恐ろしいが、これが貴族というものでもある。
「ライラが来たら、彼女のお世話を頼みたいの」
本来ならメイド長である自分がやることではない。オリビアは、ライラ嬢と同年代のメイドをつけるつもりでいたのだ。
「急に決まった婚姻のうえ、王妃様の命もあってあまり荷物を持たせてもらえなかったそうよ」
どういう状況だったのかよくわからないが、ライラ嬢が少しの荷物を持ち単身で来たことは知っていた。駆け落ちじゃあるまいし、と聞いた時は驚いた。婚約破棄されたということは婚姻の予定があったわけで、それなりの用意がされていたはずである。それなのに何の荷物もなくメイドや使用人もつけずに嫁入りしたとは、貴族とは思えない。そもそも婚約破棄されるような人物であれば、何かしらの理由があるからではないか。
メイリンには申し訳ないが、オリビアはライラ嬢は油断できない人物と思っている。彼女がどんな人物であれ、本来子爵家の娘が格上の伯爵家と婚姻するには本人に相当の資質が求められる。料理ができただけではダメなのだ。
エマ様がライラ嬢の教育をされると、色々問題が発生するかもしれない。ただでさえ特殊な状況のため、社交界では注目されている。普通に接しただけなのに、嫁いびりをしたと言いふらされることだってある。それが社交界というものなのだ。なるべくエマ様とライラ嬢は接触しない方がいいかもしれない。
オリビアはいつも以上に背筋を伸ばし、丁寧にお辞儀をした。
「承りました」
自分がしっかりしないといけない。オリビアは気持ちを引き締める。ライラ嬢をクルーソン家に相応しい人間に作り替えてみせる。新たに下った自分の仕事に彼女は静かに燃えていたのだった。
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