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「お支度ができました」
メイリンの声に目を開ける。鏡の中で化粧をした女の顔が困惑した表情を浮かべていた。それが自分だということに一瞬気が付かなかった。自分だとわかった瞬間恥ずかしくなった。
「お綺麗ですわ」
メイリンがそっと私の肩に手を置いた。ジョセフ様は私を見てどう思われるだろう。真っ先に考えたことはそれだった。ジョセフ様はこんな化粧をした女は好きではないのではないだろうか。
「ジョセフ様、きっと驚かれるでしょうね」
あぁ、やはり。似合わないと気を悪くされるのではないか。こんな女の横に立たされるなんて迷惑だと思われたらどうしよう。
「こんなお綺麗な花嫁様、見たことがございませんわ」
メイリンのお世辞が余計に辛い。私を慰めるための言葉に聞こえる。
「でも、本当によろしかったのですか?もっとたくさんの方にお祝いしていただいた方が」
私の希望をジョセフ様に伝えたら承諾してもらえた。結婚式はできるだけ小規模で行いたい。
ジョセフ様のお立場なら国中の貴族を招待しなくてはならないだろう。ジョセフ様から結婚式についての希望を聞かれ、つい本当のことを言ってしまった。するとジョセフ様はにっこりと笑ってくださったのだ。ここまではっきりと笑ったお顔を見たのは、その時が初めてだった。そのお顔がまるで少年のようで、私は密かに子供の頃のジョセフ様は天使のように愛らしかったのだろうと想像した。
そしてすぐに結婚式はお屋敷の中で行われることになった。
「ライラ・・・!」
お義母様だ。目を見開き口に手を当て、不安そうな表情にも見える。やはり、似合わないのだ。私は心の中でため息をついた。面と向かってため息をつくわけにはいかない。お義母様は私のためにドレスや装飾品の手配をしてくれた。最高級のものを用意してくださったのだ。その結果がこれでは落胆するのも仕方がない。
「お義母様・・・」
謝るべきであろうか。どんな言葉が適切なのか。何か言おうとしたら・・・。
「なんて素敵なの! こんな綺麗な子が私の娘だなんて!」
「奥様、私も驚いておりますわ。王女様でもここまでの気品を出せませんわ」
「社交界が楽しみだわ。この子をお披露目したら荒れるわよ」
お義母様の言葉の意味がわからない。何をおっしゃっているのだろう。
「ジョセフの顔が見ものよ」
笑顔のお義母様が少し怖い。
「さ、行きましょう」
「はい」
そう言って一歩歩き出したが、つまづきそうになった。私は今かなりの高さのヒールを履いているのだ。それも踵が細い、ピンヒール。
「ふふ、歩き慣れていないのね」
ヨロヨロと歩く私にお義母様がおっしゃる。
「は、はい・・・」
正直に言えば歩くことに集中していて、お義母様へのお返事はおざなりだった。
「ジョセフの背が高すぎるんだから仕方ないのよ。その分ジョセフに甘えてがっつりエスコートしてもらいなさい」
ジョセフ様の背が高すぎるのではなく、私の背が低すぎるのでしょうか。でも今はそんなことより歩くことである。
「社交界に出たらヒールの靴で踊らないといけないのよ。練習しておかないとね」
歩くだけでもこんな状態なのに踊るのですか。それって曲芸に近いですが?と心の中で呟いた。
そして着いた場所は庭だった。そこにはすでにジョセフ様がいた。礼服を着たジョセフ様。私は息を飲み、少しだけ目を逸らした。ジョセフ様の凛々しさに比べ、私は・・・。本当にこの方の隣にいていいのだろうか。
ジョセフ様が近づいて来られた。大股で来られるのであっという間に目の前に立たれている。
「ライラ、綺麗だ」
驚いてジョセフ様を見上げた。ジョセフ様の目はまっすぐで少しだけ赤くなっていて、私は黙って彼の目だけを見ていた。
「見つめ合いたいのはわかるけど、そろそろ始めよう」
お義父様に言われて、私たちは前を見た。お義父様とお義母様が笑顔で私たちを見ている。その横にはフリッツお義兄様、リアムお義兄様。そしてたくさんの使用人の方たちに私たちは見守られている。
「私の家族」
思わず声が出た。この人たちが私の家族なのだ。
「そうだ、俺たちの家族だ」
隣のジョセフ様の声を聞いて、私は大きく深呼吸をした。
「私、ずっと家族って何だろうと思っていたんです。今までずっと、家族だからという言葉で私を好きなように扱う人たちと一緒だったから」
子どもの頃からのことを思い出した。私を産んだだけで、あの人たちは家族ではないと思う。家族は血のつながりだけで成り立つことではないと思うのだ。
「新しい家族は、そんなことはない」
ジョセフ様を見上げた。そうだ、新しい私たちの家族が今目の前にいる。
「ありがとうございます」
私は今この瞬間を目に焼き付けようと思う。ずっと先も思い出せるように。
メイリンの声に目を開ける。鏡の中で化粧をした女の顔が困惑した表情を浮かべていた。それが自分だということに一瞬気が付かなかった。自分だとわかった瞬間恥ずかしくなった。
「お綺麗ですわ」
メイリンがそっと私の肩に手を置いた。ジョセフ様は私を見てどう思われるだろう。真っ先に考えたことはそれだった。ジョセフ様はこんな化粧をした女は好きではないのではないだろうか。
「ジョセフ様、きっと驚かれるでしょうね」
あぁ、やはり。似合わないと気を悪くされるのではないか。こんな女の横に立たされるなんて迷惑だと思われたらどうしよう。
「こんなお綺麗な花嫁様、見たことがございませんわ」
メイリンのお世辞が余計に辛い。私を慰めるための言葉に聞こえる。
「でも、本当によろしかったのですか?もっとたくさんの方にお祝いしていただいた方が」
私の希望をジョセフ様に伝えたら承諾してもらえた。結婚式はできるだけ小規模で行いたい。
ジョセフ様のお立場なら国中の貴族を招待しなくてはならないだろう。ジョセフ様から結婚式についての希望を聞かれ、つい本当のことを言ってしまった。するとジョセフ様はにっこりと笑ってくださったのだ。ここまではっきりと笑ったお顔を見たのは、その時が初めてだった。そのお顔がまるで少年のようで、私は密かに子供の頃のジョセフ様は天使のように愛らしかったのだろうと想像した。
そしてすぐに結婚式はお屋敷の中で行われることになった。
「ライラ・・・!」
お義母様だ。目を見開き口に手を当て、不安そうな表情にも見える。やはり、似合わないのだ。私は心の中でため息をついた。面と向かってため息をつくわけにはいかない。お義母様は私のためにドレスや装飾品の手配をしてくれた。最高級のものを用意してくださったのだ。その結果がこれでは落胆するのも仕方がない。
「お義母様・・・」
謝るべきであろうか。どんな言葉が適切なのか。何か言おうとしたら・・・。
「なんて素敵なの! こんな綺麗な子が私の娘だなんて!」
「奥様、私も驚いておりますわ。王女様でもここまでの気品を出せませんわ」
「社交界が楽しみだわ。この子をお披露目したら荒れるわよ」
お義母様の言葉の意味がわからない。何をおっしゃっているのだろう。
「ジョセフの顔が見ものよ」
笑顔のお義母様が少し怖い。
「さ、行きましょう」
「はい」
そう言って一歩歩き出したが、つまづきそうになった。私は今かなりの高さのヒールを履いているのだ。それも踵が細い、ピンヒール。
「ふふ、歩き慣れていないのね」
ヨロヨロと歩く私にお義母様がおっしゃる。
「は、はい・・・」
正直に言えば歩くことに集中していて、お義母様へのお返事はおざなりだった。
「ジョセフの背が高すぎるんだから仕方ないのよ。その分ジョセフに甘えてがっつりエスコートしてもらいなさい」
ジョセフ様の背が高すぎるのではなく、私の背が低すぎるのでしょうか。でも今はそんなことより歩くことである。
「社交界に出たらヒールの靴で踊らないといけないのよ。練習しておかないとね」
歩くだけでもこんな状態なのに踊るのですか。それって曲芸に近いですが?と心の中で呟いた。
そして着いた場所は庭だった。そこにはすでにジョセフ様がいた。礼服を着たジョセフ様。私は息を飲み、少しだけ目を逸らした。ジョセフ様の凛々しさに比べ、私は・・・。本当にこの方の隣にいていいのだろうか。
ジョセフ様が近づいて来られた。大股で来られるのであっという間に目の前に立たれている。
「ライラ、綺麗だ」
驚いてジョセフ様を見上げた。ジョセフ様の目はまっすぐで少しだけ赤くなっていて、私は黙って彼の目だけを見ていた。
「見つめ合いたいのはわかるけど、そろそろ始めよう」
お義父様に言われて、私たちは前を見た。お義父様とお義母様が笑顔で私たちを見ている。その横にはフリッツお義兄様、リアムお義兄様。そしてたくさんの使用人の方たちに私たちは見守られている。
「私の家族」
思わず声が出た。この人たちが私の家族なのだ。
「そうだ、俺たちの家族だ」
隣のジョセフ様の声を聞いて、私は大きく深呼吸をした。
「私、ずっと家族って何だろうと思っていたんです。今までずっと、家族だからという言葉で私を好きなように扱う人たちと一緒だったから」
子どもの頃からのことを思い出した。私を産んだだけで、あの人たちは家族ではないと思う。家族は血のつながりだけで成り立つことではないと思うのだ。
「新しい家族は、そんなことはない」
ジョセフ様を見上げた。そうだ、新しい私たちの家族が今目の前にいる。
「ありがとうございます」
私は今この瞬間を目に焼き付けようと思う。ずっと先も思い出せるように。
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