婚約破棄のその後に

ゆーぞー

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「あんたがこんないいドレスで、どうして私があんなドレスを着なくてはいけないのよ」

 メリア様の声が低く響いてくる。確かに、メリア様は侯爵家の次女様で私と違って何不自由なく育ったはずだ。本来であれば良い家柄の方と縁があって然るべきお人なのである。でもレナード様とは相思相愛で望んでのご結婚ではないのか。何故私を恨むのだろう。それにわざわざメイドのふりをして来なくてもいいのに。

「ジョセフ・クルーソン。あんたの名前はマイズ国でも有名だったわ」
「こいつがクルーソンか」
「さっさと始末しちまえ」

 捕まえられたはずのマイズ国の2人がメリア様に向かって言った。私の頬に当たる冷たいものはおそらく刃物だろう。メリア様の手が私の腕を握りしめていて、とても痛い。

「メリア嬢、やめなさい」

 ジョセフ様が一歩前に進んだ。

「来ないでよ、この女、殺してやったっていいのよ」

 メリア様が叫んだ。ヒィっという声が周囲から聞こえる。使用人たちだ。

「あんたなんか死ねばいいのよ」

 メリア様の手に力が入った。

「レナードに捨てられたあんたは傷物だもの。切り刻んであげるわ」

 私は真っ直ぐにジョセフ様を見た。ジョセフ様はほんの数メートル先にいる。私は確かにレナード様に捨てられた、傷物と呼ばれるような女かもしれない。でも・・・。

「ど、どうして・・・」

 思わず声が出たが、喉がカラカラになってうまく言葉が出なかった。私にとっては疑問でしかない。私は実の親にも愛情を注いでもらえなかった。でもメリア様は違うはず。それなのにどうしてこんなことをするのだろう。

「レナードはもっと使える奴だと思ってたわ。でも違った。何一つ売れる情報を持っていなかった。情報を売り渡してマイズ国でのし上がってやろうと思ったのにとんだ番狂せだわ。その上、私の身代金も払ってもらえなかった。私はもういらない人間なんだって。もう帰ってこなくていいそうよ。だからクルーソン。あんたを傷つけてやるわ」

 ジョセフ様を傷つける?どうやって?

「私があんたを殺したらクルーソンはどうなるかしら?」

 楽しいことを話しているみたいにメリア様の声が弾んでいる。私を殺すの?ジョセフ様の目の前で?

 そんなことさせない。私はジョセフ様と一緒に生きていくんだ。私たちは幸せになるんだ。私はジョセフ様の目を見た。ジョセフ様の目が力強く私に何かを伝えてくれている。何故かそんな気がした。

 私は左の小指のレナード様がくれた指輪を右手で触った。大丈夫。私は殺されたりしない。目の前にはジョセフ様がいる。国で一番強い男が私を守ってくれる。

 ごめんなさい、メリア様。

 心の中で小さく謝っておく。ジョセフ様と目が合う。大丈夫。

 私は思い切り、メリア様の足を踏んだ。

「いだっ」

 メリア様のとても令嬢とは思えない声を聞いた。ピンヒールで思い切り踏まれたら、それはもう痛いに違いない。が、私にはそんなことはどうでも良かった。メリア様の手から刃物がこぼれ落ちて、私の足元に落ちたのがわかった。同時にメリア様の手が緩んだ。その瞬間、私は走り出した。目の前のジョセフ様まで。ほんの数メートル先。

 ジョセフ様も駆け寄ってくださる。そうだ、ジョセフ様なら守ってもらえる。太くて暖かい腕が私を包み込んでくれる。

「怪我はないか」
「はい!」

 私は笑顔になってジョセフ様を見上げた。ジョセフ様の腕がぎゅうっと私を抱きしめてくれる。世界で一番安全な場所。ジョセフ様も優しい瞳で私を見返してくれた。

 振り返るとメリアは将軍様が取り押さえていた。マイズ国の男たちもお義父様と使用人の人たちが縛り上げていた。

「あんたなんか!あんたなんか!」

 メリア様は私を睨みつけて何度も叫んでいたけど、何を言っているのかよくわからなかった。

「ライラ、怖かったでしょう」

 お義母様が駆け寄ってきてくださった。

「使用人の選定は誰が担当した?どこに問題があったんだ!」

 フランツ義兄様がセオに聞いている。

「後始末は後にしよう。今は披露宴に集中しなきゃ」

 リアム義兄様に言われてジョセフ様から離れようとしたけど、またぎゅうぅっと抱きしめられた。

「ライラ、怖い思いをさせて悪かった」
「大丈夫です、ジョセフ様」

 私はもう一度ジョセフ様を見上げて言った。

「だって、国で一番強い方ですもの。ジョセフ様は」

 少しだけ、ジョセフ様が笑った。

「奥様、このドレスではなく違うドレスに致しましょう」
「そうね、全員準備再開よ!」

 お義母様の掛け声で私はジョセフ様から離された。これからもう一度、ドレスを選び直す。大変だけど、お義母様と一緒にいられるので楽しい。

 たくさんの使用人に囲まれて、私は屋敷の中に戻った。私の住む屋敷の中へ。


 


 
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