60 / 61
60
しおりを挟む
「あんたがこんないいドレスで、どうして私があんなドレスを着なくてはいけないのよ」
メリア様の声が低く響いてくる。確かに、メリア様は侯爵家の次女様で私と違って何不自由なく育ったはずだ。本来であれば良い家柄の方と縁があって然るべきお人なのである。でもレナード様とは相思相愛で望んでのご結婚ではないのか。何故私を恨むのだろう。それにわざわざメイドのふりをして来なくてもいいのに。
「ジョセフ・クルーソン。あんたの名前はマイズ国でも有名だったわ」
「こいつがクルーソンか」
「さっさと始末しちまえ」
捕まえられたはずのマイズ国の2人がメリア様に向かって言った。私の頬に当たる冷たいものはおそらく刃物だろう。メリア様の手が私の腕を握りしめていて、とても痛い。
「メリア嬢、やめなさい」
ジョセフ様が一歩前に進んだ。
「来ないでよ、この女、殺してやったっていいのよ」
メリア様が叫んだ。ヒィっという声が周囲から聞こえる。使用人たちだ。
「あんたなんか死ねばいいのよ」
メリア様の手に力が入った。
「レナードに捨てられたあんたは傷物だもの。切り刻んであげるわ」
私は真っ直ぐにジョセフ様を見た。ジョセフ様はほんの数メートル先にいる。私は確かにレナード様に捨てられた、傷物と呼ばれるような女かもしれない。でも・・・。
「ど、どうして・・・」
思わず声が出たが、喉がカラカラになってうまく言葉が出なかった。私にとっては疑問でしかない。私は実の親にも愛情を注いでもらえなかった。でもメリア様は違うはず。それなのにどうしてこんなことをするのだろう。
「レナードはもっと使える奴だと思ってたわ。でも違った。何一つ売れる情報を持っていなかった。情報を売り渡してマイズ国でのし上がってやろうと思ったのにとんだ番狂せだわ。その上、私の身代金も払ってもらえなかった。私はもういらない人間なんだって。もう帰ってこなくていいそうよ。だからクルーソン。あんたを傷つけてやるわ」
ジョセフ様を傷つける?どうやって?
「私があんたを殺したらクルーソンはどうなるかしら?」
楽しいことを話しているみたいにメリア様の声が弾んでいる。私を殺すの?ジョセフ様の目の前で?
そんなことさせない。私はジョセフ様と一緒に生きていくんだ。私たちは幸せになるんだ。私はジョセフ様の目を見た。ジョセフ様の目が力強く私に何かを伝えてくれている。何故かそんな気がした。
私は左の小指のレナード様がくれた指輪を右手で触った。大丈夫。私は殺されたりしない。目の前にはジョセフ様がいる。国で一番強い男が私を守ってくれる。
ごめんなさい、メリア様。
心の中で小さく謝っておく。ジョセフ様と目が合う。大丈夫。
私は思い切り、メリア様の足を踏んだ。
「いだっ」
メリア様のとても令嬢とは思えない声を聞いた。ピンヒールで思い切り踏まれたら、それはもう痛いに違いない。が、私にはそんなことはどうでも良かった。メリア様の手から刃物がこぼれ落ちて、私の足元に落ちたのがわかった。同時にメリア様の手が緩んだ。その瞬間、私は走り出した。目の前のジョセフ様まで。ほんの数メートル先。
ジョセフ様も駆け寄ってくださる。そうだ、ジョセフ様なら守ってもらえる。太くて暖かい腕が私を包み込んでくれる。
「怪我はないか」
「はい!」
私は笑顔になってジョセフ様を見上げた。ジョセフ様の腕がぎゅうっと私を抱きしめてくれる。世界で一番安全な場所。ジョセフ様も優しい瞳で私を見返してくれた。
振り返るとメリアは将軍様が取り押さえていた。マイズ国の男たちもお義父様と使用人の人たちが縛り上げていた。
「あんたなんか!あんたなんか!」
メリア様は私を睨みつけて何度も叫んでいたけど、何を言っているのかよくわからなかった。
「ライラ、怖かったでしょう」
お義母様が駆け寄ってきてくださった。
「使用人の選定は誰が担当した?どこに問題があったんだ!」
フランツ義兄様がセオに聞いている。
「後始末は後にしよう。今は披露宴に集中しなきゃ」
リアム義兄様に言われてジョセフ様から離れようとしたけど、またぎゅうぅっと抱きしめられた。
「ライラ、怖い思いをさせて悪かった」
「大丈夫です、ジョセフ様」
私はもう一度ジョセフ様を見上げて言った。
「だって、国で一番強い方ですもの。ジョセフ様は」
少しだけ、ジョセフ様が笑った。
「奥様、このドレスではなく違うドレスに致しましょう」
「そうね、全員準備再開よ!」
お義母様の掛け声で私はジョセフ様から離された。これからもう一度、ドレスを選び直す。大変だけど、お義母様と一緒にいられるので楽しい。
たくさんの使用人に囲まれて、私は屋敷の中に戻った。私の住む屋敷の中へ。
メリア様の声が低く響いてくる。確かに、メリア様は侯爵家の次女様で私と違って何不自由なく育ったはずだ。本来であれば良い家柄の方と縁があって然るべきお人なのである。でもレナード様とは相思相愛で望んでのご結婚ではないのか。何故私を恨むのだろう。それにわざわざメイドのふりをして来なくてもいいのに。
「ジョセフ・クルーソン。あんたの名前はマイズ国でも有名だったわ」
「こいつがクルーソンか」
「さっさと始末しちまえ」
捕まえられたはずのマイズ国の2人がメリア様に向かって言った。私の頬に当たる冷たいものはおそらく刃物だろう。メリア様の手が私の腕を握りしめていて、とても痛い。
「メリア嬢、やめなさい」
ジョセフ様が一歩前に進んだ。
「来ないでよ、この女、殺してやったっていいのよ」
メリア様が叫んだ。ヒィっという声が周囲から聞こえる。使用人たちだ。
「あんたなんか死ねばいいのよ」
メリア様の手に力が入った。
「レナードに捨てられたあんたは傷物だもの。切り刻んであげるわ」
私は真っ直ぐにジョセフ様を見た。ジョセフ様はほんの数メートル先にいる。私は確かにレナード様に捨てられた、傷物と呼ばれるような女かもしれない。でも・・・。
「ど、どうして・・・」
思わず声が出たが、喉がカラカラになってうまく言葉が出なかった。私にとっては疑問でしかない。私は実の親にも愛情を注いでもらえなかった。でもメリア様は違うはず。それなのにどうしてこんなことをするのだろう。
「レナードはもっと使える奴だと思ってたわ。でも違った。何一つ売れる情報を持っていなかった。情報を売り渡してマイズ国でのし上がってやろうと思ったのにとんだ番狂せだわ。その上、私の身代金も払ってもらえなかった。私はもういらない人間なんだって。もう帰ってこなくていいそうよ。だからクルーソン。あんたを傷つけてやるわ」
ジョセフ様を傷つける?どうやって?
「私があんたを殺したらクルーソンはどうなるかしら?」
楽しいことを話しているみたいにメリア様の声が弾んでいる。私を殺すの?ジョセフ様の目の前で?
そんなことさせない。私はジョセフ様と一緒に生きていくんだ。私たちは幸せになるんだ。私はジョセフ様の目を見た。ジョセフ様の目が力強く私に何かを伝えてくれている。何故かそんな気がした。
私は左の小指のレナード様がくれた指輪を右手で触った。大丈夫。私は殺されたりしない。目の前にはジョセフ様がいる。国で一番強い男が私を守ってくれる。
ごめんなさい、メリア様。
心の中で小さく謝っておく。ジョセフ様と目が合う。大丈夫。
私は思い切り、メリア様の足を踏んだ。
「いだっ」
メリア様のとても令嬢とは思えない声を聞いた。ピンヒールで思い切り踏まれたら、それはもう痛いに違いない。が、私にはそんなことはどうでも良かった。メリア様の手から刃物がこぼれ落ちて、私の足元に落ちたのがわかった。同時にメリア様の手が緩んだ。その瞬間、私は走り出した。目の前のジョセフ様まで。ほんの数メートル先。
ジョセフ様も駆け寄ってくださる。そうだ、ジョセフ様なら守ってもらえる。太くて暖かい腕が私を包み込んでくれる。
「怪我はないか」
「はい!」
私は笑顔になってジョセフ様を見上げた。ジョセフ様の腕がぎゅうっと私を抱きしめてくれる。世界で一番安全な場所。ジョセフ様も優しい瞳で私を見返してくれた。
振り返るとメリアは将軍様が取り押さえていた。マイズ国の男たちもお義父様と使用人の人たちが縛り上げていた。
「あんたなんか!あんたなんか!」
メリア様は私を睨みつけて何度も叫んでいたけど、何を言っているのかよくわからなかった。
「ライラ、怖かったでしょう」
お義母様が駆け寄ってきてくださった。
「使用人の選定は誰が担当した?どこに問題があったんだ!」
フランツ義兄様がセオに聞いている。
「後始末は後にしよう。今は披露宴に集中しなきゃ」
リアム義兄様に言われてジョセフ様から離れようとしたけど、またぎゅうぅっと抱きしめられた。
「ライラ、怖い思いをさせて悪かった」
「大丈夫です、ジョセフ様」
私はもう一度ジョセフ様を見上げて言った。
「だって、国で一番強い方ですもの。ジョセフ様は」
少しだけ、ジョセフ様が笑った。
「奥様、このドレスではなく違うドレスに致しましょう」
「そうね、全員準備再開よ!」
お義母様の掛け声で私はジョセフ様から離された。これからもう一度、ドレスを選び直す。大変だけど、お義母様と一緒にいられるので楽しい。
たくさんの使用人に囲まれて、私は屋敷の中に戻った。私の住む屋敷の中へ。
213
あなたにおすすめの小説
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。
彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。
さて、どうなりますでしょうか……
別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。
突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか?
自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。
私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。
それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。
7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。
どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~
クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。
同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。
ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した…
誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる