11 / 67
11
しおりを挟む
「今回のものは前のものとは大きく異なります」
メガネさんが新しくできたほうのリクライニングチェアを熱心に観察した後、陛下にそう報告した。陛下も重々しくうなづく。
「今回は穴が空いていますね。失敗したのか、魔力が途切れたのか」
「そりゃ、そうでしょう。魔力が続くわけがない」
「まぁ、能力があるのは認めますよ。でもねぇ、失敗するようなら使い物にはならないでしょう」
「平民ではこれが限界ってことですね」
突然元気になる中年男性たち。どこか楽しげに話しているのが頭に来る。穴が空いているって失敗じゃないよ。グラスを入れられるようにしたんだよ。と、言ってやりたいが言えずにいる。何故なら、許可が出ていないから。許可なく話してはいけないって確かあったはずだ。
私が黙っているのをいいことに彼らの話は止まらない。
「これは何ですかな。こんな板切れが余計について」
「失敗作ですからな」
「これでは魔法省への入省は無理でしょう?」
「いや、平民の入省は過去に例がありませんからな」
そう言って揃ってワッハッハと笑っている。何が楽しいかわからないが、中年男性の和気あいあいは気持ちが悪い。
「リサ、何か言い分はあるか」
黙って彼らの話を聞いていた陛下が私の方を見た。ようやく意見が言える。私はリクライニングチェアの横に立った。メガネさんが嫌そうな顔をしながら私を避ける。
「まずこの穴ですが」
私は手すりに空いた大きな穴を指差した。
「ここにグラスを入れることができます」
その瞬間、陛下の目がカッと見開いた。来た!陛下の芝居が始まる!
「グラス・・・とな?」
「はい」
見えていないのにメガネさんが驚愕しているのがわかった。他の中年男性たちも同じだろう。飲みものを片手に、という発想はきっとなかったのだろうと思う。
「起き上がってテーブルまで手を伸ばさなくてもすぐ横にあれば便利です」
言いながら思った。陛下なら使用人が手渡すのではないか。片手を差し出せば、きっと欲しいものを差し出してもらえるのだろう。それならばやはりこれは失敗作か。陛下以外の人間が使えばいいか。それともそんなズボラな考えはこの世界では異常?
「では、この板切れは」
折りたたみにしたテーブルのことか。これも無用かもと思いながらも言っておこう。この世界だってきっちりした人ばかりではないはずだ。
「テーブルになります」
私が実演してみせると陛下は足早に近づいてきた。
「なるほど、こういうことか」
そう言って陛下はリクライニングチェアに座ると足を上げてみたり、背もたれを動かしてみたりした。テーブルも広げて腕を押し付けて強度を確認し、何度もうなづいている。
「水を持てぃ」
そう言うと、使用人の人が恭しくグラスに入った水を持ってきた。陛下はそれを受け取るとテーブルの上に置いたり、穴の中に入れて確認している。その間も何度もうなづいているが、だんだんとその動きが素早くなってきた。
「ダンを呼べぃ!」
よりいっそう大きな声を出し、使用人の1人が素早く部屋を出て行った。ダンさんを呼びに行ったのだろうけど、一体誰なんだ。思わず周囲を見ると、中年男性たちが一様に驚いた声を上げた。
「ダン様・・」
「ダン様をお呼びになるとは」
「これは大変だ・・」
「忙しくなるぞ」
そんな様子を無視して陛下はニコニコしながら、リクライニングチェアを満喫しているようだ。鼻歌まで歌っている。気に入ってもらったようで何よりだが、この後どうなるのだろうか。多分いくつかまた作ることになるのだろうけど。まさか一生リクライニングチェアを作ることにはならないよね。
私としてはもっと楽しいことをしたい。魔法で何ができるか色々と試してみたいのだ。そう考えたら、早く家に戻りたい。フワフワのソファでモコモコのクッションを抱きしめながら、ゆっくりとお茶を飲んで寛ぎたい。早く解放してくれないかな、と考えていると。
バーン、とドアが開いた。そこにいたのは長身の男性。20代後半くらいの、これまたびっくりするくらいのイケメンだ。少し王子に似てると思うので、おそらく王族なのだろう。
「お呼びですか、陛下」
リクライニングチェアに寛ぐ陛下にダン様は挨拶をしている。やや困惑した様子ではあったが、それを態度に表さないのはさすがに王族だなと思ったのだった。
メガネさんが新しくできたほうのリクライニングチェアを熱心に観察した後、陛下にそう報告した。陛下も重々しくうなづく。
「今回は穴が空いていますね。失敗したのか、魔力が途切れたのか」
「そりゃ、そうでしょう。魔力が続くわけがない」
「まぁ、能力があるのは認めますよ。でもねぇ、失敗するようなら使い物にはならないでしょう」
「平民ではこれが限界ってことですね」
突然元気になる中年男性たち。どこか楽しげに話しているのが頭に来る。穴が空いているって失敗じゃないよ。グラスを入れられるようにしたんだよ。と、言ってやりたいが言えずにいる。何故なら、許可が出ていないから。許可なく話してはいけないって確かあったはずだ。
私が黙っているのをいいことに彼らの話は止まらない。
「これは何ですかな。こんな板切れが余計について」
「失敗作ですからな」
「これでは魔法省への入省は無理でしょう?」
「いや、平民の入省は過去に例がありませんからな」
そう言って揃ってワッハッハと笑っている。何が楽しいかわからないが、中年男性の和気あいあいは気持ちが悪い。
「リサ、何か言い分はあるか」
黙って彼らの話を聞いていた陛下が私の方を見た。ようやく意見が言える。私はリクライニングチェアの横に立った。メガネさんが嫌そうな顔をしながら私を避ける。
「まずこの穴ですが」
私は手すりに空いた大きな穴を指差した。
「ここにグラスを入れることができます」
その瞬間、陛下の目がカッと見開いた。来た!陛下の芝居が始まる!
「グラス・・・とな?」
「はい」
見えていないのにメガネさんが驚愕しているのがわかった。他の中年男性たちも同じだろう。飲みものを片手に、という発想はきっとなかったのだろうと思う。
「起き上がってテーブルまで手を伸ばさなくてもすぐ横にあれば便利です」
言いながら思った。陛下なら使用人が手渡すのではないか。片手を差し出せば、きっと欲しいものを差し出してもらえるのだろう。それならばやはりこれは失敗作か。陛下以外の人間が使えばいいか。それともそんなズボラな考えはこの世界では異常?
「では、この板切れは」
折りたたみにしたテーブルのことか。これも無用かもと思いながらも言っておこう。この世界だってきっちりした人ばかりではないはずだ。
「テーブルになります」
私が実演してみせると陛下は足早に近づいてきた。
「なるほど、こういうことか」
そう言って陛下はリクライニングチェアに座ると足を上げてみたり、背もたれを動かしてみたりした。テーブルも広げて腕を押し付けて強度を確認し、何度もうなづいている。
「水を持てぃ」
そう言うと、使用人の人が恭しくグラスに入った水を持ってきた。陛下はそれを受け取るとテーブルの上に置いたり、穴の中に入れて確認している。その間も何度もうなづいているが、だんだんとその動きが素早くなってきた。
「ダンを呼べぃ!」
よりいっそう大きな声を出し、使用人の1人が素早く部屋を出て行った。ダンさんを呼びに行ったのだろうけど、一体誰なんだ。思わず周囲を見ると、中年男性たちが一様に驚いた声を上げた。
「ダン様・・」
「ダン様をお呼びになるとは」
「これは大変だ・・」
「忙しくなるぞ」
そんな様子を無視して陛下はニコニコしながら、リクライニングチェアを満喫しているようだ。鼻歌まで歌っている。気に入ってもらったようで何よりだが、この後どうなるのだろうか。多分いくつかまた作ることになるのだろうけど。まさか一生リクライニングチェアを作ることにはならないよね。
私としてはもっと楽しいことをしたい。魔法で何ができるか色々と試してみたいのだ。そう考えたら、早く家に戻りたい。フワフワのソファでモコモコのクッションを抱きしめながら、ゆっくりとお茶を飲んで寛ぎたい。早く解放してくれないかな、と考えていると。
バーン、とドアが開いた。そこにいたのは長身の男性。20代後半くらいの、これまたびっくりするくらいのイケメンだ。少し王子に似てると思うので、おそらく王族なのだろう。
「お呼びですか、陛下」
リクライニングチェアに寛ぐ陛下にダン様は挨拶をしている。やや困惑した様子ではあったが、それを態度に表さないのはさすがに王族だなと思ったのだった。
65
あなたにおすすめの小説
冤罪で断罪されたら、魔王の娘に生まれ変わりました〜今度はやりたい放題します
みおな
ファンタジー
王国の公爵令嬢として、王太子殿下の婚約者として、私なりに頑張っていたつもりでした。
それなのに、聖女とやらに公爵令嬢の座も婚約者の座も奪われて、冤罪で処刑されました。
死んだはずの私が目覚めたのは・・・
姑に嫁いびりされている姿を見た夫に、離縁を突きつけられました
碧井 汐桜香
ファンタジー
姑に嫁いびりされている姿を見た夫が、嬉しそうに便乗してきます。
学園進学と同時に婚約を公表し、卒業と同時に結婚したわたくしたち。
昔から憧れていた姑を「お義母様」と呼べる新生活に胸躍らせていると、いろいろと想定外ですわ。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!!
隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!?
何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
夢を現実にしないための正しいマニュアル
しゃーりん
恋愛
娘が処刑される夢を見た。
現在、娘はまだ6歳。それは本当に9年後に起こる出来事?
処刑される未来を変えるため、過去にも起きた夢の出来事を参考にして、変えてはいけないことと変えるべきことを調べ始める。
婚約者になる王子の周囲を変え、貴族の平民に対する接し方のマニュアルを作り、娘の未来のために頑張るお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる