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第2章 防衛への係わり
2.2 ミサイル防衛システムの確立
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父島の航空自衛隊父島飛行隊基地の、基地防衛隊長天地3佐は、この2日間航空自衛隊総本部からの命令で、12式対艦誘導弾の試射のための準備に奔走していた。連絡船などの定期便・不適便の確認、地元漁港との調整、警告の放送などようやくすべての調整を終えた。
その後、2月下旬の遅い夜明けの後、飛行場の管制塔の上からすでに明るくなっている基地の端に設置されている誘導弾の発射台を見ていた。天地は基地司令の狭山1佐から対処を命じられ、総本部とのやり取りをしたが、総本部の調整官の三宅2佐からの連絡では、これは航空幕僚長からの直接の命令である。
命令の中身としては、2月26日の朝9時から11時の間に12式対艦誘導弾1発を海に向けてできるだけ遠距離に跳ぶように撃つことを求められている、というもので、打ち出す方向等は任せるということである。
『何のために、そんなことを幕僚長というようなお偉いさんが要求するのか?』
天地は頭を捻っているが、命令は命令だ。発射は、後25分後の9時30分に行うことで、現在部下が発射システムの最後の点検を行っている。やがて、天地は部下の新城1曹長の連絡を受け返答する。
「天地隊長、新城です。システムに問題はありません。いつでも行けます」
「了解。ご苦労。予定通り、9時30分にこちら管制塔から遠隔で発射する。そちらでも追跡は頼む」
ミサイルは基地のレーダーでも追跡するが、発射装置に付属するレーダーでも追うことができるのだ。映像は発射機の制御機でも撮れるが、管制塔でも3脚付きのビデオ機を構えている。
発射5分前に、撮影班を別に5人ほどが詰めている、管制塔の一見単なるデスクストップコンピュータのような制御・監視モニターのためのキーボードの前に天地が座っている。その後ろに、基地司令の狭山がやって来て声をかける。
「天地君、準備をいいようだな」
天地は椅子を回し狭山を見て答える。
「はい、後はボタンを押すばかりです。司令、なんですかね今回の試射の目的は?」
狭山は、肩をすくめて答える。
「わからん。しかし、出来るだけの手段で追跡するように命令されていて、そのデータは通信で送らずディスクで出来るだけ早く総本部に届けるようにと言うことで、我々は府中に持ち込めばあとは運んでくれるらしい。それで、RS31偵察機を飛ばしているが、レーダーはともかく映像はどこまで撮れるか判らんけどな。まあ、もう時間だな」
天地はキーボードに向き直って、通信機にも聞こえるように時計を見ながらしゃべりかける。
「あと、1分だ。………10、9、8、……3、2、1、発射」
天地がキーを叩くと発射機から白煙が撒きあがって、火が見えたかと思うと火箭を吐きながら、灰色のものが前面の海の方向に一瞬斜め上方に飛び出して行ったが見える。発射機傍の監視盤からの報告が上ってくる。
「距離500m、1㎞、1.5k、2km、3km、4km、5㎞、6km、あ!軌道をそれた。上方に大きく軌道が逸れました。あ、さらに反応が大きく膨らみました。多分、爆発したと思われます。いくつもの破片らしきものが広がりながら速度をもったまま落下しつつあります」
6㎞の彼方のそれは、管制塔からも肉眼でかろうじて見え、特に爆発の瞬間は皆がはっきり目視できた。無論、拡大した映像では誘導弾が跳ね上がり、数舜後爆発した映像ははっきり見えている。その後、1分ほどですべての破片らしきものが海に落下したことが報告された。
破片が海に落ちた瞬間、天地が叫ぶ。
「なんだ、これは!どう見てもなにも飛んでこなかった。なんで爆発したんだ?」
「故障でありうるわけはないな。わざわざ総本部が命令した、試射の誘導弾がどう見ても外力の及んだ形跡がないのに、突然軌道が逸れて数舜後爆発した。これは、新兵器だな。その実験を今回実施したわけだ。それも、父島という絶海の孤島での実験を行う意味は、その射程を確認するためとしか考えられない」
狭山1佐が考えながら、冷静に言い、さらに指示を飛ばす。
「すぐ君のモニターとのそのビデオのデータをコピーしてくれ。それと、新城1曹長に彼のモニターの映像とデータの記録のコピー、それから西田1曹長、RS31偵察機に至急着陸して、集めたデータコピーして、提出するように指示してくれ」
狭山1佐は次いで、高周波通信による自動暗号装置を用いて、総本部に求められた報告をする。
「弾道弾は9時30分発射され、正常な発射後3分で爆発した。データは10時30分に出発するRD331 便にて府中に運ぶ」
ハヤトは、朝霞駐屯地監視室の今や彼の専用となっている椅子に座って、暫くの目をつぶっての集中から緊張を解く。それから、目を見開いて息をのんで見守っている、司令官天野、香川2佐以下の10人ほどを見渡して言う。
「終わりました。あれは12式誘導弾というやつですね。固体燃料ですから、その燃料の発火は特に問題はありませんでした」
その言葉に期せずして歓声があがるが、ハヤトの付け加えた言葉に一旦鎮まる。
「しかし、最初は異常な点での燃焼のため、横腹から噴射が起き、機体があさっての方へ飛んで行き、少しして爆発しました。ミサイルの撃墜は出来ますが、発火させた場所によっては危ないですね。だから、日本の上空を飛ぶミサイルをこの方法で撃墜することは避けた方がいいと思います」
それに対して、大きな問題ではないと香川2佐が言う。
「うーん、だけどそれは大きな問題ではないと思う。幸い我が国は海に囲まれているから、海上で撃墜すればいいわけだ」そういう話をしているところに、天野司令官に航空総本部から電話が入る。
「はい、天野です。はい、はい、では父島でも撃墜を確認したわけですね。こちらでも、二宮氏が撃墜を確認しています。ただ、二宮氏の指摘によると、燃料を発火させたとき、誘導弾の軌道が大きく逸れるようです。そういう意味では、海上で撃墜すべきということです。はい、はいわかりました」
電話を切って、天野は皆を向いて言う。
「航空幕僚長だ。父島において誘導弾発射後3分で撃墜を確認した。データは間もなく輸送機で府中に向けて移送するとのことだ」
さらに天野は厳しい顔で皆に言い聞かせる。
「皆にも確認しておくが、二宮氏が今回誘導弾を撃墜した本人ということは絶対に漏らしてはならない。公的には、誘導弾を撃墜したのは、異世界人らしいが誰ともわからない人々から贈られた防衛装置によるものだ。その、装置は防衛研究所に設置している。二宮ハヤト氏は、日本政府が防衛装置を贈られる際、にその仲介をしていただいた方である、と言うことだ。
また、ハヤト氏は身体強化を始め魔法を使えて、身体強化の魔法については人々に教え広め始めている。そういうことで、ハヤト氏は日本政府にとっても重要な方であるわけだ。この駐屯地に居られる訳は、ここの隊員に身体強化の魔法を教えて頂いた縁で、身体保護のため滞在して頂いている。こういうストーリーだ」
司令官の言葉に、皆は「はい!」と返事をするが、彼はなおも続ける。
「この話も外部には漏らさないように、また内部に対して積極的に話す必要はないが、どうしても必要とあらばこの説明をしてくれ。本当のことは、我が国でも数十人しか知ることのない秘密だ。判っているだろうが、唯一無二の二宮ハヤトさんという存在を決定的な危険にさらさないための措置だ」
ハヤトを除く皆は、姿勢を正して天野司令官を向いて敬礼する。
「承知しました」
天野は次にハヤトを向いて言う。
「すでに、大筋は説明しましたように、防衛省としては今言ったような話にしたいと思っています。仮にハヤトさんが、ミサイル撃墜が可能な人物と知られた場合、それこそアメリカを含めて世界中の諜報機関から狙われるようになると思います。それは、あなたが、人間であるため動けるからです。
しかし、そう防御専用の装置であり、複製も出来ないし、移動も難しい、さらに射程も1000m内外となれば、周辺国で日本を侵略あるいは傷つけようとする国や組織以外は関係ないわけです。
ですから、その装置を守りの固い防衛研究所のさらに守りを固めた場所に設置すればよいわけです。少々信じがたい話ですが、今後日本政府として実際にKT国のミサイルを撃墜するなどで実証していけば信じるほかはなくなります。また、人がミサイルを魔法で撃ち落とすよりは誰とも知れない人々から贈られた装置で撃ち落とすと言った方が信じられ易いという判断もあります」
この言葉にハヤトが応じる。
「大変いいアイデアで、有難く思っています。でも、その装置は防衛装置というのはすこし、固いかなと思いますが。どうですか日本を守る『まもる君』という名前は?その贈ってくれた人がそう呼ぶように言ったといえば、通ると思いますが」
天野司令官は「う!」っと詰まったが、やがて「ちょっと、上の方と相談してみます」と言う返事にとどめた。
しかし、ハヤトの提案は結局受け入れられ、その呼びやすさもあって日本を守る『まもる君』は日本のみならず世界の子供にも浸透していき、もはやそれをフェイクと思う人は居なくなった。
父島での実験を受けて、防衛大臣、防衛省事務次官他内局2名、制服組6名の出席の下防衛省で会議が開かれている。このメンバーは、ハヤトが実際にはミサイルつまり誘導弾を撃墜したことを知ってもよいといて招集されたものである。
内局の司会者の開会の言葉の後、角田統合幕僚長から説明があった。
「先般より、KT国による弾道弾、ミサイルが我が国の防衛に対して大きな脅威になっており、その対処を防衛省として迫られているのは皆さんもご承知の通りです。それに対して、これは絶対に秘密にしておいていただく必要がありますが、ある個人が対ミサイルとしてはほぼ完全な迎撃の能力を持つことが立証されましたのでご報告します」
それに対して、制服組以外の出席者から驚きの声があがるが、角田は父島と朝霞駐屯地までの距離約1000kmを隔てて、発射したミサイルをハヤトが特殊な能力で推進剤を発火させて撃墜したことを報告した。
「すなわち、KT国のミサイルも最大で1000kmの距離で撃墜することが可能です。ただ、固体燃料のミサイルは燃焼剤を発火、爆発させることが出来ます。液体燃料のミサイル、KT国の場合にはテポドンの場合には、積んでいると思われる自爆用の炸薬、あるいは役割を終えた段の切り離し用の炸薬を発火させて、爆発させます。
あるいは異常なタイミングの切り離しのための落下を狙うということになります。この辺りは現状で想定されるテポドンの構造であれば、自爆用の爆薬を爆発させることが最も容易ですが、もう少し研究の必要があります」
「それは朗報だな。しかし、ミサイルに対して炸薬を発火させて墜落させようとすると、とんでもないところに飛ぶというのは問題だな」
それを聞いた、西村大臣が言うが、制服組で出席していた統合戦略担当官の滋賀2佐が応じる。
「統合戦略担当官の滋賀2佐です。当面、KTが飛ばすミサイルに対してその方法を用いるのは、例えばかれらが日本列島を越えるようなミサイルを発射した場合ですね。その場合に、ミサイルの軌道が大きく逸れたら北はそれを自爆させます。それは、過去もあったことですから、日本に危険が及ぶことはないでしょう。
またKT付近の公海上でそのよう軌道が大きくずれたら、いずれにせよ日本には届きません」
「うむ、君の言うように、ミサイルが今度日本上空を飛ぶ場合には是非撃墜したい。出来れば、日本領海の線を越えてからが望ましいが、軌道を算定して日本を越えることが確実な場合、公海に出ればいいだろう」
大臣が言うのに滋賀がさらに答える。
「そうですね。ぜひ実施させて頂きたいと思います。その結果、爆発すればテポドンもそういうものだということで対処できます」
「うむ、私も閣議で是非了解をとるよ。大体普通は他国の領土をミサイルで飛び越すというのは基本的には戦争行為だ!」
大臣が言い、角田統合幕僚長がその言葉に続ける。
「ありがとうございます。是非お願いします。我々制服組もKTのミサイルでは大変みじめな思いをしてきました。しかし、今までは迎撃ミサイルを打っても迎撃できる可能性は50%以下でした。それはそうと、ミサイルを撃墜できる能力を持つ二宮氏については厳重な秘密をお願いしましたが、それはこれ以外のメンバーに対しては守られているということでよろしいのですね」
角田の言葉に出席者はしっかり頷くが、大臣は補足して言う。
「人が魔法を使ってミサイルを撃ち落とせるなどということを、証拠もなしに人に言ったら頭を疑われるよ」
それを確認して角田は続ける。
「それはよかった。それで二宮氏の扱いですが、我々の結論は宇宙人または異世界人にもらった防衛装置がそのミサイルを撃墜できる存在だということを広報するということです」
角田はその後どういういきさつでそういう装置をでっちあげるに至ったかを説明して、ハヤトを守る意味からはそれが必要であることを説いた。
「その装置は、防衛研究所で組み立ていますが、あと数日で完成します。我々制服組の意見は、その装置があることを国民に、また世界に向けて発表することです。そして、その名前については、日本を『まもる君』としたらという二宮ハヤト君の提案がありました。我々も揉んだのですが、いいのではないかという結論です。いかがですか?」
なおも続けて角田は言う。
「まもる君?」
頭をかしげる出席者であったが、大臣が笑い始めた。
「ははは!日本をまもる君!いいじゃないか。国民が自分を守る存在として捕らえてくれる名前としてはぴったりだ。まさか、フェイクとは思わないだろう」
特に異論は出ず、そういう装置の存在を発表することと、名前の件については了解が得られた。さらに、ハヤトが魔法を使って自衛隊員の身体強化を実施したことも説明され、それはどれだけ戦闘部隊に有用かも訴えられた。
「ところで、これも二宮氏の扱いの件ですが、今朝霞駐屯地に居るということですが、それなりの立場を与えることが必要ですし、いついかなる時も招集というか来てもらう必要があるわけでそういう体制を作ることが必要ですよね」
事務次官の林がそのように言うのに、天野陸将補が答える。
「その通りです。しかし、極めて活動的な若者ですから、閉じ込めるわけにもいかないので、常に随員を付けてどこに行くにも一緒の行動をしてもらい、必要に応じて小型ヘリでピックアップできるように体制を組みます。彼の場合基本はどこに居ても、その仕事といいますか、必要な処理は出来ますので要は安全な場所に移せばいいわけです。
身分に付いては事務方で考えて頂くようにお願いします」
その後、2月下旬の遅い夜明けの後、飛行場の管制塔の上からすでに明るくなっている基地の端に設置されている誘導弾の発射台を見ていた。天地は基地司令の狭山1佐から対処を命じられ、総本部とのやり取りをしたが、総本部の調整官の三宅2佐からの連絡では、これは航空幕僚長からの直接の命令である。
命令の中身としては、2月26日の朝9時から11時の間に12式対艦誘導弾1発を海に向けてできるだけ遠距離に跳ぶように撃つことを求められている、というもので、打ち出す方向等は任せるということである。
『何のために、そんなことを幕僚長というようなお偉いさんが要求するのか?』
天地は頭を捻っているが、命令は命令だ。発射は、後25分後の9時30分に行うことで、現在部下が発射システムの最後の点検を行っている。やがて、天地は部下の新城1曹長の連絡を受け返答する。
「天地隊長、新城です。システムに問題はありません。いつでも行けます」
「了解。ご苦労。予定通り、9時30分にこちら管制塔から遠隔で発射する。そちらでも追跡は頼む」
ミサイルは基地のレーダーでも追跡するが、発射装置に付属するレーダーでも追うことができるのだ。映像は発射機の制御機でも撮れるが、管制塔でも3脚付きのビデオ機を構えている。
発射5分前に、撮影班を別に5人ほどが詰めている、管制塔の一見単なるデスクストップコンピュータのような制御・監視モニターのためのキーボードの前に天地が座っている。その後ろに、基地司令の狭山がやって来て声をかける。
「天地君、準備をいいようだな」
天地は椅子を回し狭山を見て答える。
「はい、後はボタンを押すばかりです。司令、なんですかね今回の試射の目的は?」
狭山は、肩をすくめて答える。
「わからん。しかし、出来るだけの手段で追跡するように命令されていて、そのデータは通信で送らずディスクで出来るだけ早く総本部に届けるようにと言うことで、我々は府中に持ち込めばあとは運んでくれるらしい。それで、RS31偵察機を飛ばしているが、レーダーはともかく映像はどこまで撮れるか判らんけどな。まあ、もう時間だな」
天地はキーボードに向き直って、通信機にも聞こえるように時計を見ながらしゃべりかける。
「あと、1分だ。………10、9、8、……3、2、1、発射」
天地がキーを叩くと発射機から白煙が撒きあがって、火が見えたかと思うと火箭を吐きながら、灰色のものが前面の海の方向に一瞬斜め上方に飛び出して行ったが見える。発射機傍の監視盤からの報告が上ってくる。
「距離500m、1㎞、1.5k、2km、3km、4km、5㎞、6km、あ!軌道をそれた。上方に大きく軌道が逸れました。あ、さらに反応が大きく膨らみました。多分、爆発したと思われます。いくつもの破片らしきものが広がりながら速度をもったまま落下しつつあります」
6㎞の彼方のそれは、管制塔からも肉眼でかろうじて見え、特に爆発の瞬間は皆がはっきり目視できた。無論、拡大した映像では誘導弾が跳ね上がり、数舜後爆発した映像ははっきり見えている。その後、1分ほどですべての破片らしきものが海に落下したことが報告された。
破片が海に落ちた瞬間、天地が叫ぶ。
「なんだ、これは!どう見てもなにも飛んでこなかった。なんで爆発したんだ?」
「故障でありうるわけはないな。わざわざ総本部が命令した、試射の誘導弾がどう見ても外力の及んだ形跡がないのに、突然軌道が逸れて数舜後爆発した。これは、新兵器だな。その実験を今回実施したわけだ。それも、父島という絶海の孤島での実験を行う意味は、その射程を確認するためとしか考えられない」
狭山1佐が考えながら、冷静に言い、さらに指示を飛ばす。
「すぐ君のモニターとのそのビデオのデータをコピーしてくれ。それと、新城1曹長に彼のモニターの映像とデータの記録のコピー、それから西田1曹長、RS31偵察機に至急着陸して、集めたデータコピーして、提出するように指示してくれ」
狭山1佐は次いで、高周波通信による自動暗号装置を用いて、総本部に求められた報告をする。
「弾道弾は9時30分発射され、正常な発射後3分で爆発した。データは10時30分に出発するRD331 便にて府中に運ぶ」
ハヤトは、朝霞駐屯地監視室の今や彼の専用となっている椅子に座って、暫くの目をつぶっての集中から緊張を解く。それから、目を見開いて息をのんで見守っている、司令官天野、香川2佐以下の10人ほどを見渡して言う。
「終わりました。あれは12式誘導弾というやつですね。固体燃料ですから、その燃料の発火は特に問題はありませんでした」
その言葉に期せずして歓声があがるが、ハヤトの付け加えた言葉に一旦鎮まる。
「しかし、最初は異常な点での燃焼のため、横腹から噴射が起き、機体があさっての方へ飛んで行き、少しして爆発しました。ミサイルの撃墜は出来ますが、発火させた場所によっては危ないですね。だから、日本の上空を飛ぶミサイルをこの方法で撃墜することは避けた方がいいと思います」
それに対して、大きな問題ではないと香川2佐が言う。
「うーん、だけどそれは大きな問題ではないと思う。幸い我が国は海に囲まれているから、海上で撃墜すればいいわけだ」そういう話をしているところに、天野司令官に航空総本部から電話が入る。
「はい、天野です。はい、はい、では父島でも撃墜を確認したわけですね。こちらでも、二宮氏が撃墜を確認しています。ただ、二宮氏の指摘によると、燃料を発火させたとき、誘導弾の軌道が大きく逸れるようです。そういう意味では、海上で撃墜すべきということです。はい、はいわかりました」
電話を切って、天野は皆を向いて言う。
「航空幕僚長だ。父島において誘導弾発射後3分で撃墜を確認した。データは間もなく輸送機で府中に向けて移送するとのことだ」
さらに天野は厳しい顔で皆に言い聞かせる。
「皆にも確認しておくが、二宮氏が今回誘導弾を撃墜した本人ということは絶対に漏らしてはならない。公的には、誘導弾を撃墜したのは、異世界人らしいが誰ともわからない人々から贈られた防衛装置によるものだ。その、装置は防衛研究所に設置している。二宮ハヤト氏は、日本政府が防衛装置を贈られる際、にその仲介をしていただいた方である、と言うことだ。
また、ハヤト氏は身体強化を始め魔法を使えて、身体強化の魔法については人々に教え広め始めている。そういうことで、ハヤト氏は日本政府にとっても重要な方であるわけだ。この駐屯地に居られる訳は、ここの隊員に身体強化の魔法を教えて頂いた縁で、身体保護のため滞在して頂いている。こういうストーリーだ」
司令官の言葉に、皆は「はい!」と返事をするが、彼はなおも続ける。
「この話も外部には漏らさないように、また内部に対して積極的に話す必要はないが、どうしても必要とあらばこの説明をしてくれ。本当のことは、我が国でも数十人しか知ることのない秘密だ。判っているだろうが、唯一無二の二宮ハヤトさんという存在を決定的な危険にさらさないための措置だ」
ハヤトを除く皆は、姿勢を正して天野司令官を向いて敬礼する。
「承知しました」
天野は次にハヤトを向いて言う。
「すでに、大筋は説明しましたように、防衛省としては今言ったような話にしたいと思っています。仮にハヤトさんが、ミサイル撃墜が可能な人物と知られた場合、それこそアメリカを含めて世界中の諜報機関から狙われるようになると思います。それは、あなたが、人間であるため動けるからです。
しかし、そう防御専用の装置であり、複製も出来ないし、移動も難しい、さらに射程も1000m内外となれば、周辺国で日本を侵略あるいは傷つけようとする国や組織以外は関係ないわけです。
ですから、その装置を守りの固い防衛研究所のさらに守りを固めた場所に設置すればよいわけです。少々信じがたい話ですが、今後日本政府として実際にKT国のミサイルを撃墜するなどで実証していけば信じるほかはなくなります。また、人がミサイルを魔法で撃ち落とすよりは誰とも知れない人々から贈られた装置で撃ち落とすと言った方が信じられ易いという判断もあります」
この言葉にハヤトが応じる。
「大変いいアイデアで、有難く思っています。でも、その装置は防衛装置というのはすこし、固いかなと思いますが。どうですか日本を守る『まもる君』という名前は?その贈ってくれた人がそう呼ぶように言ったといえば、通ると思いますが」
天野司令官は「う!」っと詰まったが、やがて「ちょっと、上の方と相談してみます」と言う返事にとどめた。
しかし、ハヤトの提案は結局受け入れられ、その呼びやすさもあって日本を守る『まもる君』は日本のみならず世界の子供にも浸透していき、もはやそれをフェイクと思う人は居なくなった。
父島での実験を受けて、防衛大臣、防衛省事務次官他内局2名、制服組6名の出席の下防衛省で会議が開かれている。このメンバーは、ハヤトが実際にはミサイルつまり誘導弾を撃墜したことを知ってもよいといて招集されたものである。
内局の司会者の開会の言葉の後、角田統合幕僚長から説明があった。
「先般より、KT国による弾道弾、ミサイルが我が国の防衛に対して大きな脅威になっており、その対処を防衛省として迫られているのは皆さんもご承知の通りです。それに対して、これは絶対に秘密にしておいていただく必要がありますが、ある個人が対ミサイルとしてはほぼ完全な迎撃の能力を持つことが立証されましたのでご報告します」
それに対して、制服組以外の出席者から驚きの声があがるが、角田は父島と朝霞駐屯地までの距離約1000kmを隔てて、発射したミサイルをハヤトが特殊な能力で推進剤を発火させて撃墜したことを報告した。
「すなわち、KT国のミサイルも最大で1000kmの距離で撃墜することが可能です。ただ、固体燃料のミサイルは燃焼剤を発火、爆発させることが出来ます。液体燃料のミサイル、KT国の場合にはテポドンの場合には、積んでいると思われる自爆用の炸薬、あるいは役割を終えた段の切り離し用の炸薬を発火させて、爆発させます。
あるいは異常なタイミングの切り離しのための落下を狙うということになります。この辺りは現状で想定されるテポドンの構造であれば、自爆用の爆薬を爆発させることが最も容易ですが、もう少し研究の必要があります」
「それは朗報だな。しかし、ミサイルに対して炸薬を発火させて墜落させようとすると、とんでもないところに飛ぶというのは問題だな」
それを聞いた、西村大臣が言うが、制服組で出席していた統合戦略担当官の滋賀2佐が応じる。
「統合戦略担当官の滋賀2佐です。当面、KTが飛ばすミサイルに対してその方法を用いるのは、例えばかれらが日本列島を越えるようなミサイルを発射した場合ですね。その場合に、ミサイルの軌道が大きく逸れたら北はそれを自爆させます。それは、過去もあったことですから、日本に危険が及ぶことはないでしょう。
またKT付近の公海上でそのよう軌道が大きくずれたら、いずれにせよ日本には届きません」
「うむ、君の言うように、ミサイルが今度日本上空を飛ぶ場合には是非撃墜したい。出来れば、日本領海の線を越えてからが望ましいが、軌道を算定して日本を越えることが確実な場合、公海に出ればいいだろう」
大臣が言うのに滋賀がさらに答える。
「そうですね。ぜひ実施させて頂きたいと思います。その結果、爆発すればテポドンもそういうものだということで対処できます」
「うむ、私も閣議で是非了解をとるよ。大体普通は他国の領土をミサイルで飛び越すというのは基本的には戦争行為だ!」
大臣が言い、角田統合幕僚長がその言葉に続ける。
「ありがとうございます。是非お願いします。我々制服組もKTのミサイルでは大変みじめな思いをしてきました。しかし、今までは迎撃ミサイルを打っても迎撃できる可能性は50%以下でした。それはそうと、ミサイルを撃墜できる能力を持つ二宮氏については厳重な秘密をお願いしましたが、それはこれ以外のメンバーに対しては守られているということでよろしいのですね」
角田の言葉に出席者はしっかり頷くが、大臣は補足して言う。
「人が魔法を使ってミサイルを撃ち落とせるなどということを、証拠もなしに人に言ったら頭を疑われるよ」
それを確認して角田は続ける。
「それはよかった。それで二宮氏の扱いですが、我々の結論は宇宙人または異世界人にもらった防衛装置がそのミサイルを撃墜できる存在だということを広報するということです」
角田はその後どういういきさつでそういう装置をでっちあげるに至ったかを説明して、ハヤトを守る意味からはそれが必要であることを説いた。
「その装置は、防衛研究所で組み立ていますが、あと数日で完成します。我々制服組の意見は、その装置があることを国民に、また世界に向けて発表することです。そして、その名前については、日本を『まもる君』としたらという二宮ハヤト君の提案がありました。我々も揉んだのですが、いいのではないかという結論です。いかがですか?」
なおも続けて角田は言う。
「まもる君?」
頭をかしげる出席者であったが、大臣が笑い始めた。
「ははは!日本をまもる君!いいじゃないか。国民が自分を守る存在として捕らえてくれる名前としてはぴったりだ。まさか、フェイクとは思わないだろう」
特に異論は出ず、そういう装置の存在を発表することと、名前の件については了解が得られた。さらに、ハヤトが魔法を使って自衛隊員の身体強化を実施したことも説明され、それはどれだけ戦闘部隊に有用かも訴えられた。
「ところで、これも二宮氏の扱いの件ですが、今朝霞駐屯地に居るということですが、それなりの立場を与えることが必要ですし、いついかなる時も招集というか来てもらう必要があるわけでそういう体制を作ることが必要ですよね」
事務次官の林がそのように言うのに、天野陸将補が答える。
「その通りです。しかし、極めて活動的な若者ですから、閉じ込めるわけにもいかないので、常に随員を付けてどこに行くにも一緒の行動をしてもらい、必要に応じて小型ヘリでピックアップできるように体制を組みます。彼の場合基本はどこに居ても、その仕事といいますか、必要な処理は出来ますので要は安全な場所に移せばいいわけです。
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(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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