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第4章 近隣国との軋轢
4.4 ハヤトの復讐3
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ハヤトとの会話の途中で、安井は頭を振って気を取り直し言う。
「それもそうだが、知っているか?さつきちゃんの活劇がネットでばらまかれているぞ」
「ええ!ビデオで撮られたと言っていたのがそうか。あれ撮っていたアベックにさつきもデータをくれと言ったらしいが、どうも『ごめん、ごめん』と言って逃げられたらしい」
ハヤトは顔をしかめて言う。それから、彼らが事務室に使っている部屋で、デスクトップの16インチのスクリーンで安井がセーブしていたその映像を見る。さつきの活劇のビデオは、もう30万再生を超えさらにどんどん増えているらしい。
それは、客観的にはまことに見事な活劇で本物の迫力に満ちている。映像は、赤いセダンの運転席に銃を突き付けている中背の男と、その背後で、右手に白い布をもっている少し高い男の映像から始まる。後ろの男は布にビンに入った液体を注ぎ終わってビンを捨て、前の男の斜め後ろに布を構え、反対の手には銃を握る。
「出てこい。出てこないと撃つぞ!」
男の小さめの声で叫ぶのが聞こえる。数瞬の後、カチャリと音がして、さっと目にもとまらぬ動きの白っぽい服の人影が見えたと思ったら、伸びた腕が銃を構えた男のあごを打ち抜いた。
その衝撃で男の体が大きく揺れ、男の足が50cmほども浮いて後ろ(画面では手前)にすっ飛ぶ。人影は連続した動作で、しなやかに腰を伸ばして捻り右足を斜めに振り上げて、その軌道の中で後斜めの男の首筋を蹴り飛ばす。2番目の男がまだ宙を舞っているあいだに人影は、向きを変える。
その視線の先には、黒いワンボックスカーの助手席から降りてくる黒っぽいラフな服装の男がある。その男はやけに堂に入った風に銃を構えており、ゆっくり歩いてくるが、銃口の狙いは全く外れない。そうした数秒の後、男の持った銃の弾倉付近から煙が噴き出しパン、パン、パンという音がして弾が発射される。
手前に見えるやや腰をかがめた人影、それは若いスタイルの良い美しい女性とわかるが、彼女は銃弾が見えるようにさっと右に躱したものの弾が擦過して衝撃に腕がぶれるのがわかる。女性はその腕を一瞬見て、「このー!」と叫び、3mほど離れて腕を庇いながらも、腰を落として構えを取った男に向かって走るというより跳ぶ。
気がついてみれば、彼女はストッキングの裸足だが、2歩で男に駆け寄るや腰を落として足で真っすぐ男の股間を蹴り上げる。なにかグジュ!というような不気味な音がして、安井は思わず見ていて自分の股間を庇うが、男の映像は2mほども舞い上がってドサリと尻から落ちる。
その男を横目に、女性は黒い車の運転席に滑るように近づき、ドアを引き開ける。それから、無言で運転者を引きずり出して、こめかみに手刀をたたき込み、あたかも軽い人形を放るように路上にポイと捨てる。そこに、白い車が通りかかって止まったところで映像が切れている。
この映像は、実のところ魔法で身体強化した人間、それもうら若い美しい女性が、どれほどのレベルで格闘戦において卓越した能力を発揮できるかという証明になった。実際に、ほとんどの人が通常の映像ではさつきの動きを目で追えず、半分ほどにスローにして始めて追えるレベルであり、格闘技の達人と言われる人がようやくその凄さが理解できるものであった。
そうしたことから、この映像は次々にコピーされて最初は無論日本、それから海外にたちまち広がっていって、とりわけ格闘技の現役選手あるいは志すものの必須のものとなった。この映像は結局一カ月以内に1千万人は見たという知る人は知るという存在になった。
その結果、結局多くのものがどうしても魔法による身体強化を受けたいと思い、実際にその実現の可能性の高い日本を目指した。さらにさつきは、そうした人々のマドンナ的存在になって、映像からプリントされた様々な戦う姿がプロマイドとなって、世界中で売られるに至った。
日本においても、それは当然同じことが起き、さつきは週刊Fに取り上げられたこともあって、比較的早くマスコミの知ることになって多くの取材陣が殺到した。さつきは若い女性として、そうしたことで騒がれるのは好まず、こうした取材を断固として拒否していた。
しかし、いつまでも閉じこもっておられず、結局ハヤトの縁からY新聞からの仲介で限定的に新聞、テレビや週刊誌の取材に応じるようになっていったが、これはのちの話である。
ハヤトは、その映像を見て頭を抱えている。
「な!おれもスマホで見たばかりだったけど。大きい画面で見るとすごいよな。このビデオを撮った奴はブログをやっているらしいけど、アクセスがすごくてパンクしているらしいわ」
しかし、安井はそれを見ても気楽に言うが、ハヤトうめくように言う。
「うーん、本人は恥ずかしがるだろうな。けど、もうどうしようもないな。もう忘れよう」
その時ハヤトの携帯が鳴った。
「はい、ハヤトです。ああ、若松警視!ご活躍だったようですね。何か御用ですか?」
ハヤトがさわやかに応じるのに、寝不足の若松の声が不満げに聞く。
「二宮さんは、昨晩はどちらに?」
「無論、駐屯地ですよ。ああ、一昨日話題になっていた王中佐ですが、なぜか僕に彼の過去の悪行を録音して送ってきたのですよ。多分死ぬ前に改心したのかもしれないですね。若松さんは要らないでしょうね?そんなもの」
この、ハヤトのちょっとした意地悪に若松は無論はねつけることはできない。
「要りますよ。もちろん。すぐデータを取りに伺わせます。まさか送ってもらう訳にはいきませんから」
王中佐のことは、中国の後ろ暗い工作を仕切っているとして外事警察の中では有名であった。若松は、周へのハヤトの尋問を聞いており、あの威圧の下で得た王の告白の録音が、自分たちの仕事にどれほどの値打ちがあるものかの期待に胸が震えるのを感じた。
実際に、その王中佐の告白の録音による外事警察を中心としての摘発に、日本国内の中国の裏の組織が次々に壊滅に追い込まれるに至り、かの国のその種の活動はほぼ完全に動きを止めることになった。若松警視は、このような形でハヤトとの付き合いを始めたのであるが、結果的に自分の仕事に大きなメリットのある情報を得たものの、ハヤトについては複雑な印象を持っている。
ハヤトは、肉体的にはおそらく人類でもダントツの最強であり、その上レベルの解らない魔法の能力に加え、会話の節々から窺える鋭い知性もあるが、なにより怖いのはその実行力である。自分が、ハヤトと同じ能力があったとしても、大使館に乗り込んで、何人もの犠牲者が出るのを分かっていながら爆破しようとできるとは思えない。
それに、ハヤトの凄まじい能力を考えると、今回の大使館の爆破程度は楽々やってのけるのは、結果が証明しているが、一方で彼が言うように国を亡ぼせるのとは思えない。この点について若松はハヤトの“まもる君”としての能力は知らないのでそのように考えるのに無理はない。
しかし、威圧で人を操れる点、また簡単に人を殺せる点は怖いが、結果としてはそのおかげで、大使館の地下に大量の火器を隠し持つという暴挙を暴くことが出来たのだ。この中国の行為はまさに戦争行為であり、その全容を掴んだ若松は中国の日本をなめ切った行為に怒りを禁じ得なかった。
彼は、世界で中国大使館が武器の秘匿を疑われていることを、当然と受け止め、王から得た彼らの武器の持ち込みのノウハウを各国の警察に流した。その結果がマレーシアの武器搬出の摘発に繋がったのだ。ハヤトは、沖縄の駐屯地に行くのを考えていた。
東京からは中国はいささか遠いが、沖縄であれば、中国本土の多くがマップの範囲に入るのだ。さらに、彼は母とさつきの誘拐を命令しその後、彼女らをその奴隷にしようとしたという(これは王の尋問で確認できた)崔政治委員を許すつもりはなかった。
沖縄からであれば、目いっぱいに探査能力を伸ばせば、位置の確定は電子マップなどで追えば、北京まで届く可能性はある。実際のところ、ハヤトとしては、自分で中国本土に乗り込んだ方が簡単だと思っていた。彼であれば、仮にその侵入が知られても、破壊工作をしつつ官憲から逃げおおせることは十分可能である。
そうして、1ヵ月もあれば中国全土の主要な可燃物の蓄積場、可燃物が使われている設備機器や建物は全て破壊つくすことが可能であろう。そうした中で、軍事施設、あらゆる発電所、燃料タンク、生産工場は破壊されるので、その後には人々の中国での生活事情は極めて厳しいものになるであろう。母かさつきのいずれかが、取り返しのつかないことになっていれば、自分はそうしたであろう。
しかし、実際は彼女たちに後に残るような障害は残らなかったので、今回の報復は軍事施設に限ろうと考えている。そこで、ハヤトは自衛隊が持っている中国軍の軍事情報を集めることにした。ハヤトは知らなかったが、この情報は米軍からも提供を受けて極めて精密かつ、正確なものであり、そこまで知っているということを中国に隠す意味で高い秘匿ランクとなっている。
ハヤトは角田統合幕僚長に交渉して、近い将来ぶつかる可能性のある中国の軍備を知っておきたいということで、許可をもらってデータを入手・閲覧している。これは、ハヤトそのものが日本防衛体制の最高機密なので、まあ当然の措置ではある。
しかし、当然ながらデータの私的なコピーは許されないが、朝霞駐屯地の香川2佐が、その情報を取り扱う必要なランクを持っていたので、朝霞駐屯地にもデータを移すことができた。ハヤトは、それらのデータを細かく調べて、どうやって効率的に破壊するかの研究を、防衛研究所の協力も得て精力的に始めた。
その報告を、防衛大臣が受けたのは角田統合幕僚長からであった。それは、日本の情報衛星の映像により生じた疑いを米軍の情報を確認した結果まとめられたものであり、角田も自分で真実と納得した。
「角田さん、どの程度確かなのですか、その情報は?」
「どうもまず間違いないようですね。東海艦隊の本拠の浙江省ニンポーに北海・南海艦隊からも艦艇が集結しています。これらが全部集まると、10隻のイージス艦に15隻の駆逐艦、20隻のフリゲート艦に空母遼寧も加わった大艦隊になります。いずれも艦齢の新しい艦ばかりで、中国の虎の子の集まりです。
空軍も南京空軍区の諸基地に、攻撃機300機、戦闘機300機を集めています。どう見ても、尖閣列島ですね。あと4日というところだと思います」
「わかりました。例の大使館の武器を隠している件で、アジア諸国から館内の査察を要求されているのを我が国に被害を与えることで、脅してごまかそうということですね。それで、こちらはどういう風に応じますか?」
西村防衛大臣が冷静に応じ対応を聞く。
「はい、幸いにして、H(ハヤト)氏に加えて、こちらには水井君という海軍・空軍力の増強にはまたとない戦力が加わっています。こちらで出せるのは、中国に対して艦船で精々半分、航空機で1/3ですがH氏及び水井君を計算に入れれば十分でしょう。うまく立ち回わることができれば、こちらの損害は殆ど出ないすることは可能と思います。
それにつけても、頼もしいのは、H氏から自ら言い出して、中国軍をどう破壊するか研究していることです。なにしろ、軍の艦船及び航空機には大量の爆薬・炸薬を積んでいますから、それらを遠くから発火させることのできるH氏と水井君は極めて強力です。ただ、H氏にはできれば現場に近い沖縄に移動してもらいたいと思っています」
「うん、そうだな。それは必要だろう。すぐ首相の耳には入れておくが、明日、閣議で反撃することの了解を得る必要がある。それとH氏の移動についてだな。ところで、水井君はどうするのかな?」
西村大臣の最後の問いに角田は答える。
「むろん、艦隊に乗せます。旗艦をちょうかいにして、それに乗せます」
角田の答えに、「ひゅうがは出さないのか?」西村はそう聞く。
「ええ、ひゅうがで運用できるF35Bがあれば別ですが、載せられるのがヘリコプターのみではただの的になりかねません。何しろ、こちらは戦闘に勝っても被害が多いと負けと同然になりますからね」
角田の答えに西村は憂鬱そうに同意する。
「まったくだよね」
「それもそうだが、知っているか?さつきちゃんの活劇がネットでばらまかれているぞ」
「ええ!ビデオで撮られたと言っていたのがそうか。あれ撮っていたアベックにさつきもデータをくれと言ったらしいが、どうも『ごめん、ごめん』と言って逃げられたらしい」
ハヤトは顔をしかめて言う。それから、彼らが事務室に使っている部屋で、デスクトップの16インチのスクリーンで安井がセーブしていたその映像を見る。さつきの活劇のビデオは、もう30万再生を超えさらにどんどん増えているらしい。
それは、客観的にはまことに見事な活劇で本物の迫力に満ちている。映像は、赤いセダンの運転席に銃を突き付けている中背の男と、その背後で、右手に白い布をもっている少し高い男の映像から始まる。後ろの男は布にビンに入った液体を注ぎ終わってビンを捨て、前の男の斜め後ろに布を構え、反対の手には銃を握る。
「出てこい。出てこないと撃つぞ!」
男の小さめの声で叫ぶのが聞こえる。数瞬の後、カチャリと音がして、さっと目にもとまらぬ動きの白っぽい服の人影が見えたと思ったら、伸びた腕が銃を構えた男のあごを打ち抜いた。
その衝撃で男の体が大きく揺れ、男の足が50cmほども浮いて後ろ(画面では手前)にすっ飛ぶ。人影は連続した動作で、しなやかに腰を伸ばして捻り右足を斜めに振り上げて、その軌道の中で後斜めの男の首筋を蹴り飛ばす。2番目の男がまだ宙を舞っているあいだに人影は、向きを変える。
その視線の先には、黒いワンボックスカーの助手席から降りてくる黒っぽいラフな服装の男がある。その男はやけに堂に入った風に銃を構えており、ゆっくり歩いてくるが、銃口の狙いは全く外れない。そうした数秒の後、男の持った銃の弾倉付近から煙が噴き出しパン、パン、パンという音がして弾が発射される。
手前に見えるやや腰をかがめた人影、それは若いスタイルの良い美しい女性とわかるが、彼女は銃弾が見えるようにさっと右に躱したものの弾が擦過して衝撃に腕がぶれるのがわかる。女性はその腕を一瞬見て、「このー!」と叫び、3mほど離れて腕を庇いながらも、腰を落として構えを取った男に向かって走るというより跳ぶ。
気がついてみれば、彼女はストッキングの裸足だが、2歩で男に駆け寄るや腰を落として足で真っすぐ男の股間を蹴り上げる。なにかグジュ!というような不気味な音がして、安井は思わず見ていて自分の股間を庇うが、男の映像は2mほども舞い上がってドサリと尻から落ちる。
その男を横目に、女性は黒い車の運転席に滑るように近づき、ドアを引き開ける。それから、無言で運転者を引きずり出して、こめかみに手刀をたたき込み、あたかも軽い人形を放るように路上にポイと捨てる。そこに、白い車が通りかかって止まったところで映像が切れている。
この映像は、実のところ魔法で身体強化した人間、それもうら若い美しい女性が、どれほどのレベルで格闘戦において卓越した能力を発揮できるかという証明になった。実際に、ほとんどの人が通常の映像ではさつきの動きを目で追えず、半分ほどにスローにして始めて追えるレベルであり、格闘技の達人と言われる人がようやくその凄さが理解できるものであった。
そうしたことから、この映像は次々にコピーされて最初は無論日本、それから海外にたちまち広がっていって、とりわけ格闘技の現役選手あるいは志すものの必須のものとなった。この映像は結局一カ月以内に1千万人は見たという知る人は知るという存在になった。
その結果、結局多くのものがどうしても魔法による身体強化を受けたいと思い、実際にその実現の可能性の高い日本を目指した。さらにさつきは、そうした人々のマドンナ的存在になって、映像からプリントされた様々な戦う姿がプロマイドとなって、世界中で売られるに至った。
日本においても、それは当然同じことが起き、さつきは週刊Fに取り上げられたこともあって、比較的早くマスコミの知ることになって多くの取材陣が殺到した。さつきは若い女性として、そうしたことで騒がれるのは好まず、こうした取材を断固として拒否していた。
しかし、いつまでも閉じこもっておられず、結局ハヤトの縁からY新聞からの仲介で限定的に新聞、テレビや週刊誌の取材に応じるようになっていったが、これはのちの話である。
ハヤトは、その映像を見て頭を抱えている。
「な!おれもスマホで見たばかりだったけど。大きい画面で見るとすごいよな。このビデオを撮った奴はブログをやっているらしいけど、アクセスがすごくてパンクしているらしいわ」
しかし、安井はそれを見ても気楽に言うが、ハヤトうめくように言う。
「うーん、本人は恥ずかしがるだろうな。けど、もうどうしようもないな。もう忘れよう」
その時ハヤトの携帯が鳴った。
「はい、ハヤトです。ああ、若松警視!ご活躍だったようですね。何か御用ですか?」
ハヤトがさわやかに応じるのに、寝不足の若松の声が不満げに聞く。
「二宮さんは、昨晩はどちらに?」
「無論、駐屯地ですよ。ああ、一昨日話題になっていた王中佐ですが、なぜか僕に彼の過去の悪行を録音して送ってきたのですよ。多分死ぬ前に改心したのかもしれないですね。若松さんは要らないでしょうね?そんなもの」
この、ハヤトのちょっとした意地悪に若松は無論はねつけることはできない。
「要りますよ。もちろん。すぐデータを取りに伺わせます。まさか送ってもらう訳にはいきませんから」
王中佐のことは、中国の後ろ暗い工作を仕切っているとして外事警察の中では有名であった。若松は、周へのハヤトの尋問を聞いており、あの威圧の下で得た王の告白の録音が、自分たちの仕事にどれほどの値打ちがあるものかの期待に胸が震えるのを感じた。
実際に、その王中佐の告白の録音による外事警察を中心としての摘発に、日本国内の中国の裏の組織が次々に壊滅に追い込まれるに至り、かの国のその種の活動はほぼ完全に動きを止めることになった。若松警視は、このような形でハヤトとの付き合いを始めたのであるが、結果的に自分の仕事に大きなメリットのある情報を得たものの、ハヤトについては複雑な印象を持っている。
ハヤトは、肉体的にはおそらく人類でもダントツの最強であり、その上レベルの解らない魔法の能力に加え、会話の節々から窺える鋭い知性もあるが、なにより怖いのはその実行力である。自分が、ハヤトと同じ能力があったとしても、大使館に乗り込んで、何人もの犠牲者が出るのを分かっていながら爆破しようとできるとは思えない。
それに、ハヤトの凄まじい能力を考えると、今回の大使館の爆破程度は楽々やってのけるのは、結果が証明しているが、一方で彼が言うように国を亡ぼせるのとは思えない。この点について若松はハヤトの“まもる君”としての能力は知らないのでそのように考えるのに無理はない。
しかし、威圧で人を操れる点、また簡単に人を殺せる点は怖いが、結果としてはそのおかげで、大使館の地下に大量の火器を隠し持つという暴挙を暴くことが出来たのだ。この中国の行為はまさに戦争行為であり、その全容を掴んだ若松は中国の日本をなめ切った行為に怒りを禁じ得なかった。
彼は、世界で中国大使館が武器の秘匿を疑われていることを、当然と受け止め、王から得た彼らの武器の持ち込みのノウハウを各国の警察に流した。その結果がマレーシアの武器搬出の摘発に繋がったのだ。ハヤトは、沖縄の駐屯地に行くのを考えていた。
東京からは中国はいささか遠いが、沖縄であれば、中国本土の多くがマップの範囲に入るのだ。さらに、彼は母とさつきの誘拐を命令しその後、彼女らをその奴隷にしようとしたという(これは王の尋問で確認できた)崔政治委員を許すつもりはなかった。
沖縄からであれば、目いっぱいに探査能力を伸ばせば、位置の確定は電子マップなどで追えば、北京まで届く可能性はある。実際のところ、ハヤトとしては、自分で中国本土に乗り込んだ方が簡単だと思っていた。彼であれば、仮にその侵入が知られても、破壊工作をしつつ官憲から逃げおおせることは十分可能である。
そうして、1ヵ月もあれば中国全土の主要な可燃物の蓄積場、可燃物が使われている設備機器や建物は全て破壊つくすことが可能であろう。そうした中で、軍事施設、あらゆる発電所、燃料タンク、生産工場は破壊されるので、その後には人々の中国での生活事情は極めて厳しいものになるであろう。母かさつきのいずれかが、取り返しのつかないことになっていれば、自分はそうしたであろう。
しかし、実際は彼女たちに後に残るような障害は残らなかったので、今回の報復は軍事施設に限ろうと考えている。そこで、ハヤトは自衛隊が持っている中国軍の軍事情報を集めることにした。ハヤトは知らなかったが、この情報は米軍からも提供を受けて極めて精密かつ、正確なものであり、そこまで知っているということを中国に隠す意味で高い秘匿ランクとなっている。
ハヤトは角田統合幕僚長に交渉して、近い将来ぶつかる可能性のある中国の軍備を知っておきたいということで、許可をもらってデータを入手・閲覧している。これは、ハヤトそのものが日本防衛体制の最高機密なので、まあ当然の措置ではある。
しかし、当然ながらデータの私的なコピーは許されないが、朝霞駐屯地の香川2佐が、その情報を取り扱う必要なランクを持っていたので、朝霞駐屯地にもデータを移すことができた。ハヤトは、それらのデータを細かく調べて、どうやって効率的に破壊するかの研究を、防衛研究所の協力も得て精力的に始めた。
その報告を、防衛大臣が受けたのは角田統合幕僚長からであった。それは、日本の情報衛星の映像により生じた疑いを米軍の情報を確認した結果まとめられたものであり、角田も自分で真実と納得した。
「角田さん、どの程度確かなのですか、その情報は?」
「どうもまず間違いないようですね。東海艦隊の本拠の浙江省ニンポーに北海・南海艦隊からも艦艇が集結しています。これらが全部集まると、10隻のイージス艦に15隻の駆逐艦、20隻のフリゲート艦に空母遼寧も加わった大艦隊になります。いずれも艦齢の新しい艦ばかりで、中国の虎の子の集まりです。
空軍も南京空軍区の諸基地に、攻撃機300機、戦闘機300機を集めています。どう見ても、尖閣列島ですね。あと4日というところだと思います」
「わかりました。例の大使館の武器を隠している件で、アジア諸国から館内の査察を要求されているのを我が国に被害を与えることで、脅してごまかそうということですね。それで、こちらはどういう風に応じますか?」
西村防衛大臣が冷静に応じ対応を聞く。
「はい、幸いにして、H(ハヤト)氏に加えて、こちらには水井君という海軍・空軍力の増強にはまたとない戦力が加わっています。こちらで出せるのは、中国に対して艦船で精々半分、航空機で1/3ですがH氏及び水井君を計算に入れれば十分でしょう。うまく立ち回わることができれば、こちらの損害は殆ど出ないすることは可能と思います。
それにつけても、頼もしいのは、H氏から自ら言い出して、中国軍をどう破壊するか研究していることです。なにしろ、軍の艦船及び航空機には大量の爆薬・炸薬を積んでいますから、それらを遠くから発火させることのできるH氏と水井君は極めて強力です。ただ、H氏にはできれば現場に近い沖縄に移動してもらいたいと思っています」
「うん、そうだな。それは必要だろう。すぐ首相の耳には入れておくが、明日、閣議で反撃することの了解を得る必要がある。それとH氏の移動についてだな。ところで、水井君はどうするのかな?」
西村大臣の最後の問いに角田は答える。
「むろん、艦隊に乗せます。旗艦をちょうかいにして、それに乗せます」
角田の答えに、「ひゅうがは出さないのか?」西村はそう聞く。
「ええ、ひゅうがで運用できるF35Bがあれば別ですが、載せられるのがヘリコプターのみではただの的になりかねません。何しろ、こちらは戦闘に勝っても被害が多いと負けと同然になりますからね」
角田の答えに西村は憂鬱そうに同意する。
「まったくだよね」
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