帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第6章 ハヤト国会議員になる

6.2 若手議員の会、年配者への魔法の処方

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 ハヤトは、当選後に、自民党新衆議院議員研修会に出席している。今回の衆議院選では、500議席中で自民党が281議席、新進党が182議席、共産党が15議席、公平党が22議席の結果であったが、マスコミからも若手議員が極めて多いということで大きな話題になっている。

 なお、野党については、阿山政権時代の余りの揚げ足取りが、知力が増強された人々に完全に見透かされて、あまりの支持率の低さに危機感を持たざるを得なくなって、ほとんどの野党がくっついたものだ。最初は、ネットで野党の言うことが理論整然と論破されて、次に変わっていったマスコミにも同様に容赦なく批判されるようになった。

 マスコミについては、ハヤト帰還の頃は、野党を庇ってというより政権の揚げ足とりのための印象操作に終始していたのであるが、これも同様に論破されて国民に見放されつつあったのだ。しかし、こちらは知力を増強された若手編集者が、上司たちを変わらざるを得ないと説得して論調を変えたものだ。

 その結果、秘書クラスの知力を増強された若手が手を取り合って、消滅の危機にさらされた野党の大同団結と議論のレベルアップが実行されたのだ。これは、3年ほど前のことである。一方で、この合同に参加しなかった共産党は、強固な支持者に支えられているが、支持者の平均年齢が65歳以上になって近い将来の消滅が危惧されている。

 さらに、公平党は自民党との路線の違いがはっきりしてきて、3年前に袂を分かっている。この党は宗教団体の強固な支持で支えられているものの、やはり若者離れが著しく支持率を減らす傾向にある。自民党も、野党のグダグダのお陰で、まともな政治論議をすることなく過ごしてきたこともあり、その立場にふさわしいとは言えない議員も数多かった。

 こうした中で、ネットに議員の評価をしようというサイトが立ち上がり、衆参両院の議員のリストが出来て、出席率、質問回数、質問の質、演説の評価等の評価点が付けられるようになった。最初は、偏りもあって評価される議員達も馬鹿にしていたが、だんだん評価方法も公平で洗練されたものになってきた。

 そうなると、これをマスコミも取り上げるようになったため、実際に有権者がそれを大いに参考にするようになった。こうしたことで、存在感のない議員には極めて厳しいことになったし、特に近い過去の苦い経験から、揚げ足取りの質問には厳しい評価がついた。

 裕子の父の森川議員も、やはり目立たない地味な人であって、この評価では相当に低い点数になっており、客観的に今回の選挙は厳しかったであろう。こうしたことで、多くのベテラン議員や、過去揚げ足取り質問を繰り返して評価がマイナスに近いものは支持母体から引きずり降ろされた。

 その結果、魔力が強く体力・知力共高い若手の候補が数多く出馬することになり、実際に数多く当選している。このような動きの結果、集まった自民党の1年生議員は当選者全体の6割の165名を占め、35歳以下がそのまた8割の131名を占めるという結果になっており、この傾向は野党も一緒である。

 ハヤトが定刻の15分前に会場に入ると、「お!ハヤトさんだ」という何人もの声が聞こえて、若い男女がハヤトの周りに集まってくる。皆議員のバッジをしているところを見ると、新人議員本人らしい。真っ先にハヤトの前に来たのは長身で浅黒い顔、引き締まった体をした、男性議員である。

「ハヤトさん、僕は水田良治と申します。よろしくお願いします。昼休みに少しお話がしたいのですがよろしいでしょうか」
 そう言って、手を差し出す。
「あ、ああ、ハヤトです。こちらこそよろしく。昼休み?いいですけど」

 ハヤトも手を差し出して、力強く握り締めてくる手を握り返す。ちなみに、ハヤトについては、マスコミのインタビューを受けるときは自身が「ハヤトと呼んで」と言っているため、たいていの若者は『ハヤト』と呼ぶ。

 その後10数人がハヤトに握手を求めてきたが皆若くて30歳前後であろう。その皆に水田が「昼休み、ハヤトさんと話をするので集まってください」と言っている。
 ハヤトは握手をしながら『これは何だ』とは思った。しかし、一通り握手が終わった後、その握手した皆が見守っている中で水田が大きめの声で言う。

「僕は、ハヤトさんを中心に新人議員の会の作ろうと思っているんだ。率直に言って、新人議員になんて、よほど知られた人でないと存在感を出すことはできない。しかし、この場に来ることができただけに、実際の実力は、ここにいる我々の世代は相当なものだと自負している。
 そこで、世界に処方を伝えた二宮ハヤト氏を中心に一つの派閥を作りたい。その中で、自分たちの政策を実現していきたい。どうだ?」

 見まわして言う水田の声に、囲んだ皆が拍手する。それを確認して「な、ハヤト。お互い利用しようぜ。じゃ、昼休みにまた話そう」ハヤトにウインクして言ったあと、皆に再度昼休みの会合を告げる。
 研修会の最初は、司会の挨拶の後に自民党総裁の篠山誠司の挨拶である。挨拶する周りに立っている3役は、白髪やしわが目立つが、55歳の篠山は頭も黒々して若々しい。

「自民党総裁の篠山誠司です。ここにおいでの皆さん、当選おめでとうございます。皆さんは、今回初めて当選されたわけですが、マスコミにも大きく書かれているように、極めて若い方が多いという点は過去に比べて際立っています。これは、明らかに魔力発現の処方による効果であり、マスコミも述べている通りです。
 体力・知力ともに最優秀な皆さんが、今後日本を引っ張っていくと思うと大変頼もしく思う次第です。しかし、我が国は皆さん自身も経験された、国難とも呼べる3つの地震と富士山の大爆発という経験をして、いまその傷跡を癒している最中であります。

 また、魔力発現の処方については、日本人のみが魔力が極めて大きいということが解っており、そのため外国には、処方ができる人材が台湾を除いて殆どいないということがはっきりしました。これは、海外の人々の不公平感を呼ぶに十分であり、実際にその摩擦が顕在化してきております。
 また、国内においても、大きな問題として、今の40歳前後で魔法の処方ができる層とできない層に分かれるということがあります。現在、出生率の急激な回復によって、人口動態が従来の予想と大きく変わってくることになりますが、今後老年人口が割合として大きくなることはすでに決まっています。

 従いまして、今後いわゆる従来であれば老年という年代にも、日本の生産人口として活躍してもらう必要があります。その点で、若い世代に適用できた魔法の処方を、なんとかそれらの世代の方々に適用できないかと、政権を司るものとして望んでいます。
 幸いこの点については、曙光が見えたと専門の研究者から報告を受けておりますので近い将来解決されると期待しております。また、幸いにして、我が国の国会は、かってのように政権の瑕疵を追及に終始するというようなことは、国民の皆さんが許さなくなってきました。

 しかし、一方で野党の方々も大変よく勉強して提案した政策を鋭く突いてきますし、彼ら自身の良い政策を提案してきております。この中では、新しく議員になった皆さんも、今言ったような内外の問題を的確にとらえ、その解決の一翼を担うことが求められております。
 こうした我々の活動については、皆さんもご存知の議員の評価システムがあって、厳しく議員一人一人のパフォーマンスを採点しており、これは客観的かつ実用に値すると衆知されています。そうしたことから、新人議員という甘えは許されず、日々勉強し精一般努力するという姿勢をもつことが必要です。今後の数年間の任期、皆さんの奮闘を期待します」

 それを聞きながら、ハヤトは父誠司への最近の処方を思い出していた。母涼子は魔力が高かったので、割に簡単に処方が可能で、身体強化もある程度でき、知力増強も若者並みに可能であった。しかし、父の魔力は平凡な値であり、ハヤトでも処方は出来なかったのだ。しかし、この点は基本的には解決できたのだ。

 それは、最近になって妹の同級生で東大に入学し、卒業後大学院で研究室に残っている天谷薫の研究室の研究の成果であった。天谷の属している研究室は西野准教授に率いられているが、彼らは、平凡な魔力の持ち主でも機器、インプレッサ―の魔力増幅の力を借りて従来は処方ができなかった人が他の人に処方できる手法を開発した。

 しかし、日本では沢山処方ができる人がいるので、余り意味のない手法であり、海外に対してその技術をどう生かすかは、まだ政府としても方針を決めていなかった。ハヤトは、魔力が最も強い人類として、東大で行っている様々な魔力からみの研究に協力してきたのだ。

 ハヤトは今の魔法処方の事業がそれほど続かないことは承知していたし、それで良いと思っていた。彼の協力する西野研究室の主要テーマが、魔力の弱い者さらに現在では難しい年配の人々の処方を可能にする方法であった。
 西野准教授がハヤトに言う。
「ハヤトさん、今のところでは、年をとると魔力が特別大きい人、マリュー2000以上は処方が可能でしたが、平凡なレベルだと無理でした。例えば、ハヤトさんのお父さんのようにマリュー300レベルの人はそうでした。この研究室では、処方時に魔力を増強して人に注ぎ込めるこのインプレッサ―によって、年齢の高い人に処方ができないかという研究を続けてきましたが、どうもうまくいきません。
 なにせ、マリュー10万を超えるハヤトさんの魔力でも無理ですからね、なにか別の条件付けが必要なのだと思います。それで、この10例のMRIの映像を見て欲しいのです」

 西野が示したのは、3枚ずつの様々な角度から撮った10組のMRIの写真で脳の断面であることが解る。
「この4例が50歳以上で処方ができなかった人の像、この3例が20~30歳台で処方が終わった人の像、この3例が少年の処方前の像です」
 この西野の言葉にハヤトも写真をじっくり見る。

「どうです。50歳台の人達はここが違うでしょう?この前頭葉の魔力のあるM器官、それをなかば覆う形で膜のようなものが垂れ下がっています。これが、魔力をM器官に伝えるのを妨げているだと思うのです」
 ハヤトはその言葉に首をかしげて言う。
「うーん、確かに50歳台はそこが他の年齢と違いますね。しかし、本当に魔力が伝わるのを防いでいるかどうかはわかりません」

 西野准教授は頷く。
「おっしゃる通りです。ですから、ハヤトさんのお持ちの探査機能で、魔力を注ぎながら前頭葉のM器官周辺を調べてみて欲しいのです。この新垣さんが被験者になって頂けますから」
 西野は、進みでた年配の技官を指す。

「はい、私も研究者の端くれとして何とか処方を受けたいのです。二宮さんお願いします」
 半白髪のぽっちゃりした新垣は、ハヤトに頭を下げて丸椅子に腰かける。ハヤトも新垣の真剣な顔を見て覚悟を決める。これまでやってこなかったが、机の上にならべた写真と比べながら、新垣のM器官を精密に探る。なるほど、確かに膜だ。魔力のある器官を大半覆っている。

 魔力は検知できるが、その膜の部分からは感じられない。処方するときに、魔力を注ぐのはその膜のちょうど隠れた部分であるので、確かにこの膜が処方を妨げているのかもしれない。ハヤトは膜を通して魔力をM器官に向けるが、手ごたえがなく反応しない。彼は躊躇ったが、膜を念動力でまくり上げる。

『あ!魔力に触れた』ハヤトは急いで新垣に言う。
「新垣さん、前頭葉のM器官にある魔力を感じてください」
「あ!感じる。感じる、感じました」新垣が目をつぶったまま小さく叫ぶ。
「では、起立してそれを体に巡らせてください」

 ハヤトの言葉に新垣は素直に立ち上がり集中する。
「めぐっている、体が熱くなってきました」
 やがて、新垣は興奮を押し隠して静かに言う。成功したのだ。

 しかし、念動力で膜をまくり上げるという操作が必要であり、これができるのは念動力を使えるもののみであり、現状でわかっている限り、1万人に一人程度しかいない。天谷はハヤトに頼んで訓練して念動力が使えるようになっているが、探査はできないので、危なくて処方はできない。
 探査の出来るものは、ハヤトの妹のさつきなど現在わかっている限り数えるほどしかいない。しかし、西野准教授は楽観的に言う。

「まさか外科的にあの膜を切り取るわけにいかないが、あの部分をリアルタイムで映すことはできるから、それを見ながら例えば天谷君なら処方ができるよ。1万人に一人ならの日本に1万人以上処方できる人がいるわけで、そうした人は魔力が大きいから、例えば1日50人処方できれば1日で50万人の処方ができるわけだ」

 その結果を活用して、ハヤトは早速父の処方を済ませたのだ。父の誠司が大いに喜んだのは言うまでもない。なぜ、母の場合に以前に成功したのか同様に探ると、膜は出来ているが長さが中途半端であったために処方が成功したようだ。母についても膜による妨害が考えられたが、膜の操作に合わせて改めて処方したが、特に効果は改善されなかった。

 後の西野准教授を中心とする研究の結果、魔力が強い場合には膜(後にD膜と呼ばれるようになった)の形成は遅いということが解っている。父の場合、身体強化はせいぜい2割程度であったが、知力は明らかに大きな効果があったようで、さらに母と同様に若返ったように見えるようになった。
 ハヤトも、若い世代にしか魔力の処方の効果がないのは大きな問題とは思っていたが、実施上の問題なあるにせよ父母への効果から首相の心配も一つが解消されるであろうことを喜んだ。
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