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第12章 異世界へ潜入
12.7 瀬川少尉の冒険3
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今は瀬川が運転しており、疲れたミーナリアは座席に深く腰掛け、うつらうつらしている。車は、この大陸第2の都市であるジルルカンまで500㎞という道を、すでに350㎞を超えて走っている。道の状態は良く、それほど車は揺れないが、彼女は「これはね、結局経済が悪いので交通量が少ないために、道が傷まないの」と侘しく笑って言う。
燃料はまだ余裕はあったが、給油はどのみち1回は必要なので、彼女が運転を代わる前にしている。この乗用車は最も広く乗られている車種で、比較的新しいが買える者が少なく、売れている数は多くはない。鉄板を薄く作る技術がないのだろうが、いかにも車体が重くその割に馬力が低いためにアクセルを踏んでも加速は鈍い。
真夜中のせいもあるだろうが、同じ方向に行く車はごくまれだし対向車も少ない。主要道路というこの道路だが、この交通量だと確かに舗装の痛みも少ないだろう。彼女の話では、100年前にサーダルタ帝国に征服された時点ですでにこの道路は建設されており、自動車も現在と殆ど変わらない技術水準であったそうだ。
その意味では、このマダンでは過去100年間は殆ど技術的な進歩はなかったということになる。しかし、100年前と言えば、地球も自動車はこのレベルだっただろうから、その時点では地球と技術レベルは変わらなかったはずだ。
瀬川が地球の社会や技術レベルの話をするとミーナリアは悔しがる。
「私達だって、サーダルタ帝国に邪魔をされなければ、あなた達と変わらないレべルだったかもしれないのに。悔しい」
そうは言うが、マダンの歴史の事を聞くと、電気の発明、蒸気機関の発明から現代の機械文明にたどりつくまでに、400年程も要している。
一方で、人口が10億人の全人類が3つの帝国になったのがやはり400年程前であり、それ以降大きな戦争は起きていないという。近代の技術進歩は明らかに地球の方が早いが、お互いに殺し合いをしないという意味では、地球の方が明らかに野蛮だ。
少なくともマダンの人々はつきあいにくい人々でないし、地球に攻めてくることはないだろうと瀬川は思う。要は自分の世界を、サーダルタ帝国に対してきちんと守ってくれればよいのだから、一旦彼らをこの世界から叩き出せば、それほどの戦力は必要ないはずだ。母艦が来るのを防ぎ留めればよいのだから。
瀬川は、ひたすらまっすぐ走れば良いという道を、精いっぱいのスピードで走る車の中で、考えながら運転するうちに気が付いた。後ろから明かりが追いかけてくる! 彼は、探知を後ろに飛ばした。ガリヤーク機が追ってくる。それも2機だが、1機は動きが鈍く大きいのでサカン1号か。
彼はとっさにヘッドライトを消して、急ハンドルを切ってすぐ先にあった枝道に入りこむ。大した速度が出ていないのが幸いで、車体は大きく傾いたが、転倒することはなく非舗装の道を揺れながらもうもうと埃をたてながら走る。しかし、思ったようにガリヤーク機は楽々と着いてくる。
当然“しでん”にもそれほど劣らない機動ができるガリヤーク機をこのポンコツで撒くのは無理だ。しかし、左手には黒々と見える背の高い木々が立ち並ぶ森がある。瀬川は再度ハンドルを切り、森に向かって斜めに走り込み、木々の間が思ったより空いているのを見つけて、その中に走りこむ。
入り込まれると面倒と見たか、機関砲弾が追ってくるがかろうじて振り切って、奥へ奥へと車で進む。しかし、流石に森の中を幅が2m程もある車で進むのも限度があって、300mほど入ったところで、通る隙間がなくなり車を止める。
「降りるぞ。ガリヤーク1機は上空、もう1機のサカン1号は森の入口で降りた。たぶん徒歩で追ってくるな。君を捕まえるのをあきらめる気はないらしい。君はここで待っていてくれ」
瀬川は木がからまって隠れがの様になっているところに、ミーナリアを引っ張っていって声をかける。
「貴方はどうするの?」
彼女の問いに、彼は答える。
「むろん、迎え撃つのさ。待っていては勝ち目がない。積極的に攻めて、相手を撃破するしかない。君は彼らが来たら降伏しろ。いままでサーダルタ人を殺したり傷つけたのは全部俺のせいで、無理やりつれてこられたと言っておけばいい」
「そんな言い訳は通用しないわ。かれらは魔法で心を読むものがいるから。私が事実彼らを傷つけてないことは分かるようにでしょうが」
「まあ、いずれにせよ。君の立場では殺されることはないよ」
瀬川の言葉に彼女は静かに言う。
「待っている。あなたが無事であることを信じているわ」
瀬川はどきりとしたが、無理ににっこりと笑って彼女に向かって手を挙げて、身体強化をかけてしなやかに走っていく。辺りは森の中であることもあって殆ど真っ暗であるが、瀬川の強化された目には行動に支障はない。しかし、サーダルタ人は4人、大きい懐中電灯で照らしながら進んでくる。
やはり、1人は探査魔法が使えるようで、後ろから方向を指図して仲間に進むようにうながししている。瀬川は奪ってきた銃を使うか、クロスボウを使うか迷ったが、やはり音がしないことの方が重要と割り切って、クロスボウを取り出して矢をつがえる。
しかし、流石に探知能力持ちである。仲間を促して瀬川に向かって銃を構えさせて打ち込んでくる。火箭を引いて乱れ飛ぶ弾は、巨木の陰に隠れている瀬川を傷つけることはないものの、瀬川も動けない。そうはいっても、彼らもいつまでも打ち続けることはできないのは明らかであり、やがて乱射は途切れる。
瀬川は、いまさら静かにすることに意味はないので、クルスボウは捨て銃を構えて全力で走って斜めに相手に近づく。そして、開けているところで一瞬止まって、探知しているひと際大きい魔力の相手に機銃を一連射打ち込む。
当たった。探知魔法遣いは倒れこみ、他の者は瀬川の射撃の火箭を頼りに打ち込んでくるが、瀬川は再度跳び離れて回転して大きく位置を移しており、もはや彼らにはその位置を掴めない。
闇雲にライトの光を辺りに当てているため、位置がはっきり分かる残りの4名に対して、一連射して飛び離れることを繰り返して、2人、1人、1人と倒していく。最期の一人を倒した瀬川は、すぐさまミーナリアのところに駆け寄り、「よかった。無事だったのね」彼の駆け寄るのを感じて言う彼女の言葉にかぶせて小さく叫ぶ。
「とりあえず地上の敵は倒した。行くぞ!あいつらのサカン1号を奪おう。時間が惜しい。抱えるぞ!」
そして、彼女をその樹木の隙間から抱えだし腕で抱き取って、全力で走り始める。彼女は小さく「キャ!」と叫ぶが、おとなしく彼が促すようにその首筋に捕まる。
たちまち、探知していたサカン1号への数百mの森を駆け抜け、タラップが掛けられたその機体が星明りに浮かび上がる。ミーナリアを下し、ドアを睨んで欧州でみたサカン1号のロック機構を思い浮かべながらそれを解く。“カチリ”かすかな音がした後瀬川がタラップに乗って取っ手を引くとそれはかすかな軋み音をたてて開く。
彼女を促して操縦席に座り、彼女も席に座らせてベルトを締める。さらに、欧州で習ったサカン1号の起動スイッチを魔法で入れ、タンクのマナを使って音もなく浮かび上がり、手前にある巨木の下の空間に突っ込んで止める。
瀬川は全力でガリヤーク機の動きを探る。
やはりガリヤーク機は、瀬川が懐中電灯のライトをわざと残していた辺りを滞空していたが、動きがないので不振におもったのだろう。サカン1号を探しにかかったようだ。当然ガリヤーク機には、サカン機はばっちり探知できているだろう。
「こちら、ガリヤーク××機、サカン〇〇号機、どうした、何があったのだ?」
無線機に声サーダルタ語のが響く。これは、返事をしてもどうせばれる。
「うう!あああ!ぎゃあ!」
瀬川は無線機のスイッチと聞いていたそれを入れながら叫ぶ。
「どうした!何があった?」
声が聞こえ、ガリヤーク機が降下してきて、サカン機の後部に地上すれすれに止まる。
チャーンス!瀬川は後退に一杯にアクセルを踏み込む。はるかに鋭敏なガリヤーク機であるが、わずかな距離を、鈍いと言っても1Gほどの加速で迫ってくる3倍以上の重量の機体を避けられなかった。
「ぶつかるぞ!」
叫ぶ瀬川の声に、緊張して椅子の手すりを全力で掴むミーナリアであったが、そのショックには想像以上のものであった。しかし、全身に力を入れていたのが功を奏して体が痛くはなったが、首を痛めることはなかった。
瀬川は検知でガリヤーク機を探った。機体は大きくひしゃげて、パイロットはシートでぐったりしている。幸い、ガリヤーク機の中はマナで満たされているので、無理して中に侵入することもないだろう。瀬川はつぶやく。
「燃えよ!」
地球では、空気がすこし熱くなる程度の瀬川の魔法はそのパイロットの周りのマナを燃え上がらせた。首を痛めていたパイロットは流石に気絶から覚めたが、顔を包む焔に、反撃もままならず絶叫のうちにぐたりとなる。
『あいつが起きていたら、今のようにはいかなかっただろうな』
それなりの魔力を持っているのを感じたパイロットの意識が、完全に途切れたのを確認して瀬川は思った。彼は死んではないが、当分意識を取り戻すことはできないだろう。
瀬川は慎重にサカン1号を後退させてみた。ギシギシいう金属音が大きかったが、それはガリヤーク機から離れた。後部は大きくへこんでいるが、前進させてみるとスムーズに動く。流石に重量が大きいだけに、機体全体が大きくへしゃげているガリヤーク機より変形は少ない。
「よし、動く。これでいくぞ!」
瀬川は言って、ミーナリアを見る。
「ええ!これで!エイジは運転できるの?」
「ああ、地球で捕獲された機体を運転の練習をしたことがある。それでそのジルルカンという都市の近くに行けば、どのみちこの機は捨てなくてはならん。街に入る方法と行く先はわかるな?」
「ええ、もうすぐ夜明けだから、市内に入れば車を呼べるわ」
彼女の言葉に頷いて、瀬川は自分の地理感覚が示すジルルカンの方向に向かって、地上すれすれを飛ぶ。探知魔法にも関連するのだろうが、瀬川はある地点を一旦認識するとその位置を感じることのできる超感覚がある。すこし明るんできた中を、彼らの乗ったサカン1号は時速で言えば200km程度で飛ぶ。
だが、地表すれすれなので操縦パネルに写る外の様子は、横から見るミーナリアにとっては怖いほど早く感じる。やがて、人口が200万に達するという大きな都市の華やかな明かりが見えてくる。その都市にほど近い密集した森を見つけた瀬川は、その上に舞い上がり鉛直に降りる。バリバリ、ゴリゴリという音をたてながら、機体は沈んでいきやがて止まる。
「すぐ見つかるのはまずいからね。いささか乱暴だったかな。さて出ようか」
彼女の方を向いて言って瀬川はドアを開けようとする。それは途中で枝に当たって止まったが、身体強化した彼は無理にこじ開け、地上3mほどで止まっている機体から枝を伝って出る。木々の下の方は比較的開けているその森を出るのはそれほど苦労せず、薄明るくなってきた中に見える集落を目指す。
「電話を使いたいのよ。あのくらいの集落だったら公衆電話があると思う」
ミーナリアが言うが、マダンの文明では電話機はあるものの、家庭に持つ者は少なく公衆電話が多く設置されているらしい。2時間ほど後、2人は迎えに来た車に乗って、市内に入って余り特徴のないビルの1室で座り心地の良い椅子に掛けていた。それまでの電話のやり取りと、運転手とのミーナリアの会話は現地語なので瀬川には分らなかったが、今から彼女の叔父夫妻に会うらしい。
やがて、如何にも執事といった感じの男性がドアをあけて入ってくる。彼はミーナリアに恭しく礼をして、続いて男女が入って来るのを迎える。女性がミーナリアを見るや「ミーナリャ!」叫んで駆け寄り、ミーナリアもそれを迎えて抱き合う。それを横目に、男性が瀬川に歩み寄り胸に、こぶしを握った片手をあて、もう片手は下げた状態で掌を相手に向ける。
「ミスラム・イマリルーナル、ミーナリアの義理の叔父だ。良く彼女を連れて来てくれた」
「瀬川英二、地球同盟のサーダルタ偵察隊の少尉です。今般のこの世界での空中戦で撃墜され脱出しました。どうも彼女は私を捕らえにきた部隊に見つかったらしいので、結局は私が御迷惑をおかけしたようです」
その後、瀬川とミーナリアはどうやってここまで来たかを簡単に説明し、次に瀬川が地球へのサーダルタ帝国の侵攻、地球同盟の説明、なぜこのマダンに来たかなどを説明し、軽く朝食をとっていた。
突然その部屋に、3人の男が現れた。
燃料はまだ余裕はあったが、給油はどのみち1回は必要なので、彼女が運転を代わる前にしている。この乗用車は最も広く乗られている車種で、比較的新しいが買える者が少なく、売れている数は多くはない。鉄板を薄く作る技術がないのだろうが、いかにも車体が重くその割に馬力が低いためにアクセルを踏んでも加速は鈍い。
真夜中のせいもあるだろうが、同じ方向に行く車はごくまれだし対向車も少ない。主要道路というこの道路だが、この交通量だと確かに舗装の痛みも少ないだろう。彼女の話では、100年前にサーダルタ帝国に征服された時点ですでにこの道路は建設されており、自動車も現在と殆ど変わらない技術水準であったそうだ。
その意味では、このマダンでは過去100年間は殆ど技術的な進歩はなかったということになる。しかし、100年前と言えば、地球も自動車はこのレベルだっただろうから、その時点では地球と技術レベルは変わらなかったはずだ。
瀬川が地球の社会や技術レベルの話をするとミーナリアは悔しがる。
「私達だって、サーダルタ帝国に邪魔をされなければ、あなた達と変わらないレべルだったかもしれないのに。悔しい」
そうは言うが、マダンの歴史の事を聞くと、電気の発明、蒸気機関の発明から現代の機械文明にたどりつくまでに、400年程も要している。
一方で、人口が10億人の全人類が3つの帝国になったのがやはり400年程前であり、それ以降大きな戦争は起きていないという。近代の技術進歩は明らかに地球の方が早いが、お互いに殺し合いをしないという意味では、地球の方が明らかに野蛮だ。
少なくともマダンの人々はつきあいにくい人々でないし、地球に攻めてくることはないだろうと瀬川は思う。要は自分の世界を、サーダルタ帝国に対してきちんと守ってくれればよいのだから、一旦彼らをこの世界から叩き出せば、それほどの戦力は必要ないはずだ。母艦が来るのを防ぎ留めればよいのだから。
瀬川は、ひたすらまっすぐ走れば良いという道を、精いっぱいのスピードで走る車の中で、考えながら運転するうちに気が付いた。後ろから明かりが追いかけてくる! 彼は、探知を後ろに飛ばした。ガリヤーク機が追ってくる。それも2機だが、1機は動きが鈍く大きいのでサカン1号か。
彼はとっさにヘッドライトを消して、急ハンドルを切ってすぐ先にあった枝道に入りこむ。大した速度が出ていないのが幸いで、車体は大きく傾いたが、転倒することはなく非舗装の道を揺れながらもうもうと埃をたてながら走る。しかし、思ったようにガリヤーク機は楽々と着いてくる。
当然“しでん”にもそれほど劣らない機動ができるガリヤーク機をこのポンコツで撒くのは無理だ。しかし、左手には黒々と見える背の高い木々が立ち並ぶ森がある。瀬川は再度ハンドルを切り、森に向かって斜めに走り込み、木々の間が思ったより空いているのを見つけて、その中に走りこむ。
入り込まれると面倒と見たか、機関砲弾が追ってくるがかろうじて振り切って、奥へ奥へと車で進む。しかし、流石に森の中を幅が2m程もある車で進むのも限度があって、300mほど入ったところで、通る隙間がなくなり車を止める。
「降りるぞ。ガリヤーク1機は上空、もう1機のサカン1号は森の入口で降りた。たぶん徒歩で追ってくるな。君を捕まえるのをあきらめる気はないらしい。君はここで待っていてくれ」
瀬川は木がからまって隠れがの様になっているところに、ミーナリアを引っ張っていって声をかける。
「貴方はどうするの?」
彼女の問いに、彼は答える。
「むろん、迎え撃つのさ。待っていては勝ち目がない。積極的に攻めて、相手を撃破するしかない。君は彼らが来たら降伏しろ。いままでサーダルタ人を殺したり傷つけたのは全部俺のせいで、無理やりつれてこられたと言っておけばいい」
「そんな言い訳は通用しないわ。かれらは魔法で心を読むものがいるから。私が事実彼らを傷つけてないことは分かるようにでしょうが」
「まあ、いずれにせよ。君の立場では殺されることはないよ」
瀬川の言葉に彼女は静かに言う。
「待っている。あなたが無事であることを信じているわ」
瀬川はどきりとしたが、無理ににっこりと笑って彼女に向かって手を挙げて、身体強化をかけてしなやかに走っていく。辺りは森の中であることもあって殆ど真っ暗であるが、瀬川の強化された目には行動に支障はない。しかし、サーダルタ人は4人、大きい懐中電灯で照らしながら進んでくる。
やはり、1人は探査魔法が使えるようで、後ろから方向を指図して仲間に進むようにうながししている。瀬川は奪ってきた銃を使うか、クロスボウを使うか迷ったが、やはり音がしないことの方が重要と割り切って、クロスボウを取り出して矢をつがえる。
しかし、流石に探知能力持ちである。仲間を促して瀬川に向かって銃を構えさせて打ち込んでくる。火箭を引いて乱れ飛ぶ弾は、巨木の陰に隠れている瀬川を傷つけることはないものの、瀬川も動けない。そうはいっても、彼らもいつまでも打ち続けることはできないのは明らかであり、やがて乱射は途切れる。
瀬川は、いまさら静かにすることに意味はないので、クルスボウは捨て銃を構えて全力で走って斜めに相手に近づく。そして、開けているところで一瞬止まって、探知しているひと際大きい魔力の相手に機銃を一連射打ち込む。
当たった。探知魔法遣いは倒れこみ、他の者は瀬川の射撃の火箭を頼りに打ち込んでくるが、瀬川は再度跳び離れて回転して大きく位置を移しており、もはや彼らにはその位置を掴めない。
闇雲にライトの光を辺りに当てているため、位置がはっきり分かる残りの4名に対して、一連射して飛び離れることを繰り返して、2人、1人、1人と倒していく。最期の一人を倒した瀬川は、すぐさまミーナリアのところに駆け寄り、「よかった。無事だったのね」彼の駆け寄るのを感じて言う彼女の言葉にかぶせて小さく叫ぶ。
「とりあえず地上の敵は倒した。行くぞ!あいつらのサカン1号を奪おう。時間が惜しい。抱えるぞ!」
そして、彼女をその樹木の隙間から抱えだし腕で抱き取って、全力で走り始める。彼女は小さく「キャ!」と叫ぶが、おとなしく彼が促すようにその首筋に捕まる。
たちまち、探知していたサカン1号への数百mの森を駆け抜け、タラップが掛けられたその機体が星明りに浮かび上がる。ミーナリアを下し、ドアを睨んで欧州でみたサカン1号のロック機構を思い浮かべながらそれを解く。“カチリ”かすかな音がした後瀬川がタラップに乗って取っ手を引くとそれはかすかな軋み音をたてて開く。
彼女を促して操縦席に座り、彼女も席に座らせてベルトを締める。さらに、欧州で習ったサカン1号の起動スイッチを魔法で入れ、タンクのマナを使って音もなく浮かび上がり、手前にある巨木の下の空間に突っ込んで止める。
瀬川は全力でガリヤーク機の動きを探る。
やはりガリヤーク機は、瀬川が懐中電灯のライトをわざと残していた辺りを滞空していたが、動きがないので不振におもったのだろう。サカン1号を探しにかかったようだ。当然ガリヤーク機には、サカン機はばっちり探知できているだろう。
「こちら、ガリヤーク××機、サカン〇〇号機、どうした、何があったのだ?」
無線機に声サーダルタ語のが響く。これは、返事をしてもどうせばれる。
「うう!あああ!ぎゃあ!」
瀬川は無線機のスイッチと聞いていたそれを入れながら叫ぶ。
「どうした!何があった?」
声が聞こえ、ガリヤーク機が降下してきて、サカン機の後部に地上すれすれに止まる。
チャーンス!瀬川は後退に一杯にアクセルを踏み込む。はるかに鋭敏なガリヤーク機であるが、わずかな距離を、鈍いと言っても1Gほどの加速で迫ってくる3倍以上の重量の機体を避けられなかった。
「ぶつかるぞ!」
叫ぶ瀬川の声に、緊張して椅子の手すりを全力で掴むミーナリアであったが、そのショックには想像以上のものであった。しかし、全身に力を入れていたのが功を奏して体が痛くはなったが、首を痛めることはなかった。
瀬川は検知でガリヤーク機を探った。機体は大きくひしゃげて、パイロットはシートでぐったりしている。幸い、ガリヤーク機の中はマナで満たされているので、無理して中に侵入することもないだろう。瀬川はつぶやく。
「燃えよ!」
地球では、空気がすこし熱くなる程度の瀬川の魔法はそのパイロットの周りのマナを燃え上がらせた。首を痛めていたパイロットは流石に気絶から覚めたが、顔を包む焔に、反撃もままならず絶叫のうちにぐたりとなる。
『あいつが起きていたら、今のようにはいかなかっただろうな』
それなりの魔力を持っているのを感じたパイロットの意識が、完全に途切れたのを確認して瀬川は思った。彼は死んではないが、当分意識を取り戻すことはできないだろう。
瀬川は慎重にサカン1号を後退させてみた。ギシギシいう金属音が大きかったが、それはガリヤーク機から離れた。後部は大きくへこんでいるが、前進させてみるとスムーズに動く。流石に重量が大きいだけに、機体全体が大きくへしゃげているガリヤーク機より変形は少ない。
「よし、動く。これでいくぞ!」
瀬川は言って、ミーナリアを見る。
「ええ!これで!エイジは運転できるの?」
「ああ、地球で捕獲された機体を運転の練習をしたことがある。それでそのジルルカンという都市の近くに行けば、どのみちこの機は捨てなくてはならん。街に入る方法と行く先はわかるな?」
「ええ、もうすぐ夜明けだから、市内に入れば車を呼べるわ」
彼女の言葉に頷いて、瀬川は自分の地理感覚が示すジルルカンの方向に向かって、地上すれすれを飛ぶ。探知魔法にも関連するのだろうが、瀬川はある地点を一旦認識するとその位置を感じることのできる超感覚がある。すこし明るんできた中を、彼らの乗ったサカン1号は時速で言えば200km程度で飛ぶ。
だが、地表すれすれなので操縦パネルに写る外の様子は、横から見るミーナリアにとっては怖いほど早く感じる。やがて、人口が200万に達するという大きな都市の華やかな明かりが見えてくる。その都市にほど近い密集した森を見つけた瀬川は、その上に舞い上がり鉛直に降りる。バリバリ、ゴリゴリという音をたてながら、機体は沈んでいきやがて止まる。
「すぐ見つかるのはまずいからね。いささか乱暴だったかな。さて出ようか」
彼女の方を向いて言って瀬川はドアを開けようとする。それは途中で枝に当たって止まったが、身体強化した彼は無理にこじ開け、地上3mほどで止まっている機体から枝を伝って出る。木々の下の方は比較的開けているその森を出るのはそれほど苦労せず、薄明るくなってきた中に見える集落を目指す。
「電話を使いたいのよ。あのくらいの集落だったら公衆電話があると思う」
ミーナリアが言うが、マダンの文明では電話機はあるものの、家庭に持つ者は少なく公衆電話が多く設置されているらしい。2時間ほど後、2人は迎えに来た車に乗って、市内に入って余り特徴のないビルの1室で座り心地の良い椅子に掛けていた。それまでの電話のやり取りと、運転手とのミーナリアの会話は現地語なので瀬川には分らなかったが、今から彼女の叔父夫妻に会うらしい。
やがて、如何にも執事といった感じの男性がドアをあけて入ってくる。彼はミーナリアに恭しく礼をして、続いて男女が入って来るのを迎える。女性がミーナリアを見るや「ミーナリャ!」叫んで駆け寄り、ミーナリアもそれを迎えて抱き合う。それを横目に、男性が瀬川に歩み寄り胸に、こぶしを握った片手をあて、もう片手は下げた状態で掌を相手に向ける。
「ミスラム・イマリルーナル、ミーナリアの義理の叔父だ。良く彼女を連れて来てくれた」
「瀬川英二、地球同盟のサーダルタ偵察隊の少尉です。今般のこの世界での空中戦で撃墜され脱出しました。どうも彼女は私を捕らえにきた部隊に見つかったらしいので、結局は私が御迷惑をおかけしたようです」
その後、瀬川とミーナリアはどうやってここまで来たかを簡単に説明し、次に瀬川が地球へのサーダルタ帝国の侵攻、地球同盟の説明、なぜこのマダンに来たかなどを説明し、軽く朝食をとっていた。
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