日本列島、時震により転移す!

黄昏人

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第3章 時震後1年が経過した

44. 2024年4月、地震後1年取り残された日本

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 沖縄那覇市において、柳井陽介は大学時代の同級生の新垣良治と話している。柳井は北海道で国交省に務めており、沖縄建設局に出張してきたのだが、沖縄県庁に勤めて、エンジニアの新垣と久闊を温めつつ情報収集ということで会っているのだ。場所は、柳井の泊まっている沖縄ビューホテルのロビーである。

「なるほど、長峰知事は迷っているわけだな」
 柳井が、新垣の沖縄県庁の雰囲気の話を聞いて言うと新垣が応じる。

「うーん、迷っているというか、本質的には知事の腹は決まっているよ。香港のあのざまを見て、中国を信用しようという奴は馬鹿だよな。ただ、本音か金を掴まされてかは知らないが、強硬に米軍を追いだそうという奴が多いんだ。元々長峰さん自身がその急先鋒だったしな」

「その結果がどうなるか、解って言っているのだな、その連中?」
「ああ、解っているはずだぜ。俺なんかは散々言ったからな。米軍がいなくなれば、沖縄を守るものはいなくなる。戦力が大幅に減った自衛隊では対中国では間違いなく守れん。しかし、あいつらはそうは言わんが、中国領になった方がいいと思っているんだ。
 なにしろ、現在の日本の経済力は時震前の水準で北海道が19兆円、沖縄が4兆2千億、合計23兆円だから、中国とは比べものにならん。それに、国からの支援は沖縄で地方交付税と復興資金という名の交付金を合わせて7千億だった。今の日本はそんなに出せん一方で、奴らの言うには中国だったらもっと出せると言っている」

「馬鹿な!最初は出すかも知れんが、沖縄を自分のものにしたらそんな約束をしてもチャラに決まっている。しかし、まあ数人に対する裏金だった出すかもね。そして、そういう連中は中国なりに逃げると」

「ああ、中国からの補助金なんか信じている真面な奴はおらんよ。しかし、利益誘導はありうる。特にこの沖縄では観光業が主要産業の一つだが、年間650万人だった本土からの観光客は消えた。その点で、中国からだったら1000万人でも出せるだろう」

「ああ、ただC型感染で世界から嫌がられ、アメリカと決定的に対立しつつあって、世界のサプライチェーンから切り離されつつある中国の庶民が今後、それほど旅行するほどの余裕があるかな?」

「ああ、その点はすでに指摘されているし、最初は良くても中長期的に効果は怪しいと言われている。それに、なにより政府がやっている列島の開発が形を見せて来たよな。それに、沖縄にも日本に回帰した工場が立地し始めた。若いものはそっちに期待をもっているよ。それになにより、あの5ヵ年計画な。あれで、決定的に雰囲気が変わったぞ」

「ああ、本州、四国、九州に公共事業として最初の一年で5兆円突っ込んでいる。それに、インフラ関係で不足する資機材の生産、それに国民の需要を満たす品物の生産、海外への進出していた製造業の国内への回帰などの設備投資は5兆円はある。残念ながら、それ以上をこなす能力はないためにそれだけで、頭打ちになっているがな。
 しかし、今年は大分生産体制が整ってきたし、今人が機能し始めるから倍以上は行くと思う。どうだ、沖縄でも成果は出始めているだろう?」

「うん、たしかに。最初の半年くらいは混乱がひどくてな。しかし、国外からの観光客はむしろ増えているな。時震は世界からひどく注目されているから、それを当事者として経験している沖縄へ!というわけだ。とくにアメリカの保護国になったということで、内国扱いになったこともあって、アメリカからが増えた。
 沖縄から、九州くらいまでの観光飛行が凄く増えて、業者はウハウハだな。とは言え、全体としては減っているよ。しかし、本土開発の面では実際に効果は出ている。九州縦貫道と九州への開発基地、それに開発基地(ベース)を各県に作って周辺の開発を始めただろう?

 あれで1万2千人位が九州に出ていっているが、その多くは九州に住むことを考えているようだ。九州の今人の人口は103万人だったかな。1千万を超えていた21世紀に比べると1/10でスカスカだ。
 今人のテリトリーとぶつからずに開発・開拓する余地はいくらでもあるし、漁業資源はあるし、さらに観光資源がたっぷりあるからな、それに鹿児島は金銀の宝庫だ。そもそも、沖縄は面積の割に人口過剰だ」

「うん、2カ月前に本州など3島と周辺の島々の今人の人口が出そろったな。基本的には全ての集落を廻ってヒアリングをしているものの、見落としと推定も一部入っているので、正確とは言えないが、1%は違っていないだろう。
 本州が821万人、四国が瀬戸内の島々を入れて52万人、九州がお前の言う通り103万人。それに佐渡とかの島の4万人で合計980万人だ。それに、北海道の530万人、沖縄の145万人で日本の人口は1,655万人だな。人口は前に比べれば少ないが、面積37万㎢は変わらないし、国際的に見ればそれほど小さい国でもない。

 人材の面で見ると、北海道と沖縄の675万人の教育レベルは国際水準に伍しているが、980万の今人はこれからだ。この面では間もなく全国に総合学校を作り始めるから、そこで大人の速成教育と、子供の学校教育を行う。
 ベースでの実績からすれば、9割以上の大人は3ヶ月の速成教育で工場労働者・近代農場の労働者として働けるようになった。また1割は6ヵ月の教育でパソコン、自動車、農業機器を扱えるようになる」

「ほー、その3カ月で使えなかった1割はどうするんだ?」
「都度、指示をすれば働くことはできるが、なかなか新しいことを覚えるのに、苦労しているということだ。ただ、今のベースにいる連中は基本的に自ら進んで、ベースに来た者達ということを割り引いて考える必要はある」

「とはいえ、今人も一定の教育を施せば、基本的に日本国の国民たりえるということだな」
 新垣が確認し、柳井が頷いて言う。
「ああ、その通り、今年令和4年を初年度とする日本復興5ヵ年計画を、俺は実現できると思っている。よしんば、目標の達成が遅れるとしても、すでに落ち目であることが見えている泥船である中国の属国になるという選択は馬鹿 の極みだと思うぜ。
 そもそも、アメリカが、敵国認定している中国の息のかかったそんな動きを黙って見ている訳がないじゃないか。下手をすれば消されるぜ、その連中」

 実際に、未だに沖縄の基地返還を謳って活動している連中はCIAの監視下にあった。中国にしてみれば、アメリカに敵認定されて政治的に苦境にある現状で、自国の人民の支持回復の大きな手段の一つとして沖縄の属国化があった。米軍の基地が無くなれば、軍事的に侵攻して占領するのに訳はない。

 中国にとって、それ以上に大きいのは、米軍の基地を追い出すことである。すでに敵国になっているアメリカ軍の大規模な基地が、直近の沖縄にあることは戦略的に極めて大きな障害である。だから時震によって、日本の大部分が消えた時、チャンスと見て熱心に基地返還運動にテコ入れしたのは当然である。

 これは、日本の根幹たる人材の大部分と産業システムとが失われて、結果としてその国力を失ってしまった時、米国が日本にコミットする意義が失われたと見たのだ。元々、中国の見方では日米安保条約の意義は、日本が二度と強力なライバルとならないように、自分の支配下に縛り付けるためのものである。

 しかし、韓国以下の存在になり下がった時震後の日本が、そのような存在になる可能性はもはやないであろうと考えた。そして、その場合にはアメリカが日本にコミットする値打ちはないし、韓国を見捨てたように日本も見捨てるだろう。

 中国はそのように見たのだが、彼らはいささかアメリカの彼らへの敵視の強さと、その場合の日本の位置の重要性を過小評価していた。また、もう一つは日本が持っていたアメリカ国債の意味合いである。彼らはアメリカが自分のようにふるまうだろうと思っていたのだ。つまり、小さい存在の日本の持つアメリカ国債などは無視するか、公然と踏み倒すだろうと。

 しかし、新日本政府は素早くアメリカへそのコモンウェルス入りを申し入れた。そして、アメリカはそれを早々に飲んだ。これは、1兆ドルのアメリカ国債によって、日本を抱え込んでも結果的にアメリカ政府の負担が大きくないことを考慮したことも要因の一つであったのだ。

 つまり、アメリカは国債を踏み倒す気はなかったということだ。当然である。誰が、借金を踏み倒す気のものに金を貸すか。しかも、挑んでくる相手だったらともかく、時震という現象に弱り切った相手である。
 もう一つの中国のとっての悪材料は、アメリカの力を背景に日本の新政府が、賢明な施策を始めたことだ。ただ、それを始めた時点では、その施策が妥当なものであるかどうかは外から見る者達には判断がつかなかった。

 しかし、外の世界も、ほぼ1年間の試行の成果を基に、5カ年計画として具体的にまとめて内外に発表した内容を見た時には、よほどの不確定要素がない限り、成功するだろうと評価されている。

 これは、⓵まず青森から鹿児島までの道路と鉄道による縦貫道を建設することによる陸路の整備、②少なくとも各都道府県に1ヵ所の港湾整備と開発基地(ベース)の設置、③ベースを中心とする農地整備と工場群の建設、④京、福岡、愛媛、愛知、東京、宮城への国際飛行場建設、⑤観光拠点建設と道路ルートの整備、⑥人口1万人ごとに総合学校の建設、⑦鉱山の開発と採掘の開始などである。

 ちなみに、工場建設については、産業及び人々のための必需品の製造は、基本的に国内で生産するこという目標に基づいて計画的に行われている。これは、従来の日本は工業材料を主とする工業製品の輸出によって、石油や石炭、鉱石、食料などの他、比較的付加価値の低い工業製品を買っていた。
 しかし、多くが本州頭の3島にそれらの生産工場も大部分が配置されていたので、競争力のある主要な輸出すべき製品を失ってしまった。そのために、効率を犠牲にしても出来るだけ国産にこだわる必要がある。独立国は、代替として自らの財を持ち出す必要のある輸入超過を長く続けていくことはできないのだ。

 生活必需品などの製造は、経産省において種類毎の必要量を割り出して、北海道または沖縄でそれらを製造している事業者に増産または新規に製造させるように促した。その製造ラインを作る工場が北海道または沖縄に無い場合には、海外の日系企業が海外で生産を行っている場合、その一部を国内に移転させるなどを行っている。

 建設・移転は極力今人の住む3島に行うようにしているが、工場の規模が大きい場合に限っている。これは、工場が規模は大きい場合には必要なインフラは自ら整備できるからである。逆に中小規模では電力や交通網が未発達の場合には成り立たないので、北海道や沖縄にはこれらの工場は数多く立地した。

 しかし、この段階では日本関係でどうしても資機材を調達できない場合も多く、その場合には海外にいる日本人及び公館の力を借りて調達している。その意味では輸入になるが、将来の自力による生産のためであるので、やむを得ない。アメリカに逆らうものは粛清されるという柳井の言葉に新垣が応じる。

「うん、中国の目論見とそれに協力する連中の計画が達成も見込みがあるのなら、その連中は危ないよな。ただ、5ヵ年計画が発表されてしまってからは、基地追放はもう無理だな。まあ、5ヵ年計画の数値が達成できるかどうかは微妙だとは思うけどね。
 しかし、大筋においてそれほど5ヵ年計画そのものにほとんど異論は出ていないよね。1年の試行で、ある程度はうまく行きそうなことは解って来たからね。しかし、5ヵ年計画の完了時にはGDP50兆円とは少しふかし過ぎではないかな?」
 新垣が疑問を呈するのに柳井が答える。

「だけど、50兆円と言っても一人当たりGDPが300万円だからね。嘗ては500万円位だったのだから、そのくらいは行きたいところだし、試算はして、その程度は出来るという見込みはあるんだ。初期においては、初年度は投資の建設能力がまだないから無理としてもと2年度、3年度は建設・設備投資が非常に大きい予定になっている。
 その2年間の建設投資が、大体年間25兆円くらいだから、元人の1/3くらいその労働に携わると思う。でないと、5年後のGDP50兆円で55%が個人消費は無理だし、貿易収支均衡と食料自給率80%以上も増して無理だな」

「まあ、そこまで行くと、規模は小さいが先進国の端くれにはなるだろう。感じとして、国土面積は10倍だけど経済力は台湾位になるくらいだな。しかし、工業力はまだまだ台湾には及ばないだろうけどね。ところで、大体は聞いているけど、縦貫道はどんな感じ?」

「うん、延長1920kmの大部分の砂利道は出来ていて、一応ランクルでは通れるようになった。ただ、排水系が不十分なところや崖の崩壊防止が怪しいところがけっこうある。トンネルを避けたために無理をしたところが多いからね。だから、連続降雨100mmを越えると通せないところが多いな。東京、京都、名古屋の近所は、アスファルト合材工場を作ったから舗装迄出来始めているぞ。
 ただ、橋は20mを越えると1車線のみでH鋼の杭にH鋼の桁に鋼製の床版だから、恒久の橋は並行してコンクリートピアで建設することになっている。関門は残念ながらフェリーだ、橋は10年先だな。

 ガソリンスタンドは20カ所を越えたから、一応燃料を抱かなくても北海道から鹿児島まで陸路行ける。平均30㎞では走れるけど全コースでは2日かかりだから、船の方が楽だな。
 鉄道は2/3位はレール迄敷いているから、単線ベースではあと半年あれば繋がるよ。鉄道橋はH鋼の杭に続けてコンクリートを巻いて恒久のものにするつもりだ。駅は52ヶ所作っていて、まだ大きさや作りは田舎駅にも及ばんけれど、利用客が増えればすぐに立派になるよ」

「なるほど、1年の成果としては凄いよなあ。ちなみに、大名やら、領主の妨害はどうなんだ?」
「うーん、大きい争いとしては、知っての通り塩竃ベースに伊達尚宗が2万の兵を集めて来た争いがあったが、自衛隊の戦車やヘリを使った脅しで逃げ散ったよな。引かなかったら、伊達尚宗とその旗本は爆撃するつもりだったから、あいつは利口だったな。命拾いをした格好だ。それに、その他にも小さい争いは沢山あったよ。
 やむを得ず殺した例としては、農民を殺しかけたので射殺した例が3件、やむを得ず大将を狙撃した例が1件あったよ。これらは、映像を撮っていたので各地の大名と、領主に出来るだけ見せている。その効果もあったのか最近3ヶ月の武力衝突はないな。

 最近では、中小領主がベースに領の開発を頼んでくる例がどんどん増えている。彼らは、土地は国が買い上げる形になること、ただ買い上げた地代は家臣にも分配することを承知している。
 さらにその後は、彼ら自身は経歴を考慮した上で地方公務員のとしての雇用ベースになること、さらに家臣は公務員かまたは民間企業の管理職ベースで雇われることなども承知している。まあ、結局領主と言えど、それほどいい生活はしていないということだな」

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