日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人

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第2章 始まる日本の変革

2.3 始まる日本の技術変革

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 ちなみに核融合発電機については、プロトタイプの1号機は七月初旬に完成して、試運転も成功裏に終わっていた。しかし、Xデーが迫っていることもあって、発表はせずに10万㎾機の10機を一斉に組み立てることになった。

 これらは全て防衛省納入分であり、レールガンの発射基地と護衛艦に載せるためのものである。この組み立ては、政府の方針で経産省が主導して、今後燃料油が不要になることで打撃を受ける石油化学関係の業者から人員を派遣して訓練の意味合いで行っている。

 10機分の構成部品は一号機の発注から少し遅れて一斉に発注されて、一号機の組み立てが終わったときには10機分が揃っていた。
 費用はレールガンの電源用に防衛省が負担している。そのための人員は基本的に監督クラスのみで全員で300名が集められ、プロトタイプの設計、製作、組み立てを経験したスタッフから図面、仕様書の作成及び発注・検査・搬入に加えて組み立てについて座学や実際の訓練で学んだうえで、全国3か所の工場で実際の組み立てを経験した。

 そして、この300名のうち100名はパッケージタイプの10万㎾機の10か所の量産工場生産担当者になって、月産2機程度の生産を目指すのでその生産体制構築計画策定を行っている。さらに、200名は、20班に分かれて、すでに設計の完了している百万㎾の発電装置の実行計画及び発注仕様書作成を行っている。

 これらの作業は10万㎾の装置の組み立てをやりながらとなっている。彼らは、政府が核融合発電機の公表を世界へ向けて行い次第、選定された10か所の小型発電機の生産工場が稼働を開始し、20か所に別れた百万㎾の発電プラントを建設することになっている。

  建設箇所は各電力会社によって既存の電力網を検討のうえで決められ、出来るだけ配電に都合のいい位置が選ばれた。これは、百万㎾の発電所と言っても一㌶の用地があれば十分であることから広大な用地を必要として、なおかつ放射能漏れを気にする必要があった既存の原発に比べ大幅に選択肢が広がっている。

 訓練に参加した技術者たちの属する会社は、それぞれ原発の受注をすることになっており、これは一基当りに概ね200億円の受注金額になる。現在の原発が110万㎾で3千億円以上とされているのに比べ大幅に低いものになるが、全部で既存の発電機に代替するには約2億2千万㎾必要なので必要とされる費用は膨大である。

 この受注に際しては、経産省が中に入って、今後起きる燃料油としての石油量の大幅な先細りに伴う、輸入、精製や販売、またエンジン類、発電機等の生産販売に携わる企業に対して出来るだけその負の影響を抑えるために受注企業の選定を行い、金額についても概ね一律の額を割り当てている。
 これは明らかに官製談合であるが、経済的な混乱を避け、長期的にメリットが大きいことが明らかな常温核融合発電移行の恩恵を出来るだけ皆で分けようとするものであった。

 一方でSAバッテリーと、MMモーターの生産及びそれらの車両等への適用についても公表はしていないが各関係企業は全力で動いていた。すでにSAバッテリーの生産工場は全国に5か所作られて稼働を開始しており、当面は自動車の生産工場、及び交換バッテリーの供給所となる充電(励起)工場へ大量のバッテリーの供給を行っている。

 いずれの工場も工場のユニットを増やすことで大幅増産に素早く移れる構造になっている。バッテリーの充電(励起)工場はバッテリーの交換所(給油所が当面兼ね、将来完全なバッテリーの交換所になる)へトラックで配布する関係上基本的には各県に一か所建設することになっており、すでに一都二府五県については、八月下旬には運転開始できるように建設が進んでおり、他の20工場についても建設が進んでいる。

 これらは、使える車がないと意味がないが、MMモーターはすでに2か所工場が建設され、量産に入っており、これらは全力で各自動車メーカーに納入されている。自動車メーカーは基本的にガソリン車と似たような車にMMモーターとSAバッテリーを使ったものを新世代電動車の初代車として売り出そうといている。

 だが、大幅に小さくなった駆動部によって不要になったスペースを考えてどういう形にするかが、デザイナーの腕の見せ所であった。これは、Xデーの直後にはすでにベールを脱いで、各メーカー一斉に新型車の発表をしており、八月下旬には発売の予定になっている。

 西山機工㈱は、すでにバッテリー収納・交換機の開発を済ませており、試験運転を十分に行って機能的に問題ないことは確認している。現状のところ、全くライバル会社はいないので、完全に売り手市場ではあるが、将来を考えれば余り阿漕なことはできない。

 とはいえ、Xデーにはすでに520台の契約を済ませ八月には基礎工事を始めて、八月下旬には運転開始できるように計画している。
 こうして、我が国の発電機はいずれすべて核融合方式に変わっていくが、百万㎾機の工期は1年で年間の建設は20基、10万㎾機は全国10か所で月産2基の予定であるから年間4400万㎾の発電機が完成することになるものの、既存の2億2千万㎾の発電能力に達するまでは大体5年を要することになる。

 一方で電動自動車であるが、日本中の自動車メーカーは全て電動に切り替えて製造を始めており、この生産能力は乗用車で1千万台、トラック類で百万台となっており、6千万台ある国内の自動車が入れ替わるにはやはり5年程度はかかることになる。

 さて、牧村誠司であるが、彼は六月から西山大学技術開発研究所の物理学研究室の主任研究員になっており、晴れて無給助手の身分から解放されている。主任研究員というのは対外的には教授相当であり、給料は公社から支払われるが、これは基本給に他に自らが関わった発明によって公社が特許料を収入がある場合にはその貢献度に応じて手当が加わることになっている。

 誠司は核融合発電では最高の貢献度、SAバッテリーでも教授に昇進した重田や湯川教授と共に最高に近い貢献度になっているが、現状ではSAバッテリーのみについて特許料収入がありその手当は、現状では月に数十万であるが、核融合発電機の建設が本格的に始まり、発電量が上がっていくと月に数千万円になるであろう。

 重力エンジンの開発が終わり、その専用機の設計も終わってその建造が始まったところで、水谷ゆかりは、そろそろ防衛研究所に帰る時期になってきた。ゆかりが、何時それを誠司に切り出そうかと思い悩んでいたある晩、誠司から外で食事をしようと誘われた。場所は、町を見下ろす高台にあるしゃれたレストランである。昼間には何度か来ていたが、夜は護衛をお願いするのもあって初めてである。

 レストランに着いて、誠司は食事前に街を見下ろすベランダにゆかりを誘って2人で西山市の見事な夜景を暫し無言で見下ろす。誠司が静かに話始める。
「ゆかり、俺は今日主任研究員の辞令を貰ったよ。これで、僕も名実ともに社会人になったわけだ。いままで、無給助手の身だったから言えなかったけど」

 誠司は言葉を切って、ゆかりの正面に立って、薄暗い中で彼女の目をまっすぐに見る。ゆかりは心臓がどきどきして、唇が渇いてくるのを覚えた。
「ゆかり、俺と結婚してくれ。まだ、お前に比べると未熟だけど、ゆかりを愛しているのは誰にも負けない」

 ゆかりは誠司の目を見たままであったが、誠司の顔が涙でぼやけるのを感じながら絞り出すように言う。
「でも、でも、私はあなたより八つも年上で………」

「いいんだ。俺はお前がいいんだ」
 尚も言う誠司に、ゆかりは『いいんだ、自分に正直でいよう』とこわばっていた心が溶ける思いでゆっくり頷く。
「いいわよ。結婚しましょう。私もそうしたかったの」

 誠司はゆかりを抱き寄せ静かに口づけをする。
 それを見ていた、護衛の白川は『おう、おう、見せつけてくれるね』と頭を振りながらつぶやいた。

 中に入って席に着き、誠司は買っておいた婚約指輪を渡すと、ゆかりは改めて涙を流して言う。
「私は、研究所からそろそろ帰るように言われていて、この一両日にあなたに別れをいおうと思っていたの。でも、つらくてなかなか言えなかったわ」

「うーん、まあ研究所としてはそうだろうな。まあ、でも俺と同じ職場でもいいし、たぶん防衛研究所が離さないだろうね。たぶん、こちらに派遣と言うことになるだろうね。重田先生と結婚した経産省の深山さんと同じだよ」

 経産省の技術職員である深山は重田教授と結婚して西山市に住むことになったが、経産省が彼女を離さず、西山市駐在として残すことになったのだ。国にとって重要な発明を、今後も量産することが確実な西山大学に職員を置いておくことの重要性は誰もが想像がつくことであった。

「それに、俺も結構な給料はもらえるようだから、万が一職がなくてもどうにでもなるよ。でも、ゆかりの場合は専業主婦というのも嫌だろう?」

「ええ、出来れば働き続けたいわ。特に最近のレールガンの開発と、重力エンジンのアセンブルは面白かったわ。それに、もうすぐ改F4のような改造機ではなくて重力エンジンを積んだ機体の建造が始まるから最後まで見届けたいし、これはさらに宇宙船にもなるから是非乗ってみたいわ」
 誠司の問いにゆかりが答える。

「うん、だから俺からも明日にでも佐治所長に頼んでみよう。自分では言いにくいだろうからね」
 誠司はそう言って、実際に佐治所長に電話して、水谷ゆかりと結婚するとのことを伝え、西山市に居住させるように交渉した結果、彼女は主任研究員の身分のままで西山大学技術開発研究所に駐在して、防衛関係の機材の開発に当たることになった。

 佐治所長にしてみれば、レールガンと言い重力エンジンと言い考えられない速さで戦力化でき、中国・韓国との紛争に活用できたのは、ゆかりと誠司の関係があってこそと考えているので、今後ともゆかりを研究員として雇用でき、彼女が誠司と結婚するというのは望むところであった。

 八月八日、首相への指名を受け、直ちに組閣を済ました阿賀首相はNHKから特別談話を行った。
「国民の皆さん。私どもの自由民主党は、この度皆さんの信任を得て過半数の議席を頂きました。その結果、わたくしは内閣総理大臣の指名を受け、直ちに組閣したのは皆さんがご存知の通りです。
 この度の選挙は憲法改正選挙と呼ばれたように、我々は、わが党とさらに志を同じくするいくつかの党と共に憲法改正の決議を国会で行った上で、皆さんの審判を仰ぎます。これは九月の予定で進めますのでその節はよろしくお願い致します。

 さて、今日こうして皆さんにお話しする機会を作って頂いたのは、いま我が国において重大な技術革命が起きたことの発表をするためであります。それは、核融合発電を実用化したことが一つ、もう一つはその技術の延長で従来のものと充電容量が一けた以上上回るスーパーバッテリーが開発されたことです。

 核融合発電については、10万㎾の出力のものがすでに完成して実際に運転されています。これは、燃料としては水を電気分解した水素ガスを用い、運転時の水素ガスがヘリウムに変わる核融合の連鎖反応が起きているときの温度は5百度足らずであり、しかも全く放射能を発生しません。
 また、この装置は極めてコンパクトであります。
 この写真のものがその実機ですが人と比べてみてください」

 阿賀は写真を示して、画面に映しさらに続ける。
「このようにコンパクトですので、建設費も通常の石油がガス発電機に比べても極めて低いコストで建設できます。さらには、燃料は単なる水道水を少量供給してやればいいので、1時間に8㎘の油を使う十万㎾の発電機と比べるまでもありません。
 そして、今月中には百万㎾の出力の設備を20基を一斉に建設にかかり1年で完成します。
 さらに10万㎾の写真と同じ発電機は全国の10カ所の工場で年産240台作られます。我が国の発電能力の合計は今で2億2千㎾ですから、これが全部入れ替わるには5年を要することになります。

 さらに、先ほどお話した超バッテリーの件ですが、これはスーパー・アトミック・バッテリーと言うことでSAバッテリーと呼んでいますが、この量産はすでに始まっています。
 加えてこれはすでに発表されたので、皆さんご存知のようにMMモーターという新型の非常に作りやすくコストの低いモーターがあります。このSAバッテリーとMMモーターの組み合わせによって、すでに各自動車メーカーは宣伝を始めましたように新型の電動自動車が売り出されます。

 この場合の車の値段はエンジン車に比べ相当割安になると聞いています。また、このバッテリーは電気を充電するのではなく、工場で原子構造を変換するものですから、今の給油所に当たるところでバッテリーを交換してもらいます。この費用はガソリンを給油するのに比べて半分程度です。
 ですから、自動車は全て電動に変わることになると考えられます。しかしながら、我が国で走っている車は全部で6千万台あり、これを電動自動車に替えるには、我が国の自動車生産能力を全て国内向けに振り向けても5年はかかるという予測です。電力に対しては核融合発電、自動車に対しては電動化ですがいずれも5年かかるという予想になります。

 一方で、核融合発電では今後発電には燃料油を使いませんし、電動自動車の場合のバッテリーの充電には核融合発電機から供給された電力を用いますので、今後は燃料として用いていた燃料は殆ど不要になります。
 このことで、皆さんのご存知の石油生産量が需要に追い付かなくなるという予測は、需要が大幅に減るわけですので結果が大幅に変わります。従って、私は今日のこの発表をもって、今後の石油価格は落ち着いてくるものと予想しています。

 しかし、ここで私どもが考えなければならないことがあります。それは、今の石油の輸入、販売、石油化学工業等、さらにはエンジン関係、発電機関係など様々な業種に大変大きな負の影響を与えることになります。
 さらには今後そのコスト差から消えていかざるを得ない様々な既存の機器、例えば電力会社の発電所がそうですが、これらの資産の価値がなくなることになることです。

 ただし、一方で、現在石油やガスを輸入するのに払っている金額は20兆円を超えますが、これはどんどん減っていきます。さらには、今後核融合発電所・発電機をどんどん作り、国内で年間1千万台の自動車が売れていき、さらには全てのエンジン類、暖房や様々な機器が急速に更新されていくでしょう。
 こうしたことを考えると、今回の技術革新によるマイナスの効果を数倍上回るプラスの効果があるわけです。そこで、こうしたプラスの効果を出来るだけ、マイナスの影響を受ける業種に移転するということを政府としてやっていきます。

 具体的には、今回の発電所の建設にはこうした負の影響を受ける業界に請け負ってもらうように、国が電力会社と業界の間に入って調整しております。
 また、電力会社が既存の発電所の償却を行えるように消費者の皆さんにも一定の負担をお願いします。これは電力の値下げ幅を少し緩くしてもらうということです。そのように、皆で痛みの出る人々の痛みを和らげることをご了解ください。
 我が国では、今般技術革命が起きました。これによりいろんな混乱はあろうかと思います。しかしこれは日本がもっと強靭になるための革命です。これを機会に、未来に希望をもって生きることに出来る国、こうした国を作り上げようではありませんか」
 首相の談話が終わった。

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