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第3章 宇宙との出会い
3.6 地球防衛軍始動
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G7の実務者会議において、さすがに各国は、すでに国として日本がすでに設立して動かし始めた、『地球防衛軍』に参加することは決していた。
その映像と音声の数々は大抵の国で慎重に調べた結果、作りものではあり得ないという結論が得られ、その場合、仮に異星人の言うことが嘘であったとしても、逆にそのような嘘を言う異星人の存在があるなら、なおさら地球としての守りは必要だし、相手が警戒して守りを固めるような嘘をつくとはまた考えられなかったのである。
安全保障というのは、万が一に備えるということであるので、備えをするのは国として当然であり、この場合自国にその技術がない以上日本の提案に乗る以外の方法はなかった。加えて、各国にしてみれば、日本が過去1年急激に謎の技術革新を遂げたその中身を、洗いざらい入手することの出来る大きなチャンスであった。
その意味で、各国とも日本側のリーダーシップは当然のことと受け止めていたし、防衛軍の本部が日本に設置されることにも、日本側が決めた超緊急、緊急、中期の装備計画については口をはさむ術も実施に噛み込む術もなかった。ただ、選りすぐりの人員はすぐに派遣することは日本側も求めたし、各国も了承した。
この人員は装備の建設に加わる者と軍事訓練に加わる者にわかれており、各国の思惑は現状では隔絶した日本の技術を盗み……(げふん、げふん)いや、学ぶために最優秀なスタッフを送り込むことは一致していた。日本側としては誠司も山科教授も、もうすべての技術は少なくとも防衛軍に加わる参加メンバーに公開するしかないだろうと思っていたし、政府も同意していた。
少なくとも日本発であることは残る訳であるし、その結果日本が取り残されるようなことがあれば、それだけの存在であったということなのだ。いずれにせよ、今回のラザニアル帝国への対抗のための装備は地球人の英知のすべてをかけたものである必要があるのだ。こうやって各国の協力を得れば、参加者から画期的な案が出てくる可能性もあるのだから、この際は国益とかは言っておられない。
しかし、山科教授は特許で押さえることは抜かりなく、基本的にはこれらの技術の民間の需要については当然特許料を取るつもりであるし、軍備に関しても長期計画以降は取るつもりであった。しかし、異星人から提供されたものについては権利を主張するつもりはなく、逆にそうして提供されたことをきちんと記録に残して、誰も権利を主張出来ないようにした。
公表してしまえば、もはや特許は主張できないが、強力な兵器であるこれらの技術を国家機関以外に公表していいものではない。こうして準備した装備の運用の訓練、すなわち戦闘訓練についてと、実戦については質量ともに世界一の軍備を持つアメリカ軍の力に大きく頼るのは、これは自然の成り行きである。
幸い、日本の自衛隊と米軍は長い共同訓練・共同作業の歴史があって両者の共同作業には問題はなかったが、むしろG7の他の国のスタッフをどうその中に入り込ませるかが問題であった。装備については、基本的な開発、プロトタイプの設計、初期モデルの政策等の作業の場は西山市の四菱重工が既に使われているが、引き続き続けるこれを続けることに各国は同意した。
しかし、規模が大きいとはいえ、なぜ地方都市にあるそのような工場が選ばれたのかいぶかる者も多かったが、宇宙から今回の騒ぎの元の情報を持ち帰った場所であり、かつ核融合発電、重力エンジンがここで開発されたことを聞いて納得するのだった。
地球防衛軍の基地は、西山市から八十㎞の距離にある岩木基地が選ばれた。この基地は日米が共同で運用しており、沖縄を除けば最大級の基地であり、さらにジェット機の騒音問題があって陸上の滑走路に加えて沖合にも滑走路があって、広いというのが大きな理由であるが、実際は最大の理由は西山市に近いということである。
重力エンジンを備えた機であれば、別段滑走路は必要ないので、西山市で完成した機を飛ばして簡単に岩木基地に移動できる。
地球防衛軍の司令官は、米軍のアーサー・シップ中将、副司令官に自衛隊の西野健太郎空将が選ばれ、現存の重力エンジンを搭載した、自衛隊所属の3機及び西山大学技術開発公社から提供された2機を加えて5機の本格的な宇宙機及び戦闘機改造機20機が配属された。
しかし、これらの機体のうち戦闘機改造機はまだ西山市にあって、呼吸装置の改良、気密化、小型レールガンの取り付けなどの改修を受けているし、レールガンの基数が自衛隊機より少ない『きぼう』と『おおぞら』は同じ工場でレールガンの増設工事および斥力装置取り付けとそのための重力エンジンの改修を行っている。
斥力装置がこれでうまく行けばすぐに自衛隊機も改修する予定だ。
重力エンジンの製造は今のところ、四菱重工が特許をもっていることから西山市の四菱重工及び、やはり四菱重工の横浜工場でしか作っていないので、両工場はラインを全力で増設しながら増産を行っている。レールガンは銃砲類の得意なミツワ重工で生産しているが、小口径、大口径レールガンと弾の両方のラインをこれも全力で増設しつつ、増産に入っている。
さらに、自衛隊のすべての潜水艦は呉と横須賀の他ドックがある佐世保、長崎、舞鶴等のドックのある港に集結するように指令が出され、港に居た艦はドックに入り、腹を切り裂かれてエンジンの取り出しにかかっている。十万㎾級の核融合発電機は防衛庁の在庫及び設置待ちのものが続々とそれぞれのドックに送られ始めた。
さて、地球防衛軍の最初の仕事は、当面主力とならざるを得ない世界にこれしかない5機の宇宙機の乗り組み員の選定である。当然、今まで運用してきた自衛隊員の乗組員は残留して、各国から少なくとも一人は選抜し、日本人乗組員は半数以下で残りは出来るだけ在日米軍の将兵が選ばれた。
乗組員は生命維維持装置に負担のかからない三十名として、青山一佐の意見を参考に各部署の配員を決めた。しかし、アメリカからすっ飛んでき米軍のアーサー・シップ中将は、西野空将とともに直ちに選抜した全員を『むらくも』『さいうん』『らいうん』の3艦に詰め込んで訓練飛行に出た。
シップ中将は五二歳、実戦経験もあって敵機の撃墜も経験している、金髪細身のナイスミドルである。彼の言うのには「体で覚えるのが一番」ということであるが、自らも乗ってみて全力加速をしても殆ど重力の変化がない機内を自ら経験して驚いていた。
彼の考えでは、今回の敵に対抗するには機動によって敵のレールガンをかわすことが最も重要であり、また敵弾の威力を弱まるための斥力装置を、如何に相手の撃とうとする方向に向けるかが鍵だと思っていた。自ら戦闘機のトップガンであった中将は重力エンジンによる飛行を実感して、これであれば少々の無茶が可能だと感じていた。
ただ、問題は重力エンジンは素直過ぎて、急激な進行方向の変更など無茶な運動はできないし、加速は十Gで凄いが戦闘機でアフターバーナーを焚いたときと大差はない。
「どうだ、青山大佐。こんな遠足みたいな素直な運動をしていては、大型艦に絶対勝てないぞ。斥力装置というのがどういうものか今一ピンと来ていないが、それを使って方向転換などが出来ないかな?」
中将は一緒に居た、艦長の青山に聞く。
「うーん、斥力装置をですか。あれは、確かに融通は利きますね。実際に斥力もですが、吸引も出来るのですよ。例のラザニアル帝国の岩石による爆撃は斥力装置まがいのもので、掴んで来るらしいですよ。しかし、宇宙空間では反力のための支点がないですから」
その答えに、中将は反論する。
「しかし、宇宙空間にある宇宙船から惑星や月にある物体を釣り上げられるということは、自分を固定あるいは加速していないと無理だぞ」
「うーん、確かに複数の斥力装置を使えば可能性はありますね。帰って相談してみましょう」
青山は、地上に帰って電話で誠司に相談した。それに対する誠司の答えは否定的であった。
「うーん、複数の斥力装置を使えば機の進行方向の急激な変更は出来るけれど、機内にGがかかるし、第1、斥力装置を防御に使えないでしょうが」
「いや、この場合は機動で相手の弾を避けるんだから、それでいいんだ。」
青山もそう感じたが、中将の答えはやはりこうであった。
斥力装置が取り付けられた『きぼう』と『おおぞら』が岩木基地について、中将が発案の機動訓練が始まった。
『きぼう』の操縦士は木星軌道まで行った山口良太2尉であるが、アメリカ空軍のロバート・サベル中佐がシップ中将の意を受けて機動訓練を指導する。
確かに、実際にやってみると斥力装置を組み合わせて使うと極端な機動が可能になる。しかし、艦内では縦横の反動があって乗組員は体を完全に固定しないと転げまわることになって、とても艦船や潜水艦のなかの状態とは異なり、戦闘機の中と同等だ。すぐにシートベルト付きの座席が人数分用意され床に溶接された。
超緊急計画の最後の日に、斥力装置を取り付けた3艦が岩木基地に帰ってきたのと合わせて、亜宇宙装備を済ませ、小型レールガンを装備した改F4の18機に加えて、かろうじて間に合った予定になかった大口径レールガンを装備した改F15の2機も着任した。
シップ中将はレールガンが半ばむき出しで取り付けられ、バッテリーが機体の隅々まで詰め込まれ見るからにごてごてした、その異型の機をしげしげと見て尋ねる。スマートではないが、機能を特化した一種の美しさを感じる。
「これは、何と言っていいか。すさまじいな。まさに大砲にエンジンを付けたという奴だな。スペックを教えてくれ」
中将に、一緒に来た中年の小太りの技官の吉竹が誇らしく答える。
「改F15銀河の閃光型1号機と2号機です。F4のタンデムではどうやっても治まらなかったので、機体の少し大きなF15 を使いました。
いずれにせよ。これはバッテリー駆動ですが、二四時間の機動と四十時間の生命維持が可能です。ただし、姿勢を基本的にあまり変えられないので、十二時間を超えるとパイロットの負担は極めて大きいのと、排泄については機能はありますが大変不自由をかけますがね。
最大加速は十Gですが、最初から3次元方向の方向変換の斥力装置を取り付けていますので、すごい機動ができますよ。その分機内で最大5Gくらいの反力を受けますが。武器は口径百㎜のレールガンのみで、バッテリーの限界で3発しか撃てません」
「これは、使えるな。何しろ小さいということは攻撃を食らいにくいのに、そのくせ打撃力は変わらん。うーん、空母が欲しいな。地上から発進する以上、行動範囲は長くとれない。片道飛行で深宇宙で回収は出来ないか?」
シップ中将の言葉に吉竹が答える。
「この機の側としては、宇宙空間でパイロットが外に出ることはできます。宇宙機側で受け取るための少し改造が必要ですが」
この閃光の回収機能は『らいうん』に取り付けられた。
直ちに、宇宙機の5機については火星軌道までの間を使ってのさまざまは飛行・機動訓練が行われ、十八機の改F4と銀河の閃光2機については、自衛隊五十名、米軍五十名のパイロットが集められ2時間ごとに入れ替わりながらの猛訓練が始まった。
またこのうえに、G7の国々から選抜されたパイロットが各国十名が集まり、訓練に加わった。
さらに緊急計画による予定通り、精密重力探知機をそなえ重力通信器を備えた『むらくも』が、ラザニアル帝国の想定される方向の、海王星軌道の距離に進出して見張りについた。これでも、方向が合っていればジャンプ飛行から出てきた艦隊を2日程度は早く探知できるはずなので、迎え撃つ上からは極めて貴重な時間を稼げるのだ。
牧村ゆかりは、研究室の椅子に座って、だいぶ大きくなったおなかをさすりながら、でっち上げに近い形で改造した改F15のことを考えていた。当初は全ての改F4機に小型レールガンを付けるつもりだったが、小型レールガンではたぶん大型の敵艦には歯が立たないだろうということは判っていた。
しかし、近く作るガンシップタイプの訓練のためにはいいかなということで、練習機のつもりで改修するものだったのだ。しかし、大型のレールガンの余剰分が2基あるということを聞いて、この際それを載せる改修をやってみようと言うことになった。
しかし、CAD上の検討でこの場合タンデムでは全く無理で、長さ的にもF15にすべきということでF15に収める設計に修正した。対象の機には重力エンジンはすでに設置されていたが、機体を切り裂いてレールガンを詰め込み、千㎾時の電池を二十台詰め込んで、気密性を高め、生命時装置を強化してなどとてんやわんやの作業だった。
身重の身であるため、誠司に夜は家に帰され代わって彼が指揮をとっていた。しかし、あれには斥力装置を利用した機動機能を付けくわえたから、腕のいい人が操縦すればとてもレールガンなどでは狙える代物ではないうえに、単発に近いが大型艦並みの火力がある。
出来たら、パイロットを熱線銃から守るために電磁バリヤーを付けたいがスペース的にとても無理だ。
『あ、動いた』初めておなかの子が動いたのを感じて、ゆかりは感動し、そして、強く思った。『この子が生まれる世界が滅ぼされるとか、他の種族の奴隷になるとか冗談ではないわ。お母さんもお父さんも頑張るからね!』
その映像と音声の数々は大抵の国で慎重に調べた結果、作りものではあり得ないという結論が得られ、その場合、仮に異星人の言うことが嘘であったとしても、逆にそのような嘘を言う異星人の存在があるなら、なおさら地球としての守りは必要だし、相手が警戒して守りを固めるような嘘をつくとはまた考えられなかったのである。
安全保障というのは、万が一に備えるということであるので、備えをするのは国として当然であり、この場合自国にその技術がない以上日本の提案に乗る以外の方法はなかった。加えて、各国にしてみれば、日本が過去1年急激に謎の技術革新を遂げたその中身を、洗いざらい入手することの出来る大きなチャンスであった。
その意味で、各国とも日本側のリーダーシップは当然のことと受け止めていたし、防衛軍の本部が日本に設置されることにも、日本側が決めた超緊急、緊急、中期の装備計画については口をはさむ術も実施に噛み込む術もなかった。ただ、選りすぐりの人員はすぐに派遣することは日本側も求めたし、各国も了承した。
この人員は装備の建設に加わる者と軍事訓練に加わる者にわかれており、各国の思惑は現状では隔絶した日本の技術を盗み……(げふん、げふん)いや、学ぶために最優秀なスタッフを送り込むことは一致していた。日本側としては誠司も山科教授も、もうすべての技術は少なくとも防衛軍に加わる参加メンバーに公開するしかないだろうと思っていたし、政府も同意していた。
少なくとも日本発であることは残る訳であるし、その結果日本が取り残されるようなことがあれば、それだけの存在であったということなのだ。いずれにせよ、今回のラザニアル帝国への対抗のための装備は地球人の英知のすべてをかけたものである必要があるのだ。こうやって各国の協力を得れば、参加者から画期的な案が出てくる可能性もあるのだから、この際は国益とかは言っておられない。
しかし、山科教授は特許で押さえることは抜かりなく、基本的にはこれらの技術の民間の需要については当然特許料を取るつもりであるし、軍備に関しても長期計画以降は取るつもりであった。しかし、異星人から提供されたものについては権利を主張するつもりはなく、逆にそうして提供されたことをきちんと記録に残して、誰も権利を主張出来ないようにした。
公表してしまえば、もはや特許は主張できないが、強力な兵器であるこれらの技術を国家機関以外に公表していいものではない。こうして準備した装備の運用の訓練、すなわち戦闘訓練についてと、実戦については質量ともに世界一の軍備を持つアメリカ軍の力に大きく頼るのは、これは自然の成り行きである。
幸い、日本の自衛隊と米軍は長い共同訓練・共同作業の歴史があって両者の共同作業には問題はなかったが、むしろG7の他の国のスタッフをどうその中に入り込ませるかが問題であった。装備については、基本的な開発、プロトタイプの設計、初期モデルの政策等の作業の場は西山市の四菱重工が既に使われているが、引き続き続けるこれを続けることに各国は同意した。
しかし、規模が大きいとはいえ、なぜ地方都市にあるそのような工場が選ばれたのかいぶかる者も多かったが、宇宙から今回の騒ぎの元の情報を持ち帰った場所であり、かつ核融合発電、重力エンジンがここで開発されたことを聞いて納得するのだった。
地球防衛軍の基地は、西山市から八十㎞の距離にある岩木基地が選ばれた。この基地は日米が共同で運用しており、沖縄を除けば最大級の基地であり、さらにジェット機の騒音問題があって陸上の滑走路に加えて沖合にも滑走路があって、広いというのが大きな理由であるが、実際は最大の理由は西山市に近いということである。
重力エンジンを備えた機であれば、別段滑走路は必要ないので、西山市で完成した機を飛ばして簡単に岩木基地に移動できる。
地球防衛軍の司令官は、米軍のアーサー・シップ中将、副司令官に自衛隊の西野健太郎空将が選ばれ、現存の重力エンジンを搭載した、自衛隊所属の3機及び西山大学技術開発公社から提供された2機を加えて5機の本格的な宇宙機及び戦闘機改造機20機が配属された。
しかし、これらの機体のうち戦闘機改造機はまだ西山市にあって、呼吸装置の改良、気密化、小型レールガンの取り付けなどの改修を受けているし、レールガンの基数が自衛隊機より少ない『きぼう』と『おおぞら』は同じ工場でレールガンの増設工事および斥力装置取り付けとそのための重力エンジンの改修を行っている。
斥力装置がこれでうまく行けばすぐに自衛隊機も改修する予定だ。
重力エンジンの製造は今のところ、四菱重工が特許をもっていることから西山市の四菱重工及び、やはり四菱重工の横浜工場でしか作っていないので、両工場はラインを全力で増設しながら増産を行っている。レールガンは銃砲類の得意なミツワ重工で生産しているが、小口径、大口径レールガンと弾の両方のラインをこれも全力で増設しつつ、増産に入っている。
さらに、自衛隊のすべての潜水艦は呉と横須賀の他ドックがある佐世保、長崎、舞鶴等のドックのある港に集結するように指令が出され、港に居た艦はドックに入り、腹を切り裂かれてエンジンの取り出しにかかっている。十万㎾級の核融合発電機は防衛庁の在庫及び設置待ちのものが続々とそれぞれのドックに送られ始めた。
さて、地球防衛軍の最初の仕事は、当面主力とならざるを得ない世界にこれしかない5機の宇宙機の乗り組み員の選定である。当然、今まで運用してきた自衛隊員の乗組員は残留して、各国から少なくとも一人は選抜し、日本人乗組員は半数以下で残りは出来るだけ在日米軍の将兵が選ばれた。
乗組員は生命維維持装置に負担のかからない三十名として、青山一佐の意見を参考に各部署の配員を決めた。しかし、アメリカからすっ飛んでき米軍のアーサー・シップ中将は、西野空将とともに直ちに選抜した全員を『むらくも』『さいうん』『らいうん』の3艦に詰め込んで訓練飛行に出た。
シップ中将は五二歳、実戦経験もあって敵機の撃墜も経験している、金髪細身のナイスミドルである。彼の言うのには「体で覚えるのが一番」ということであるが、自らも乗ってみて全力加速をしても殆ど重力の変化がない機内を自ら経験して驚いていた。
彼の考えでは、今回の敵に対抗するには機動によって敵のレールガンをかわすことが最も重要であり、また敵弾の威力を弱まるための斥力装置を、如何に相手の撃とうとする方向に向けるかが鍵だと思っていた。自ら戦闘機のトップガンであった中将は重力エンジンによる飛行を実感して、これであれば少々の無茶が可能だと感じていた。
ただ、問題は重力エンジンは素直過ぎて、急激な進行方向の変更など無茶な運動はできないし、加速は十Gで凄いが戦闘機でアフターバーナーを焚いたときと大差はない。
「どうだ、青山大佐。こんな遠足みたいな素直な運動をしていては、大型艦に絶対勝てないぞ。斥力装置というのがどういうものか今一ピンと来ていないが、それを使って方向転換などが出来ないかな?」
中将は一緒に居た、艦長の青山に聞く。
「うーん、斥力装置をですか。あれは、確かに融通は利きますね。実際に斥力もですが、吸引も出来るのですよ。例のラザニアル帝国の岩石による爆撃は斥力装置まがいのもので、掴んで来るらしいですよ。しかし、宇宙空間では反力のための支点がないですから」
その答えに、中将は反論する。
「しかし、宇宙空間にある宇宙船から惑星や月にある物体を釣り上げられるということは、自分を固定あるいは加速していないと無理だぞ」
「うーん、確かに複数の斥力装置を使えば可能性はありますね。帰って相談してみましょう」
青山は、地上に帰って電話で誠司に相談した。それに対する誠司の答えは否定的であった。
「うーん、複数の斥力装置を使えば機の進行方向の急激な変更は出来るけれど、機内にGがかかるし、第1、斥力装置を防御に使えないでしょうが」
「いや、この場合は機動で相手の弾を避けるんだから、それでいいんだ。」
青山もそう感じたが、中将の答えはやはりこうであった。
斥力装置が取り付けられた『きぼう』と『おおぞら』が岩木基地について、中将が発案の機動訓練が始まった。
『きぼう』の操縦士は木星軌道まで行った山口良太2尉であるが、アメリカ空軍のロバート・サベル中佐がシップ中将の意を受けて機動訓練を指導する。
確かに、実際にやってみると斥力装置を組み合わせて使うと極端な機動が可能になる。しかし、艦内では縦横の反動があって乗組員は体を完全に固定しないと転げまわることになって、とても艦船や潜水艦のなかの状態とは異なり、戦闘機の中と同等だ。すぐにシートベルト付きの座席が人数分用意され床に溶接された。
超緊急計画の最後の日に、斥力装置を取り付けた3艦が岩木基地に帰ってきたのと合わせて、亜宇宙装備を済ませ、小型レールガンを装備した改F4の18機に加えて、かろうじて間に合った予定になかった大口径レールガンを装備した改F15の2機も着任した。
シップ中将はレールガンが半ばむき出しで取り付けられ、バッテリーが機体の隅々まで詰め込まれ見るからにごてごてした、その異型の機をしげしげと見て尋ねる。スマートではないが、機能を特化した一種の美しさを感じる。
「これは、何と言っていいか。すさまじいな。まさに大砲にエンジンを付けたという奴だな。スペックを教えてくれ」
中将に、一緒に来た中年の小太りの技官の吉竹が誇らしく答える。
「改F15銀河の閃光型1号機と2号機です。F4のタンデムではどうやっても治まらなかったので、機体の少し大きなF15 を使いました。
いずれにせよ。これはバッテリー駆動ですが、二四時間の機動と四十時間の生命維持が可能です。ただし、姿勢を基本的にあまり変えられないので、十二時間を超えるとパイロットの負担は極めて大きいのと、排泄については機能はありますが大変不自由をかけますがね。
最大加速は十Gですが、最初から3次元方向の方向変換の斥力装置を取り付けていますので、すごい機動ができますよ。その分機内で最大5Gくらいの反力を受けますが。武器は口径百㎜のレールガンのみで、バッテリーの限界で3発しか撃てません」
「これは、使えるな。何しろ小さいということは攻撃を食らいにくいのに、そのくせ打撃力は変わらん。うーん、空母が欲しいな。地上から発進する以上、行動範囲は長くとれない。片道飛行で深宇宙で回収は出来ないか?」
シップ中将の言葉に吉竹が答える。
「この機の側としては、宇宙空間でパイロットが外に出ることはできます。宇宙機側で受け取るための少し改造が必要ですが」
この閃光の回収機能は『らいうん』に取り付けられた。
直ちに、宇宙機の5機については火星軌道までの間を使ってのさまざまは飛行・機動訓練が行われ、十八機の改F4と銀河の閃光2機については、自衛隊五十名、米軍五十名のパイロットが集められ2時間ごとに入れ替わりながらの猛訓練が始まった。
またこのうえに、G7の国々から選抜されたパイロットが各国十名が集まり、訓練に加わった。
さらに緊急計画による予定通り、精密重力探知機をそなえ重力通信器を備えた『むらくも』が、ラザニアル帝国の想定される方向の、海王星軌道の距離に進出して見張りについた。これでも、方向が合っていればジャンプ飛行から出てきた艦隊を2日程度は早く探知できるはずなので、迎え撃つ上からは極めて貴重な時間を稼げるのだ。
牧村ゆかりは、研究室の椅子に座って、だいぶ大きくなったおなかをさすりながら、でっち上げに近い形で改造した改F15のことを考えていた。当初は全ての改F4機に小型レールガンを付けるつもりだったが、小型レールガンではたぶん大型の敵艦には歯が立たないだろうということは判っていた。
しかし、近く作るガンシップタイプの訓練のためにはいいかなということで、練習機のつもりで改修するものだったのだ。しかし、大型のレールガンの余剰分が2基あるということを聞いて、この際それを載せる改修をやってみようと言うことになった。
しかし、CAD上の検討でこの場合タンデムでは全く無理で、長さ的にもF15にすべきということでF15に収める設計に修正した。対象の機には重力エンジンはすでに設置されていたが、機体を切り裂いてレールガンを詰め込み、千㎾時の電池を二十台詰め込んで、気密性を高め、生命時装置を強化してなどとてんやわんやの作業だった。
身重の身であるため、誠司に夜は家に帰され代わって彼が指揮をとっていた。しかし、あれには斥力装置を利用した機動機能を付けくわえたから、腕のいい人が操縦すればとてもレールガンなどでは狙える代物ではないうえに、単発に近いが大型艦並みの火力がある。
出来たら、パイロットを熱線銃から守るために電磁バリヤーを付けたいがスペース的にとても無理だ。
『あ、動いた』初めておなかの子が動いたのを感じて、ゆかりは感動し、そして、強く思った。『この子が生まれる世界が滅ぼされるとか、他の種族の奴隷になるとか冗談ではないわ。お母さんもお父さんも頑張るからね!』
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