日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人

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第3章 宇宙との出会い

3.11 本格侵攻迎撃作戦1

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「本日、日本時間十四時三十三分、今から約四十五分前に地球防衛軍の迎撃戦闘機が敵ラザニアム帝国の艦船を破壊しました」
 この発表に世界中は大騒ぎになった。
 その記者会見の場に現れ発表をした広報官に、多くのマスコミはかみついた。

「あんな強大な星間帝国に、勝てるわけがないじゃないですか。勝手に防衛軍があの連絡艇を破壊するとは何を考えているのですか?大体、誰の許可であれを破壊したのですか?」
 広報官である、アメリカ人のジョン・カースンは厳然とした態度で答えた。

「地球防衛はわれわれの責務である。今回の敵の艦船は太陽系深く入り込んで、我々の防御体制を当然モニターしているだろうし、さらに我々に向けてプロガバンダ放送を行った。
 あの放送は明らかに、我々の団結をゆるがして、地球への攻撃を容易にしようとするものだ。そうした敵の艦船が太陽系に来れば当然迎撃する。また、許可とかいう話があったが、我々の地球を防衛するという行動に対して、誰が許可を出すのだ?」
 言い出しっぺの記者がうろたえ、慌てて答える。

「無論、それはわれわれ地球市民だ」
「ふむ、地球市民が何を指すのかは知らないが、かれらは軍事的な判断を適切に下せる存在とは思えない。また、その判断にどのくらいの期間を要するかもわからない。そんなものが許可を下せるわけがない。我々は、当面G7+1の国々の委嘱を受けて地球防衛の任についているが、当然全世界の人々の委嘱を行けていると思っている。
 我々は地球防衛、これの第1段階は一応果たしたが、地球人類を他の種族の隷属化に置かないということも果たさなくてはならない任務だ。その任務からして、ラザニアム帝国の艦船は帰してはならないというのが我々の判断であり、それを我々は適切に果たした。
 次は、押し寄せてくるであろう敵の艦隊を押し返すことで地球の存続を守るというのが責務になる」
 広報官は冷静に言う。

「しかし、あの大帝国に勝てるわけがないだろう。人口だっておそらく百倍くらい、国力だってそのくらいの差があるだろう。そんな国に勝てるわけがない!」
 記者が叫ぶ。

「勝つ必要はない。押し返せばいいのだ。そのために我々は最善の努力をしている。少なくとも我々は最初の侵攻は似たような戦力で殲滅した。どういう場合でも、守る方が攻める方より有利なのは確かである。我々は次の侵攻も押し返せると信じて準備をしている」

「その賭け金が、あなた達だけでなく、全地球人類の命と言う点が問題なのだ!」
 広報官の言葉に記者が言い返す。

「しかし、仮に武装解除して彼らを迎え入れても地球人類の存続が許されるかどうかは、あの放送の言葉だけだぞ。武装解除して。彼らが『気が変わった、やはりお前たちを滅ぼす』と言っても抵抗する余地はないぞ。いずれにしても、こういう言葉をやり取りしても無駄だ。すでに、サイは投げられたのだ。この上は、彼らを迎え撃つ準備を万全に行って、実際に押し返す以外にわが人類が生き残るすべはない。彼らの言うことが正しければだが」

 そう、ジョン・カースン広報官のいう通り、今更何を言っても遅いのだ。
 かの新進党の党首は、その報に怒り狂って即時に記者会見を行うと発表したが、非常に少数のマスコミしか出席しなかったらしく、翌日5行ほどの記事でその抗議はあしらわれている。

 しかし、日本政府を始め各国の政府にはあらゆるマスコミが詰めかけた。日本の阿賀首相の答えである。
「地球防衛軍に対しては、日本政府として命令出来る立場ではないので、まあ勧告、お願いがせいぜいです。また、今回について、日本政府が、かのラザニアム帝国の艦船を迎撃するように依頼または勧告した事実はありません。防衛軍独自の判断に従って、あの作戦は実施されたものと考えています。
 また、あの船を破壊するという判断自体、私ども政府は間違っているとは思っていません。たしかに、放送では降伏して武装解除すれば人々の命は助けるとは言いましたが、その言葉の端々からも、すでに情報としてあったように過酷な扱いを受けることは窺えました。

 であれば、そう言う事態に陥ることのない唯一の選択肢である“抵抗”を選ぶことは防衛軍の設立の趣旨からして当然であります。その意味では、退路を断ち、自らを追い込んだ今回の敵の連絡艇を破壊するという行動に異論はあろうかと思いますが合理的であったと思います。
 しかし、皆さん、もはやサイは投げられたのです。こうなった今、我々に残された道は、地球防衛軍に可能な限りの協力をして、彼らが防衛に成功することを助けるしかないのです。
 国民の皆さん。覚悟を決めてください。これから、ラザニアム帝国の我々を滅ぼそうとする艦隊が押し寄せてくるまで、たぶん2ヵ月から4ヵ月です。我々日本国民いや世界中の人々は地球防衛軍の活動を全力でサポートしなければなりません。それ以外に我々が生き残るすべはないのです」

 それでも、あきらめの悪いお花畑の新進党の党首は言う。
「わが党は、地球防衛軍が実際に地球を防衛できる可能性は、半分以下だと思っています。つまり、彼らに対処を任せておくと、地球および私たち人類は半分以上の確率で滅びるのです。しかし、まだ方法が残っています。それは、私たちの圧力で防衛軍の武装を解除するのです。そうして、迎え入れた私たちをあれだけの大帝国を築き上げた文明人である帝国が無視して攻撃するでしょうか。出来るわけがありません。皆さん、私たちと一緒に地球防衛軍の武装を解除しましょう」

 さすがにこの論は新進党内部からも、批判が噴出した。
「もともと、ラザニアム帝国というのは、地球の守りが薄かったら、人類を滅ぼして自分たちの植民惑星にしようとしていたのだ。もう、完全に逆らった形になった以上、迎撃して追い返すしか手はない。武装解除して迎える?今までに、幾多の種族を滅ぼしてきた存在にそれをするのは無責任極まりない。
 党首の米山は馬鹿だとは思っていたが、あそこまで馬鹿だとはな。あれはだめだな。わが党も地球防衛軍に協力する体制が必要だ」

 そういう世間の騒ぎには関係なく、地球防衛軍とその装備の製造工場は、装備の製作と作戦の最終化さらに訓練に24時間体制が続いていた。世界中から、協力したいという申し入れがあったが、今やほぼ厳密に決まったスケジュールに、ほかの組織、人員を入れる隙間はなく丁重にお断りするしかなかった。

 誠司は、その中で焦っていた。まず、今回の迎撃の柱は、まだ1割程度増えそうだが2千機の無人攻撃機であり、この攻撃が予定通りうまく行けば、敵に予想される最大限の千艦の攻撃艦を投入してきても撃退、いや敵を殲滅できるであろう。

 しかし、なにか嫌な予感がする。ラザニアム帝国とて、ロボット艦あるいは攻撃機は考え付いたはずが実用化していないのはなぜか。なにか、人工知能による攻撃には、なにか万全の対抗策があるような気がする。また、その場合にも備えて、なにか方法がないかジスカル三世からもらった、ヒントも生かしていない。

 誠司は、ゆかりの大きくなったおなかを触りながら話しかける。
「ゆかり、この子の誕生はひょっとしたら、ラザニアム帝国の攻撃の時期に重なるのじゃないかな?」
「うーん、予定日はあと2ケ月後だからそんな感じになるかも知れないね。あ、蹴った。この子は本当によく私のおなかを蹴るわ。その調子でラザニアム帝国を蹴飛ばしてほしいよね」

 誠司も、子供が蹴ってポコリとおなかが膨らむのを感じる。
 ジスカル三世からもらったヒントは、超空間ジャンプの応用で強力な兵器がつくれるというものだ。ジャンプそのものは膨大な電力を消費して、空間を操作する場を作り上げた上で空間をねじまげてあるいは穴をあけて物体を送るものだ。

 超空間通信はやはり同様な場の中で、空間をまげて電波を送るものであるが、物体を送るのに比べれば、その消費する動力には大差がある。しかし、送り先・相手の位置が特定できないとジャンプも通信は当然できないが、それをどうするかは、ジャンプと通信では異なる。

 ジャンプは、恒星の位置を頼りに座標を算出しその近くに跳び、さらに重力探知で位置を特定してさらに近くまで跳ぶことになるが、その距離は精度の面での限界と恒星の重力の影響を受けるので、計算上では恒星から5億km程度が限界のようだ。

 通信の方がある意味では精度が必要で、宇宙的にはほぼジャストポイントを位置決定する必要がある。そのために、超空間タグみたいな作った場の中のみで使える一種の座標が必要であり、通信はまずそのタグを探してさまよい、やがて探し当てたところでようやく通信が成立する。

 従って、この超空間通信は基本的は仲間内でしかできない。ジスカル三世と通信ができるのは、ジスカル三世がそのタグになる座標をくれたからである。なお、この座標さえあれば、その位置が空間的に移動しても関係なく探せることになる。

 さて、こうした基本的な知識から、何をどう考えればいいのか?さっきの我が子がゆかりのおなかを蹴ってポコリと膨らんだのを思い出した。相手の戦闘艦の中に爆弾かエネルギーを送り込む?出来ないか。宇宙のかなたの特定の相手を探せる超空間タグを相手の宇宙艦に付けられないか。もしできたら、太陽系内という直近だったら、相手の宇宙船の中にその点を設定できるのでは?

「ゆかり、ちょっとしばらくマドンナを使って仕事をするよ。先に寝ておいてよ」
 誠司はゆかりに言うと、誠司が考え込んでいたのを見ていた彼女も優しく返す。

「うん、わかった。無理をしないでね。少しでも寝ておかなきゃだめよ」
 誠司は、すぐさま、私室にこもって、マドンナを使って、結局空が明るくなるまで作業を続けたが、少し寝ておかなくちゃ、とゆかりの隣のベッドに横たわりすぐさま寝込んだ。

 ゆかりは、その気配に少し目を覚まして「お父さん、頑張っているね」と呟いて、わが子をさするつもりでおなかをさすり、また眠り込んだ。ちなみに、彼らは、いまも一大軍需工場になった四菱重工の西山工場内の2DKに住んでいるので、まさに職住接近である。

 ゆかりは、誠司を9時出勤前に揺り起こす。
「誠司さん、どうする?起きてすぐ仕事に行く?」
「う、うーん。今何時?」

「9時前よ」
「うん、顔を洗ったら行くから。十時にちょっと大事な話があるので研究室の皆と、機器製造の加治木さん、電気・電子の静川さんを会議室に呼んでおいて、今日からさらに忙しくなるよ」

 眠気を顔を振って振り払い、顔を洗ってコーヒーを飲み、トーストをかじった誠司はすぐに研究室に行って、ゆかりと、長い付き合いの研究室のまとめ役をしている吉田正人と協議に入る。
「なんですか。十時からの話というのは?」

「うん、ちょっと前から悩んでいたんだけど、大体解決できそうなので皆を呼んで大至急ある装置を完成したい」
 吉田の問いに誠司が答える。
「ええ!今から。でも今の迎撃案で問題ないというシミュレーションが出ているでしょう?」

「うん、でもそれはある条件が抜けているんだ。それは、AIに対する電磁的な大出力の攻撃で、人間の脳だと通常のバイザー程度の遮断で害はないようなのだけど、AIの場合はフリーズするようだ。昨晩、マドンナで確かめた。
 ラザニアム帝国にはそういう技術はないかも知れない。しかし、人工知能の技術を当然持っている彼らが無人機として例のビーしか活用していないというのが怪しいとずっと思って来たのだけど、ほかに方法がないと思っていたからね」
 そのように再度誠司が答える。

「と言うことは方法が見つかったのですね」
 誠司の言葉を消化しながら吉田が尋ねる。

「うん、何とか、Xデーまでには完成できると思う。いや、完成する。これは、宇宙船内の百万㎾級の発電機と自律的に判断できるスーパーコンピュータが要る。そう、ギャラクシー型の艦にその装置を組み込んで、マドンナを使って制御する」

 十時からの会議では、誠司はプロジェクターを使って、昨夜夜中に作っておいた装置のコンセプトを説明して、パーツごとに分担を決め、詳細設計に即刻掛かるように指示する。

「みなさん。ご承知かと思いますが、我々のこの作業にこの地球上の全生命の運命がかかっています。それも、期限は2ヵ月です。2か月後には、この装置はギャラクシーに積まれ、太陽系に飛び出していき、迫りくる数百隻のラザニアム帝国の艦艇を殲滅しなければならないのです。わずか、2ヵ月です。力を振り絞って、この装置を完成しましょう」
 誠司が皆に向かって言う。
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