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第九十二話 意識
しおりを挟む時は少し遡り、ケインがエルナに戦いを託した直後の事であった。
「あら、私が教えた技だけではこの戦いには勝てませんわよ?ゴメオディプト!」
流石に強い。炎帝エルファトクレス、勇者エルナの師匠にして、四天王に匹敵する者と言われているだけはある。
そして、炎帝のスキルは賢者や剣聖、雷帝にも並ぶ程優秀なスキルと言われている。
成長途中の勇者では勝ち目など無い……
はずだった。
「な!?私のゴメオディプトに耐えたですって!?まだ貴方には無理だと思っていたのですけどねぇ」
ゴメオディプトとは、攻撃力を持たない炎を相手の周囲に放ち、幻覚作用をもたらす事で戦闘能力を極端に低下させる、エルファトクレスの奥の手だ。
この技が破られたのは過去に雷帝オルトメキナと戦った時だけ……
だから彼女はこの技に絶対の自信を持っていた。
発動すればテクストでさえ動けなくなっただろう。
ただし、この技の恐ろしさは幻覚作用ではなく、後遺症にある。
技をまともに受けた者は感覚が麻痺して正気を保てなくなる。
本来魔物相手にしか使わないのだが、仮にエルナの神経が壊れてもテクストに操ってもらえば問題ないので、こんな危険な技を使ったのだ。
にも関わらず、倒す事どころか動きを止めることすら出来なかった。
「私は学びました。ケインさんの元で……スキルの使い方、応用法を」
エルナが使ったスキルは『リラックス』
Fランクに分類されるこのスキル。
本来なら一瞬だけ精神を安定させるだけのスキル。
このスキルは0.1秒だけ精神を通常状態に固定することができるのだ。
本来ならこれだけでリラックス出来るのだが、テクストの精神支配や、エルファトクレスのゴメオディプトは常に精神に負荷をかけ続ける。
一瞬だけ安定させても全く意味は無い。
だから、今まで自分の精神にかかる負荷そのものに対抗するスキルでしか対抗出来なかった。
精神支配や幻覚作用において、スキルそのものを無効化するスキルは存在せず、相殺できるだけの強いスキルを習得する他無かったのだが、今回エルナは、『リラックス』を何重にもかけた。
0.1秒毎に『リラックス』をかけ続けることで、乱された神経と精神を強制的に元の状態に戻す。
それを、スキルの効果が終わるまでの間かけ続けた。
簡単な様に聞こえるが、当然容易な事では無い。
スキルを連発するというのはそれだけ精神力を使う。
更に、この方法は1度でも『リラックス』に失敗したら意味がない。
エルナは驚異的なスキルの制御力と精神力でこれを乗り越えたのだ。
「次は貴方の番ですよ!」
そう言うとエルナは準備していた縮地で近寄り、技を放つ。
「紅!」
彼女の放つ剣技は紅葉の様に綺麗で、受ける側も思わず見惚れてしまう程だった。
受けたエルファトクレスはモロに食らい、結構なダメージを受けた。
「………!?何故スキルを同時に使えるのですか?」
そう、本来ならスキルというものは特殊なものでない限り同時には使えない。
1つのスキルを使うには1つのの意識でスキルを操作するしかないからだ。
「意識を2分割すれば……それでスキルを2つ使えると思いませんか?」
「はぁはぁっ……理論上はそうだとしても……」
「理論上出来るならば私はそれを追い続けます。お師匠?貴方も守りたいものがあったのではないのですか!」
「う、うるさい……私はテクスト様と共に生きるのだ」
彼女はエルナを拒んだ。しかし、エルナは諦めない……
「諦めませんよ、何度でも呼びかけますから!」
エルナとエルファトクレスは剣を打ち合う……
片方は殺す為…
片方は生かす為…
………………………………
………………
……
遠くで我が弟子、エルナの声が聞こえる……
目を凝らしてみると自分が愛弟子と剣を交わしている。
しかし、それは今までの様な練習としての剣ではなく、彼女を殺す為の剣。
やめたくても身体がいう事を聞いてくれない。
何とかして身体を取り戻さないと……
するとエルナがスキルを2つ同時に使った。
どうやら意識を2つに分ける事でスキルを同時使用した様だ。
ならばもしかして…
私は薄れいく意識をそこに置いて新たな意識として覚醒させる。
自分の身体をいつまでも人に奪われているわけにはいかない。
長い夢から覚める為わざと剣を受けて、今ある意識を消し去った………
「エルナ……よくやりました。私は…死んでしまうかもしれないけど、最後に貴方と話せて幸せです」
「お師匠!洗脳が解けたのですか!?」
「一時的に…意識を本体から引き離して、体の主導権を戻したのです。ですからあと数秒しか持ちません……早く私を殺し……」
「お師匠は…きっと自力で戻れますよ。メルシーさんも……貴方が死んでしまったら責任を感じてしまいますよ?」
「はぁ……全く、変な期待かけないでほしいですよ。でもメルシーの為となると……簡単に死ぬわけには行きませんね」
彼女は意識を覚醒させる。
自分の身体を取り戻すために……
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