最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域

文字の大きさ
86 / 192

第九十二話 意識

しおりを挟む

時は少し遡り、ケインがエルナに戦いを託した直後の事であった。

「あら、私が教えた技だけではこの戦いには勝てませんわよ?ゴメオディプト!」

流石に強い。炎帝エルファトクレス、勇者エルナの師匠にして、四天王に匹敵する者と言われているだけはある。
そして、炎帝のスキルは賢者や剣聖、雷帝にも並ぶ程優秀なスキルと言われている。

成長途中の勇者では勝ち目など無い……

はずだった。

「な!?私のゴメオディプトに耐えたですって!?まだ貴方には無理だと思っていたのですけどねぇ」

ゴメオディプトとは、攻撃力を持たない炎を相手の周囲に放ち、幻覚作用をもたらす事で戦闘能力を極端に低下させる、エルファトクレスの奥の手だ。
この技が破られたのは過去に雷帝オルトメキナと戦った時だけ……
だから彼女はこの技に絶対の自信を持っていた。
発動すればテクストでさえ動けなくなっただろう。
ただし、この技の恐ろしさは幻覚作用ではなく、後遺症にある。
技をまともに受けた者は感覚が麻痺して正気を保てなくなる。
本来魔物相手にしか使わないのだが、仮にエルナの神経が壊れてもテクストに操ってもらえば問題ないので、こんな危険な技を使ったのだ。
にも関わらず、倒す事どころか動きを止めることすら出来なかった。

「私は学びました。ケインさんの元で……スキルの使い方、応用法を」

エルナが使ったスキルは『リラックス』
Fランクに分類されるこのスキル。
本来なら一瞬だけ精神を安定させるだけのスキル。
このスキルは0.1秒だけ精神を通常状態に固定することができるのだ。
本来ならこれだけでリラックス出来るのだが、テクストの精神支配や、エルファトクレスのゴメオディプトは常に精神に負荷をかけ続ける。
一瞬だけ安定させても全く意味は無い。
だから、今まで自分の精神にかかる負荷そのものに対抗するスキルでしか対抗出来なかった。
精神支配や幻覚作用において、スキルそのものを無効化するスキルは存在せず、相殺できるだけの強いスキルを習得する他無かったのだが、今回エルナは、『リラックス』を何重にもかけた。
0.1秒毎に『リラックス』をかけ続けることで、乱された神経と精神を強制的に元の状態に戻す。
それを、スキルの効果が終わるまでの間かけ続けた。
簡単な様に聞こえるが、当然容易な事では無い。
スキルを連発するというのはそれだけ精神力を使う。
更に、この方法は1度でも『リラックス』に失敗したら意味がない。
エルナは驚異的なスキルの制御力と精神力でこれを乗り越えたのだ。

「次は貴方の番ですよ!」

そう言うとエルナは準備していた縮地で近寄り、技を放つ。

「紅!」

彼女の放つ剣技は紅葉の様に綺麗で、受ける側も思わず見惚れてしまう程だった。
受けたエルファトクレスはモロに食らい、結構なダメージを受けた。

「………!?何故スキルを同時に使えるのですか?」

そう、本来ならスキルというものは特殊なものでない限り同時には使えない。
1つのスキルを使うには1つのの意識でスキルを操作するしかないからだ。

「意識を2分割すれば……それでスキルを2つ使えると思いませんか?」

「はぁはぁっ……理論上はそうだとしても……」

「理論上出来るならば私はそれを追い続けます。お師匠?貴方も守りたいものがあったのではないのですか!」

「う、うるさい……私はテクスト様と共に生きるのだ」

彼女はエルナを拒んだ。しかし、エルナは諦めない……

「諦めませんよ、何度でも呼びかけますから!」

エルナとエルファトクレスは剣を打ち合う……
片方は殺す為…
片方は生かす為…


………………………………
………………
……

遠くで我が弟子、エルナの声が聞こえる……
目を凝らしてみると自分が愛弟子と剣を交わしている。
しかし、それは今までの様な練習としての剣ではなく、彼女を殺す為の剣。
やめたくても身体がいう事を聞いてくれない。
何とかして身体を取り戻さないと……
するとエルナがスキルを2つ同時に使った。
どうやら意識を2つに分ける事でスキルを同時使用した様だ。
ならばもしかして…
私は薄れいく意識をそこに置いて新たな意識として覚醒させる。
自分の身体をいつまでも人に奪われているわけにはいかない。
長い夢から覚める為わざと剣を受けて、今ある意識を消し去った………




「エルナ……よくやりました。私は…死んでしまうかもしれないけど、最後に貴方と話せて幸せです」

「お師匠!洗脳が解けたのですか!?」

「一時的に…意識を本体から引き離して、体の主導権を戻したのです。ですからあと数秒しか持ちません……早く私を殺し……」

「お師匠は…きっと自力で戻れますよ。メルシーさんも……貴方が死んでしまったら責任を感じてしまいますよ?」

「はぁ……全く、変な期待かけないでほしいですよ。でもメルシーの為となると……簡単に死ぬわけには行きませんね」

彼女は意識を覚醒させる。
自分の身体を取り戻すために……




しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

処理中です...