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外伝64話 これがこたえ
しおりを挟む「NO、無駄ですよ」
ガルドと心の中で会話する僕にシムが笑いながら言う。
「何がだ?」
「ガルドと作戦会議をしているのでしょう?無駄です。貴方がこれまでワタシとまともに戦えてきたのは場数の差と、ワタシ自身がこの身体に慣れていなかったから力を出しきれなかったせいです。ですが、ワタシは時間が経つほどスピードにも慣れ、貴方の戦い方にも慣れ、どんどん有利になっていく」
「で?それがどうして勝てない理由になる?」
「HAHAHA、分からないのですか?これからどう足掻いても貴方は引き離されるだけ。何か手を打ったとして、追いつく事はあっても追い抜く事は無い。そうすれば強くなり続けるワタシが勝ちます」
「そう……か。そうだな」
「YES、ようやく負けを認めたようですね」
「お前に勝つにはやはりお前を超えるしか無いみたいだ」
「HA?話を聞いていましたが?越えられないんです貴方は、ワタシを」
「…………」
(ケインさん、準備は出来ました。いつでも発動可能です)
(……ガルド。悪いがそれは僕にも使ってくれ)
(……絶対そう言うと思ってました。いつもならさせないところですが、今はシムを倒した後の事も考えなくちゃいけないので了承します)
(悪いな……お前にとってはちょっとだけの黄泉がえりになっちまったが……)
(それ以上は言わないでくださいよ。元々俺は死んでたんだし、それを言うならケインさんの方こそ良いんですか?)
(いつだったか……ルーナにトロッコ問題の話をしたな)
(ああ、灰色の世界からこっちに戻ってくる前の事ですよね?)
(あの時は僕の答え、決めれてなかったけど、今答えが出た。100億人の命と僕等2人の命じゃ流石に選べねえよ。きっと、僕達が助ける100億人の中には悪人もいるんだろうな)
(そうっすね、間違いなく。もしかしたら俺以上の悪人もいるかも)
(いたら大したもんだな。僕等は今からその悪人共も含めて全員助けるんだから)
(……おっと!ケインさん!悠長な事してたらそろそろ『万死』がぶつかりそうですよ!)
(お!来たか……)
(最後に聞きますが、本当に良いんですね?倒すだけなら俺だけで十分ですよ)
(良いんだよ。寧ろ全員救うなら今が最初で最後のチャンスだ……それに)
(それに?)
(わくわくするだろ?今から僕等2人で神鈴木をも越えるんだからな!)
(全く………………変わらないですね。出会った時から)
(そうか?そういうガルドは……)
(ヤバい!もう本当に時間がないっす!)
(っ!?すまん、発動してくれ!)
(了解っすよ!)
その瞬間、僕とガルドが混ざり、全てが消費されていく感覚と共に、かつて無いほどの力が内から湧き上がってくるのを感じた。
そして、僕達は声を揃えて言う。
「(『バーストライフ』!)!」
迫り来る『万死』はデコピンで吹き飛ばした。
更に、その衝撃波だけでシムの体は半壊する。
「!!!!????理解不能!?理解不能!?理解不能!?理解不能!?りか……」
「すまんが、理解できるよう説明してやれる時間は無いんだ。大人しく散れ」
僕は軽く拳を前に出す。
その拳は僕達2人からすればハエが止まるようなゆったりととした速度だ。
だが、実際の速度は光速を優に超える。
視認する事も当然不可能。
殴られたシムは何が起きたのか分からないと言う顔でこちらを見ている。
既に8割型体を失っており、戦闘力はないに等しい。
こんな状態でも生きているのは流石と言わざるを得ないが、あまり時間をかけてはいられない。
「悪いが次で決める。安心しろ、加減はしてやる。本気を出したら次元ごとここが壊れるからな」
「なん……で、ワタシ……はただ」
「……分かるよお前の本当の目的が何だったのかくらい」
「……そう……です……か」
「それじゃ、さよならだ。お前は僕1人じゃきっと勝てなかったよ」
「もし……ワタシなどに来世が……あるのなら」
「ああ、またその時にな」
互いに少しだけほおの緊張が緩んだ。
そして、これで終わりである。
「(『ダークレイ』)」
最後の言葉を言ったシムに向けて軽くダークレイを放つ。
だが、威力は星を破壊するにも十分過ぎるほどの威力を誇る。
それでも地球が壊れなかったのは、ガルドがダークレイを完全制御してシムに当たった瞬間に消滅させたからである。
これでシムはこの世界から跡形も無く消え去った。
後に残ったのはボロボロの戦場だけである。
見た所、この山のほとんどは削れているようだが、幸いな事に山の下にあった城下町には影響はあまり無さそうだ。
「……流石だね、ケイン、ガルド」
「……鈴木か」
声だけするが今の僕達なら、聞かなくても誰だか分かる。
「その通り!ありがとうね~シムを倒してくれて……彼の野望を止めてくれて。まだアタシはこの空間から抜け出せないけど、終わったら何でも願い事聞いてあげちゃう!」
「……なあ、鈴木。多分シムは野望なんてなかったと思うぜ」
「どういう事?」
「きっとあいつは単になりたかっただけなんだよ。人間に」
「……いや、なるほどね。面白いよ」
「鈴木、やっぱり僕はお前の事を心の底から許したりなんか出来ねえ。シムが暴走を起こしたのはお前に押し付けられたシステムとしての重責が原因だ。だから、これは半分お前の蒔いた種だ」
「ケインが言いたいのはこう言う事でしょ?アタシにシステムをやらされたシムはいつの間にやら自我が芽生えていた。人間達にスキルを与えていくうちに自分自身も人間への憧れが生まれていた」
「ああ、だが、決して人間には成れない自分の完全さが不完全に思えてきたんだ。だから、間違った事を起こすシステムとして、不完全さを手に入れようとした。鈴木、お前が人間に不完全さを望んだようにな」
「成る程ね。単なるシステムであるはずのシムがオリジナルスキルを取得出来たのも、存在が人間に近づいたからだったのかな」
「だが、あいつは『灰色の世界』に閉じ込められた時に不完全な人間では無く、必要なのは完全である『全能神』だと考えたんだよ。だから、僕達に負けた」
「面白い考察だけど、それシム本人から聞いたの?違うでしょ。アタシのせいにされてもなー」
「……それを証明して欲しいんだよ。お前にはな」
「……?」
「願いを1つだけ聞いてくれるんだろ?」
「うーん……良いけど」
「ルーナに使った『転生』のスキル。あれをシムに使って人間にしてやってくれ。今ならまだ近くに魂が残っている筈だ。お前なら出来るんだろ?」
「なぁんだ。お願い事って、そんな事?でも良いの?自分が生き残る方じゃ無くて」
「どのみち生き残ろうと思えば生き残れたよ。でも、僕はトロッコ問題なら出来る限り多くの人数を救う派でね。あいつの事も救ってやりたいんだ」
「ま、良いよ何でも。でも記憶とスキルは全部リセットするよ?」
「ああ、構わない」
「………ん、おっけ、これで発動したよ。数年後くらいにシムはどっかの誰かの子供として生まれ変わってるんじゃないかな?」
「そうか」
「あ、そうだ。ついでにエルナと恭弥もここに呼ぶ?必要なんでしょ?」
「頼む」
次の瞬間、エルナと恭弥とマレトが僕の前に立っていた。
「あれ……?私」
「ケインさん!?ど、どうなったんですか?シムは倒せたんですか?」
……と、質問攻めである。
だが、本当に時間が無いのだ。
「エルナ、恭弥。悪いが詳しい話は後だ。手伝って欲しいことがある」
「手伝って欲しい事……?」
「何ですか?」
「これから、僕達4人の手で地球人もジムダ人も全員救うぞ」
「「ええっ!?」」
「ど、どうするんですか?」
「エルナはこの世界のすべての死者に向けて無差別に『ガーデンライフ』を発動してくれ」
「無理です無理で!そんな魔力私には……」
「だから恭弥、エルナに僕の魔力を受け渡してくれ。僕がエルナの魔力になる」
「……分かりました。やりましょう」
「いや、いくらケインでも……」
「エルナ、頼む時間が無いんだ。信じてくれ」
「………分かりました」
「ありがとう」
恭弥がエルナとケインの手を掴む。
そして、エルナが発動した。
「『ガーデンライフ』!!!!!!!!!!」
その一瞬、この世界を温かい光が包み込み、全てを癒していった。
「……ど、どうですか?エルナさん」
「せ、成功です恭弥さん。本当に……出来てしまいました!」
2人は手を取って喜び跳ね上がる。
「やりました!やりました!」
「凄いです!さすがケインさんです……ね、ケイン……さ、ん?」
エルナと恭弥は、いつの間にかケインが居なくなっていた事に気付いたようであった。
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