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#26
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「どう? 落ち着いた?」
「……うん、ごめんね佑奈」
「私こそごめんね。言い過ぎちゃった。それに、注文する時に私も側にいればよかったよね」
ようやく泣き止んだ佳子に手を差し伸べ立たせた佑奈は、言いそびれてしまった言葉を伝える。
「次からはちゃんと佑奈に相談する。……次の機会、あるよね?」
「大丈夫だよ。安心して」
佑奈が微笑んで返事すると、佳子の表情にようやく笑みが浮かんだ。ホッとしたのか、佳子のお腹がくぅと可愛く鳴き声を上げる。恥ずかし気に顔をそむけた佳子の頭を、佑奈がそっと撫でる。
「えっと、取り敢えず、食べる物の優先順位をつけよう。お寿司は今日食べようね。それからオードブルはちょっとずつ食べればいいとして、パスタは冷蔵して明日にしようか。そうそう、ピザって実は冷凍できるんだよ。そしたらまた一緒に食べられるよ」
「……うん。佑奈、顔洗ってくるから少し待ってて」
そう言って佳子が洗面所へと向かう。佑奈は湧き上がる未知の感覚を鎮めようと深呼吸を繰り返す。ピザやオードブルといった香ばしい料理たちの匂いが鼻いっぱいに入り込んできて、佑奈の中で食欲が優勢になっていく。
佑奈はパスタを先に冷蔵庫に入れると、二人分のグラスを用意してウォーターサーバーから水を注ぐ。出前のお寿司に醤油と割り箸が付属していることを確認し、醬油のための小皿も用意しておく。
「お待たせ」
泣き腫らした顔を冷やし、なんとかいつも通りを装って佳子が戻ってきた。
「さぁ、食べよう」
二人でいただきますと唱和してお寿司を食べ始めた。
夕食を済ませ映画を見ている間も、お風呂に入っている間も、そしてベッドに入ってからも、佳子はなるべく佑奈の側から離れなかった。
大きなベッドに二人並んで横たわると、佑奈はふかふかの布団に包まれながら、思わず感嘆の息を漏らした。
「……すごい、高級な寝具って、こういう感じなんだ」
柔らかなシーツが心地よく、肌を優しく撫でる感触があった。まるで雲の上にいるようだった。
「佑奈の隣で眠れる方が私にとっては嬉しいよ」
隣で微笑む佳子の声は、どこか弾んでいた。
佑奈はゆっくりと目を閉じる。けれど、すぐにまた瞼を開いた。
——佳子の泣き顔が、脳裏から離れない。
夕食のとき、泣き縋る佳子の姿。震えながらしがみついてきた佳子の手の感触。今でも、腕に残っている気がする。
「……佑奈?」
佳子の小さな声に、佑奈はゆるりと目を開けた。暗がりの中で、佳子がこちらをじっと見つめている。どこか不安げな、けれど期待を含んだ瞳。
「キス……してもいい?」
その問いに、佑奈は一瞬息を呑んだ。
——心臓の鼓動が、少しだけ速くなる。
映画の中で見た、あのシーンが頭をよぎった。
男と女が唇を重ね、そのまま肌を重ねていく——。けれど、佳子は男じゃない。それなら、そのあとはどうしたらいいんだろう。
「……いいよ」
囁くように答えると、佳子はゆっくりと近づいてきた。そして、そっと唇が触れ合う。最初は優しく、確かめるように。そして、少しずつ深くなる。佳子の舌が触れたのを感じると、佑奈もまた、それを受け入れるように舌を絡めた。
柔らかく、湿った感触が交わるたびに、熱が少しずつ上がっていく。唾液が混ざり合い、呼吸が浅くなる。もっと、深く触れたい。
佑奈の中に、今まで感じたことのない感情が芽生えた。それは、欲。佳子を独占したいという、抑えがたい感情だった。
夕食のときに見せた、あの脆く弱い佳子の姿。自分に嫌われることを、心の底から恐れていた佳子の震えた声。
——この子は、私なしではいられない。
そう思った瞬間、佑奈は佳子の首筋にそっと手を伸ばし、そこに唇を落とした。
「……っ」
佳子の体が小さく震える。その反応すら、愛おしく感じた。けれど、ここから先はどうすればいいのか分からない。映画の中では、男女が自然と肌を重ねていた。
でも、自分たちは違う。このまま進めていいのか。どこまで求めてもいいのか。佑奈はそっと佳子の耳元で囁いた。
「……ここから先、どうしたい?」
問いかけながら、佑奈自身も気づいていた。この言葉が、すでに答えを含んでいることを。佳子はゆっくりと顔を近づけ、唇が触れるか触れないかの距離で囁いた。
「佑奈がしたいこと、していいよ」
ぞくり、と背筋が震えた。佳子の声は、甘く誘うようだった。
まるで、自分が何を望んでいるのか見透かされているみたいに。
「……したいこと?」
「うん。私、佑奈になら……何をされてもいい」
その言葉が、心の奥底に鋭く響いた。何をしてもいい。その意味を完全に理解できているわけではない。だけど、胸の奥がざわめいた。
もっと佳子に触れたい。もっと佳子を支配したい。
そんな衝動が、じわじわと込み上げる。
気づけば、佑奈は佳子の頬に手を添えていた。そのまま、唇を重ねる。
今度は浅く触れるだけではなく、もっと強く、確かめるように。舌先が触れ合い、絡み合う。
——熱い。
体の奥から、得体の知れない熱がこみ上げてくる。もっと、もっと深く。
佑奈は佳子の細い肩を引き寄せた。
「……ねぇ、佑奈」
唇を離した瞬間、佳子がそっと囁く。蕩けるような瞳で、熱を孕んだ声で。
「触って……」
どこに、と言わない。でも、それがどこなのか、察してしまった。互いの境界線は意味をなくした。自分が何をしようとしているのか、まだ完全には分からない。
けれど、佳子の誘いを拒む理由は何もなかった。
——このまま、飲み込まれていく。
佳子の望むままに。
でも、それでいい。
だって、これは——
佑奈が望んだことだから。
「……うん、ごめんね佑奈」
「私こそごめんね。言い過ぎちゃった。それに、注文する時に私も側にいればよかったよね」
ようやく泣き止んだ佳子に手を差し伸べ立たせた佑奈は、言いそびれてしまった言葉を伝える。
「次からはちゃんと佑奈に相談する。……次の機会、あるよね?」
「大丈夫だよ。安心して」
佑奈が微笑んで返事すると、佳子の表情にようやく笑みが浮かんだ。ホッとしたのか、佳子のお腹がくぅと可愛く鳴き声を上げる。恥ずかし気に顔をそむけた佳子の頭を、佑奈がそっと撫でる。
「えっと、取り敢えず、食べる物の優先順位をつけよう。お寿司は今日食べようね。それからオードブルはちょっとずつ食べればいいとして、パスタは冷蔵して明日にしようか。そうそう、ピザって実は冷凍できるんだよ。そしたらまた一緒に食べられるよ」
「……うん。佑奈、顔洗ってくるから少し待ってて」
そう言って佳子が洗面所へと向かう。佑奈は湧き上がる未知の感覚を鎮めようと深呼吸を繰り返す。ピザやオードブルといった香ばしい料理たちの匂いが鼻いっぱいに入り込んできて、佑奈の中で食欲が優勢になっていく。
佑奈はパスタを先に冷蔵庫に入れると、二人分のグラスを用意してウォーターサーバーから水を注ぐ。出前のお寿司に醤油と割り箸が付属していることを確認し、醬油のための小皿も用意しておく。
「お待たせ」
泣き腫らした顔を冷やし、なんとかいつも通りを装って佳子が戻ってきた。
「さぁ、食べよう」
二人でいただきますと唱和してお寿司を食べ始めた。
夕食を済ませ映画を見ている間も、お風呂に入っている間も、そしてベッドに入ってからも、佳子はなるべく佑奈の側から離れなかった。
大きなベッドに二人並んで横たわると、佑奈はふかふかの布団に包まれながら、思わず感嘆の息を漏らした。
「……すごい、高級な寝具って、こういう感じなんだ」
柔らかなシーツが心地よく、肌を優しく撫でる感触があった。まるで雲の上にいるようだった。
「佑奈の隣で眠れる方が私にとっては嬉しいよ」
隣で微笑む佳子の声は、どこか弾んでいた。
佑奈はゆっくりと目を閉じる。けれど、すぐにまた瞼を開いた。
——佳子の泣き顔が、脳裏から離れない。
夕食のとき、泣き縋る佳子の姿。震えながらしがみついてきた佳子の手の感触。今でも、腕に残っている気がする。
「……佑奈?」
佳子の小さな声に、佑奈はゆるりと目を開けた。暗がりの中で、佳子がこちらをじっと見つめている。どこか不安げな、けれど期待を含んだ瞳。
「キス……してもいい?」
その問いに、佑奈は一瞬息を呑んだ。
——心臓の鼓動が、少しだけ速くなる。
映画の中で見た、あのシーンが頭をよぎった。
男と女が唇を重ね、そのまま肌を重ねていく——。けれど、佳子は男じゃない。それなら、そのあとはどうしたらいいんだろう。
「……いいよ」
囁くように答えると、佳子はゆっくりと近づいてきた。そして、そっと唇が触れ合う。最初は優しく、確かめるように。そして、少しずつ深くなる。佳子の舌が触れたのを感じると、佑奈もまた、それを受け入れるように舌を絡めた。
柔らかく、湿った感触が交わるたびに、熱が少しずつ上がっていく。唾液が混ざり合い、呼吸が浅くなる。もっと、深く触れたい。
佑奈の中に、今まで感じたことのない感情が芽生えた。それは、欲。佳子を独占したいという、抑えがたい感情だった。
夕食のときに見せた、あの脆く弱い佳子の姿。自分に嫌われることを、心の底から恐れていた佳子の震えた声。
——この子は、私なしではいられない。
そう思った瞬間、佑奈は佳子の首筋にそっと手を伸ばし、そこに唇を落とした。
「……っ」
佳子の体が小さく震える。その反応すら、愛おしく感じた。けれど、ここから先はどうすればいいのか分からない。映画の中では、男女が自然と肌を重ねていた。
でも、自分たちは違う。このまま進めていいのか。どこまで求めてもいいのか。佑奈はそっと佳子の耳元で囁いた。
「……ここから先、どうしたい?」
問いかけながら、佑奈自身も気づいていた。この言葉が、すでに答えを含んでいることを。佳子はゆっくりと顔を近づけ、唇が触れるか触れないかの距離で囁いた。
「佑奈がしたいこと、していいよ」
ぞくり、と背筋が震えた。佳子の声は、甘く誘うようだった。
まるで、自分が何を望んでいるのか見透かされているみたいに。
「……したいこと?」
「うん。私、佑奈になら……何をされてもいい」
その言葉が、心の奥底に鋭く響いた。何をしてもいい。その意味を完全に理解できているわけではない。だけど、胸の奥がざわめいた。
もっと佳子に触れたい。もっと佳子を支配したい。
そんな衝動が、じわじわと込み上げる。
気づけば、佑奈は佳子の頬に手を添えていた。そのまま、唇を重ねる。
今度は浅く触れるだけではなく、もっと強く、確かめるように。舌先が触れ合い、絡み合う。
——熱い。
体の奥から、得体の知れない熱がこみ上げてくる。もっと、もっと深く。
佑奈は佳子の細い肩を引き寄せた。
「……ねぇ、佑奈」
唇を離した瞬間、佳子がそっと囁く。蕩けるような瞳で、熱を孕んだ声で。
「触って……」
どこに、と言わない。でも、それがどこなのか、察してしまった。互いの境界線は意味をなくした。自分が何をしようとしているのか、まだ完全には分からない。
けれど、佳子の誘いを拒む理由は何もなかった。
——このまま、飲み込まれていく。
佳子の望むままに。
でも、それでいい。
だって、これは——
佑奈が望んだことだから。
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