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第二十五話 注意散漫シスター
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ニーナの森の調査に関する報告は書類作成も含めてけっこうな時間がかかるようで、レリエとステラが調べもの、クレアが装備品のメンテナンスをしてくれている間、私だけが手持ち無沙汰でアリジャスの街を散策することにした。ただの散歩でもあるけれど、情報収集とか必要そうなものがあれば買ってきていいとレリエからの許可はもらっている。
アリジャスの街並みは聖地ということもあって整っており、荘厳な雰囲気がひしひしと伝わってくる。白亜の石造り建築に青みがかった屋根……地球でいうところの地中海風な雰囲気がする。
「流石に娼館は無いか……」
当然と言えば当然ではあるが、宗教の総本山があり訪れる人はこの聖地を目指すハートロード教信者ばかり、となれば流石に娼館なんてものは存在しない。男性相手の娼婦がいないのだから、女性相手の娼婦など言わずもがなである。もっとも、ハートロード教は同性愛について寛容で地球の一部の宗教とは大違いなのだが。
既に滞在三日目ともあって、街もあらかた見終えてしまった。そろそろ戻ってクレアの手伝いでもしようかと思っていた矢先――
「「っきゃ!」」
曲がり角を歩いていた誰かとぶつかってしりもちをついてしまった。石造りの道ということもあって、手を少し擦りむいたのか若干ひりひりする。
「だ、大丈夫ですか?」
先に立ち直ったのはぶつかってきた相手は、黒いワンピースに白い……名前が分からないけどシスターといえば、みたいな感じの白い布をまとった少女だった。年の頃で言えば十代半ばそれこそクレアと同じくらいだろうか。
そんな感じの彼女に差し出された手を取り、立ち上がる。
「あ、手……擦りむいてますね。――すぅ、癒しの光ここに集いてその加護を分け与えたまえ」
擦りむいた手を包むように薄緑がかった光がまたたく。少しだけ血も滲んでいたのに、それがきれいさっぱりと消えてその治りっぷりに、思わず手のひらをジロジロと見てしまった。
「あ、お礼がまだった。ありがとう、君はシスターさんでいいのかな?」
「はい……。すみません、ちゃんと前見てなくて……」
なんだか少し暗い印象のシスターさん。巻いた布からのぞく髪色はつややかな黒、瞳も神秘的な黒ときたらほぼ日本人カラー。つい親身になってしまう。
「なにか、悩んでるだったら聞こうか? 私はユール。君は?」
「悩みと言えば悩みなんですけど……」
「私、旅人でね。そのうちここを去る人だからさ、そういう人相手の方が話しやすくない?」
旅の恥は搔き捨ての逆バージョンみたいなものだが、伝わるか分からないから口には出さない。まだ名前も知らない彼女だけれど、ひょっとしたら仲間になってくれるかも、そんなことを思いつつ、彼女の手を取り気になっていたけど通り過ぎたカフェっぽいお店へと歩き出すのだった。
アリジャスの街並みは聖地ということもあって整っており、荘厳な雰囲気がひしひしと伝わってくる。白亜の石造り建築に青みがかった屋根……地球でいうところの地中海風な雰囲気がする。
「流石に娼館は無いか……」
当然と言えば当然ではあるが、宗教の総本山があり訪れる人はこの聖地を目指すハートロード教信者ばかり、となれば流石に娼館なんてものは存在しない。男性相手の娼婦がいないのだから、女性相手の娼婦など言わずもがなである。もっとも、ハートロード教は同性愛について寛容で地球の一部の宗教とは大違いなのだが。
既に滞在三日目ともあって、街もあらかた見終えてしまった。そろそろ戻ってクレアの手伝いでもしようかと思っていた矢先――
「「っきゃ!」」
曲がり角を歩いていた誰かとぶつかってしりもちをついてしまった。石造りの道ということもあって、手を少し擦りむいたのか若干ひりひりする。
「だ、大丈夫ですか?」
先に立ち直ったのはぶつかってきた相手は、黒いワンピースに白い……名前が分からないけどシスターといえば、みたいな感じの白い布をまとった少女だった。年の頃で言えば十代半ばそれこそクレアと同じくらいだろうか。
そんな感じの彼女に差し出された手を取り、立ち上がる。
「あ、手……擦りむいてますね。――すぅ、癒しの光ここに集いてその加護を分け与えたまえ」
擦りむいた手を包むように薄緑がかった光がまたたく。少しだけ血も滲んでいたのに、それがきれいさっぱりと消えてその治りっぷりに、思わず手のひらをジロジロと見てしまった。
「あ、お礼がまだった。ありがとう、君はシスターさんでいいのかな?」
「はい……。すみません、ちゃんと前見てなくて……」
なんだか少し暗い印象のシスターさん。巻いた布からのぞく髪色はつややかな黒、瞳も神秘的な黒ときたらほぼ日本人カラー。つい親身になってしまう。
「なにか、悩んでるだったら聞こうか? 私はユール。君は?」
「悩みと言えば悩みなんですけど……」
「私、旅人でね。そのうちここを去る人だからさ、そういう人相手の方が話しやすくない?」
旅の恥は搔き捨ての逆バージョンみたいなものだが、伝わるか分からないから口には出さない。まだ名前も知らない彼女だけれど、ひょっとしたら仲間になってくれるかも、そんなことを思いつつ、彼女の手を取り気になっていたけど通り過ぎたカフェっぽいお店へと歩き出すのだった。
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