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歓迎パーティー
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次々と挨拶にきてくださっている王族や高位貴族の方々に、公式用の微笑みで挨拶を返しながら、トティは混乱した感情を抑えていた。
人数が少ないのでテーブル席での晩餐が出た後で、たくさんの椅子やソファが置かれている応接室に場所を移して、歓談ということになっている。
まずは主賓のトティに挨拶をと誰もが思うらしく、トティの前には人が途切れることがない。
ファジャンシル王国の主要な貴族の名前は写し絵と一緒に覚えさせられたので、心ここにあらずとも、相手の名前を呼ぶのに困ることはなかった。
トティの頭の中には、先程のグロリア第一王妃様の思わせぶりな「よろしくね」が、どっかりと居座っている。
第二王子や第三王子との婚姻の話が出る可能性なんて、全然考えていなかった。
でもありうることかもしれない。
パスカル第一王子の相手として、トティは考えられない。母親が平民なので後見人の力がない。けれど第二王子や第三王子の后ならば、政治の表舞台に立つことはないし、パスカル王子の御代を支える一人としては、隣国の王家と関係がある人間が王族の中にいても困らない。いやむしろ歓迎すべき人材なのかもしれない。
うわぁ、盲点だったわ~
まさか父様や兄様は、このあたりも狙ってた…?
プリシラはそこも見越して、トティの動向を見ていたのかもしれない。
何も考えずに、ファジャンシル王国の貴族と顔つなぎをするためだけの役割を担って、トティはこの国に送られたと思っていた。
ファジャンシル王国の発展の様子を目に焼き付けて自国に帰り、兄様の補佐をするのだとばかり思っていた。
ここを突き詰めて考えると、守護妖精のリベルの存在も違った色合いを帯びてくる。
変化の時って……やっぱり結婚問題だった?
そんなトティの前にプリシラが自分の両親を連れてやってきた。
「トティ、うちの父と母よ。お父様、トリニティ皇女様です。先週末に話をしたけれど、ファジャンシル語が得意でいらっしゃるの。」
「サウス大公閣下、お目にかかれて光栄です。プリシラには色々とお世話になっています。」
「クリフ・サウスです。皇女様は、本当にファジャンシル語がお上手でいらっしゃる。お姉様方のことを耳に挟んでいたので、驚きましたよ。」
これはさっき、陛下のお兄様にあたるヘイズ・イスト大公にも言われた。うちの姉様たちがファジャンシル語を話せなかったのは、両国にとってよほど頭が痛い問題だったようだ。
これはますますアーロン第二王子かケージ第三王子にあてがわれる可能性大だな。
アーロン殿下は、先日と同じようににこやかに挨拶してくださったけれど、ケージ殿下は同じ学舎で学ぶ生徒同士なのに、素っ気ない対応だった。
仲が良いプリシラの両親との親しみのもてる会談の後にやってきたのは、ビショップ公爵だった。
……すごい。歳が歳なので、パーティーには出てこられないと思っていたけれど、まだお元気そうだ。
前の国王陛下よりも年上なのよね?
「ううぉほんん……皇女というのは、あんたかね。いやに小さいな。」
「妖精の血が入っているものですから。」
トティは失礼な言葉に茶目っ気を出して冗談で応えたのだが、ビショップ公爵はシワシワに垂れ下がっていた瞼の下から、鋭い眼光でトティを睨みつけた。
「妖精の血を我が王家に入れるおつもりか? まったく近頃はどいつもこいつもオディエ国と関係を持ちたがりおってっ。国王の嫁に他国の者を据えるなどと、たわけたことを!」
う、怖い。歳を取っても、噂の豪放な性質は健在なようだ。
トティが困っていると、声をかけてくれた人がいた。
「ビショップ公爵、それは先代のお話でしょう。マール、公爵閣下はお疲れのようだ。休ませてあげてくれ。」
後ろにいた背の高い男性が控えていた従者を呼んで、ビショップ公爵をその手にゆだねた。公爵は従者に手を引いてもらって連れていかれながらも、まだブツブツと文句を言い続けている。
ビショップ公爵が充分に離れてから、件の男性がトティの所へやって来た。
「失礼しました。ビショップ公爵はその…最近とみに衰えられて、少々混乱されることがあるのです。」
「そうですか…助けてくださって、ありがとうございます。」
男性と目を合わせて、トティは不思議な感覚に襲われた。
この人……知ってる?
金褐色の長い髪をオールバックにして綺麗に撫でつけている、とてもハンサムな凛凛しい若者だ。でもどこかで会ったような懐かしさを感じる。
「あの…どこかでお会いしたことがありましたかしら?」
「僕をびっくりさせたんだから、言わないつもりだったけど…ダグといえば、わかってくれるかい? トティ。」
ダ、ダグ?! これがあのさえない眼鏡の、研究オタクのダグですってぇ?
びっくりさせただなんて…私の方が驚いてるんですけど。
「ダグ?! こんなとこでどうしたのよっ! 最近ちっとも畑にいないじゃない。」
「事情があってね…」
「ダグ兄様、もうトティに挨拶したの?」
「まだ、これからだ。」
ドルーがやってきて、ダグの肩をポンッと叩いた。
「トティ、この人はダグラス・ラザフォード卿。私の一番上の兄よ。父様、母様、友達のトティよ。トティ、父のダニエル・ラザフォード侯爵と…」
「妻のセリカです。ちょっと落ち着きなさい、ドルー。トリニティ様は、ダグラスに何か話があるようよ。」
後からやって来たラザフォード侯爵夫妻のことが、トティにはちっとも見えていなかった。
トティはダグラス・ラザフォード卿だという、あのダグの顔を、呆けた顔をして穴が開くほど見つめていた。
後から、伝説のラザフォード侯爵夫妻と話ができなかったことに頭を抱えるのだが、この時のトティはダグの首根っこをつかんで、色々と問い正したいということしか頭の中になかった。
人数が少ないのでテーブル席での晩餐が出た後で、たくさんの椅子やソファが置かれている応接室に場所を移して、歓談ということになっている。
まずは主賓のトティに挨拶をと誰もが思うらしく、トティの前には人が途切れることがない。
ファジャンシル王国の主要な貴族の名前は写し絵と一緒に覚えさせられたので、心ここにあらずとも、相手の名前を呼ぶのに困ることはなかった。
トティの頭の中には、先程のグロリア第一王妃様の思わせぶりな「よろしくね」が、どっかりと居座っている。
第二王子や第三王子との婚姻の話が出る可能性なんて、全然考えていなかった。
でもありうることかもしれない。
パスカル第一王子の相手として、トティは考えられない。母親が平民なので後見人の力がない。けれど第二王子や第三王子の后ならば、政治の表舞台に立つことはないし、パスカル王子の御代を支える一人としては、隣国の王家と関係がある人間が王族の中にいても困らない。いやむしろ歓迎すべき人材なのかもしれない。
うわぁ、盲点だったわ~
まさか父様や兄様は、このあたりも狙ってた…?
プリシラはそこも見越して、トティの動向を見ていたのかもしれない。
何も考えずに、ファジャンシル王国の貴族と顔つなぎをするためだけの役割を担って、トティはこの国に送られたと思っていた。
ファジャンシル王国の発展の様子を目に焼き付けて自国に帰り、兄様の補佐をするのだとばかり思っていた。
ここを突き詰めて考えると、守護妖精のリベルの存在も違った色合いを帯びてくる。
変化の時って……やっぱり結婚問題だった?
そんなトティの前にプリシラが自分の両親を連れてやってきた。
「トティ、うちの父と母よ。お父様、トリニティ皇女様です。先週末に話をしたけれど、ファジャンシル語が得意でいらっしゃるの。」
「サウス大公閣下、お目にかかれて光栄です。プリシラには色々とお世話になっています。」
「クリフ・サウスです。皇女様は、本当にファジャンシル語がお上手でいらっしゃる。お姉様方のことを耳に挟んでいたので、驚きましたよ。」
これはさっき、陛下のお兄様にあたるヘイズ・イスト大公にも言われた。うちの姉様たちがファジャンシル語を話せなかったのは、両国にとってよほど頭が痛い問題だったようだ。
これはますますアーロン第二王子かケージ第三王子にあてがわれる可能性大だな。
アーロン殿下は、先日と同じようににこやかに挨拶してくださったけれど、ケージ殿下は同じ学舎で学ぶ生徒同士なのに、素っ気ない対応だった。
仲が良いプリシラの両親との親しみのもてる会談の後にやってきたのは、ビショップ公爵だった。
……すごい。歳が歳なので、パーティーには出てこられないと思っていたけれど、まだお元気そうだ。
前の国王陛下よりも年上なのよね?
「ううぉほんん……皇女というのは、あんたかね。いやに小さいな。」
「妖精の血が入っているものですから。」
トティは失礼な言葉に茶目っ気を出して冗談で応えたのだが、ビショップ公爵はシワシワに垂れ下がっていた瞼の下から、鋭い眼光でトティを睨みつけた。
「妖精の血を我が王家に入れるおつもりか? まったく近頃はどいつもこいつもオディエ国と関係を持ちたがりおってっ。国王の嫁に他国の者を据えるなどと、たわけたことを!」
う、怖い。歳を取っても、噂の豪放な性質は健在なようだ。
トティが困っていると、声をかけてくれた人がいた。
「ビショップ公爵、それは先代のお話でしょう。マール、公爵閣下はお疲れのようだ。休ませてあげてくれ。」
後ろにいた背の高い男性が控えていた従者を呼んで、ビショップ公爵をその手にゆだねた。公爵は従者に手を引いてもらって連れていかれながらも、まだブツブツと文句を言い続けている。
ビショップ公爵が充分に離れてから、件の男性がトティの所へやって来た。
「失礼しました。ビショップ公爵はその…最近とみに衰えられて、少々混乱されることがあるのです。」
「そうですか…助けてくださって、ありがとうございます。」
男性と目を合わせて、トティは不思議な感覚に襲われた。
この人……知ってる?
金褐色の長い髪をオールバックにして綺麗に撫でつけている、とてもハンサムな凛凛しい若者だ。でもどこかで会ったような懐かしさを感じる。
「あの…どこかでお会いしたことがありましたかしら?」
「僕をびっくりさせたんだから、言わないつもりだったけど…ダグといえば、わかってくれるかい? トティ。」
ダ、ダグ?! これがあのさえない眼鏡の、研究オタクのダグですってぇ?
びっくりさせただなんて…私の方が驚いてるんですけど。
「ダグ?! こんなとこでどうしたのよっ! 最近ちっとも畑にいないじゃない。」
「事情があってね…」
「ダグ兄様、もうトティに挨拶したの?」
「まだ、これからだ。」
ドルーがやってきて、ダグの肩をポンッと叩いた。
「トティ、この人はダグラス・ラザフォード卿。私の一番上の兄よ。父様、母様、友達のトティよ。トティ、父のダニエル・ラザフォード侯爵と…」
「妻のセリカです。ちょっと落ち着きなさい、ドルー。トリニティ様は、ダグラスに何か話があるようよ。」
後からやって来たラザフォード侯爵夫妻のことが、トティにはちっとも見えていなかった。
トティはダグラス・ラザフォード卿だという、あのダグの顔を、呆けた顔をして穴が開くほど見つめていた。
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