贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希

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第三部

とある訪問者2

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 メイドによってお茶が整えられ、彼女らが部屋を辞したのを確認すると、レイモンドはフレドリックの顔を見てにやりと笑った。


「なかなかうまくやってるみたいじゃないか、フレドリック様は」

「私ではなく、ケイをはじめ働いている人間が優秀なんですよ、以前にいた代行官を含めて。私はそれを引き継いだだけなので」

「公爵家から人を入れたと聞いていたが、思っていた以上に昔の子爵家のままでほっとしたよ。リオが苦労をするのだけは許せないからね」

「――レイモンド兄様たちは俺に甘すぎますよ」


 知っている人間しかいないのを確認して、リオが相好を崩す。


「いや、私たちはリオを伯爵家の籍に迎えたいと今でも熱望しているからね」

「それで、兄様。結婚式が近くなって忙しいんじゃなかった? どうしてこっちまで?」

「そう、その結婚式の招待状を持ってきたんだ、リオ!!」


 レイモンドが胸元から二通の封筒を取り出した。先日レイモンドから届いた封筒よりも更に華やかな地模様が入った純白の美しいものだ。宛名はリオとフレドリックである。


「――でも今の俺は平民ですよ? 魂の迷い人ってことも公表していませんから伯爵家の結婚式はちょっと……」

 以前から何度も口頭で誘われてはいたが、断っていた案件だった。実力行使に出たのか、とリオは眉を下げる。

「しかしお前が平民ではあるが、そうではないとこの間内密にそれを知った人間は多い。レオンであったこともそうだし、何よりリオは魂の迷い人だ。貴族の結婚式に出ても問題ないんだ。――そこで、だ。フレドリック様がウォルターズ公爵代理として出席して、そのパートナーとしてリオを連れて行ったらどうか、という話になった」


「ちょっと待ってレイモンド兄様。話が飛躍し過ぎ」

「なるほど、そういうことですか」

「どういうこと!?」


 レイモンドの簡潔な説明に話が飛んだと思っていたリオは、納得した様子のフレドリックの言葉に思わず叫んでしまった。二人はリオを見てから顔を見合わせて頷くとフレドリックが説明をしてくれた。

「私がウォルターズ公爵代理としてレイモンド様の結婚式に出るのは問題ないし、良くある話だ。公爵家を継ぐとこの間宣言してしまったからね、嫡男が友好関係がある貴族の結婚式に出席することはこれからもよろしく、という意味がある。結婚式を挙げる人と嫡男の年齢が近しかったら尚更だ。審議会でリオの秘密を知っている人たちはリオが出席する理由に思い当たって黙って納得するし、それを知らない人間たちはウォルターズ公爵の代理である私がパートナーに連れている、ということで解らないながらも納得するだろうし、『知っている』ほかの参加者から理由は知らされずとも問題ないことを匂わせられるだろう。きっと知らない人たちに王宮に住まう人に縁がある、程度のことは言うと思うよ。そして何よりパートナーのいない私はリオをエスコートするのに問題がない」


「そう、そうなんだよ。フレドリック様がついていればリオに余計な虫が近づくなんてことはないし、私の結婚式にフレドリック様に連れられたリオには後ろ盾としてウォルターズ公爵家とロイド伯爵家がついてるってことをアピール出来る。そして何より、式はロイド伯爵領でやるんだ。フレドリック様が公爵を継ぐ前にロイド伯爵領への立ち入り禁止を解くちょうどいい機会だろう?」


 フレドリックとレイモンドの説明にリオは考え込んだ。一応まだ一級機密事項のままではあるが、魂の迷い人だということは公然の秘密になったと考えてよいだろう、これは成人したら機密事項は解除されるし、発表されないまでも噂として広がるだろう。流石にリオがレオンだったことはこれからも特一級機密事項として秘匿されていくであろうが、魂の迷い人、ということはある程度広まると思っていい。そして何より、これを機にロイド伯爵家はフレドリックの立ち入り禁止を解くという。

 確かに一部の貴族たちはレオン・カレッジが実は生きていて、平民となってカレッジ領にいること、それを明かした場にフレドリックもいたことを知っている。

 今回フレドリックがリオを伴ってレイモンドの結婚式に出席すれば色々納得されるであろう。フレドリックの贖罪公爵長男という渾名を払拭出来るチャンスではある。そのことに関してリオは本当に気にしているのだ。もっと自分がうまいこと立ち回っていたらフレドリックの人生を曲げなくて済んだのかもしれないと――。それを今回、レイモンドの結婚式に出席することで少し直すことが出来るという。


「それにしても。そこまでしてでもロイド家はリオに参列してほしいんですね」


 考え中のリオをそのままに、フレドリックはソファに背を預けた。


「そもそも親父殿が妹であるリオの母親を溺愛してたからな。母上も妹みたいに可愛がっていた。二人揃ってリオが生まれた時にはカレッジ領まで会いに行ったくらいだし」


 レイモンドも姿勢を少し崩す。


「何より俺がリオに出席してほしい。俺の兄弟はあの可愛くないパトリックだけだからな。年の離れた従弟であり、叔母似の可愛げ溢れるリオを可愛がって当然だろう」


 王太子の側近であるロイド家の次男であるパトリックは冷静な男だ。本来なら王太子と同じ年のレイモンドが学友だったのであるが、その優秀さで王太子に気に入られ、年下ながら側近に引き抜かれたのがパトリックである。三歳差をものともせずに王太子や王太子の他の側近たちと親しくしていることは更に三歳下のフレドリックたちの世代にも有名な話だ。

 わかるだろう? と聞いてくるレイモンドにフレドリックはもちろん頷いた。フレドリックの妹は可愛いが、リオはリオで可愛いのだ。親同士が従兄妹なのだから、近くはないが血の繋がりもある、可愛がって何が悪い、と胸を張るレイモンドの気持ちは良く分かった。レイモンドだけではなくロイド伯家は各々カレッジ領にお忍びでちょくちょく遊びに行っていると父に聞いているのでロイド伯家族もきっと同じ気持ちなのだろう。


「リオが本格的に領運営に関わることになったし、色々面倒くさいしがらみはあれど、大手を振ってロイド領とカレッジ領が仲よくするためにフレドリック様と二人で是非来てほしい」


 レイモンドの率直なその言葉に思わずリオが笑みをこぼす。


「なるほど、よくわかりました。――フレドリックはその辺どう? 問題ない?」

「リオが良いならば。俺としては『レオン』の墓参がかなうのだから断る理由はないな」


 リオの問いにフレドリックはすぐに返事をしてくれた。この十年、ずっとフレドリックは希望していたのだ。今となってはその墓の中にレオンはいないとわかっているのだけれども、それでもフレドリックとしては存在を消してしまった『レオン』に参りたい気持ちは変わっていなかった。


「それじゃあ俺も結婚式に出席して、そしてフレドリックと一緒に『レオン』の墓参しようかな。――レイモンド兄様、ご招待お受けいたします」


「そうかそうか!!ありがとう決心してくれて!!親父たちも喜ぶ!!」


 レイモンドが思わず立ち上がってリオの手を取った。ぶんぶんとそれを振る仕草は貴族らしからぬものではあるのだけれども、ここにいるのは従兄弟とはとこである。親戚同士と目をつぶってしまえばそれまでだ。


「詳しい予定は既に父とロイド伯爵から来ていますか? 近辺の宿の割り当てなどはどうなってます?」

「ああ、そうだ。二人は是非本宅に泊まってくれ。部屋を準備する予定だ」

「レイモンド兄様!?」

「詳しくはウォルターズ公爵にうちの親父から連絡が行っているはずだからそちらの指示を仰いでくれ。いやー嬉しいな!!」


 よっぽど親しい親戚か、最重要主賓でもない限り、領主の館の近くにある高級宿に出席の貴族は泊まるはずだ。ロイド伯爵の領主館がある街は商業的に大変栄えているので、候補となる宿も数多くある。ロイド伯爵家は次男が王太子の側近の為、王太子の代理となる貴族が主賓、そして序列としてその次がウォルターズ公爵家なはずである。そのほかに花嫁の一族が宿泊するところもあるので、こちらの世界ではある程度主催の貴族が手配して割り当てるのが常識である。


「では領主館には主賓の方とうちがお世話になる形ですか」

「ああ、家族が多かった名残でうちには別館もあるからな。花嫁一族にはそちらを丸々使ってもらう予定だ」

「わかりました。詳しくは父に確認します。――さて、レイモンド様は三日ほど滞在すると聞いていますが、何かご案内をする必要はありますか?」

「大丈夫だ。この領にもこの屋敷にも何度も来ている。そうだ、リオ。陽が落ちる前に上のお屋敷まで墓参りに行こうか、付き合ってくれるかい?」

「うん、いいよ」

「わかった。ケネス、ご案内してくれ」

「わかりました。レイモンド様は一度お召し替えが必要ですね。客間の位置が変わっていますのでリオ様と一緒にご案内いたします」


 あえてケイではなくケネスに指示を出し、彼らが連れ立って応接室を出たのを確認してから、フレドリックはケイを連れて執務室へと戻ったのだった。

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