贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希

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第三部

ロイド伯爵領2

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「ようこそ!!フレドリックにリオよ!!」


 ロイド伯爵の領主館に到着すると当主であるジェレミー・ロイドが夫婦で出迎えてくれた。ロイド伯爵家はこの地方の中心的貴族なので、伯爵家としてはかなり大きな規模の屋敷を持っていた。何代か前の公爵の兄弟が暮らしていた別館も敷地内に二棟ほどあるらしい。


「お招きいただきありがとうございます」

「お久しぶりです、伯父様」


「旅の疲れが問題なければ、一緒に夕食をと思うんだがいかがだろうか?」
 二人の来訪に満足げに頷いたロイド伯爵は時計を見ながら二人に誘いかけた。お茶をするにはもう遅い時間の到着である。夕食ならば少し休んでから同席できるなと思いながらリオを向いた。


「リオ、大丈夫そう?」

「問題ないよ、元気!!」

「では、是非ご一緒させてください」

「よしよし、いろいろと話したいこともあるんだ。本宅の客間を用意したから滞在中は自宅だと思ってゆっくりしてくれ」


 挨拶もそこそこに二人はケネスとミックを連れてロイド伯爵家の老侍従に客間へと案内された。二人が案内されたのは二階の客間が並ぶところで、中央の応接室を挟んで両脇にベッドルームがある家族向けの客間であった。両ベッドルームと応接室に隣接する形で侍従用の部屋もある。御者の二人は馬房に近い使用人用の宿泊棟に部屋を用意されていて、いたせりつくせりである。


「フレドリックと応接室一緒でよかった。とりあえず廊下でなくてもどうにかなる!!」


 ケネスとミックが慌ただしく荷ほどきをする中、ソファに座ったリオは部屋付きの老メイドが用意してくれたお茶を飲んで心底安心したように脱力していた。流石にほかの客もいる他所の貴族の本宅で隣室に行くのに部屋着や軽装、寛げた服で廊下に出るわけにはいかない。その点この部屋ならば最悪寝間着でも行き来できる。どういう部屋に通されるかわからなかったので、リオは事前に戦々恐々としていたのだ。ケネスやミックに「そういう時は侍従がフレドリック様を呼びに行きますよ」と慰めてくれたけれども年上のフレドリックを呼びつけるのは憚られた。二人の関係を知らない人から見たら何様のつもりだ、と言われてもおかしくない。身分の序列としてリオは魂の迷い人なのでフレドリックを呼び出しても何らおかしくはないのだけれども、リオは普通の一般庶民としての意識しかもっていないのでそんなのできない!!とひたすら首を横に振っていたのだ。


「おや、王太子殿下の名代として王妃様の実家のスターレット公爵が来る予定だったけど、今回代理で嫡男のモーリスが来ることになったのか」


 お茶と共にこの部屋付きになった老侍従が、こちら主人からです、と置いていった書類には参加者が変更になった家などの追加情報が細かく書かれていた。それに目を通していたフレドリックがひょいと眉を上げた。


「モーリス様? 知り合い?」

「ああ、俺と同年で友人だ。公爵よりもリオにとっては気安いだろう」


 いくつかある公爵家の中で唯一フレドリックと同じ年の子供がいたのがスターレット公爵家である。幼少時から年齢と家格と派閥の関係で何かと一緒にいることが多く、腐れ縁としてフレドリックが悪書事件で贖罪の日々に暮れるようになっても仲良くしてくれた男でもある。少し公爵家の息子としては軽薄なイメージがある男であるが、リオにとってはむしろ問題ないだろう。おそらく先日の断罪の場にも父であるスターレット公爵と共にいたはずだ。


「うちが父でなく俺が出ると知って、うちの親父と示し合わせてくれたんだろう。こちらもきっと王都のパーティの方では公爵が出てくるはずだ。何よりパトリック様の結婚式に次期公爵が集まるのは結束を表明するいい機会だと思われるだろうな」

「なるほど」

「東の客間にはモーリスとそのパートナー、西のここには俺たち、あとは別館に新婦一族とその招待者たちが泊っていて残りは宿屋に泊まることになっているみたいだ。別館に泊まっている新婦側の一部に気をつければとりあえずは問題ないか。リオはフィンドレイ家の花嫁に面識は?」

「二十を超えてからレイモンド兄様はシェリー姉様同伴でカレッジ領に来てたよ。すっごくかっこいいお姉さん」

「シェリー嬢は聡明で有名だったからな。フィンドレイ侯爵家の次女だし、幼少時は王太子の婚約者候補だった時もあったと思う」


 その言葉にリオは遊びに来たシェリーを思い出す。カレッジ領を田舎だと馬鹿にせず、レイモンドと共に農道を一緒に走り回ってくれた女性だ。あの人が王太子殿下の婚約者候補でもあったとは驚きである。

「ああ、そういえば結局隣国のお姫様との婚約が決まったんだっけ、王太子殿下」


 最終的に十年前にまとまった王太子殿下の婚約は友好国である隣国と結ばれたのである。ハヤテが国内の貴族たちが随分落ち込んでいたという噂を仕入れたと聞いたことがある。普通は早いうちに婚約者が決まるところおそらくこの国で一番身分の高い人の婚約が決まるのを待っていた貴族が多いのだろう。悪書事件で婚約が遅々として進まなかったフレドリックの世代とはまた別の波乱があった世代であった。


「来年は殿下の結婚式もあるし忙しいよね、王宮」

「その忙しさで人が足りないからハント代行官を早急に呼び戻したかったんだろうね、王宮は」

「なんという、余波……!!」


 フレドリックの前にカレッジ領の代行官をしていたケビン・ハントは、フレドリックが代行官として赴任するのならば王宮に辞表を出してカレッジ領に住もうかな、と言っていたくらいカレッジ領に馴染んでいた。王都に帰る時は泣きながら「絶対帰ってくるので領主館に職を用意しておいてください!!」と何度も何度も言っていた。本人はすぐにでも戻ってくる気満々だったが今後予定されている王宮の忙しさを考えるとしばらくは無理だろう。勿論無事王宮を退職してカレッジ領に来た暁には役職を用意する所存である。


「ハント代行官がいてくれればコリーも連れてこれたんだが」


 ウォルターズ公爵家から連れてきた若手侍従の二人には出来るだけ経験を積ませたい。いずれリオが王宮に滞在する時にも付き添う可能性も踏まえ教育中の侍従たちなので、経験を積むに越したことはない。今回はミックを連れてきたが、次の機会があればコリーになるだろう。
 いずれケイには運営より屋敷の管理を中心に行ってほしいと思っているが、如何せん現在はケイが業務の大半に関わっている状況だ。カレッジ子爵たちから業務を叩き込まれ、十年ケビンと共に実務を行ってきたケイ抜きでもカレッジ領の運営を全て出来るくらい体制を整えることがフレドリックたちの目標である。


「とりあえず、ロイド領にいる間は業務から離れて羽を伸ばそうよ、フレドリック」

「それもそうだな」


 顔を見合わせて笑うと、二人は揺れた馬車で少し疲れた体を休めるようにソファに深く沈みこんだ。



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