40 / 44
第三部
ロイド伯爵領2
しおりを挟む「ようこそ!!フレドリックにリオよ!!」
ロイド伯爵の領主館に到着すると当主であるジェレミー・ロイドが夫婦で出迎えてくれた。ロイド伯爵家はこの地方の中心的貴族なので、伯爵家としてはかなり大きな規模の屋敷を持っていた。何代か前の公爵の兄弟が暮らしていた別館も敷地内に二棟ほどあるらしい。
「お招きいただきありがとうございます」
「お久しぶりです、伯父様」
「旅の疲れが問題なければ、一緒に夕食をと思うんだがいかがだろうか?」
二人の来訪に満足げに頷いたロイド伯爵は時計を見ながら二人に誘いかけた。お茶をするにはもう遅い時間の到着である。夕食ならば少し休んでから同席できるなと思いながらリオを向いた。
「リオ、大丈夫そう?」
「問題ないよ、元気!!」
「では、是非ご一緒させてください」
「よしよし、いろいろと話したいこともあるんだ。本宅の客間を用意したから滞在中は自宅だと思ってゆっくりしてくれ」
挨拶もそこそこに二人はケネスとミックを連れてロイド伯爵家の老侍従に客間へと案内された。二人が案内されたのは二階の客間が並ぶところで、中央の応接室を挟んで両脇にベッドルームがある家族向けの客間であった。両ベッドルームと応接室に隣接する形で侍従用の部屋もある。御者の二人は馬房に近い使用人用の宿泊棟に部屋を用意されていて、いたせりつくせりである。
「フレドリックと応接室一緒でよかった。とりあえず廊下でなくてもどうにかなる!!」
ケネスとミックが慌ただしく荷ほどきをする中、ソファに座ったリオは部屋付きの老メイドが用意してくれたお茶を飲んで心底安心したように脱力していた。流石にほかの客もいる他所の貴族の本宅で隣室に行くのに部屋着や軽装、寛げた服で廊下に出るわけにはいかない。その点この部屋ならば最悪寝間着でも行き来できる。どういう部屋に通されるかわからなかったので、リオは事前に戦々恐々としていたのだ。ケネスやミックに「そういう時は侍従がフレドリック様を呼びに行きますよ」と慰めてくれたけれども年上のフレドリックを呼びつけるのは憚られた。二人の関係を知らない人から見たら何様のつもりだ、と言われてもおかしくない。身分の序列としてリオは魂の迷い人なのでフレドリックを呼び出しても何らおかしくはないのだけれども、リオは普通の一般庶民としての意識しかもっていないのでそんなのできない!!とひたすら首を横に振っていたのだ。
「おや、王太子殿下の名代として王妃様の実家のスターレット公爵が来る予定だったけど、今回代理で嫡男のモーリスが来ることになったのか」
お茶と共にこの部屋付きになった老侍従が、こちら主人からです、と置いていった書類には参加者が変更になった家などの追加情報が細かく書かれていた。それに目を通していたフレドリックがひょいと眉を上げた。
「モーリス様? 知り合い?」
「ああ、俺と同年で友人だ。公爵よりもリオにとっては気安いだろう」
いくつかある公爵家の中で唯一フレドリックと同じ年の子供がいたのがスターレット公爵家である。幼少時から年齢と家格と派閥の関係で何かと一緒にいることが多く、腐れ縁としてフレドリックが悪書事件で贖罪の日々に暮れるようになっても仲良くしてくれた男でもある。少し公爵家の息子としては軽薄なイメージがある男であるが、リオにとってはむしろ問題ないだろう。おそらく先日の断罪の場にも父であるスターレット公爵と共にいたはずだ。
「うちが父でなく俺が出ると知って、うちの親父と示し合わせてくれたんだろう。こちらもきっと王都のパーティの方では公爵が出てくるはずだ。何よりパトリック様の結婚式に次期公爵が集まるのは結束を表明するいい機会だと思われるだろうな」
「なるほど」
「東の客間にはモーリスとそのパートナー、西のここには俺たち、あとは別館に新婦一族とその招待者たちが泊っていて残りは宿屋に泊まることになっているみたいだ。別館に泊まっている新婦側の一部に気をつければとりあえずは問題ないか。リオはフィンドレイ家の花嫁に面識は?」
「二十を超えてからレイモンド兄様はシェリー姉様同伴でカレッジ領に来てたよ。すっごくかっこいいお姉さん」
「シェリー嬢は聡明で有名だったからな。フィンドレイ侯爵家の次女だし、幼少時は王太子の婚約者候補だった時もあったと思う」
その言葉にリオは遊びに来たシェリーを思い出す。カレッジ領を田舎だと馬鹿にせず、レイモンドと共に農道を一緒に走り回ってくれた女性だ。あの人が王太子殿下の婚約者候補でもあったとは驚きである。
「ああ、そういえば結局隣国のお姫様との婚約が決まったんだっけ、王太子殿下」
最終的に十年前にまとまった王太子殿下の婚約は友好国である隣国と結ばれたのである。ハヤテが国内の貴族たちが随分落ち込んでいたという噂を仕入れたと聞いたことがある。普通は早いうちに婚約者が決まるところおそらくこの国で一番身分の高い人の婚約が決まるのを待っていた貴族が多いのだろう。悪書事件で婚約が遅々として進まなかったフレドリックの世代とはまた別の波乱があった世代であった。
「来年は殿下の結婚式もあるし忙しいよね、王宮」
「その忙しさで人が足りないからハント代行官を早急に呼び戻したかったんだろうね、王宮は」
「なんという、余波……!!」
フレドリックの前にカレッジ領の代行官をしていたケビン・ハントは、フレドリックが代行官として赴任するのならば王宮に辞表を出してカレッジ領に住もうかな、と言っていたくらいカレッジ領に馴染んでいた。王都に帰る時は泣きながら「絶対帰ってくるので領主館に職を用意しておいてください!!」と何度も何度も言っていた。本人はすぐにでも戻ってくる気満々だったが今後予定されている王宮の忙しさを考えるとしばらくは無理だろう。勿論無事王宮を退職してカレッジ領に来た暁には役職を用意する所存である。
「ハント代行官がいてくれればコリーも連れてこれたんだが」
ウォルターズ公爵家から連れてきた若手侍従の二人には出来るだけ経験を積ませたい。いずれリオが王宮に滞在する時にも付き添う可能性も踏まえ教育中の侍従たちなので、経験を積むに越したことはない。今回はミックを連れてきたが、次の機会があればコリーになるだろう。
いずれケイには運営より屋敷の管理を中心に行ってほしいと思っているが、如何せん現在はケイが業務の大半に関わっている状況だ。カレッジ子爵たちから業務を叩き込まれ、十年ケビンと共に実務を行ってきたケイ抜きでもカレッジ領の運営を全て出来るくらい体制を整えることがフレドリックたちの目標である。
「とりあえず、ロイド領にいる間は業務から離れて羽を伸ばそうよ、フレドリック」
「それもそうだな」
顔を見合わせて笑うと、二人は揺れた馬車で少し疲れた体を休めるようにソファに深く沈みこんだ。
77
あなたにおすすめの小説
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました
藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。
(あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。
ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。
しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。
気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は──
異世界転生ラブラブコメディです。
ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
婚約者の前で奪われる!?王太子が僕の番だった夜
侑
BL
僕は辺境伯家の嫡男レオン・グレイスフィールド。
婚約者・隣国カリスト王国の辺境伯家、リリアナの社交界デビューに付き添うため、隣国の王都に足を踏み入れた。
しかし、王家の祝賀の列に並んだその瞬間、僕の運命は思わぬ方向へ。
王族として番に敏感な王太子が、僕を一目で見抜き、容赦なく迫ってくる。
転生者で、元女子大生の僕にはまだ理解できない感覚。
リリアナの隣にいるはずなのに、僕は気づけば王太子殿下に手を握られて……
婚約者の目の前で、運命の番に奪われる夜。
仕事の関係上、あまり創作活動ができず、1話1話が短くなっています。
2日に1話ぐらいのペースで更新できたらいいなと思っています。
公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します
市之川めい
BL
魔王を倒した英雄によって建国されたグレンロシェ王国。その後は現在までに二人、王家の血を引く者から英雄が現れている。
四大公爵家嫡男、容姿端麗、成績優秀と全てにおいて恵まれているジルベールは、いつか自分も英雄になると思い、周りには貴公子然とした態度で接しながらも裏では使用人の息子、レオンに対して傲慢に振る舞い性的な関係まで強要していた。
だが、魔王の襲来時に平民であるはずのレオンが英雄になった。
自分とレオンの出生の秘密を知ったジルベールは恥ずかしくなって逃走することにしたが、レオンが迎えに来て……。
※性描写あり。他サイトにも掲載しています。
冷遇王子を匿ったらまさかのアレがついてきた
すずね
BL
「父上! 殿下は可愛いけど、男のお嫁さんは嫌です!」
前世をおぼろげに覚えている貴族令息のエリアスが、優秀だが冷遇されている第三王子アルベルトに絆されて同性婚を受け入れることに。
仕方なく従った婚約だが、ずっと探していたまさかのアレを取り寄せることができるかもしれないと分かり、前のめりで婚姻の計画を進め始める。
美味しいものや便利なものを開発しつつ婚約者の身の安全も守ってあげたいお人好し令息と、伏魔殿のような王宮育ちでちょっと腹黒な不遇王子の政略結婚。
スタートが子供時代なので前半は健全な感じです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる