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第一部
王宮にて:リオとハヤテと国王の密談
しおりを挟む「おー、久しぶりじゃん、リオくん元気?」
「ひさしぶりだな、元気だよ!!」
王宮のある王都に異動したリオは王宮預かりとなった。王宮の魂の迷い人用のフロアの客間で一息ついていたら、王宮預かりになっている顔見知りの魂の迷い人が早速部屋を訪れた。
「災難だったねぇ、銃撃されたんだって?」
「ほんとだよ、もう。しつこいよなぁ。ところで新作読んだ。あれ誰のリクエスト?」
「あっ、ほんと?それっぽかった!?西にあるサザナ領のジェイのリクエスト!!」
「いいんだか悪いんだか、よく覚えてるよなぁあんな細かく」
「楽しんでくれたならよかったよ!!監修の皆さんにも大絶賛された新シリーズだからしばらく続くよ!!」
リオの部屋に訪れたのは、作家として活動しているハヤテだ。あちらの世界の名を名乗っているが、れっきとした転生者で、十年前の児童悪書事件の中心人物である。ハヤテ自身はただ知らない世界に一人放り込まれて悲しくて恋しい世界の大好きだった物語を書き殴っていただけなので、悪気はないと判断されて王宮預かりとなった。
今はかつての世界で読んだ物語を文章に起こして、国の監修を経て本を出版している。ちなみにハヤテが書き殴った話を勝手に持ち出して本にして荒稼ぎしていたハヤテの義家族は全員牢屋に入って処罰されている。ハヤテはそれらが貴族や富裕層の子供向けに本として発行されているなんて全く知らなかった。引き取られた家に引きこもって書くものを与えられて日がな一日現実逃避してかつて愛した物語を文字起こししていたら、ある日突然騎士団が押しかけてきて王宮に連れてこられた、というわけだ。
だからハヤテ、旧名サイは被害者という扱いになっている。義家族は彼の血のつながっていない親戚で出版業を営んでいた。商機を見出すのはうまかったが、貴族から問題視されるなんて思ってもいなかったのだろう。ただ一応被害者ではあるが、世間を騒がせたのと影響が甚大だったので、王宮で監視といっては言い方が悪いが、本人の意見を聞くまでもなく王宮保護となった。現在はこの義家族と縁を切って、言われずとも王宮で悠々自適にぬくぬく引きこもっているのがハヤテである。
魂の迷い人は現在この国で十八人ほど暮らしている。年齢も性別も生まれた身分もバラバラだし、きっと王宮に把握されていない者もそれなりにいるだろうというのが迷い人たちの見解だ。
ハヤテも当時把握されていなかった一人で十年前は十五歳だった。今はもう二十五歳であるが、しっかりと記憶が残っているタイプの迷い人で、なおかつその記憶力が半端じゃなかったらしく、あちらの世界にいた頃の名前も憶えていた。だからハヤテと名乗っている。
「でも招集なんて七年前のアルビー以来でみんな嬉々として集まってるよ。今回は全員集まるんじゃないかな。前乗りしてる人も多いし、面倒ごとが終わったらみんなで食事会しようね。リオは未成年だし、こっちに出てこないから食事会とでも会えなくて、みんな楽しみにしてるよ」
魂の迷い人は魂の迷い人でネットワークを持っている。悪意から逃れるためでもあり、自分と同じ境遇の人たちに助けを借りることもあるからだ。リオはカレッジ領にいたかったから天涯孤独になっても王宮へは来なかった。ケイやアニーが本当の家族になってくれたからである。たまにカレッジ領に迷い人仲間が遊びに来て情報を落としてくれているぶんで充分だった。
「みんなの迷惑になっていなくてよかった」
「そうそう。口実になってくれてありがとー!!って感じだね。さあ僕と一緒にお茶しようね」
ハヤテがリオの部屋のベルを勝手に鳴らすと待っていましたとばかりにメイドが入ってきてお茶の準備を設えて出て行った。
「さあ、いろいろと近況報告をしようよ!!」
ハヤテと会うのは三年ぶりで、お互いに報告することはたくさんあった。リオは苦笑すると、温かい紅茶が入れられたカップを手に取った。
◇◇◇◇◇
ハヤテと話していたら、部屋付きの侍従が国王陛下の訪いを伝えに来た。今回の事態の相談をしたいとのことだったので、ハヤテとともに謁見室へと向かう。魂の迷い人のいるフロアは厳重な警備が敷かれていて、よっぽどのことがない限り、陛下もこちらに訪れる。外向きの身分が平民から貴族まで色々いるので王宮内を自由に歩かせるには支障があるのだ。
久しぶりに会う国王陛下は相変わらず元気そうだった。ウォルターズ公爵の五歳ほど年上である国王陛下はリオの事件があった時、即位したばかりだった。自分の父と大して変わらない若い国王に当時謁見したリオは驚いたのだ。現在成人済の王子が二人、未成年の王女が二人いるはずだ。上組も下組もハヤテが巻き起こした悪書騒動に影響されなかったギリギリの世代である。
そんな国王陛下だが、壮年になって増したのは威厳だけで、相変わらず若々しい。従弟であるウォルターズ公爵も年齢よりも若く見えるので、そういう血筋なのかもしれない。
挨拶もそこそこに、王宮に陳情と称して押しかけてくる馬鹿伯爵の件を詳しく教えてくれた。ウォルターズ公爵も伝え聞いていただけだが、聞いている以上にひどい。何がって、ウォルターズ公爵への無礼侮辱と馬鹿伯爵の面の皮の厚さが、である。
改めて自分の口で希望を伝えると、うんうんと国王陛下は頷いた。
「そうか、リオの意志は変わらないのだな」
「はい。少し早いですけど、しょうがないです。それは理解しました」
「うむ。当日立ち会う者は全員魂の迷い人に関わる仕事についている者と魂の迷い人関係の貴族院の者たちだからな。リオの存在を知っても大丈夫だろう」
「そういえば陛下、その馬鹿伯爵の跡を継ぐ息子はどうなんですか?」
「次男は十年前に愛想尽かして家から出奔して平民になっている。長男はどうだろうな。一応真面目ではあるが、馬鹿伯爵の息子だからな」
「はー、そうでしたか。じゃあ噂の夫人の浮気によって出来た血のつながってない次男てのは本当でしたか」
それまで黙って付き添っていたハヤテが目を輝かせた。話のネタになる噂は率先して仕入れる性質らしい。
「え、なにそれえげつない」
「そんな噂もあったな。夫人も実家に帰されてるからどうだろうな」
意味深に笑った陛下に思わず二人で口を噤んだのはしょうがないことだと、リオは思った。
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