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第一章 君に好きだと言えなかった日
第一話
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高校二年生に進級した新学期初日、私は心臓が口から飛び出るかと思うほどに驚いた。
視線の先にあるのは、生徒玄関と外を隔てるガラス窓に張られたクラス分けの名簿。
これから一年間、一緒に過ごすことになる新しいクラスのメンバーを確認して一喜一憂する生徒たちの傍らで、私は射竦められたように固まっていた。
信じられなかった。
だってその名簿にあったのは、中学一年生まで仲良くしていて、その後突如として転校してしまった幼馴染の名前だったから。
「篠山、遼……」
耐え切れずに、その名前が私の口から零れ落ちる。
いったい、どうして?
高一の時からいたっけ?
いやもしかして、今年度から編入してきた?
でもそうなら、どうして何も連絡してくれないの?
あんなに仲が良かったのに、なんで……?
疑問が、後から後から湧いて出てくる。
しかし、それに答える人はもちろんいない。混乱の渦中にある私の傍を、数人の男子生徒が通り過ぎていった。
「よっしゃ! 遼、今年も同じクラスだな!」
その時だった。
後方から聞こえた声に、私は反射的に振り返った。
「あ、あぁ……!」
生徒玄関前のスロープの上。三人の男子生徒が並んでいる真ん中に、彼がいた。
最後に会った時よりも身長はかなり伸びている。顔つきも大人びて、すっかり男らしくなっているけど間違いない。短い黒髪に大きくて澄んだ瞳はもちろん、笑うと頬にできるえくぼもまるで変わっていない。
「遼くん!」
私は叫んだ。
その声は自分でもびっくりするほどに大きく、近くにいた数人の生徒がぎょっとして身を引いたほどだ。
そしてもちろん、私の視界に映っている三人の男子生徒も一斉に振り返った。
「遼くん! 私! 菅浦彩月!」
必死に自分が誰であるかをアピールする。
さっき聞こえた話し声では、「今年も同じクラス」と言っていた。つまり、遼くんは高校一年生の時から私と同じ高校にいたことになる。
「遼くん! 久しぶりだね! ほら、覚えてるかな?」
どうして、会いに来てくれなかったの? ……ううん、気づいていなかった、だけだよね?
そんな心の奥底に生まれた気持ちの正しさを確かめるように、私は遼くんの前に躍り出る。
遼くんはぼんやりと、私のことを見ていた。そこには、かつて私に向けてくれていた穏やかで優しい色はない。知らない人……ううん、もっと言えばいきなり自分の名前を呼んで親し気に話しかけてくる不審者を警戒しているような雰囲気すらある。
「りょ、遼くん? おーい? き、聞こえてる、かな?」
しどろもどろになりながら話しかける私に対して、遼くんは何も言わない。まるで、気づいていないみたいに。
「え、だれ? 遼、知ってんの?」
代わりに声を発したのは、遼くんの隣にいた男子生徒だった。その声からして、先ほど遼くんに話しかけていた人だろう。興味深げにじろじろと私のことを見てから、その男子は遼くんに視線を移す。
するとそこで、遼くんは真一文字に閉ざしていた口をようやく開いた。
「うん、知ってる。昔よく遊んでた、幼馴染」
遼くんがぼそりと言った言葉に、私はホッと胸を撫で下ろす。良かった。覚えててくれた……
「でも、ただそれだけ。行こうぜ」
「え?」
けれど。その先に続いた遼くんの平坦で無感情な声に、私の心に浮かんだ安堵は一瞬にして消え去った。
「え、なに……それ……遼くん? どういう、こと……?」
遼くんを見つけた時のドキドキは、今や動悸にも近いバクバクとした脈動に変わっていた。
口から零れ落ちたか細い声は私以外に聞こえるはずもなく、遼くんたちは訝し気に私を見やってから校舎の中に入っていった。
これが、私の新学期の始まりだった。
視線の先にあるのは、生徒玄関と外を隔てるガラス窓に張られたクラス分けの名簿。
これから一年間、一緒に過ごすことになる新しいクラスのメンバーを確認して一喜一憂する生徒たちの傍らで、私は射竦められたように固まっていた。
信じられなかった。
だってその名簿にあったのは、中学一年生まで仲良くしていて、その後突如として転校してしまった幼馴染の名前だったから。
「篠山、遼……」
耐え切れずに、その名前が私の口から零れ落ちる。
いったい、どうして?
高一の時からいたっけ?
いやもしかして、今年度から編入してきた?
でもそうなら、どうして何も連絡してくれないの?
あんなに仲が良かったのに、なんで……?
疑問が、後から後から湧いて出てくる。
しかし、それに答える人はもちろんいない。混乱の渦中にある私の傍を、数人の男子生徒が通り過ぎていった。
「よっしゃ! 遼、今年も同じクラスだな!」
その時だった。
後方から聞こえた声に、私は反射的に振り返った。
「あ、あぁ……!」
生徒玄関前のスロープの上。三人の男子生徒が並んでいる真ん中に、彼がいた。
最後に会った時よりも身長はかなり伸びている。顔つきも大人びて、すっかり男らしくなっているけど間違いない。短い黒髪に大きくて澄んだ瞳はもちろん、笑うと頬にできるえくぼもまるで変わっていない。
「遼くん!」
私は叫んだ。
その声は自分でもびっくりするほどに大きく、近くにいた数人の生徒がぎょっとして身を引いたほどだ。
そしてもちろん、私の視界に映っている三人の男子生徒も一斉に振り返った。
「遼くん! 私! 菅浦彩月!」
必死に自分が誰であるかをアピールする。
さっき聞こえた話し声では、「今年も同じクラス」と言っていた。つまり、遼くんは高校一年生の時から私と同じ高校にいたことになる。
「遼くん! 久しぶりだね! ほら、覚えてるかな?」
どうして、会いに来てくれなかったの? ……ううん、気づいていなかった、だけだよね?
そんな心の奥底に生まれた気持ちの正しさを確かめるように、私は遼くんの前に躍り出る。
遼くんはぼんやりと、私のことを見ていた。そこには、かつて私に向けてくれていた穏やかで優しい色はない。知らない人……ううん、もっと言えばいきなり自分の名前を呼んで親し気に話しかけてくる不審者を警戒しているような雰囲気すらある。
「りょ、遼くん? おーい? き、聞こえてる、かな?」
しどろもどろになりながら話しかける私に対して、遼くんは何も言わない。まるで、気づいていないみたいに。
「え、だれ? 遼、知ってんの?」
代わりに声を発したのは、遼くんの隣にいた男子生徒だった。その声からして、先ほど遼くんに話しかけていた人だろう。興味深げにじろじろと私のことを見てから、その男子は遼くんに視線を移す。
するとそこで、遼くんは真一文字に閉ざしていた口をようやく開いた。
「うん、知ってる。昔よく遊んでた、幼馴染」
遼くんがぼそりと言った言葉に、私はホッと胸を撫で下ろす。良かった。覚えててくれた……
「でも、ただそれだけ。行こうぜ」
「え?」
けれど。その先に続いた遼くんの平坦で無感情な声に、私の心に浮かんだ安堵は一瞬にして消え去った。
「え、なに……それ……遼くん? どういう、こと……?」
遼くんを見つけた時のドキドキは、今や動悸にも近いバクバクとした脈動に変わっていた。
口から零れ落ちたか細い声は私以外に聞こえるはずもなく、遼くんたちは訝し気に私を見やってから校舎の中に入っていった。
これが、私の新学期の始まりだった。
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