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あの3人
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「何故竜翼機を出せないんですか!」
「『消滅』魔法を使った後は飛べないからだ」
「それは分かっています! ただソルセリー保護の為には竜翼機を飛ばす必要があるんです!」
「何度言ったら分かる、飛ばせないものは飛ばせないんだ。長距離の高射砲だって向こうは持っているし、相手だって風が乱れる中飛ばせるはずないだろ、それくらい分かっているはずだ」
「ラブル中佐、貴方は竜翼機のパイロットと機体、そしてソルセリーの命、どちらが大切だと思っているんですか!」
・・・・・・・・
このやり取りが、先程のラブル中佐とタクティアとの出来事
軍本部からの命令で、ソルセリーの『消滅』を使いヨルド要塞の破壊が命じられた。
本部直接の命令となると、幾ら俺が破壊の一族の隊を率いる隊長でも、拒否する事は出来ない。
しかし、やるかやらないかは、ソルセリー本人の意思にゆだねられるが、彼女は決断した。
俺とタクティアはもしソルセリーがやると決断した事で、『消滅』魔法発動後のソルセリー確保の為、竜翼機を使用することをラブル中佐に進言するため指令室に赴いた。
結果はNO、少しでも作戦を成功させるためにとタクティアは頑張ったが、ラブル中佐は許可しなかった。
『消滅』を使った直後、そしてその後暫くは風が大きく乱れ、竜翼機での飛行は困難を極めると言う、熟練のパイロットでも飛ぶことすら難しい
俺の右側を歩いているタクティアはとても機嫌が悪い
それまで怒った姿など見たことが無いタクティアだけど、いつもニコニコしている人が急に怒ると正直怖い、内心ドキドキしつつ、びびっている事をバレないように無表情を貫いている
辺り一面焦土と化す『消滅』魔法、タクティアは一貫して使用を拒否してきた。
破壊の一族が『消滅』を使い完全に成功した事例は殆ど無く、魔法は発動成功したが、その直後に救助が間に合わず討たれたり、詠唱中に攻撃を受け死亡するケースばかりだと言う
「破壊の一族は身代わり」
それが、今の時代の考え方だとタクティアは言っていた。
一族の一人を生贄に出すから追撃は止めてくれ、一人差し出すから撤退させてくれ、これが今のハルツール、マシェルモビアの兵の中での暗黙の了解
◇◆◇
『消滅』を使い要塞を破壊しろと連絡が入ったその日、ソルセリーはずっと俯き、深く考えているようだった。
「ソルセリーがどう選択しようと俺はそれを支持するぞ」
ベルフがソルセリーに言った言葉、エクレールとライカも似たような事を言っていた。
どちらでもいい‥‥そういう言い方だったが、この3人の気持ちとしては「是非やってくれ」だろう、正直こんな言い方は卑怯だと思う、相手に選択権がある様に見えるが実際はそうではない、この3人以外にもラブル連隊、そしてこのキャンプ地にいる軍人全てがソルセリーの『消滅』魔法の使用を望んでいると思う
それほど『消滅』魔法は一気に戦況を一変させる力があるからだろう、このキャンプ地に駐留する者達の仕事は主に、マシェルモビア軍との戦いになる、その戦いの中で仲間を失い敵兵士に恨みを持っている者も多いだろう、ベルフだってそうだ。
優秀だったベルフは軍学校卒業後、そのまま破壊の一族の部隊に配属される事となった。
彼はソルセリーの2人の姉はもちろんの事、その父親とも面識があった。
ベルフはマシェルモビアの兵士に対して恨みを言ったことは一度もない、ただ彼の心の奥底にある憎しみは相当の物だと思う
それはソルセリー本人にとっても同じこと、自身の父や姉達が敵の兵の手によって殺害された事を深く恨んでいると思う
「私は反対ですよ! ソルセリーは破壊の一族最後の一人なんです、『消滅』魔法の成功例は極めて低いんです、要塞のトンネルを潰したとしても、また新しくトンネルを作らないとも限らないし、それにあの要塞には実際の所、どのくらいの兵がいるかも分かっていないんです!」
あんなに声を荒げて反対するタクティアを俺は初めて見た。
それこそ必死にソルセリーに拒否するように迫るが‥‥
「‥‥隊長」
ソルセリーが俺の方を向いて問いかける
「隊長は今回の作戦‥‥私が『消滅』を使って要塞を破壊する事について‥‥どう思っているのかしら」
いつもの力強い口調とは違い、少し弱々しい感じがするソルセリーはじっと俺の方を見つめていた。
一方の俺は甘くて甘くて仕方のないパナンを、嫌々食べている所だった。
苦痛にも思えるこの甘さに対して俺の眉間にはしわが寄せられている、傍から見ると、ソルセリーの『消滅』の事で深く考えている様には見えるだろう、ただ、俺はソルセリーの事を深くは考えていなかった。
どちらにせよソルセリーの心は既に決まっているし、最終的に決めるのはソルセリーだ。
だから‥‥
「ソルセリー家の名誉の為に‥‥だったら俺は反対するよ、ただ、親兄弟の仇が取りたいって言うなら俺は反対しないよ」
どちらの為に戦うか、それを自分自身で知ってもらうために俺はそう答えた
「ハ、ハヤト隊長!」
多分このキャンプ地にいる兵士の中で、唯一反対であろうタクティアが慌てるように声を発する
結局、俺の一言でソルセリーは自身の『消滅』を使用する事を決めた。
その日の夜、俺はタクティアと外で話をしていた
「ハヤト隊長が賛成するとは思っていませんでしたよ」
タクティアの最初の言葉がそれだった
「意外だった?」
「ええ、意外も意外まさか‥‥って感じでしたね」
「そっか‥‥でもソルセリー自身の中では結論が出ていただろうし、決断が早くなるか遅くなるかの違いだと思うよ」
「‥‥ハヤト隊長が前に言ってましたよね、『軍にとって良い上官は効率よく自軍の兵を殺すのが良い上官』だって‥‥」
「確かに言ったね」
寝る前タクティアにする「今日のお話」の時に確かに言った。
もちろん漫画の知識だ。
「今はその時ではないと思うんです、破壊の一族はサコナ・ソルセリー1人しかいません、その最後の1人を失ったらどうなるか? ハヤト隊長だってわかるでしょう?」
よく分かる、ソルセリーは『核弾頭』の様なもので、持っているだけで効果がある
「分かるけど、なら何でソルセリーをこの隊に入れたの?」
「それは、辞めると思っていたソルセリーが軍に残るって聞いた上で、この部隊に入れてしまった方がかえって安全だと思ったんです‥‥それをあのクォーモリが‥‥」
タクティア曰く、このクォーモリって言う人が今回の作戦を立てたという、このクォーモリは能力は無いが、やたらと大きい派閥を持っているらしく、作戦の良し悪しは別にして何でも数で押し通すらしい
ソルセリーの姉達がまだ生きていた頃、ソルセリー達3姉妹の所には毎日のようにお見合い写真が届くらしいのだけれど、3姉妹はそれを全部断っていた。
その中に、このクォーモリも自分で写真を送っていたらしく、見事に見向きもされず周りから笑われていたと言っていた。
俺がソルセリーを救出しに向かったあの時、ソルセリーに課せられた作戦は、実はこのクォーモリが立てた作戦だった。
周りからは私怨であの作戦を立てたと噂されていたらしい
今回、サコナ・ソルセリーの『消滅』を使ったこの作戦も、このクォーモリが立てた作戦である
タクティアと考えを同じにする幹部達が、必死になって止めたにも関わらず、数によってこの作戦が通ってしまった。
作戦を失敗してソルセリーを失いたくはないが、成功するとこのクォーモリの手柄になってしまう、タクティアからしたらどっちも嫌だろう‥‥
その憎々しげにしているタクティアに、何で賛成に回ったか言う事にする
「タクティアはさぁ、目の前で仲間が殺されるのを見たことはある?」
「‥‥いえ、ありませんが」
「酷いもんだよ‥‥助けたくてもこっちがいっぱいいっぱいでね、助けに行けないんだよ、それでちょっと目を放した隙にで殺されていたりとかね‥‥ついさっきまで普通に話とかしていたのにね。
魔物‥‥に殺されたら、まぁ、仕方ないとまでは言わないけれど、仕方ないと感じるよ、でもね、人に殺されてしまったらやっぱり‥‥恨むと思うんだよね、何故か? って聞かれたら分からないと答えるしか出来ないんだけど‥‥
ベルフに聞いたけれどさ、ソルセリーの父親と姉の遺体は酷かったらしいね、何もここまで‥‥って位だったってベルフが言ってたよ‥‥
それまでずっと悩んでいたソルセリーが、俺の言った事で決断したって言うんなら、やっぱりソルセリーも仇が打ちたいんだと思うよ」
「・・・・・・」
「タクティアの言っている事もよく分かるし、実際そっちの方が正解だと思う、タクティアの仕事は兵士を駒の用に動かして作戦を成功させる‥‥タクティアからしたら、その駒の一つが無くなるかもしれないんだから当たり前だと思う‥‥でも、今回だけは許してもらえないかな?」
タクティアは何も言わなかった、納得できない部分があるかもしれないけれど、了承はしてもらえたと思う
◇◆◇
という訳でラブル中佐説得に失敗し、建設許可も得ずに勝手に立てた家に戻る途中だった。
そしたら遠くの方から‥‥
「「「せんぱーい!!」」」
誰だか分からない3人の野太い声が聞こえる、その声につられて振り返ると‥‥
「‥‥あ! お前ら!」
いかつい顔でにこやかに笑い、手を振りながら走ってくる世紀末風3人組
「ういっすハヤト先輩!」
「会いたかったすよ!」
「おひさしぶりっす!」
「おお~! お前ら元気してたか!?」
俺の前には軍学校時代の後輩、ドルバ、ユーロス、ポンドラスがいた。あまりにも懐かしい顔ぶれで笑みがこぼれる。
「俺らは元気っすよ! それよりも先輩聞きましたよ! 召喚者なのに破壊の一族の隊長になったらしいじゃないですか! おめでとっす!」
「「おめでとっす!!」
「いやいや! わざわざありがとう!」
そこまで言って3人は隣にいたタクティアに気付いたのか「はっ」とした様子でタクティアに向かって敬礼をする、対するタクティアは先ほどまでの不機嫌な顔から一遍、普段見せるような顔になり「いいよいいよ」と手を振る
「所でお前達は何でここにいるの?」
こいつらが軍学校を卒業して3年ちょっとのはずだけど?
「俺ら卒業してすぐにこっちに配属なったんす、ハヤト先輩から教えてもらったあの『探知』魔法のおかげで俺ら引っ張りだこっすよ、今やハルツール軍の精鋭っすね」
卒業してすぐ最前線に送られたのか‥‥それはちょっと
「ちょっとこっちに来るの早すぎない? 普通は何年か経験を積んでから来ると思うんだけど」
「なに言ってんすか、大陸深部帰りの先輩に言われても説得力ないっすよ」
「4人で通過したって聞いた時は興奮しましたよ」
「さすが先輩っす」
「ん、そう? そう言われると俺も大げさな事言ったかもな」
「「「「あーっはっはっは」」」」
やたらと持ち上げてくる3人の相手をしていると、何だか気持ちいい気分になる
3人はそれぞれ部隊は違うものの、マシェルモビア攻略組として最前線で戦っているという、今まで姿を見なかったのは、ヨルド要塞があるせいで侵攻できず、ラブル連隊がヨルド要塞を攻略するまでの間一時的に休暇を貰っていたと、そして要塞攻略の目処が立ったのでまたこのキャンプ地に戻ってきたと言っていた。
要塞攻略の目処というのは間違いなく『消滅』魔法の事だろう、俺の右隣りで待っているタクティアには悪いけれど久しぶりの3人との会話は楽しく、暫く語り合った。
「俺らの部隊は、要塞攻略時に陽動として他の砦なんかに攻撃を仕掛けるらしいっすから、先輩とは別になりますね」
何となく残念そうにする3人組に‥‥
そうだ!
「お前らにコレやるよ」
『収納』に仕舞ってあったノートの切れ端を取り出す
「劣化版の地下の『探知』魔法の資料は指令室にあるけれど、これはそのオリジナルバージョンの方だから、興味があったら覚えてよ」
「「「いいんすか!!」」」
「おう」
3人組にオリジナルの魔物、生命に反応する地下の『探知』魔法陣が記された紙を渡す、本来、元フレックス隊のアルフレッドが欲しいと言ったので、ノートの書いてある部分をビリリと破り渡したのだけど
「すまない、俺には無理だった‥‥」
暫くその紙を見た後、そう言って魔法陣の書かれた紙を返して来た、魔力量の関係だと思う、ただ目の前の3人は召喚者なので多分大丈夫だと思う
「発動にはこんな感じの杖が必要だから」
『収納』から地中『探知』用の杖を出して見せる
「デザインが‥‥そのちょっと駄目だ━━」
「「「かっけぇー!!」」」
え?
「かっこいいっすよ先輩」
「ちょー趣味いいじゃないっすか!」
「こっちの方でも食っていけるっすね」
大絶賛された‥‥
そうかな? でも‥‥そう言われるといいかもしれないな‥‥
「まあな! 俺の自信作だからな!」
今まで正直自信なかったけど、3人が言うんなら間違いないだろう、そうか‥‥この杖は実はかっこよかったのか‥‥知らなかった。
持ち上げられて更に調子に乗った俺は
「お前らの中で『火』と『土』、同時に契約出来たやつはいたか?」
「あ、俺っすね、俺っす」
俺の問いに、口髭が特徴のユーロスが手を上げた
「そうか」
魔法を改良するために取っているノートを取り出し、その内の2枚をビリビリと破く
「「「あっ!」」」
普通は大事にしておく、魔法を改良したノートを破いたことに3人は驚く
「ユーロスにはこれをやろう」
ノートから破いた2枚をユーロスに渡す
「これは大陸深部でワームを倒す為に作った魔法だ。設置型の「置き土産」と餌として使用する「たこ焼き」だ。これと地下の『探知』を組み合わせればワームは雑魚になるからな、興味があるなら覚えてくれ」
俺の手から恐る恐る破いたノートの破いたページを手に取り、食い入るようにそれを見るユーロス、すると次第に手が震え嗚咽を漏らす
「こ、こんな凄い物まで教えてもらって‥‥お、俺! スゲー感動したっす! 先輩に一生ついて行くっす!」
ユーロスは泣きながら俺に言ってきた。
あれぇ? 泣くようなことだった? ここは俺が払っておくよ的な感覚で渡しただけなんだけれどな‥‥
「お前ならきっと習得できるからな、俺が保証する」
ユーロスの肩を叩く
「うっ‥‥はい!頑張るっす!」
号泣気味のユーロス、他の二人も目頭を拭いたり上を向いたりしていた、何となく湿っぽくなった時、タクティアが俺の腕をつんつんと突っつく
あ、そろそろ行きたいのね
「それじゃあ俺は他にやる事があるから、そろそろ失礼するよ」
「「「うっす!!!」」」
3人は目に涙を浮かべたまま俺に頭を下げ見送っていた。
・・・・・・
・・・・・・
多少ハートフルな時間を過ごしたからか、タクティアはいつものにこやか‥‥とはちょっと遠いが、険しさが薄れてきていた。
「竜翼機は出せないと言われたのか‥‥」
ベルフが机の上で両手を握り締める
夕食後、無許可で建てた家の居間で今日の出来事を話す
「何となくそんな気はしていたが、やっぱりそうか‥‥」
エクレールがため息をつく
「駄目と言うなら、発動後に全力で救出に行くしかないですね」
ライカが思案顔で天井を見る
「ええ、発動後は召喚獣カーネロを持つ召喚者の出番となるでしょう」
皆を見渡すタクティア
「・・・・・」
ソルセリーはずっと目を閉じたままだった
「私達ハヤト隊はラブル連隊とは別枠という事になっていますから、先発・後発どちらでも自由に選べる事になっています」
先発とは、ソルセリーを魔法発動地点まで付き添い、魔法発動直前までソルセリーを守る事になる。
ソルセリーを討とうと敵兵が諦めず、逃げなかったら先発の兵も逃げることは出来ない、最も危険を伴う役割になる
後発とは、『消滅』発動後に動けなくなったソルセリーにいち早く駆け付け、救出する役割になる。
これは主に、人を乗せて走ることの出来る、虎に似た召喚獣カーネロを持つ召喚者の役目になる事が多い
「なら俺は先発に志願しようか」
「では自分も」
ベルフとライカが先発に志願する
「私もそうしよう」
エクレールもそう言うが‥‥
「いえ、エクレールは私と後発になります」
「何故だ、タクティア殿」
「『癒し』を持っているからです、先発で怪我をして戻ってくる者もいるかもしれませんし、発動後は乱戦になるでしょう、その時に怪我を治せる者がいないとコチラが不利になります、ラブル連隊の方でも『癒し』持ちは後発になると思います」
「そうか‥‥分かった、それに従おう」
エクレールは無念そうにそう言う
「それでハヤト隊長は‥‥」
「俺? 先発にするよ」
「まてハヤト、お前は空を飛べる召喚獣があるんだし、発動後のソルセリー救出の為に後発にするべきだろう?」
「自分もそう思います、先発は我々に任せ、隊長は救出の方に力を注いだらと思います」
ベルフとライカがそう言うが‥‥
「いや、だってさ要するに、ソルセリーを置いてきてからまた行くだけだろ? 俺は空も飛べるし余裕だろ」
「ハヤト、そう簡単な物じゃないぞ、先発は敵が逃げなければその場にとどまって相手をしなければならないんだぞ」
ベルフにそう言われ、俺はタクティアの方に目を向け
「あの時の捕虜ってもうマシェルモビアに帰っているのかな?」
「えーっと、シルベでしたか勇者の家系の、あの女兵士はもう既にマシェルモビアに捕虜の交換で帰還していますね」
「なら俺に殺された人間は魂を喰われるって事も知れ渡っているはずだよな、だったら俺が先発にいた方が敵兵も諦めるんじゃないかな?」
あの時トルリ・シルベに言った嘘、それは俺に殺された者は、生まれ変わることなく魂まで喰われる、死んだら必ず生まれ変わると信じているこの世界の人達に取って、魂まで喰われ生き返る事が出来ない事は絶望にも似た恐怖になる、そんな事の出来る俺がいたら間違いなく敵兵は恐怖するだろう
最近のハルツールに広まっている噂だと、喰われる時にはかなりの激痛を伴い、永遠の中で苦痛を味わうというデマまで広まっている、いい迷惑だけど、そのおかげで俺に絡んでくる人がいないので何となく楽である
「‥‥なるほど」
「そうですね、ハヤト隊長は先発の方がいいかもしれませんね」
「よし、なら決まりだね」
こうしてハヤト隊の先発はソルセリーはもちろんの事、俺とベルフ、ライカになる、後発はタクティアとエクレールになった。
でも‥‥タクティアが来ても役に立たないだろうに‥‥
「それでですがハヤト隊長」
「なんだろ?」
「トンネルの件なんですが、ヨルド要塞のトンネルはかなりの数で、その長さもかなりの物でした」
「うん、そうだね」
トンネルの調査はひと月たった今でも続いている、あの魔道具がある限り幾らでも発見しにくい出口が作られるからだ。
「あれだけの数のトンネルを掘っているという事は‥‥可能性ですが、要塞の地下に巨大な地下要塞を築いている可能性があります」
「うん」
「もし私がヨルド要塞の指揮をしているのなら、上の要塞を犠牲にしてでもソルセリーを打つことに全てを掛けるでしょう、要塞自体の敵兵の数は完全には把握できていません、なので‥‥」
「なるほどね、分かった、やるとしたらソルセリーを迎えに行った時になるだろうね」
「ええ、お願いします」
皆で作戦が実行されるその日の事を話している間、ソルセリーは目を閉じたままずっと無言だった
◇◆◇◆
作戦決行当日、いつ決行するかは今日の朝まで知らせられなかった。それはもし情報が洩れていたら‥‥というタクティアの考えから来ている
部隊について、先発は小隊規模の部隊を複数作り要塞の周りを囲み、一気に要塞を目指す。これはソルセリーがどこにいるのかを隠すため、敵要塞には大型の『探知』魔道具があるとされているが、個人の識別までは当然出来ない、これで出てくる敵兵を分散させる
そして先発の部隊の後ろには後発の部隊を待機させる、これも小隊規模の部隊をそれぞれの先発隊の後ろに付けるため複数用意している。
本命とされるソルセリーがいる先発隊の後ろ、後発の部隊にはポージュとアルフレッドがいた。この二人とも結構縁が深いなーと思う
俺の隣にはソルセリーがいて、よく見ると少し震えているように見える、そのソルセリーに
「怖いか?」
と、聞いてみる、別に怖くなんかないわ! フン! とか返されると思ったが
「ええ怖いわ」
普通だった、普通に怖いと言われた。ここまで来てそう来るか‥‥でも当然の反応かな
「大丈夫だよ、直ぐに迎えに行ってあげるから」
ソルセリーは震える体で
「ええ、早く迎えに来てよね」
ほんの少しだけほほ笑んだ
・・・・
・・・・
先発は作戦決行時間になると一斉にヨルド要塞に突撃する、そして目的地に付くとソルセリーが詠唱するのだけど、『消滅』魔法は詠唱が始まると、どこで詠唱しているのか? 魔法の効果範囲はどこまでなのか? までが分かってしまう
詠唱が長いのでその間に敵兵に近づかれるし、詠唱を始めた時点で場所が分かってしまうので、いくら分散して分からないようにしても、結局はソルセリーの居場所が判明してしまう
なので複数の部隊につられ分散した敵兵を、発動までの間、いかに足止め出来るかが他の先発の部隊の役目となる
「作戦開始まであと5分です」
突撃の時間を確認する兵士の一人が俺達に告げてくる
「了解」
そうだそうだと思い、ソルセリーと同じ先発の部隊になった隊員達全ての体に『耐壁』を付与する
「おお!」
「ありがとう!」
などお礼を言われたが、一時とは言え同じ部隊になったんだからこれ位はしておこう
「残り30秒」
「さあ、さっさと終わらせるぞハヤト」
「ああ、サーナタルエに戻ったら皆で飲まなきゃいけないし、セクシー担当のデュラ子に新しい服を買ってあげなきゃいけないしな」
「20秒」
「えっ? 隊長はお付き合いしている女性がいるんですか?」
「いや違うよ」
「ならお子さんがいるんですか」
「10秒」
「ハヤトの言っているのは自身の召喚獣の事だぞ」
「えっ? 召喚獣?」
「5秒前」
「4」
「3」
『収納』から口の部分だけを外したあの懐かしい仮面を取り出し、装着する
「1」
「0、作戦開始時間です」
ソルセリーを含む先発隊はヨルド要塞に向けて走り出した。
「『消滅』魔法を使った後は飛べないからだ」
「それは分かっています! ただソルセリー保護の為には竜翼機を飛ばす必要があるんです!」
「何度言ったら分かる、飛ばせないものは飛ばせないんだ。長距離の高射砲だって向こうは持っているし、相手だって風が乱れる中飛ばせるはずないだろ、それくらい分かっているはずだ」
「ラブル中佐、貴方は竜翼機のパイロットと機体、そしてソルセリーの命、どちらが大切だと思っているんですか!」
・・・・・・・・
このやり取りが、先程のラブル中佐とタクティアとの出来事
軍本部からの命令で、ソルセリーの『消滅』を使いヨルド要塞の破壊が命じられた。
本部直接の命令となると、幾ら俺が破壊の一族の隊を率いる隊長でも、拒否する事は出来ない。
しかし、やるかやらないかは、ソルセリー本人の意思にゆだねられるが、彼女は決断した。
俺とタクティアはもしソルセリーがやると決断した事で、『消滅』魔法発動後のソルセリー確保の為、竜翼機を使用することをラブル中佐に進言するため指令室に赴いた。
結果はNO、少しでも作戦を成功させるためにとタクティアは頑張ったが、ラブル中佐は許可しなかった。
『消滅』を使った直後、そしてその後暫くは風が大きく乱れ、竜翼機での飛行は困難を極めると言う、熟練のパイロットでも飛ぶことすら難しい
俺の右側を歩いているタクティアはとても機嫌が悪い
それまで怒った姿など見たことが無いタクティアだけど、いつもニコニコしている人が急に怒ると正直怖い、内心ドキドキしつつ、びびっている事をバレないように無表情を貫いている
辺り一面焦土と化す『消滅』魔法、タクティアは一貫して使用を拒否してきた。
破壊の一族が『消滅』を使い完全に成功した事例は殆ど無く、魔法は発動成功したが、その直後に救助が間に合わず討たれたり、詠唱中に攻撃を受け死亡するケースばかりだと言う
「破壊の一族は身代わり」
それが、今の時代の考え方だとタクティアは言っていた。
一族の一人を生贄に出すから追撃は止めてくれ、一人差し出すから撤退させてくれ、これが今のハルツール、マシェルモビアの兵の中での暗黙の了解
◇◆◇
『消滅』を使い要塞を破壊しろと連絡が入ったその日、ソルセリーはずっと俯き、深く考えているようだった。
「ソルセリーがどう選択しようと俺はそれを支持するぞ」
ベルフがソルセリーに言った言葉、エクレールとライカも似たような事を言っていた。
どちらでもいい‥‥そういう言い方だったが、この3人の気持ちとしては「是非やってくれ」だろう、正直こんな言い方は卑怯だと思う、相手に選択権がある様に見えるが実際はそうではない、この3人以外にもラブル連隊、そしてこのキャンプ地にいる軍人全てがソルセリーの『消滅』魔法の使用を望んでいると思う
それほど『消滅』魔法は一気に戦況を一変させる力があるからだろう、このキャンプ地に駐留する者達の仕事は主に、マシェルモビア軍との戦いになる、その戦いの中で仲間を失い敵兵士に恨みを持っている者も多いだろう、ベルフだってそうだ。
優秀だったベルフは軍学校卒業後、そのまま破壊の一族の部隊に配属される事となった。
彼はソルセリーの2人の姉はもちろんの事、その父親とも面識があった。
ベルフはマシェルモビアの兵士に対して恨みを言ったことは一度もない、ただ彼の心の奥底にある憎しみは相当の物だと思う
それはソルセリー本人にとっても同じこと、自身の父や姉達が敵の兵の手によって殺害された事を深く恨んでいると思う
「私は反対ですよ! ソルセリーは破壊の一族最後の一人なんです、『消滅』魔法の成功例は極めて低いんです、要塞のトンネルを潰したとしても、また新しくトンネルを作らないとも限らないし、それにあの要塞には実際の所、どのくらいの兵がいるかも分かっていないんです!」
あんなに声を荒げて反対するタクティアを俺は初めて見た。
それこそ必死にソルセリーに拒否するように迫るが‥‥
「‥‥隊長」
ソルセリーが俺の方を向いて問いかける
「隊長は今回の作戦‥‥私が『消滅』を使って要塞を破壊する事について‥‥どう思っているのかしら」
いつもの力強い口調とは違い、少し弱々しい感じがするソルセリーはじっと俺の方を見つめていた。
一方の俺は甘くて甘くて仕方のないパナンを、嫌々食べている所だった。
苦痛にも思えるこの甘さに対して俺の眉間にはしわが寄せられている、傍から見ると、ソルセリーの『消滅』の事で深く考えている様には見えるだろう、ただ、俺はソルセリーの事を深くは考えていなかった。
どちらにせよソルセリーの心は既に決まっているし、最終的に決めるのはソルセリーだ。
だから‥‥
「ソルセリー家の名誉の為に‥‥だったら俺は反対するよ、ただ、親兄弟の仇が取りたいって言うなら俺は反対しないよ」
どちらの為に戦うか、それを自分自身で知ってもらうために俺はそう答えた
「ハ、ハヤト隊長!」
多分このキャンプ地にいる兵士の中で、唯一反対であろうタクティアが慌てるように声を発する
結局、俺の一言でソルセリーは自身の『消滅』を使用する事を決めた。
その日の夜、俺はタクティアと外で話をしていた
「ハヤト隊長が賛成するとは思っていませんでしたよ」
タクティアの最初の言葉がそれだった
「意外だった?」
「ええ、意外も意外まさか‥‥って感じでしたね」
「そっか‥‥でもソルセリー自身の中では結論が出ていただろうし、決断が早くなるか遅くなるかの違いだと思うよ」
「‥‥ハヤト隊長が前に言ってましたよね、『軍にとって良い上官は効率よく自軍の兵を殺すのが良い上官』だって‥‥」
「確かに言ったね」
寝る前タクティアにする「今日のお話」の時に確かに言った。
もちろん漫画の知識だ。
「今はその時ではないと思うんです、破壊の一族はサコナ・ソルセリー1人しかいません、その最後の1人を失ったらどうなるか? ハヤト隊長だってわかるでしょう?」
よく分かる、ソルセリーは『核弾頭』の様なもので、持っているだけで効果がある
「分かるけど、なら何でソルセリーをこの隊に入れたの?」
「それは、辞めると思っていたソルセリーが軍に残るって聞いた上で、この部隊に入れてしまった方がかえって安全だと思ったんです‥‥それをあのクォーモリが‥‥」
タクティア曰く、このクォーモリって言う人が今回の作戦を立てたという、このクォーモリは能力は無いが、やたらと大きい派閥を持っているらしく、作戦の良し悪しは別にして何でも数で押し通すらしい
ソルセリーの姉達がまだ生きていた頃、ソルセリー達3姉妹の所には毎日のようにお見合い写真が届くらしいのだけれど、3姉妹はそれを全部断っていた。
その中に、このクォーモリも自分で写真を送っていたらしく、見事に見向きもされず周りから笑われていたと言っていた。
俺がソルセリーを救出しに向かったあの時、ソルセリーに課せられた作戦は、実はこのクォーモリが立てた作戦だった。
周りからは私怨であの作戦を立てたと噂されていたらしい
今回、サコナ・ソルセリーの『消滅』を使ったこの作戦も、このクォーモリが立てた作戦である
タクティアと考えを同じにする幹部達が、必死になって止めたにも関わらず、数によってこの作戦が通ってしまった。
作戦を失敗してソルセリーを失いたくはないが、成功するとこのクォーモリの手柄になってしまう、タクティアからしたらどっちも嫌だろう‥‥
その憎々しげにしているタクティアに、何で賛成に回ったか言う事にする
「タクティアはさぁ、目の前で仲間が殺されるのを見たことはある?」
「‥‥いえ、ありませんが」
「酷いもんだよ‥‥助けたくてもこっちがいっぱいいっぱいでね、助けに行けないんだよ、それでちょっと目を放した隙にで殺されていたりとかね‥‥ついさっきまで普通に話とかしていたのにね。
魔物‥‥に殺されたら、まぁ、仕方ないとまでは言わないけれど、仕方ないと感じるよ、でもね、人に殺されてしまったらやっぱり‥‥恨むと思うんだよね、何故か? って聞かれたら分からないと答えるしか出来ないんだけど‥‥
ベルフに聞いたけれどさ、ソルセリーの父親と姉の遺体は酷かったらしいね、何もここまで‥‥って位だったってベルフが言ってたよ‥‥
それまでずっと悩んでいたソルセリーが、俺の言った事で決断したって言うんなら、やっぱりソルセリーも仇が打ちたいんだと思うよ」
「・・・・・・」
「タクティアの言っている事もよく分かるし、実際そっちの方が正解だと思う、タクティアの仕事は兵士を駒の用に動かして作戦を成功させる‥‥タクティアからしたら、その駒の一つが無くなるかもしれないんだから当たり前だと思う‥‥でも、今回だけは許してもらえないかな?」
タクティアは何も言わなかった、納得できない部分があるかもしれないけれど、了承はしてもらえたと思う
◇◆◇
という訳でラブル中佐説得に失敗し、建設許可も得ずに勝手に立てた家に戻る途中だった。
そしたら遠くの方から‥‥
「「「せんぱーい!!」」」
誰だか分からない3人の野太い声が聞こえる、その声につられて振り返ると‥‥
「‥‥あ! お前ら!」
いかつい顔でにこやかに笑い、手を振りながら走ってくる世紀末風3人組
「ういっすハヤト先輩!」
「会いたかったすよ!」
「おひさしぶりっす!」
「おお~! お前ら元気してたか!?」
俺の前には軍学校時代の後輩、ドルバ、ユーロス、ポンドラスがいた。あまりにも懐かしい顔ぶれで笑みがこぼれる。
「俺らは元気っすよ! それよりも先輩聞きましたよ! 召喚者なのに破壊の一族の隊長になったらしいじゃないですか! おめでとっす!」
「「おめでとっす!!」
「いやいや! わざわざありがとう!」
そこまで言って3人は隣にいたタクティアに気付いたのか「はっ」とした様子でタクティアに向かって敬礼をする、対するタクティアは先ほどまでの不機嫌な顔から一遍、普段見せるような顔になり「いいよいいよ」と手を振る
「所でお前達は何でここにいるの?」
こいつらが軍学校を卒業して3年ちょっとのはずだけど?
「俺ら卒業してすぐにこっちに配属なったんす、ハヤト先輩から教えてもらったあの『探知』魔法のおかげで俺ら引っ張りだこっすよ、今やハルツール軍の精鋭っすね」
卒業してすぐ最前線に送られたのか‥‥それはちょっと
「ちょっとこっちに来るの早すぎない? 普通は何年か経験を積んでから来ると思うんだけど」
「なに言ってんすか、大陸深部帰りの先輩に言われても説得力ないっすよ」
「4人で通過したって聞いた時は興奮しましたよ」
「さすが先輩っす」
「ん、そう? そう言われると俺も大げさな事言ったかもな」
「「「「あーっはっはっは」」」」
やたらと持ち上げてくる3人の相手をしていると、何だか気持ちいい気分になる
3人はそれぞれ部隊は違うものの、マシェルモビア攻略組として最前線で戦っているという、今まで姿を見なかったのは、ヨルド要塞があるせいで侵攻できず、ラブル連隊がヨルド要塞を攻略するまでの間一時的に休暇を貰っていたと、そして要塞攻略の目処が立ったのでまたこのキャンプ地に戻ってきたと言っていた。
要塞攻略の目処というのは間違いなく『消滅』魔法の事だろう、俺の右隣りで待っているタクティアには悪いけれど久しぶりの3人との会話は楽しく、暫く語り合った。
「俺らの部隊は、要塞攻略時に陽動として他の砦なんかに攻撃を仕掛けるらしいっすから、先輩とは別になりますね」
何となく残念そうにする3人組に‥‥
そうだ!
「お前らにコレやるよ」
『収納』に仕舞ってあったノートの切れ端を取り出す
「劣化版の地下の『探知』魔法の資料は指令室にあるけれど、これはそのオリジナルバージョンの方だから、興味があったら覚えてよ」
「「「いいんすか!!」」」
「おう」
3人組にオリジナルの魔物、生命に反応する地下の『探知』魔法陣が記された紙を渡す、本来、元フレックス隊のアルフレッドが欲しいと言ったので、ノートの書いてある部分をビリリと破り渡したのだけど
「すまない、俺には無理だった‥‥」
暫くその紙を見た後、そう言って魔法陣の書かれた紙を返して来た、魔力量の関係だと思う、ただ目の前の3人は召喚者なので多分大丈夫だと思う
「発動にはこんな感じの杖が必要だから」
『収納』から地中『探知』用の杖を出して見せる
「デザインが‥‥そのちょっと駄目だ━━」
「「「かっけぇー!!」」」
え?
「かっこいいっすよ先輩」
「ちょー趣味いいじゃないっすか!」
「こっちの方でも食っていけるっすね」
大絶賛された‥‥
そうかな? でも‥‥そう言われるといいかもしれないな‥‥
「まあな! 俺の自信作だからな!」
今まで正直自信なかったけど、3人が言うんなら間違いないだろう、そうか‥‥この杖は実はかっこよかったのか‥‥知らなかった。
持ち上げられて更に調子に乗った俺は
「お前らの中で『火』と『土』、同時に契約出来たやつはいたか?」
「あ、俺っすね、俺っす」
俺の問いに、口髭が特徴のユーロスが手を上げた
「そうか」
魔法を改良するために取っているノートを取り出し、その内の2枚をビリビリと破く
「「「あっ!」」」
普通は大事にしておく、魔法を改良したノートを破いたことに3人は驚く
「ユーロスにはこれをやろう」
ノートから破いた2枚をユーロスに渡す
「これは大陸深部でワームを倒す為に作った魔法だ。設置型の「置き土産」と餌として使用する「たこ焼き」だ。これと地下の『探知』を組み合わせればワームは雑魚になるからな、興味があるなら覚えてくれ」
俺の手から恐る恐る破いたノートの破いたページを手に取り、食い入るようにそれを見るユーロス、すると次第に手が震え嗚咽を漏らす
「こ、こんな凄い物まで教えてもらって‥‥お、俺! スゲー感動したっす! 先輩に一生ついて行くっす!」
ユーロスは泣きながら俺に言ってきた。
あれぇ? 泣くようなことだった? ここは俺が払っておくよ的な感覚で渡しただけなんだけれどな‥‥
「お前ならきっと習得できるからな、俺が保証する」
ユーロスの肩を叩く
「うっ‥‥はい!頑張るっす!」
号泣気味のユーロス、他の二人も目頭を拭いたり上を向いたりしていた、何となく湿っぽくなった時、タクティアが俺の腕をつんつんと突っつく
あ、そろそろ行きたいのね
「それじゃあ俺は他にやる事があるから、そろそろ失礼するよ」
「「「うっす!!!」」」
3人は目に涙を浮かべたまま俺に頭を下げ見送っていた。
・・・・・・
・・・・・・
多少ハートフルな時間を過ごしたからか、タクティアはいつものにこやか‥‥とはちょっと遠いが、険しさが薄れてきていた。
「竜翼機は出せないと言われたのか‥‥」
ベルフが机の上で両手を握り締める
夕食後、無許可で建てた家の居間で今日の出来事を話す
「何となくそんな気はしていたが、やっぱりそうか‥‥」
エクレールがため息をつく
「駄目と言うなら、発動後に全力で救出に行くしかないですね」
ライカが思案顔で天井を見る
「ええ、発動後は召喚獣カーネロを持つ召喚者の出番となるでしょう」
皆を見渡すタクティア
「・・・・・」
ソルセリーはずっと目を閉じたままだった
「私達ハヤト隊はラブル連隊とは別枠という事になっていますから、先発・後発どちらでも自由に選べる事になっています」
先発とは、ソルセリーを魔法発動地点まで付き添い、魔法発動直前までソルセリーを守る事になる。
ソルセリーを討とうと敵兵が諦めず、逃げなかったら先発の兵も逃げることは出来ない、最も危険を伴う役割になる
後発とは、『消滅』発動後に動けなくなったソルセリーにいち早く駆け付け、救出する役割になる。
これは主に、人を乗せて走ることの出来る、虎に似た召喚獣カーネロを持つ召喚者の役目になる事が多い
「なら俺は先発に志願しようか」
「では自分も」
ベルフとライカが先発に志願する
「私もそうしよう」
エクレールもそう言うが‥‥
「いえ、エクレールは私と後発になります」
「何故だ、タクティア殿」
「『癒し』を持っているからです、先発で怪我をして戻ってくる者もいるかもしれませんし、発動後は乱戦になるでしょう、その時に怪我を治せる者がいないとコチラが不利になります、ラブル連隊の方でも『癒し』持ちは後発になると思います」
「そうか‥‥分かった、それに従おう」
エクレールは無念そうにそう言う
「それでハヤト隊長は‥‥」
「俺? 先発にするよ」
「まてハヤト、お前は空を飛べる召喚獣があるんだし、発動後のソルセリー救出の為に後発にするべきだろう?」
「自分もそう思います、先発は我々に任せ、隊長は救出の方に力を注いだらと思います」
ベルフとライカがそう言うが‥‥
「いや、だってさ要するに、ソルセリーを置いてきてからまた行くだけだろ? 俺は空も飛べるし余裕だろ」
「ハヤト、そう簡単な物じゃないぞ、先発は敵が逃げなければその場にとどまって相手をしなければならないんだぞ」
ベルフにそう言われ、俺はタクティアの方に目を向け
「あの時の捕虜ってもうマシェルモビアに帰っているのかな?」
「えーっと、シルベでしたか勇者の家系の、あの女兵士はもう既にマシェルモビアに捕虜の交換で帰還していますね」
「なら俺に殺された人間は魂を喰われるって事も知れ渡っているはずだよな、だったら俺が先発にいた方が敵兵も諦めるんじゃないかな?」
あの時トルリ・シルベに言った嘘、それは俺に殺された者は、生まれ変わることなく魂まで喰われる、死んだら必ず生まれ変わると信じているこの世界の人達に取って、魂まで喰われ生き返る事が出来ない事は絶望にも似た恐怖になる、そんな事の出来る俺がいたら間違いなく敵兵は恐怖するだろう
最近のハルツールに広まっている噂だと、喰われる時にはかなりの激痛を伴い、永遠の中で苦痛を味わうというデマまで広まっている、いい迷惑だけど、そのおかげで俺に絡んでくる人がいないので何となく楽である
「‥‥なるほど」
「そうですね、ハヤト隊長は先発の方がいいかもしれませんね」
「よし、なら決まりだね」
こうしてハヤト隊の先発はソルセリーはもちろんの事、俺とベルフ、ライカになる、後発はタクティアとエクレールになった。
でも‥‥タクティアが来ても役に立たないだろうに‥‥
「それでですがハヤト隊長」
「なんだろ?」
「トンネルの件なんですが、ヨルド要塞のトンネルはかなりの数で、その長さもかなりの物でした」
「うん、そうだね」
トンネルの調査はひと月たった今でも続いている、あの魔道具がある限り幾らでも発見しにくい出口が作られるからだ。
「あれだけの数のトンネルを掘っているという事は‥‥可能性ですが、要塞の地下に巨大な地下要塞を築いている可能性があります」
「うん」
「もし私がヨルド要塞の指揮をしているのなら、上の要塞を犠牲にしてでもソルセリーを打つことに全てを掛けるでしょう、要塞自体の敵兵の数は完全には把握できていません、なので‥‥」
「なるほどね、分かった、やるとしたらソルセリーを迎えに行った時になるだろうね」
「ええ、お願いします」
皆で作戦が実行されるその日の事を話している間、ソルセリーは目を閉じたままずっと無言だった
◇◆◇◆
作戦決行当日、いつ決行するかは今日の朝まで知らせられなかった。それはもし情報が洩れていたら‥‥というタクティアの考えから来ている
部隊について、先発は小隊規模の部隊を複数作り要塞の周りを囲み、一気に要塞を目指す。これはソルセリーがどこにいるのかを隠すため、敵要塞には大型の『探知』魔道具があるとされているが、個人の識別までは当然出来ない、これで出てくる敵兵を分散させる
そして先発の部隊の後ろには後発の部隊を待機させる、これも小隊規模の部隊をそれぞれの先発隊の後ろに付けるため複数用意している。
本命とされるソルセリーがいる先発隊の後ろ、後発の部隊にはポージュとアルフレッドがいた。この二人とも結構縁が深いなーと思う
俺の隣にはソルセリーがいて、よく見ると少し震えているように見える、そのソルセリーに
「怖いか?」
と、聞いてみる、別に怖くなんかないわ! フン! とか返されると思ったが
「ええ怖いわ」
普通だった、普通に怖いと言われた。ここまで来てそう来るか‥‥でも当然の反応かな
「大丈夫だよ、直ぐに迎えに行ってあげるから」
ソルセリーは震える体で
「ええ、早く迎えに来てよね」
ほんの少しだけほほ笑んだ
・・・・
・・・・
先発は作戦決行時間になると一斉にヨルド要塞に突撃する、そして目的地に付くとソルセリーが詠唱するのだけど、『消滅』魔法は詠唱が始まると、どこで詠唱しているのか? 魔法の効果範囲はどこまでなのか? までが分かってしまう
詠唱が長いのでその間に敵兵に近づかれるし、詠唱を始めた時点で場所が分かってしまうので、いくら分散して分からないようにしても、結局はソルセリーの居場所が判明してしまう
なので複数の部隊につられ分散した敵兵を、発動までの間、いかに足止め出来るかが他の先発の部隊の役目となる
「作戦開始まであと5分です」
突撃の時間を確認する兵士の一人が俺達に告げてくる
「了解」
そうだそうだと思い、ソルセリーと同じ先発の部隊になった隊員達全ての体に『耐壁』を付与する
「おお!」
「ありがとう!」
などお礼を言われたが、一時とは言え同じ部隊になったんだからこれ位はしておこう
「残り30秒」
「さあ、さっさと終わらせるぞハヤト」
「ああ、サーナタルエに戻ったら皆で飲まなきゃいけないし、セクシー担当のデュラ子に新しい服を買ってあげなきゃいけないしな」
「20秒」
「えっ? 隊長はお付き合いしている女性がいるんですか?」
「いや違うよ」
「ならお子さんがいるんですか」
「10秒」
「ハヤトの言っているのは自身の召喚獣の事だぞ」
「えっ? 召喚獣?」
「5秒前」
「4」
「3」
『収納』から口の部分だけを外したあの懐かしい仮面を取り出し、装着する
「1」
「0、作戦開始時間です」
ソルセリーを含む先発隊はヨルド要塞に向けて走り出した。
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