異世界陸軍活動記

ニボシサービス

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悪魔召喚

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 ああ‥‥やってしまった
 俺は召喚してはいけない者を召喚してしまったようだ

 魔法陣の中には漆黒の姿、頭部には太く捻れた角を蓄え、心の奥底を射抜くような目をした、悪魔と呼ばれる存在がが立っていた。

 バフォメットと呼ばれたその悪魔は、契約が済むのをじっと俺を見つめたまま待っていた。







 ◆◇◆◇

「さあ、本日2体目の召喚獣の契約をしに行くよ」

「もう1体あるのか!」

「あれベルフは飽きちゃった? なら帰るかい?」

「もちろん見て行くぞ! お前達はどうだ?」

「「「見るー!」」」

 貴重な召喚獣の契約がもう一回見れるとあって、ベルフ家のテンションは最高潮に達していた。6男の子も嬉しそうだ。

 本日2体目の召喚獣の名前は『ネルコ』、このネルコと呼ばれる召喚獣には攻撃能力は全く無い、形は真ん丸で透明なスライムのような、弾力のあるゴムまりみたいな召喚獣だ。
 ネルコは召喚獣には珍しく、召喚者によって体の色が変わる、赤だったり青だったり様々だ。

 このネルコは、召喚者の間ではかなりの人気のある召喚獣となる、理由としては掃除をしてくれるから、コロコロ部屋の中を転がり、埃や汚れなどをキレイにしてくれる。
 家具の隙間などは小さく分裂し、細い所までも入ってキレイにしてくれる、召喚者でなくても欲しい召喚獣になる

 俺は『洗浄』魔法を使えるので、掃除のためにネルコを契約する意味はない、ただ、俺も年を取り寝たきり老人になったとしたら? その時のことを考えるとどうしても欲しくなる
 
 という事で、本日2体目の召喚獣契約の場に移動してる、後ろから付いてくるベルフの車からは相変わらず「パナン」の歌が聞こえて来ていた。


 ・・・・

 ・・・・

「次はネルコか、地味だからあまり面白くはないかもな」
 ベルフがほんのちょっとだけ、がっかりしたような言い方をする。

「わー、可愛いー」
 『オロチ』を召喚した時に泣いていた一番下の子が、契約の間に映し出されている映像を見て喜んでいる、コロコロ転がる様子はさしずめ、お掃除ロボット『ル○○』のようだ。

 ただ、俺は近所でも有名な「おもしろ召喚者」、このままの姿で召喚するはずがない、もしそのままの姿で契約したら、召喚獣研究所の人から愛想をつかされてしまうだろう
 普通の人だったら出来ないが、俺だったら形や性能を変えることが出来る、最近では多少形が変えられる人も出て来たみたいだが‥‥

 召喚獣は元々出来る事、そしてその能力に沿っていたら性能まで変えられる、結構ガバガバでもある、ハルツールの情報並みにガバガバである

 まずネルコの能力は『掃除』それだけ、ただ大きな範囲でいうと『家事』に当たる。
 『掃除』『料理』『掃除』『買い物』など

 だったら掃除だけでなく家事もやらせたい、しかし出来ない理由がある、それは体が真ん丸だから、なら形を変えてしまおう、家事が出来る姿とは?
 それには人型にしなければならない、会話も出来るようにしたい、一番理想的な姿は? 

 最初俺の母親を思い浮かべたが、すぐにそれは無いと首を振った。専業主婦の家の母は要領がいい、家事をササッとすまし、いつもテレビを見ていた。
 「要領がいい」と言うのはつまり手を抜くという事、掃除をしていない所はあるし、夕飯もスーパーの総菜がよく出て来ていた。
 魚を一匹、丸々捌ける人だったけど手を抜くときはがっつり抜くし、ゴミ出しは父親にやらせるなどしていたので、母親・主婦=手抜き、というイメージがある。
 手抜きが悪いとは言わないが出来ればきっちりして欲しい、なので次に思い浮かべたのがセバスチャン、いわゆる『執事』である。

 「お呼びでしょうか旦那様」と礼儀正しく仕事も完璧、万能で何でも出来る、一人いたら家の事は完全に任せられる完璧な職業である

 漫画で読んだ偏った知識だけど



 召喚魔法陣に手を触れ魔力を流す
 呼び出す召喚獣の形は『執事』、名前ももう既に決めてある、タスブランカで「フェルド」としてリテア様の護衛していた時、その館にいた天才料理人「ラグナナ」さん
 そこからマイナス1したら伝説の聖剣になるような名前、もし生きていたら将来ハルツールで1番の料理人になったであろう人、その人の作る料理は聖剣のような名前に劣らないくらい美味しく、俺の中では天上の料理人。その人が作る料理はまさに『聖剣』だった。
 
 惜しい人を亡くしてしまった。

 そのラグナナさんから名前を頂いて、今姿を現そうとしている召喚獣には『ラグナ』と名付ける、魔法陣の中に煙が充満し、後ろで見ているベルフ一家から歓声が上がる、本日2度目だが召喚獣の契約自体見れる事ほぼ無く、ベルフはもちろんの事、俺に憧れている6男はもちろん、最初の召喚獣で泣き出した下の子もキラキラとした目で、魔法陣の煙から出てくるであろう召喚獣に期待していた。

 執事と言えばむかし、羊と区別がつかなかった「しつじ」と「ひつじ」非常に紛らわしいし、今でも間違う事がある。

 魔法陣の中に煙が充満し形が作られている最中
 
 あれ? 「ひつじ」じゃなくてメイドの方が良かったかな?

 最初から決めていたのにも関わらず、ふいにそう思ってしまった。

 いや、駄目だ今更変えられない、最初に決めたように「ひつじ」にしておこう、「ひつじ」「ひつじ」と‥‥‥‥あれ? ひつじ? ひつじ、ひつ、ひ・・・し、しつじ、ひ?し、しつじ! そう、執事

 その時、魔法陣の中の煙の動きが少し変わる、物凄く嫌な予感が頭をよぎる

 あっ! まずい、余計な事を考えたから! 執事だぞ! 羊じゃない! 羊は駄目羊じゃないぞ! 羊は駄目だ!
 
 4足歩行の羊が出てきたら元も子もない、家事なんかできるはずないし、やれることとしたら伸びた毛を回収する事しかない、それだけは駄目だ!

 羊は駄目羊は駄目羊は駄目羊じゃない羊じゃない執事だ

 念仏のように唱え姿を修正する、するとまた煙の動きが変わった。どうやら軌道修正出来たようだ

 ふぅーあぶね

 軽くため息が出てくる、何とかなったようだ。今吹いた息に押し出されるように魔法陣の煙が散っていく、姿を見せ始めた召喚獣は2本脚だった。

 よかったぁ、羊を見事に回避したよ

 魔法陣の中の煙が薄くなってくると、その姿が少しづつ鮮明になってくる。

 黒のズボンか、黒ってのが執事っぽいな‥‥あれ? ズボンじゃない、毛? 毛なの? 結構剛毛な‥‥‥‥

 ゆっくりと視線を上げていき‥‥‥‥

「ひっ!」
 そこから思いっきり飛びのいた。

「「おおー!」」
「いやだぁー!」
 後ろからはベルフ一家の感嘆の声と、下の子の悲鳴が聞こえる、俺の今の心境も下の子の反応に近い

 完全にその姿を現した召喚獣の姿は、俺が昔ハマった悪魔を仲間に出来るゲームに出てくるキャラに似ていた。
 足は蹄で体の殆どが黒い毛で覆われ、胸から腹にかけては毛が無く剥き出しの筋肉が主張している、手の形は一応人の手をして、背中には黒い羽、そして顔は人の顔ではなく角の生えたヤギの顔が付いていた。

 羊が駄目と強く念じたからヤギの顔になったのか? どちらにせよ、これと契約するのはいささか危険では‥‥‥
 とは思ったが戦闘能力は無く家事の能力しか付いていないはず、多分問題ないかな?

 出て来た召喚獣と契約を果たすと光の粒となり消えていった

「ハヤト今度も見せてくれるんだろ?」

「うん、大丈夫だよ」

「だったら早く見せてくれ、お前らも外に行くぞ」
 「わぁー」と叫びながら外に出ていくベルフとその子供達、そしてお母さんに手を繋いでもらって泣きながら出ていく下の子供、その後に続いて俺も契約の間を出て行った。



 ・・・・
 
 ・・・・

「召喚・ラグナ」

 現れた姿に喜ぶベルフ一家とまた泣き出す下の子供
 ‥‥下の子供にとって、召喚獣がトラウマにならけければいいなーと節に願う

「お呼びでしょうか旦那様」
 身長2メートル程の悪魔が俺に向かってうやうやしく一礼する

「「「しゃべったー!」」」

「コレも喋るのか!?」

「そういう風に設定した」

 悪魔の姿をしたその召喚獣は顔を上げた後、そのまま姿勢を正し俺の言葉を待っている、羊特有の逆間接の足を持っているせいか、直立しても少しガニ股になるのが少し残念でもある

「お前は一体何が出来る?」
 まずは能力の確認

「家の仕事の事でしたら完璧にこなす自身がございます」

 よし! ねらい通り

 能力は俺の考えたように出来たようだ。でもその背中についている羽は何ですかね? 家事に関係があるの?

 背中に付いている羽について聞こうと思った時、召喚獣のラグナの背中に何かが背負われているのを気付いた。

「ラグナ、お前は何を背負っているんだ?」
 カバンかな?

「これはメイド達ですね」
 ラグナはくるりと後ろを向くと、背中には1メートル程の背丈を持った人の形をしたものが、背中合わせで3体背負われていた。

 これには流石のベルフ一家もビクリと体を震わせる、もちろん俺もビビった。
 それって生贄とかじゃないよね

 ビビりながらも近くに寄ってみると、ラグナの背中に背負われていたのは、粗末な服を着た3人の老婆だった。顔や手がしわくちゃでかなりの高齢だと思われる

「‥‥全く動かないぞ? 死んでないよな」
 その老婆たちは背負われたまま、ピクリとも動かなかった

「失礼しました、この者達にも挨拶をさせなければいけませんね」
 ラグナはゆっくりとその場にしゃがむと、丁度3体の老婆たちの足が地面に着くようになった。
 「リフトオフ」その言葉が似合いそうな感じでラグナは3人の老婆を背中から降ろすと‥‥

「ひーぃっひっひっ、旦那様ワシらに何か用ですかの?」
「ひーぃっひっ、腹が減ってるんなら今すぐ支度をしましょうか?」
「ひっひっ、何なら夜の相手でもしようかね?」 ニタァ

 3人の老婆は餌を求める猫のように俺の周りを囲む、その内の一人は何故か俺の手を握り締めていた

 こ、怖ぇぇぇぇえ!!

 その話し方や姿が魔女を連想させる、3人の魔女は必要以上に俺の体をべたべたと触りだした

「ほっほっほっ、3人共旦那様にご迷惑を掛けてはいけませんよ、そういった事は夜にしなさい、太陽が出てる間は淑女でいるのが良い女性ですよ」
 ラグナがそう言うと、さささと下がっていった

「ひーぃっひっひっ、それもそうですねぇ」
「ひーぃっひっ、なら今日は精の付く食べ物を用意しないと」
「ひっひっ、夜が楽しみじゃの」 ニタァ

「おい! やめろ!」
 本気で否定してしまった。自分の召喚獣にこれほど恐怖を覚えたのはこれが初めてだ。

「旦那様、出来ればその者たちにも名前を頂けないでしょうか?」
 ラグナがこの魔女たちに名前を付けろと言って来た

「えー名前を付けろって? 分かったよ、じゃあこっちから『ひぃ』『ふぅ』『みぃ』だ分かったな」
 超適当、年寄りだからこの呼び方でいいだろう

「ありがとうございます旦那様」
 ラグナとひぃ・ふぅ・みぃは俺に一礼する

「取りあえずお前らもう戻れ」
 何となく疲れてしまった俺はこの4体に帰還を命じた。

「はい、御用がおありでしたらいつでも呼んで下さい」
 そういってラグナは魔女3体を背中に背負い消えていく

「‥‥‥‥はぁ」
 一息つきベルフ達の方を見ると、心なしか最初の時よりも離れているような気がする
「ベルフ、俺もう帰るよ何だか疲れてしまった」

「あ、ああ」

 ベルフ一家と別れる時に6男が「色々と凄かったです」と、興奮しているような引いているような感じで感想を述べてくれた。喜んでもらえて何よりです
 一家を見送り、さて、俺も帰ろうかと思いバギーに乗った時

「旦那様少しよろしいでしょうか?」
 「ぬっ」とラグナが急に姿を現した

「あああ!!」
 突然の登場で情けない声が出る
「何だよ!お前も勝手に出入り出来るのかよ!?」
 バクバク言っている心臓を抑える

「はい、旦那様のおかげで」

「俺何にもしてないよ」
 実際心当たりがない、俺の事をスルーしラグナは話を続けた

「旦那様にお願いがありまして、私も魔法契約がしたいのですが」

「魔法!? ああ、魔法ね! 何? 今から行けってか!?」
 いきなりの登場でビックリさせられたせいか、何となくコイツにきつく当たってしまう
「行くんなら今すぐ行くぞ! とりあえず一番近い所から‥‥」

「いえ、契約出来る魔法は私の方で分かっていますので、そちらに向かって頂けますか?」

「あん? 分かってる?」

「はい」

 ラグナは自分が契約出来る魔法を知っているようで、ラグナの言う通りに移動した。
 ラグナが契約出来た魔法は何と! 『火』『水』『土』『氷』『照明』『収納』『洗浄』の7種類、その日のうちに全て周る事が出来た。
 ラグナが契約出来た魔法は、背負っている3人の老婆たちにも適応されるようで、契約したのはラグナ1人だった。
 『火』とか『水』なんかも契約出来たので、攻撃も出来るのではないか? と思ったけれど、威力は大した事は無く、攻撃できるほどの物ではなかった。何でも家事で必要らしい。
 ついでに『オロチ』の方にも契約出来たらと思ったけど、そもそも大きすぎて施設の中に入れない
 ぐったりと残念そうに首を垂れるその姿は、除草剤を撒かれた草に見える。

 魔法契約も全て終了し、さて家に帰ろうかとした時
「旦那様、これから夕食の買い出しに行きたいのですが」

「ん? 家に一応食料はあるよ」

「はい、しかし先ほど旦那様に頂いた料理のレシピに乗っている食材がありませんので」
 もし生きていたら、ハルツールで最高の料理人になるはずだったラグナナさんから貰ったレシピ、それをラグナには既に渡してあった。

「何でお前が冷蔵庫の中身を知っているの?」

「坊ちゃま達から聞いております」

 坊ちゃま?
「ああそう、なら今からスーパーに行こうか」

「いえ、買い物なら私一人で充分です、旦那様はそのまま家にお戻りくださって結構です」

「そう? でも支払いがあるだろう」

「それも大丈夫です、旦那様の預金から直接払う事が出来ますので」

 ‥‥あ、ああ、ノームが勝手に買い物してた時みたいにか
「なら行って来てもらおうか、本当に一人で大丈夫なんだよな?」

「問題ありません、では行ってまいります」
 くるりとスーパーの方へと方向を変え歩き出すラグナ、後ろに背負っている老婆達が正直気持ち悪い、ラグナに背負われている老婆達を見ると、「姥捨て山」というイメージが浮かんでくる、これから捨てられに行くように見えてしまう
 
 この老婆達は、ラグナにくっついている時は全く動かないらしい、切り離されると個別に動く事が出来るようだ。
 まあそれは分かったけど、出来ればもっと若い女性の方が良かったなぁと思う、お年寄りに近寄られるとこれほど恐ろしいものだとは思わなかった、ただ単にあの3人だから恐ろしいだけかもしれないが

 徐々に遠くなる姿を見て
「本当に大丈夫かな‥‥? 魔物と勘違いされて通報されたり襲われたりしないかな」





 ◆◇◆◇

 エクレールはこれから来るお客の為、部屋を掃除し、そしてお茶の用意を済ました後、ソファーに座り報道番組を見ていた。


「明日、貴女の家に行くから」
「は?」

 昨日、いきなりソルセリーから連絡があり、全ての準備を整えた所だ。
 急に行くと言われても何しに来るのか分からないし、正直困るが自分でもソルセリーには逆らえないと分かっているのでどうしようもない

 ソルセリーの相手は何故だか自分の担当になっている、よく怒るソルセリーをなだめる役割を何度かしているうちに自然とそうなってしまった。
 他の男性隊員達からも、「同じ女同士仲良くやってよ」という心の声が聞こえてくる、要するに押し付けられている、別にソルセリーと一緒に居るのは嫌ではない、機嫌のいい時はすこぶる優しいし話しやすい、しかし機嫌が悪くなると一転、性格が真逆になる。そうなると誰もソルセリーに近寄らないし、私も恐る恐る彼女の相手をしている

「誰か変わって欲しい」
 そう思うも、ライカはスルーするし、タクティアはいつも撃退されてるし、一番ソルセリーと付き合いの長いベルフはいざとなったら逃げる、全く使えない男達ばかりだ。
 唯一の希望は隊長のハヤト、理由としては間違いなくソルセリーはハヤトの事が好きだ。これは他の隊員の満場一致で確定している、あれだけ露骨に態度がかわるからまるわかりだ。
 ソルセリーの機嫌が悪くなるのもハヤトが原因だったりする、一緒に行動出来ないと不機嫌になるし、ハヤトの女形の召喚獣デュラ子が出てくると圧倒的に機嫌が悪くなる

 ソルセリーも好きなら好きと言ってしまえばいいのに、もういい年なんだから子供みたいにただ待っているだけでは先に進めないぞ
 ‥‥いっその事くっ付けてしまおうか?

 エクレールは普段礼儀正しく振舞っているので、他の人からは誠実に見えるが、中身は結構考えていたりする、ハヤトとソルセリーをくっ付けてしまえば自分の負担が減るのではないかと‥‥‥‥
 

 そんな事を考えながら、ぼーっとソファーに座っていた

『続きましては━━』
 先ほどから報道番組を見ているが、考え事のせいで内容が頭に入ってこない

『昨日、サーナタルエに突如出現した魔物の情報について━━』
「ピンポーン」
 インターホンが家の中に鳴り響く

「おっと来たか」 
 ソファーから腰を上げ、玄関に向かう

 今日は機嫌がよければいいのだが

 ドアを開けるとそこには無表情のソルセリーが立っていた。

 さて、今日はどっちか?

「遊びに来たわ」
 それだけ言って勝手に家の中に入ってきた
「お土産にチョコレートを持って来たから、お茶を入れて頂戴」

 良かったどうやら機嫌は悪くないようだ‥‥‥‥ん?
「チョコレート!!」

「そうよ、嫌いだったかしら?」

「いいや! 好きに決まってる、直ぐにお茶を入れよう!」

「頼むわ」

 どうぞどうぞとお姫様を扱うように居間に招き入れる、入手がまだ困難なチョコレートをよく手に入れられたものだと思いつつお茶を入れる。

 きょろきょろと居間に通されたソルセリーは周りを見渡す
「‥‥エクレールは一人暮らしよね」

「そうだが」
 ソルセリーが何を言おうとしているのかは直ぐに分かった

「それにしては随分広い家に住んでいるのね」

「まあ、色々とな」

 その言葉に
「そう」
 と言ったソルセリーは、直ぐにこの家の広さに興味が無くなったようだった


 軍に入りエクレールは実家を出て一人暮らしを始めた。
 その時住んでいたのは一人用のアパートで狭かったが、同じ部隊にいた同僚と恋に落ち婚約した。
 そのままでいけば結婚をしていただろうが、その婚約者は死亡、魔物に食われ骨しか残らなかった。
 その婚約者が生きていた時に、一緒に住める住居を探していた事がある、今エクレールが住んでいるこの家こそ、その時二人が住みたいと考えていた家だった。
 家族用の家で、子供が沢山生まれてもいいように部屋数もかなりある、結婚したらこの家で幸せになろう、子供も沢山作って家族楽しく暮らそうと共に願っていた。

 しかし、その願いはかなわなかった。
 あの時ハヤトに助けられ無事にサーナタルエに戻ったエクレールは、、自身の両親と婚約者の両親からも心配された
「大丈夫、私は大丈夫だから」
 最初は気丈に振舞ってはいたが、それも時間がたつと、どこか心の奥に色々なものが溜まって来ていた、急に寂しくなったり虚しくなったりと‥‥‥‥

 婚約者の死亡から1年たってもエクレールの心は晴れなかった。そんな時にたまたまこの家の前を通った時、まだ買い手の無いこの家を見てエクレールは思った。

 この家を買おう

 そこからは早かった。その足でその日のうちに契約し、もし二人で住んだのならどんな家具がいいか? それを想像しながら家具を買いそろえ、5日後にはこの家に全ての荷物を運びこんだ。

 婚約者の両親は、エクレールがこの家を買った事を聞き、半分出そうか? と聞いてきたがもちろん断った。1人の給料では支払いがかなり厳しかったが、エクレールはそれでも少しだけ幸せになれた気がしていた。
 家の購入から約2年後、タクティアから声が掛かりハヤトの部隊に編入される事になる、当初予定では無かったソルセリーの入隊により、ハヤトの部隊は『破壊の一族の部隊』となりエクレールの給料も上がる事になる、そのおかげで月々の支払いがかなり楽になった。
 エクレールに取って、ソルセリーがいる部隊への編入は大変幸運な事でもあった。


 チョコレート~♡ チョコレート~♡
 過去の事を少し思い出しかけたが、ソルセリーがこの家に興味を直ぐ失ったように、エクレールも目の前にあるチョコレートによって思い出すのを止める事が出来た。

 今日はソルセリーの機嫌がいい事だし、楽しく過ごせそうだ。チョコレーともあるしな
 エクレールはそう思いつつソルセリーにお茶を出した




 ・・・・

 ・・・・

「エクレール! 貴女になにが分かるのよ!」
 ソルセリーは激高していた、その切っ掛けは‥‥‥‥


『ソルセリー、隊長の事が好きなら早く言ってしまった方がいい』
 だった
 ソルセリーがハヤトの事が好きなのは皆知っている、好きなら好きと早めに言わないと他の女性に取られると話してしまったからだ。
 自身の好きなチョコレートで楽しくソルセリーと話をし、ついつい口が緩んでしまった。
 最初何を言われたか分からなかったソルセリーも、直ぐに顔を真っ赤にし反論した
『私はそんな事思って無い』と
 
 そして、日ごろのソルセリーに対する不満などもあったエクレールはそこで引かず、更に言葉を重ねた、その結果が今のソルセリーの言葉になる、お互いに引けなくなったというのもあるだろう


「私達は軍人だ、今日があっても明日は無いかもしれない、ソルセリーも子供ではないのだからもっと自分の気持ちに素直になれ!」
 怒鳴るようにソルセリーに言い放つ

 いつもとは違うエクレールに、虚を突かれる形となったソルセリーは少しだけ眉を上げ
「エクレールにはそれを言える立場にあるの!? そんな事を言えるような事も無かったでしょう!」
 
「いや、ある、私は前の部隊の仲間を全員亡くしている」

「そんなの私だってあるわ! だから今の部隊にいるのよ!」
  
 ソルセリーは前の部隊で実の姉を2人亡くしている、それはエクレールも分かっていた、ただソルセリーとエクレールが違う所がある

「前の部隊には‥‥婚約者がいたんだ」

 その言葉を聞いたソルセリーの目が左右に動く、さっき自分が聞いたこの家の広さの理由をその言葉で察した。

「ソルセリーにはそうなってほしくない」

 今まで激怒していたソルセリーはエクレールの言葉で怒りを鎮め、その後はエクレールの言葉に耳を傾けていた、その間ソルセリーは一言も発しなかったが時折頷いたりしていた。


 ・・・・

 ・・・・

 婚約者を亡くしたエクレールの話はソルセリーの心をとらえ、いつものわがままな彼女からは思えないほど素直になる

「隊長も気付いているのか無いのか、分からない性格をしている、だったらソルセリーがその言葉で直接思いを伝えた方がいい、待っていては何も変わらないぞ」

 短いようで長い沈黙が二人を包む、ソルセリーは一点だけを見つめていたが、少しだけ彼女の口が開き

「そうね‥‥」
 とつぶやいた

 それでエクレールは安堵する、「良かった」という気持ちと「勝った」という気持ちが交差する

「今度隊長を誘って、隊長がよく行くという喫茶店にでも二人で行って見たらどうだ? あそこはいつも込んでいるらしくて私はまだ言った事は無いが、隊長はあそこの店で優先的に席に通してもらえるらしいぞ? いつもはタクティアと一緒に行っているみたいだがな」

 自分でそう言っておいて
 そうか! 隊長と一緒なら優先席に入れるな、とエクレールは気づいた

 エクレールの提案に、表情を変えなかったソルセリーは少しだけ顔を赤らめ
「今度‥‥誘ってみようかしら」
 
 ソルセリーの顔は少しだけ照れたような笑顔だった。

 
 良かった‥‥‥
 これで少しはソルセリーも変わるだろうとエクレールは感じた

「ん? チョコレートはもう食べないのか? だったら私が全部いただこうか」
 箱の中のチョコレートを一列全部掴み、口の中に無理やり入れる

「ま! 待ちなさい、駄目よ! 私もまだ満足してないんだから、貴女はいつもは上品にしてるのにチョコレートが絡むと下品になるのね」
 笑いながらもソルセリーは一気に3枚取り、口の中に入れた

 エクレールは何となく肩の荷が下りたような気持になり、ソルセリーとも本当に打ち解けた気がした。この後はチョコレートを肴にソルセリーとも楽しい話が出来るだろう




 ‥‥‥‥と思っていたのだが


『続きましては、素敵なお話が舞い込んできました』
 報道番組がいつの間にやら終わり、芸能関係のニュースに変わっていた

『以前起きた、次期タスブランカ代表の誘拐未遂事件について』

 これはたしか
「ソルセリー、隊長の件だな?」
 
「そうよ、隊長が全部上手く終わらせたのよ」
 誇らしげに話す

「そうか」
 それにしても、あの隊長はいいように使われてるなーと感じた

 しかし左手を失って帰ってきたのだから結構危なかったのでは? どちらにせよソルセリーは早く思いを伝えた方がいいような気がし━━
『その時の護衛はあの竜騎士と噂されており、その時言った言葉が「貴女だけの竜騎士になる」だったそうです』

 ━━てき‥‥‥‥ん?
 
 今何て?

『次期タスブランカ代表もその言葉を否定していませんから、これはもう本当なのではないでしょうか?』

 ‥‥‥‥まずい
 エクレールの直感がそう警鐘をならす

『太古の昔存在したと言われる竜騎士は、一度使えた人物や国には、一生忠誠を誓ったと言われていますから』
『今回のこの言葉にはもしかしたら、「愛の告白」も含まれているのではないでしょうか?』
『ははは、そうですね、それもあるかもしれませんねぇ』
『いいですねぇ~私も言われて見たいですねぇ~』

 映像にはニコニコしている司会の男性と、羨ましそうにしている女性が映し出されていた


 ギ ギ ギ
 
 ソルセリーを確認しようとしたエクレールの首からは、そう聞こえただろう
 ほんの数秒前までは笑顔だったソルセリーの顔は、見たら全員逃げ出すというような酷いありさまになっていた。

 駄目だった‥‥‥‥

 その後エクレールは、ソルセリーの機嫌を直そうとかなり努力した。

 出来ればソルセリーには早く帰って欲しかったが、ソルセリーはその日エクレールの家に泊まっていった。 

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