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オーバ・パイルプス
しおりを挟むまさかあの時の少年が私の隊長となるとは‥‥人生分からないものだな
◆◇◆◇
『無敵』と言われた部隊がある、その名はリクレク中隊
その戦いに敗北はなく、隊員の生存率も群を抜く高さ、ハルツールにリクレク中隊ありと呼ばれた最強の部隊だ
オーバ・パイルプスはその部隊の中核として籍を置いていた
「き、急に魔物の反応が! 前方に1体‥‥歪みの地点です」
『探知』担当の兵士が慌てたように報告する
「前方に魔物の姿は!」
リクレク中隊で、第二小隊を任されていたカシ・ヒタミア曹長は、隊列の前方にいるオーバに確認を取る
「今だ確認できず!」
目視では姿はまだ見えず、オーバはそう返答
「ま、待ってください‥‥人です、人の反応が一つあります」
『探知』の兵士からもう一つの反応があると報告
「人だと? それは別の隊の‥‥いや、違う」
「はい、この範囲には他の隊はいないはずです」
今回、空間の歪みが発生し、その調査の為ハルツールのトップであるイディ主席がこの地まで出向いていた。
イディが出向いた理由は、空間探知の能力がイディはずば抜けているから、ハルツール国でも一番の使い手であるからだ
今回の作戦では、歪みがあった部分を中心に広範囲にわたって部隊を配置し、魔物を一切近づけないように囲んでいた。
だが、虫一匹通れないはずのその中心地に何故か魔物が突如現れたのだ
「リクレク本隊に通達、歪み中心部に異常あり、第二小隊は急行する!」
「はい!」
カシ・ヒタミア曹長の隣にいた兵士は、上空に向けて異常を知らせる信号弾、そして通信機で本体に通達する
「オーバ! 先行してくれ!」
「了解した!」
カシが言い終わる前に、オーバは既に駆けだしていた
最強と言われるリクレク中隊において、先方を任せられている第二小隊、その中でもオーバはその先頭を任せられていた。
つまりオーバはリクレク中隊の先頭でもあり、オーバの活躍は強者ぞろいのリクレク中隊の中で、無くてはならない存在だった
第二小隊が駆けだす中、オーバは味方を振り切る程の速さで歪みの中心部に駆ける、中隊の先頭を務める為、オーバはかなりの重装備をしていたが、それをものともせず、完全に味方を振り切り、歪みの中心付近に到達
オーガか!
オーバは目視で魔物を確認
「前方オーガ発見、数1!」
後方にいる味方に向け、大声で叫ぶ
そしてオーバが見たのは、体長4メートルほどのオーガが、オーガの腕の3倍以上ありそうな木材を振り上げた瞬間だった。
そこでオーバは信じられないものを見る
「っ! 人が」
木材を振り下ろそうとしているその下には、確かに人と思わしき姿があった
マズイ!
すぐさま『収納』より、オーバが愛用している投擲武器を取り出し
「間に合え!」
それを投げつけた
投げる瞬間まで魔力を注ぎ込み、かつ放つ瞬間『火』魔法を放ち、爆発により投擲武器を加速させる
当たれ!
投げられた投擲武器は、その部分に当たるのがあらかじめ決まっているかの様に、オーガの振り上げた肘に当たり
「ギャァァァァ!!」
オーガの骨を砕き、貫通した。
痛みで木材を落としたオーガは、その痛みの原因になった人物を確認し
「グルルル!」
瞳に怒りの炎をたぎらせた
こちらに気がそれたか?
「よし! こっちに来い」
オーガは目の前にいる1体だけではなく、どうやら周りにも居たようであちらこちらで声が聞こえてくる、肘を射抜いた悲鳴で、仲間を引き寄せてしまったようだった
オーバはその声を聞きつつ、刀を取り出した
◆◇
「あと1年か‥‥‥」
オーバは軍用車で移動中、窓から空を見ながらぼんやりと呟く、1年後、オーバは『生命の契約』期間を終え、その際に軍を退役することになっていた。
あと1年で慣れ親しんだ部隊とも別れ、新しい人生を歩むのか‥‥‥
などと考えている訳ではない、むしろ逆である
「あと1年か‥‥‥」は、あと1年で自分も退役か、ではなく、まだ1年もあるのか? のあと1年である
オーバは元々軍人になりたくてなった訳ではない、小さいころから人より体格がよく、更に腕っぷしが強かったため、喧嘩に明け暮れ、自分に逆らう者、合わない者は全て拳で黙らせてきた。 近所でも手の付けられない悪ガキで通ってきたが、高等部を卒業した際、両親に軍学校入学を進められた。
学校の成績も悪く、大学に進学できない処か、就職先まで見つかっていなかったオーバは
「まぁ、いっか」
と、そのまま受け入れることにした
仕事などしたいとは思わず、かと言って勉強などもっとしたくない、オーバにとって軍とは常に何かと戦っている、つまり今まで自分がしてきた事となんら変わりないと思っていた。
喧嘩以外の事に全く興味が無かったオーバは正直、軍の事をよく知っていなかった
国を上げての大喧嘩に参加できる
その程度の認識で軍学校の入学を了承した。それに対し両親は心底ホッとした顔を浮かべたという‥‥
軍学校入学後、オーバはこの学校、更には軍さえ自分の思い通りに出来ると勘違いをしていた。そしてその勘違いは直ぐに正される事となる
・・・・
・・・・
「うげぇぇ!」
オーバは練習用の刀で顔面を殴られる、今まで感じた事のない痛み、それは鼻が無くなってしまったのではないか? と思われる様な痛みだった
「‥‥それで終わりか? さっきまで威勢がよかったからこっちも嬉しかったんだが、ほら立て、敵は待ってくれないぞ?」
剣技の先生が冷たい視線をオーバに向ける
「ま、待ってくれ! は、鼻が━━」
「練習用の刀で怪我なぞするか! さっさと立て!」
剣技の先生は倒れているオーバに対し、練習用の刀を何度も叩きつける
ガン!
「イテェ!」
ガン!
「や、止めてくれぇ!
オーバは何度も何度も殴られそして‥‥
ガン!
「も! もう‥‥」
「許してください‥‥‥」
泣きながら剣技の先生に懇願した
オーバが威勢のいい悪ガキから、従順な兵士になるまでそう時間はかからなかった
軍学校での事が頭から離れないのか、オーバは軍学校卒業後、年齢を積み重ね、そして経験を積み軍大学の入学を推薦されたが、それを断っている
その後、軍で次々に経験を重ね、ハルツール最強と言われた部隊、『リクレク中隊』に編入された。
リクレク中隊に配属される者達は皆、無敵と言われた部隊に配属に慣れた事を誇りに思うし、名誉だと感じる、そして国の為にこの身を捧げられる事に喜びを感じる
だがオーバにとってリクレク中隊とは、他の部隊となんら変わらない、どこも一緒。
軍とは賃金を貰うための手段であり、国の為などとはどうでも良かったのだ。
そのどうでもいい軍とは後1年の付き合い、やっと解放されるという気分ではあるが、まだ1年もあると少しだけ憂鬱な気分でもある
退役したら何をしようか?
などと考え、少しでも現実逃避しようと思考を反らす
そうだな‥‥そうだ、簡単な警備の仕事でもしながらのんびり過ごすか? 大陸東部の緩衝地帯付近に住んで自給自足の生活もいいな、あそこは税金も安いし、大陸東部なら魔物なんか大したことは無いし俺一人でも余裕だからな‥‥‥
それと‥‥妻にも色々と迷惑をかけてしまったな、家の事を一切任せてしまって、しかも俺は殆ど家に戻って無かったし‥‥そうだな、まずは‥‥妻と旅行にでも行こうか? 結婚前に一度海を見に言った事があるが、あれ以来行ってないな
海でも一緒に見に行くか
などと思いにふけっていた時
「この後軍学校に行かないか?」
その言葉でオーバは現実に呼び戻され、『軍学校』のフレーズにビクッと体を震わせる、あれから何十年も過ぎたが、あの時のトラウマがまだ脳にこびりついていた
軍学校に行こうと言い出したのは、リクレク中隊の第二小隊を任せられているカシ・ヒタミア曹長だった。
来年から軍大学に入る事が確定していて、将来的にはリクレク中隊の隊長を務めると噂されている、オーバよりも年下なのにも関わらず、部隊を引っ張っていくには十分すぎるほどの能力を持っていた
「いいですねぇ、自分も見に行きたいですから」
「俺も行きますよ、その召喚獣には興味ありますからね」
軍用車の中にいる兵士達が次々に手を上げる
「俺ももちろん行きますよ」
軍用車を運転している兵士が後ろを振り返りそう答える
前を見て運転してくれとオーバは思うが
「オーバも行かないか?」
カシ・ヒタミアはそう言ってくる
オーバはハッキリ言って興味が無かったが、自分以外の全員が行くと言っているので、仕方なしについて行く事とした。
「なら俺も行こうか」
「決まりだな! 本部に付いたら真っ先に見に行こうか、噂の竜騎士を」
その場にいた者達、オーバ以外全員その目を輝かせていた
◆◇
「おおー!」
「すげぇ! これが召喚獣?」
「真っ白でキレイだな」
カシ・ヒタミア率いる第二小隊は軍学校にあるホールに来ていた。そこには軍の華やかしい映像や画像などがあり、軍の輝かしい歴史がそこにあった。
そこの一角にひと際立派な額に収められている画像がある
数カ月前に、軍の召喚獣を契約する魔法陣から出て来たと言われる召喚獣、本来ならカーネロと言われる召喚獣が出てくるはずだったが、その画像に映し出されているのは、4本足ではあるものの、全く形が違う召喚獣だった
真っ白な体に、背中から翼を生やし、誰もが美しいと賞賛する姿をしており、そしてその背中には一人の男性がまたがり、槍を構えていた
「な、なあ、俺らにも近くで見せてくれよ」
「ちょっと待ってくれ、もうちょっとだけ」
第二小隊の後ろには更に多くの兵士が集まっている、実はリクレク中隊のほぼ全員が、この場に押しかけていたのである、少し興奮した兵士達の中、オーバだけは
何だこれ?
一人冷静だった。
明らかにやらされているという感じがどう反応していいのか分からない、人を乗せて飛べる召喚獣というのは凄いと思うが、その召喚獣の後ろに見切れている軍の幹部達の笑顔が少し痛々しく感じてしまう、自分の事でもないのに何故かはずかしく感じてしまったのだ。そんな事よりも‥‥‥
見たんならもう帰らないか? ここにはあまり居たくないんだよ‥‥
・・・・
・・・・
「ほらほら、交代だ!」
後ろに居た同じリクレク中隊の別小隊に押され、第二小隊は押し出されるようにその場から離れる事となった。
そして第二小隊はそのまま家に戻る者、これから遊びに行く者に別れ、それぞれ本部を後にする
リクレク中隊はこの後、1ヵ月に及ぶ休暇に入る事になる。オーバは家に帰る為、公共機関を使い家に戻ろうとするが‥‥
「オーバ、少しいいか?」
カシ・ヒタミアに呼び止められた
・・・・
・・・・
「どうしても退役するのか‥‥」
「前から決めていたからな」
カシは来年から軍大学に入る事になる、そして卒業後自身の部隊を持った時、オーバに自分の部隊に入って欲しいと言って来た。
だがオーバは既に退役を決意しており、その要望には応えられないと
「そうか‥‥」
「俺を必要としてくれるのは嬉しいが、俺も年だ、いい加減休ませてくれ、それに今まで妻に迷惑をかけたからな、退役を期に色々と連れて行ってやりたいんだよ‥‥悪いな」
「ハァ‥‥分かった、もうそこまで決めているなら仕方ない」
「まぁ、来年まではリクレク中隊にいるんだ、俺もお前もな」
「ああ、そうだな、お互いにまだ同じ部隊だ。‥‥うん、そうだな、来年までよろしくなオーバ」
「こっちこそあと1年よろしくな、カシ」
軍に残って自分の隊に入ってくれと言うカシ・ヒタミアの願いを断り、オーバは1年後、軍を退役する事にした
‥‥‥のだが
「な、なにぃー!!!」
1年後、オーバは悲鳴を上げていた。預金通帳を見ながら
「おい! 預金はどこ行った!」
妻と結婚し、家の事はもちろんの事、お金の事も全て妻に任せていたオーバだったが、何となく貯蓄の残高を調べたところ、自分の思っていた金額とは全く違う桁が記載されていた
「ちょっと、何を怒鳴っているのよ」
「預金だよ! 預金! ど、どこにやったんだ!」
「そこにあるのが全部だけど?」
「は? ‥‥は? これが全部? た、退職金はどうした?」
「ああ、それならいっぱいお金が振り込まれていたから、サーナタルエに家を買ったの、凄く広くてね、立派な家なのよ」
ニコニコと笑顔で答える妻
「お、お、お、お、お、おお‥‥‥」
「なに? 嬉しく歌ってるの? あなたも見たら驚くわよ、大きくてね庭にプールもあってね━━」
「ふざけるな! 今すぐその家売ってこい!!!」
その後、売る、売らないと言い合いをし、離婚騒動にまで進展したが、既に成人していた子や孫たちに何とかなだめられ、離婚はしなかった。
妻が勝手に買った家は売る事になったが、立地は最低、墓場の隣で事故物件だった為、買い手がつかず、更に妻は退職金の全てを家の購入に充ててしまっており、足りない分はローンまで組んでいた。
故に退職金は既に存在していなかった。
そればかりか、オーバは家の事を全て妻に任せていたためそれまで知らなかったが、妻は浪費が激しく、日用品から衣服などありとあらゆる物を新しい物に変え、しかも高級品以外は使用しないという、子供の教育にも金を掛け、ありとあらゆる習い事をさせていた。
だからそもそも貯金などはしていなかった
子供たちにその事を詳しく聞いてみると
「親父も了承してると思ってたんだけど‥‥」
と返ってきた
「は‥‥はは」
妻に全てを任せたあの時の自分を今更後悔しつつ、それ以外の事は頭が真っ白になり、何も考えられなくなったオーバ、既に数カ月前に『生命の契約』期間を過ぎたオーバだが、この件の1週間後、彼の頭には白髪が生えだしていた
結局、軍を退職し彼に残った物は、多額のローンと、そして結構優秀に育った子供達だった
◆◇
金を稼ぐため、すぐ軍に復帰したオーバだったが、金銭の事で精神的に弱っており、更にその事で仕事に対するやる気が失われ部隊に所属するも、そのやる気がない態度で不必要とされ、配属先を転々とする
元・無敵のリクレク隊所属と言えど、あまりのやる気の無さに配属された部隊全てから必要ないと言われたオーバは、やる気どころか自信さえ失っていく
だが、そんな彼に転機が訪れる
『破壊の一族』の部隊への編入だった
名誉? 誇り? そんな物は要らない、私はお金が欲しいのだ!
『破壊の一族』への編入でオーバの給料には手当が付くことになる、それによりやる気も上昇した。そしてこの部隊は編成が歪であり、『一族』部隊にも関わらず人数が少なくバランスが取れていない、そうなると自ずとオーバの働きも多くなり活躍の場も増える事となる、それによってオーバの失われていた自信も回復した
そしてその『破壊の一族』を率いる隊長というのが、20年程前のあの時、オーガによって殺されそうになっていた瀕死の少年、後に竜騎士と呼ばれ、グラースオルグとも言われるようになったあの少年だった
これも何かの縁か‥‥
そうオーバ・パイルプスは思った。
目の前を走る一人の兵士、敵兵に胸を突かれ息苦しそうにしている人物、今や立派な隊長となったその青年
最初に見た時の瀕死の状態と、今の苦しそうな姿が重なって見え、少し思い出してしまった
「オーバ」
不意にその隊長から声発せられ
「やっぱり追ってきたぞ」
オーバはただ「うん」と頷いた
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