異世界陸軍活動記

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ラグナの日常

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「それではポッポ様と交代させていただきます」

「おう、明日もよろしゅう」

「では‥‥」

 私は旦那様にそう告げ魔法陣の中に戻りました

 世間様から竜騎士やグラースオルグと称され、そして私達召喚獣の召喚主でもある旦那様。その旦那様に10番目の召喚獣として使える事となった私『ラグナ』は、明日の朝食の準備の為ポッポ様と入れ替わりになりました。
 ポッポ様は我々召喚獣で最も古株であり、最初の召喚獣として契約されたお方です。
 毎日旦那様の起床時間にお目覚めを促す大切なお役目をされており、この方がいらっしゃらなければ旦那様の一日が始まらない、と言っても過言では無いでしょう。
 常に一歩先を見て行動し、我々召喚獣の中で唯一旦那様と体の共有が出来る方です。
 度々旦那様の目として活躍するそのお姿は、とても勇ましくあり、少しながら私に嫉妬の心が芽生えるほど‥‥

 ああ‥‥いけません。
 私如き召喚獣が嫉妬など、このような事で心を動かしてしまうというのは私はまだまだ精進が足りないようです。
 ですからあの武闘大会の時、旦那様の命令を無視し魔法陣から出てしまったのですね。
 あの時のポッポ様はあれほど屈辱な場面でも自身を律し、微動だにしませんでした。
 流石ポッポ様です私も見習わないと‥‥


 さて、私ラグナは、旦那様に『ラグナ』という立派なお名前を頂戴する事となりました。何でもハルツールにこの人ありと言われた伝説の料理人『ラグナナ』様からお名前を頂いたそうです。
 その方にあやかったお名前を頂戴し、その名の重みから来る重圧と、それと同時に心が高揚したのを覚えています。
 私の後ろに控えるメイド達も、ひぃ・ふぅ・みぃ、という立派なお名前を頂きました。
 私達4体は戦う力はなく、主に旦那様の身の回りのお世話をしております。
 魔法陣に戻った後でも旦那様の食事の準備から、お召し物の用意などしなければいけません。
 それは私達にとっては最高の喜びとなります

 私達はそうして魔法陣の中で過ごしておりますが、他の方はどうしているかと言いますと、まず最初に私達が待機している場所には数多くの部屋があり、新しく契約した召喚獣がいらっしゃった場合はその部屋に扉が付き、そこがその召喚獣の待機場所となるのです。
 つまり今の状態では扉は10枚付いており、その他の部屋には扉は付いておりません。まだこれ程部屋が空いているという事は、まだまだこれからも増えるのでしょう


 個別にはどうしているかと申しますと‥‥‥
 まず最初ははポッポ様。
 この方は以前のお姿、旦那様曰く『鳩』と呼ばれる鳥類を模していたらしいのですが、私がここに来た時には既に『鷹』のお姿になっておられました。
 そのポッポ様、鳩のお姿の時は自身の部屋に作った巣で休んでいたそうですが、鷹のお姿に変わってから、同じく鳥のお姿をしているヤタ様のお部屋にある、巨大な木のてっぺんによく止まっておられます。
 どうやらその場所が気に入っておられるようで、今では自分のお部屋にはお戻りにはならない様子でした
 
 次に、自分のお部屋をポッポ様の待機場所にされたをヤタ様はと言うと、特に気にされていらっしゃるわけでもない様子です。ポッポ様が巨木の一番上に止まっているのに対し、ヤタ様は大体真ん中あたりに止まっている事が多いです。
 それで世間からは『凶鳥』などと呼ばれ、恐れられているヤタ様ですが、実際の所はとても気の良いお優しい方で、つい先日もノーム坊ちゃまが持って来た魚を燻製にされておられました。
 ヤタ様のお部屋で燻製にしたため、煙かが部屋に充満したのですが、木の上にいらっしゃるポッポ様に煙が向かわないよう風魔法を使い反らしておられました。
 その他者に対する気遣いを私も是非見習いたいものであります

 ノーム坊ちゃま達の場合は、魔法陣にいる時は常に酒盛りをされておられます。部屋からは常に楽しそうに笑う坊ちゃま達‥‥実際に話を出来るのは3人の内一号様だけなのですが、それでも部屋に活気があふれています。
 時折銃声が聞こえますが、他の方はその音に特に興味が無いようで、皆さま我関せずを貫いておられます。
 坊ちゃまは旦那様の家の冷蔵庫と鍛冶に関わる資材など、全てにおいて数を把握しておられ、度々私も何が足りていて、何が足りていないなどと教えていただく事もよくあります。
 それは旦那様の『収納』の中身でも同じであり、常に内容を把握し、その中から酒盛りのつまみとなる食べ物をこっそり頂戴するのが坊ちゃま達の最高の喜びとか‥‥
 明るく破天荒な所がある坊ちゃまですが、召喚獣の中では人一倍甲斐甲斐しく、旦那様の事を大事に思ってらっしゃる所があり、旦那様が負傷した際などは付きっきりでお世話をかって出たりと、召喚獣の鏡ともいえる行動をとる所があります

 ノーム坊ちゃまに続いて次はデュラハンのデュラ子お嬢様。
 お嬢様は旦那様の部隊の隊員の一人であるエクレール様によく性格が似ておられ、魔法陣の外にいる時は凛々しいお姿と性格を保っておられますが、魔法陣の中、つまりご自分のお部屋の中ではいつも下着姿でおられ、旦那様に買って頂いたソファーに寝ころびファッション誌を見ておられます。
 それは旦那様が、お嬢様がオシャレをすると喜ぶのでお嬢様は率先して服装に気を付けているからであります。
 そして、ファッション誌を見ながらも旦那様の事を魔法陣の中から見ており、特に旦那様のお着換え又はトイレの際には更に注視しておられます。
 それは無防備になる時を狙って旦那様が危険に晒されぬよう不測の事態に警戒しているからでしょう。
 流石はお嬢様であります
 
 そして旦那様が『馬』とおっしゃっているデュラハンのハン子様ですが、デュラ子お嬢様と一緒に居る事は殆どありません。
 ハン子様は魔法陣に戻ると常にコスモ様のお部屋に向かわれます

 そのコスモ様のお部屋ですが、扉を開けるとそこは大草原が広がっており、ハン子様と一緒に駆けまわっている事が殆どです。
 そのお部屋はどこまでも広く、青い空が広がっております。お二方ともそれはそれは楽しそうに‥‥‥とは言い難い雰囲気であります。
 サーナタルエに旦那様を狙い撃ちにした都市条例によって、召喚獣での移動を禁じられてしまいました。それによりお二方の発散する事の出来ない気持ちがこのように争いとなっているのです。
 お二方とも旦那様の前では大人しくされておりますが、実際は極度の負けず嫌いであり、尚且つ自分と能力が被っている為、魔法陣の中ではいつも競い合っております。
 たまにコスモ様が空に飛び立つと飛ぶことの出来ないハン子様は猛抗議をする、という所までが形式美であります

 駆けまわると言ったらこのお二方も負けてはいません
 
 オル様とトロス様です。
 旦那様に作っていただいた玩具で今日も元気いっぱい走り回っておられます、ボールをセットすると自動で発射される玩具なのですが、装置は一つしかないのでお互いに順番を守り、ご自身で設置し発射されるまでしばし待機するのですが、その時大きく尻尾が降られているそのお姿を見ると、私の尻尾もつられて動いてしまいそうです。
 ですが時折、坊ちゃまやお嬢様が、代わりにボールを投げてあげると順番どころか先を争って奪い合い、文字道り戦いになるので見ているこっちは少しひやひやします。
 空中に大きな顔や前足を出し、お互いにつぶし合う姿はいつもの愛らしいお姿とは似ても似つかぬ程、それでダメージでも受けてしまえば旦那様の魔力が奪われかねないので、出来ればもう少し落ち着いていただけたらと思います

 逆にコスモ様やハン子様、そしてオルトロス様と違い、のんびりと過ごしてらっしゃるのはオロチ様です。
 8本の長い首を持ち、地面から生えるように突き出すそのお姿を旦那様はよく『草』に例えてらっしゃいました。
 のんびりと過ごすと言いましたが、のんびりするしかないのです。
 理由はその場から動けないから、オロチ様自身は実はもっと遊びに行きたいそうなのですが、動けない為どうしようもなく、そのためいつも何となく元気がなく、枯れそうな草の様にユラユラと寂しげに揺れているのであります。
 時折オルトロス様がボールを持って遊びに来る時は、今にも花を咲かせそうに元気になり、オルトロス様がボールを投げるとその8本の頭で器用に打ち返します。
 ただし興奮しすぎるとその口から衝撃波を放つので、反射神経の良いオルトロス様しか相手が出来ません。
 それとですが、オロチ様の根元に水を差してあげるととても喜ばれます

 そして私と同じ日に契約をし、旦那様から『デス・○ター』と例えられているニュートン様。
 ニュートン様は『重力』魔法を操る召喚獣です、以前お部屋にお邪魔させていただいた時、私はニュートン様の部屋で落ちそうになりました。
 部屋で落ちるとはどういう事か? と思われると思いますが、ニュートン様のお部屋には壁はもちろんの事、天井や床さえありません。
 真っ黒な空間にニュートン様だけが浮かんでおられます、私が落ちた時は間一髪ニュートン様に助けていただきましたが、本人曰く、自分でもこの部屋の底があるか分からない事‥‥正直肝を冷やしました。
 それとニュートン様ですが、部屋にいる間は自身を鎖でからめ、身動きが取れないようにされております。
 何故そんな事をしているかと申しますと、原因はあの武闘大会の日、憎き小僧召喚者が旦那様を侮辱し、死して償わせようとポッポ様以外全員が外に出ようとしたあの時‥‥‥

 真っ先に出口に向かったのはニュートン様でした。他の召喚獣が怒りのあまり動けないでいた中、いち早く出口に向かいあの小僧の命を奪おうと行動したのです。
 旦那様には後で全員怒られてしまいましたが、あの時のニュートン様の行動は私の中では賞賛でした。
 それで体に巻き付けてある鎖はその時の迂闊な行動を戒めるための鎖だそうです。
 まあ、外そうと思えば簡単に外せるらしいのですが、体が真ん丸なので鎖が何もしなくても勝手に外れるのだとか‥‥‥
 ニュートン様の性格を一言で言ってしまうと『短気』です

 ━━さて、私を含む9体の召喚獣の魔法陣にいる時間はこういった感じですが、ただもう一体‥‥誰もお姿をお見かけした事の無い召喚獣の方がいらっしゃいます。
 その部屋には扉が付いており、確かに契約された方がいらっしゃるのですが、扉の前にいても気配はしませんし、その召喚獣については誰も知らないとおっしゃっておりました。
 前も一度いらっしゃるか扉をノックしたのですが、返事はやはりありませんでした。
『今日もいらっしゃらないのですか‥‥‥』
 そう考えごとをしつつ自分の仕事に取り掛かろうと思い戻ったのですが、どうやら考え事をしていたため道を間違えてしまい

「あれ、ここはどこでしょうか?」
 
 私は見知らぬ場所へと足を踏み入れてしまいました

 周りは大きな壁に囲まれており、その壁には無数の穴が開いております

「召喚獣の‥‥部屋ではありませんね」

 白い大きな壁は所々黒みがかっており汚れにも見えますが、その汚れが生き物のようにゆっくりと動いているのです、その黒い物は穴の空いた場所に留まろうとするのですが、弾かれるように離れたり又はその場所を縫うように移動していました。
 ですがその黒い物はとある場所を避けるように移動しているようにも見えます。
 その場所とは、穴の中に丸い玉が収まっている所でした。全部で30くらいでしょうか? 壁の穴にはまっている丸い玉、色は白寄りの灰色でありましたがその中でひときわ大きく、そして色も灰色ではなくとても目立つキレイな赤と青の玉がありました

「何と奇麗な‥‥‥」
 心を鷲づかみされる様なとても美しい輝きを放つその二つの玉に、私は心を奪われてしまいました。
 暫くの間、その二つの玉に魅入られていましたが、ふと壁の穴に嵌っている別の灰色の玉に目が行きます、赤と青の美しい玉には劣りますが、それでも私は美しいと感じました。
 その内の2つが何かに覆われているのを発見しました。
 薄い膜のような物に覆われた2つの灰色の玉、その膜に覆われた玉は他の玉に比べて輝きがくすんで見えました

「あれは‥‥‥」
 その膜で覆われた玉に近づこうとしたとき、壁を動いていた黒い汚れが急に私に向かってきたのです、それもさっきまでのゆっくりとした動きではなく、獲物を狙う狩人のように一瞬で━━

「いけません!」
 それに触れてはいけないと私の本能がそう叫びます、ですが私は戦闘には向かない存在逃げようとしますが一瞬で差を詰められ、そして━━





「ゴホッ! ゴホッ! うーっゴホッ!」
 黒い汚れに飲み込まれると思った矢先、気づくとそこにはせき込む旦那様が目の前にいらっしゃいました

「‥‥はっ! 旦那様大丈夫ですか!?」

「ゴホッ! だ、大丈夫ゴホッ! あ、あれ? なんでラグナがいるの? ポッポは?」

「い、いえ、私は」

「ああ、間違って召喚しちゃったんだね、寝てたら急にむせちゃって‥‥ゴホッ」

 その後私は旦那様に水を用意して差し上げ、旦那様はそれを飲んだ後また眠りにつきました
「馴れない軍艦のベッドだからかな?」
 むせた理由をそうおっしゃっておりましたが、もしかしたら原因は私を助ける為、無意識に旦那様が‥‥‥
 いずれにせよあの場所に入るのは危険な事なのでしょう、あの黒い物体、もしかしたらアレがグラースオルグの━━
 
 ブルルと体が震え黒い物体を頭から振り払おうと首を横に振る、しかし、あの穴だらけの壁はどことなく私達召喚獣に与えられた部屋に似ている様に感じました。
 あの穴にはまだ玉が嵌っていない箇所がいくつもありました。それは召喚獣のいる場所に扉の無い部屋があるのと同じように



 以前私は、他の召喚者の契約した召喚獣達は、どうやって魔法陣の中で暮らしているのか興味があり、旦那様の後輩であるドルバ様にお願いし、他の召喚獣と対話する機会があったのですが‥‥‥

 結果は対話する事自体無駄でした。いや、無駄だと分かったのが成果でしょうか?
 
 彼らには私に‥‥私達のように旦那様が契約した召喚獣のように心がありませんでした。
 中身が空っぽなのです、本能‥‥と呼べるものがあるようでしたが対話は成り立ちませんでした。
 ただ単に命令を聞くためだけの存在、酷い言い方をすれば人形です、召喚者の道具でしかありません。
 そしてその道具である召喚獣に私は少し嫌悪を抱いてしまいます、中身が無く外のガワだけ、偽りの存在である彼らに

 ただ、そんな彼らが悪いとは言いません、勝手に私が一方的に嫌悪を感じているだけです。召喚獣に心が無いのが普通なのでしょう、むしろ私達が異端であるだけで━━

 いえ‥‥違いますね、旦那様が特別なのでしょう、他の召喚者の方々と違いこの世界の一般では無いのでしょう、元々こちらの世界の生まれではない旦那様が、この世界の一般と言ってもどうかと思いますが。
 他の世界から来られた方が特別なのか、それとも旦那様が特別なのかは分かりませんが、どちらにせよ私は、私達旦那様と契約した召喚獣達は幸せ者でしょう。
 心を持つことが出来て、このように『考える』という事が出来るのですから


 ‥‥‥っ、と。 
 色々考えていたらもうこんな時間ですか? そろそろ旦那様が起床する時間ですね

「ひぃ? ひぃ、そろそろ旦那様が起床されるお時間です、お着換えの支度をしてください。
 ふぅ、貴女は朝食の準備を、旦那様はこの船の食事に不満を持っておられますからね、今日も『カレー風辛いスープ(甘口)』を出しますよ、旦那様曰く船ではカレーが特別な意味を持つらしいですから。
 みぃはいつも道り、旦那様が使われているお部屋の掃除をお願いしますよ、この船の中ではお客様でも散らかしてよい訳ではありませんからね、私も旦那様が良い一日を迎えられるように働かないといけませんね」

 さあ、こうしてはいけません旦那様が起きるまでに全て準備を終わらせなければ

 


 まだ召喚獣の空き部屋が残っていますので、これからも召喚獣が増えてにぎやかになるでしょうが、それが楽しみであります。
 そして旦那様にお仕えできる事を至上の幸福としている私‥‥私達はこの旦那様との時間がずっと続くようにと願うのでした
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