異世界陸軍活動記

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バール・エリネル

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 青い空の下をハルツール海軍所属の竜翼機2機が飛行している、太陽の光を海が反射し、海軍所属のパイロットでなければ味わえない美しい光景が眼下に広がっている。
 巡洋艦アルドレスから飛び立った2機の竜翼機は母艦を離れ、周囲の警戒を担っていた


 あ、あれ? 
「あっちゃー忘れてしまったよ」
 
 バール・エリネルは、いつもはあるはずの場所にそれがない事に気づく

「どうしましたか班長、何か不都合でも?」
 班長であるバールが飛ばす竜翼機の後ろを、バール班のアデル・フラーが乗る竜翼機がつけていた。
 バールがあまり言わないような言葉を発したので異常事態かと少し身構える

「ペンダントだよ、俺がいつもしているやつ」

「あー竜騎士から頂いたというペンダントですよね?」

「そうだよそうなんだよ、あーやってしまった。多分家の洗面所だな外した記憶があるし、今日まで気づかないなんて‥‥どうしよう親に頼んでラベル島に送ってもらおうか?」

 いつも肌身離さず付けていたため、当然今も付けていると思い込んでいた

「いつも身に着けていたのは知ってましたけど、ただのペンダントですよね、そこまでするほどなんですか?」

「そこまでするほど重要なペンダントなんだよ、俺が今まで無事でいられたのはアレのおかげだしな」

「へぇー」

「何だよ聞いてきたわりには反応が薄いな、ちょっと失礼じゃないかい? アデル」

「そう言われましても‥‥初耳ですし、それに変な模様が掘られているうえに、何かの呪いが掛かっててそうですし」

「まてまて、あれは呪いじゃなくてな、有難いお言葉が掘られているんだぞ?」

「あれって言葉だったんですか? 何と書いてあるんです?」

「え、えーっとだな『ぶるぶる何やら』だったな」(小声)

「‥‥はい?」

「えー‥‥ぶるぶる‥‥いやすまん! 俺もよく分からない」

「ご利益あるんですか本当に?」

「違うんだ。最初に聞いたんだが、知らない言葉だったから頭に残らなかったんだよ、でも意味は『運がよくなる』とかだった気がする。でもアレを付けてからあまり悪い事とかないんだよ本当に、間違いなくご利益はあるだろ」

「班長がそう言うならそれでいいと思いますよ」



 二人のパイロットは雑談をしながらも周囲の警戒は怠っていない。
 自国の領海内とはいえ、敵国マシェルモビアには『潜伏・隠蔽』と呼ばれる姿を隠すことの出来る魔法がある。
 その魔道具を搭載した敵の軍艦は、レーダーや目視ではその姿を発見できない状態になってしまう。ただし、発見できない訳では無い

 マシェルモビア軍の艦を発見する方法は4つ、それは今2機の竜翼機から海面に向かって垂らされているワイヤーで、その先に『潜伏・隠蔽』解除を促す魔道具が吊るされ、それが常に発動している。
 それと解除が付与された特殊な弾丸、これをそれらしい場所に打ち込む事により敵の魔法を解除できる。
 
 ただその二つはだけでは完ぺきではなく当然欠点も存在する。『潜伏・隠蔽』の解除の効果範囲はどう改良しても50メートルしか効果は無い。
 よって索敵の竜翼機パイロットがよくやる方法が、『海面を見る』である。いくら姿を魔法で消しているとはいえ、海面にはその船の跡がくっきりと残っている。
 つまり、船がいる場所だけ波の影響を受けずそこだけ船の形を海面が保っている

 故に索敵を行うパイロットには目がいい者が多い。バール・エリネルはその巧みな操縦技術から何度も空母のパイロットに移動が考えられており、本人にも打診があったが、バールは平均以上の視力を持っており、しかも洞察力が桁外れにすぐれていたため、所属するアルドレスの艦長が手放すのを良しとせず、本人も移動には否定的だったためずっとこの艦の所属となっている

 そして、『潜伏・隠蔽』を解除する一番の荒業が、手当たり次第に攻撃するである。爆弾を落とし機銃をばらまく。
 ただ当然これは手段の一つでありもちろん実践するものはいない


「それにしても正直がっかりしましたよ」

「なんだ? 何の話だ」

「今の竜騎士の続きですよ、ほら‥‥最初に見た時がアレだったんで」

「あー」
 まぁ‥‥アレを見ちゃったらなー、そう言いたくもなるか

 バールは酔ってくしゃくしゃになった軍服を着たハヤト思い浮かべ、笑いそうになる

「何て言うんですか? 竜騎士って言ったらもう伝説の英雄じゃないですか? それが思ってたのと違うと言うか‥‥いえ、仲の良い班長の前で言っていい事では無かったですね」

「別にいいぞその通りだし、でもあんなんでも俺達よりも魔法の才能があるし、確か契約出来ない魔法は今の所なかったはず‥‥それでいて召喚者だろ? 尚且つ俺とハヤトが軍学校に通っていた時の行きつけの喫茶店の顧問になってるしな、あの喫茶店が今では大きくなったものだな」

 バールはハヤトが発案した苦パナンサンドを始めて食べた時の事を思い出す

「コントルにもチェーン店出てますよね、結構人気らしいですよ。自分が行くといつも満席なのでまだ行ってはいませんが」

「まあな、軍からの給料とその会社の給料を足したら俺達2人の年収なんか簡単に超えてるからな、ホント‥‥才能が有って金がある奴はいいよな。俺がハヤトに勝ててるのって顔しかないからな」

「やっぱり自分の事そう思ってたんですね?」

「当たり前だ。竜翼機の操縦技術と見た目の良さを取ったら俺に何が残ると思う?」

「何も残りませんよね」

「はっきりと言うな! 今度はお前の事連れて行かないからな」

「それだけは勘弁してください!」

 バールは複数の女性とよく飲みに行く事が多い、その恵まれた容姿のせいか声を掛けるだけで女性が寄ってくる程で、バールの部下であるアデル・フラーはそれにちょくちょくついて行っていた。
 焦る部下で遊びながらバールは時間を確認する

 報告の時間か‥‥
「アデル、定刻だ」

「あっ! はい!」

 索敵中は決まった時間になると母艦に通信を入れる事になっている、これはパイロットの生存確認でもある

「こちらアルドレス所属第一索敵班、アルドレスどうぞ‥‥」

 部下であるアデルが母艦に報告中でも、バールは海面から目を離さず監視をしていた



 ◆◇

 海軍に予算が多く回されるようになり、新しく新造された空母や巡洋艦などのおかげでハルツール海軍は戦力を増強する事ができ、その圧倒的な力で戦線を押し上げた

 昔から陸の戦いは激化すると人が減り、海の戦いは激化すると財政難になると言われている。ハルツールとマシェルモビアはこれまでに幾度か激しい海戦を行った歴史がある。
 だがその都度、両国は莫大な資金を必要とし、そのたびに国が傾きかけるという歴史を繰り返して来た。
 故に両国とも海での戦いを避けてきたが、ここに来てハルツールは海軍を増強しており、逆にマシェルモビアは軍団を編成するなど陸軍を増強している。
 そのどちらが良いという訳では無いが、海軍所属の者からしてみればそれは良い事に決まっている

 海軍では戦力を増強したのに伴い兵達に休暇が多く回るようになった。それにより兵達は喜んだが一部の者達は不安を感じている

 戦力増強で空母や巡洋艦が増えその分休暇が増えたのはいいのだが、圧倒的な数で押し上げ自国の領海が増えたためその分、守る海域も増えることになる。
 そうすると海域が増える前とあまり変わらない、楽にならず逆に忙しくなっている、にもかかわらず休暇が増えているのだ。
 部下のアデルは喜んでいるが、バールは手放しでは喜べなかった。マシェルモビアの『潜伏・隠蔽』魔法は厄介であり、索敵を仕事としているバールにとっては少しの穴でも開けたくないというのが考えである

 それと今回ラベル島に向かう前、海軍本部がある軍港都市コントルには今まで見た事が無いほどの軍艦が停泊していた。
 休暇や整備での帰港だけではなく、陸軍が関係している作戦で船を使うために集まったと噂されている。実際の所はバールはもちろんの事、所属艦の艦長でも他の艦の作戦内容は知らされていない。だがそれぞれの船に陸軍兵士が乗り込んでいるのはバールも把握していた。

 領海内全てを完全に監視できていない事にバールは危惧している


 海軍に予算が増えた事で変わった事が別にもある。
 ハルツール海軍は空母に力を入れており、それに伴い艦載機である竜翼機にも手が加えられた。至る所に改良が加えられ、しかも新型の竜翼機まで開発されていた
 
 その中でもアルドレス所属の第一索敵班、つまりバールが指揮する索敵班にはその新型の竜翼機の実戦テストが任せられることになった。
 大型の飛行推進装置が本体に一基追加となり、旋回能力を犠牲にして飛行速度重視の作りとなっている。燃料となる人工魔石の積載量も増えており、航続距離も伸びた。それにより新型の竜翼機は通常よりも大型化している

 
 武装も手が加えられている、今まで対艦兵器は投下式の魔石爆弾のみとなっていたが、『放出』『追尾』を付与された射出装置を搭載した

 『放出』
 投下のみだった爆弾を高速で水平に射出する事が可能
 『追尾』
 主に敵竜翼機に対して有効、敵機を追跡し攻撃を加える事が可能

 これにより竜翼機の攻撃能力が格段に上がるのと同時に、パイロットの生存率の上昇も見込める
 ただし、実際の所は『放出』『追尾』のほかに『付与』を契約している者がいないとこの装置は作れず、『付与』を契約し尚且つ2つの魔法の内のどれかをセットで契約できた者はハルツールはもちろん、マシェルモビアでも少人数しかいない。
 エンジンにしろ兵器にしろ、製造に通常の竜翼機の4倍以上のの費用が掛かるこの新型は、どこまでが正式に採用されるかはまだ決定されていない



「アルドレス、アルドレス、応答を」

 母艦であるアルドレス定時報告をしていたアデルだったが、その様子がすこしおかしい
「アデルどうした?」

「通信が繋がりません」

「なら俺がしてみる」
 バールはアルドレスに通信を繋げるが、それはノイズだけ聞こえ繋がりはしなかった

「チッ、‥‥‥んー」
 通信装置も欠陥か‥‥‥

 新型の竜翼機とはいえ、あくまでテスト機。軍港都市コントルでは新しい対艦兵器の射出装置が上手く作動せず、出港ギリギリまで調整を加えていた。
 そのうえ、通信装置の不具合にバールも苛立つが、整備の者達が一生懸命やっているのを見ているのでそれを無理やり抑え込む

 竜翼機で通信装置が不通もしくは故障した場合、即座に母艦に帰還する事になっている。規定に従いバールはアルドレスの帰還を選択する

「仕方ない帰還するぞ、その際にも監視は怠るな」

「了解しました」

 2機は同時に右旋回、アルドレスに帰還する

「それにしても珍しいですよね、2機同時に通信が不能になるなんて」

「そうだな、今までそんな事例は聞いたこともないし‥‥アデル、イーマに繋いでみてくれ、俺からも試してみるから」

「はい、イーマに繋ぎます」

 念のため、同じくラベル島に向かっている巡洋艦イーマに通信を繋いでみたが、やはりノイズだけが聞こえるだけだった。

「そっちはどうだ?」

「ダメです繋がりません」

「やっぱり通信装置の不具合か」

「班長、自分の機体の計器が安定しないんですが」

 アデルの報告にバールは自身の機体の計器を確認する
「俺のは何とも無いが」
 計器は安定しており異常はない

「あっ、安定しました。一時的でしたね」
 
「何なんだ‥‥飛行テストは問題ないんじゃないのかよ、こんなんでよく実戦テストをやろうと思ったな、パイロットを殺す気でいるのか?」

「昨日は問題なかったんですがね、今日になって急に2機とも不調になるなんて」

 確かに昨日は問題なく飛行出来た。帰還前に新しい魔石爆弾の射出テストも行ったがそれも問題なくこなしている。
 バールがこの新型機の設計自体が欠陥ではないか? と思って来た時

「あららららら!」
 アデルが慌てた声を出す

「どうした!」

「お漏らしです」

 後方を確認すると、アデルが搭乗している機体の真下から球体が次々と海面に向け落ちてゆく。
 搭載している爆弾が投下スイッチを押さずとも勝手に落ちていく不具合、これは本当にごく稀にある事なのだが、パイロットの間では鳥が糞をしているように見える事から『鳥の糞』もしくは『お漏らし』と呼ばれている。
 ついさっきまでは設計ミスと思い設計者に対し苛立ちを覚えていたバールだが、こう次々と不具合が出てしまうと苛立ちが設計者からアルドレスの整備士へとより身近な者へと移る

「流石に‥‥これは無いぞ」

「最後の一つ射出完了、これで自分の分はテスト終了です」

「全部出たのか?」

「はい、全部出ました。自分のは出す所が緩かったようですね、何となくすっきりした気分ですよ」

 などと少々下品な会話をしつつ、このままアルドレスまで戻るはずだったのだが━━






 カッ!!




 機体の下から光が溢れ、そして轟く炸裂音、バールとアデルは反射的に機体を傾け光と音がした場所を確認する。
 装置の不具合で落下した爆弾はそのまま海に沈むはずだった。しかし、落下した内の一発が海に沈む前に反応した

「耐壁魔法‥‥」
 薄い皮に包まれるように、その下には大型の巡洋艦の姿が

 今の今までその姿は無かったはず、だとしたら眼下に見えるあの巡洋艦は? マシェルモビアの軍艦か? しかし、今見えている『耐壁』は?
 バール、そしてアデルは混乱するが、その巡洋艦の姿に二人は戦慄し叫ぶ

「ディレコモビア!」

「アデル、上昇しろ!」

 本来そこにいるはずの無いマシェルモビアの旗艦、ディレコモビア
 本来ここにいてはいけないはずの最優先撃破対象

「何故ここにいる!」
 見逃したか!? 違う! 見逃すはずがない。ワイヤーにも反応はしなかったのはどうしてだ? 
 いや、今はそんな事考えてる暇はない

「アデル! 解除の弾を撃て!」

「了解!」
 言うや否やアデルは『潜伏・隠蔽』解除の弾をディレコモビアの周囲に撃つ

 バールも同じく解除の弾を撃ったが、反応は全く無かった。
「反応無し? 旗艦が護衛も無しにこの海域に来たというのか! ━━うっ! チッ!!」

 ディレコモビアから二人の乗る竜翼機に向け対空砲が放たれる、放たれた弾は翼をかすめ細かな金属片が飛び散り、その細かな破片がキャノピ―に打ち当たる、バールは即座に翼を確認

 まだ大丈夫だ!
「護衛も無しに来たなら今こそ好機! マシェルモビア旗艦、ここで沈めてやる!」
 
 バールの持つ、ずば抜けた操縦能力で敵旗艦に接近を試みる。新型が持つスピードはバールの技術と相まって対空砲を撃たれる前にその場所をすり抜け、バールの乗る竜翼機の射出口から魔石爆弾が放たれようとしていた

「捉えた!」

 今まさにその口から放たれようとした時、バールの乗る竜翼機は激しく揺れ

 パリン!

 竜翼機の『耐壁』魔法が弾け飛び、更に左翼の推進装置に敵の砲撃が直撃した

「うぉぉぉお!」
 固定ベルトをしていたにもかかわらず、座席から大きく弾き飛ばされるかのようにバールの体が揺れ、キャノピー側面に頭を強打する

「班長! ━━よくも!」
 アデルはバールが狙いを定めた時、旗艦がいる場所以外から対空砲が飛んできたのを見ていた。解除の弾から外れた敵艦だろうと判断、周囲の海面に向け機体を回転させながら機銃を掃射する
「隠れてないで出てこい!」

 アデルが海面に向けて撃った機銃は、解除の弾が全く効かなかった艦隊・・の姿をあらわにする

 出鱈目に放った機銃にそのほとんどが反応し、いままでそこにいるはずの無かった軍艦の姿があった。巡洋艦無数に空母が2隻、敵の姿をあぶり出す為に撃った機銃だったが、それはこのたった2機の竜翼機のパイロットを絶望させるには十分だった

「あ‥‥あぁ」
 アデルはその光景に動きが止まってしまったが

「動け! 狙われるぞ!」
 班長であるバールの一喝でアデルは我に戻る

 回避行動を開始したアデルを尻目にバールはこの状況を踏まえ、次の行動に移る

 この海域に何故この大艦隊が存在できる? ラベル島が近いんだぞ? しかも敵の旗艦まで‥‥
「何かしらの‥‥」
 大きい作戦が実行されようとしている

 ヘルメットの中から温かい物が流れてくるがそれを手首で拭う、どうやらキャノピーに頭をぶつけた時、ヘルメットの端が額を軽く切ったようだった

「アデル、ディレコモビアに爆弾が当たった時、あれは間違いなく『耐壁』魔法が発動したな」

「正直分かりません、でも自分が考え付く限りでは『耐壁』でした」

 敵艦体の攻撃が激しさを増し、2機は更に高度を取る

 バールは回避行動を取りながら思案する

 陸軍からの情報で『潜伏・隠蔽』魔法とは違う、新たな魔道具が発見されたのは聞いている、解除の魔道具が反応しなかったたのはそれのせいだろう━━

 
 海軍の間では陸軍が特殊な魔道具を発見したとの報告があった時、とある噂が立った。
 
 『破壊の一族』の次女であるソルシア・ソルセリーが海路でとある作戦の為移動中、ハルツールの領海内でそのソルシアが乗る軍艦が沈められてしまった。
 これは海軍ではとてつもない失態として海軍トップが辞任する事になったあの出来事、その時の艦長が自国の領域だとして索敵を怠ったという事実もあるが、それ以前にあの場所にマシェルモビアの軍艦がいた事自体不思議だった。
 海軍ではマシェルモビアを手引きしている者がいるのでは? となったが、陸軍にそれを否定された。
 自分達の失態をを誤魔化す為に棚に上げていると

 ただ、特殊な魔道具が発見されたとなった時、もしかしたらソルシア・ソルセリーの死亡の原因になったあの敗北の時にはその魔道具が使用されたのではないか? と

 そしてたった今、陸だけではなく、海でもその魔道具らしきものが使用された
 ソルシア・ソルセリーが自国の領海内で戦死した時と今のこの状況はよく似ている


 これは━━
「サコナ・ソルセリーか!」
 今この時バールの所属する母艦アルドレスの後ろにはそのサコナ・ソルセリーの乗る軍艦がある

「班長! 竜翼機が昇ってきます!」
 空母では既に竜翼機が発進する準備をしており、いつ竜翼機との戦いになるとも限らなかった。
 敵艦が『耐壁』の魔道具を使用していたという事は、敵の竜翼機も『耐壁』の魔道具を積んでいてもおかしくはない

「アデル援護しろ! この場でディレコモビアを沈める!」

「は、班長!?」

「今この時を逃がしたらもうこの艦隊は発見できない! そして必ず『破壊の一族』が乗る船がやられる! お前は敵の竜翼機を抑えろ、速度ではこっちの機体の方が上だ!」

「し、しかし班長」

「覚悟を決めろ! アデル!」

「っ‥‥了解!」

 バールは機体の方向を敵旗艦のディレコモビアに向けるとその速度を上げた。
 まだ『耐壁』が残っている敵旗艦に確実に、全ての魔石爆弾を全て命中させるため、ギリギリまで接近し投下出来るように、先程被弾した左翼の推進装置から黒煙を吹き出しながら敵旗艦に急降下する

 旗艦ディレコモビアに攻撃が向くと判断した敵巡洋艦らは、黒煙が吹き出すバールの機体にその対空砲を集中する。
 バールの機体が旗艦に迫る程、その対空砲の攻撃は幅が狭まりその砲撃は交差する

 通常のパイロットでは不可能な動きできりもみ式に落下するバールは、その激しい攻撃を全て躱しその標的を範囲に捕えた

「全弾ぶち込んでやる! 大人しく沈めよ!」
 操縦桿にあるロックを解除し、そして

 魔石爆弾射出のスイッチを押した



 カチッ‥‥‥


 押したはずスイッチだが、射出されない

「嘘だろ」
 
 カチッカチッ

「‥‥この欠陥機がぁぁぁぁぁぁ!!」
 バールは方向転換、急上昇を掛けるが━━

 ドン!
 
 ディレコモビアが放った対空砲が左翼に直撃、黒煙が吹いていた推進装置諸共破壊、バールが乗る竜翼機の左翼の半分以上が吹き飛んだ

「ぐぅ‥‥‥うううううぅ!」
 制御が完全に不安定に陥った機体、これでは海に激突すると思われたが、無理やり操縦桿引き倒し海面すれすれで上昇に乗る


 ああ‥‥駄目だ‥‥‥
 ここで俺は終わりか‥‥‥



 バールは最後まで生き残る事を諦めなかった。
 だが、左翼の殆どを持っていかれ飛行事態も難しい状況で、更に敵空母からの竜翼機も飛び立ち始めた。
 こちらは新型だとしてもこの状況ではもう生きる事は不可能だろう
 
 だからバールは生きる事を諦めた



 




 だが‥‥‥

「アデル、ハヤトに一緒に飲みに行けなくて悪いなと謝っておいてくれ」

「班長?」

 自分の人生の最後に思い出すのは両親の事か? それとも最近仲良くなった女性の事か? と思ったが、バールが最後に考えてしまったのは軍学校の同期であり親友であったハヤトの事だった。
 彼の召喚獣に乗せてもらい自信を持ち、その後急成長したバールは一年飛びでアルドレスに編入された。
 その後もハヤトの活躍を聞きバールの心は踊ったものだ。 
 バールの憧れである現代の竜騎士の活躍を

「それと、俺の家にあるハヤトから貰ったペンダントだが、アイツがそれを聞いたら多分形見に欲しがるだろうから、それは断ってくれ。ペンダントは俺の墓に入れてもらえるか? 墓が空っぽだたら何だか寂しいからな」

「待ってください! それは━━」

「巡洋艦アルドレス第一索敵班、班長であるバール・エリネルが命ずる!」

「━━っ!」
 バールは部隊長、もしくは班長が持つ絶対厳守の命令を、班員であるアデルに発動する。この命令には部下は逆らう事は出来ず、必ず実行しなければならない。
 部下を死地に追いやる為の命令だが、実際は今、バールがしようとしている事に多く使われる

「当機体はこれよりディレコモビアに対し特攻を掛ける、第一索敵班アデル・フラーは急ぎアルドレスに帰還し、ラベル島に向かう全ての巡洋艦にこの状況を報告しコントルへの撤退を進言しろ」

「‥‥‥了解‥‥しました」
 アデル・フラーは少しためらったが命令に従い
「どうか━━」
 何かを言いかけたがアデル機は上昇を開始、新型ゆえの性能を見せつけるように敵竜翼機が昇れない位置まで上昇を開始する。
 魔石爆弾が搭載されていないアデル機は機体が軽くなった上に、飛行速度特化の通常の竜翼機よりも格段に速い速度でその場から離脱を図る。
 既に敵竜翼機が空母を発進しアデル機を追うが追いつけるはずが無かった

 
 アデル機がこの海域を離脱する時、バールの機体はディレコモビアの上空で上昇を止め、反転する
 



 生きる事を諦めたバールだが

 ディレコモビアを沈める事を諦めた訳では無かった。この船だけは今ここで必ず沈めなければならない
 
 狙いを定めたバールは、右翼の推進装置を切り機体の後方に新しく取り付けられた大型の推進装置に全ての力を割り振る。
 左翼の翼が破損しているが操縦桿を巧みに操りその位置を真ん前に捉える

「頼むぞアデル、必ず伝えてくれ。また『破壊の一族』の船を沈めたとなりゃ海軍にとってもう挽回できそうにない失態だからな」

 急降下してくる竜翼機にディレコモビアと巡洋艦は激しい攻撃を加えようとするが、『雷』魔法のようなスピードの機体を捕えられない。
 だがそれでも当たらない訳では無くその高射砲が放った一発が竜翼機のキャノピーを掠め破壊、その破片がバールの腹に深く突き刺さる

「ぐっっっつ! ━━ハヤトぉぉ! 一族を何としても守れよ!! どうか! どうか━━」

 

 敵巡洋艦の一つがその急降下するバールの機体を遂に捉える、その攻撃は竜翼機のコクピットを的確にとらえ、パイロット諸共その場から消滅させた
 
 完全に制御不能になったはずの機体だったが、機体そのものは吸い込まれるようにディレコモビアに降下、操縦する者がいなくなり速度が落ちたにも関わらず、マシェルモビアの艦隊が放つ対空砲は何故か命中しなかった
 
 そして遂に、その被弾し既にパイロットのいない機体は、マシェルモビア旗艦であるディレコモビアに特攻を果たした






 ━━どうか、皆無事で‥‥‥












 既に海域を離脱したアデルの機体からは、遠くからでも航行不能になったのが分かる程、空まで届く爆炎が上がっていた
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大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

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