異世界陸軍活動記

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真の隊長

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「流され過ぎたか‥‥」
 ハヤト隊最年長オーバ・パイルプス。
 
 ワームが飛び出して来た穴から大量のジャイアントアントが溢れ出し、それを捌きながらの後退、アントの外皮は厚く刀が全く通らなかった。
 オーバはアントの目や間接部分を狙い、確実に一匹ずつ仕留めていたが流石に多勢に無勢。しかも、深部を進むための隊列の中央には『破壊の一族』であるハヤト隊はもちろんの事、戦う力が殆ど無い海軍兵士が位置していた。
 その隊列の中央にワームが湧いてしまったのだった。

「部隊に━━っ! 戻りたいがっ!」 
 大きな顎で挟もうとしてきたアントを躱し、その際、右前足の関節部分をうまく切断する事に成功する。切断された足は別のアントが餌と認識しその足に飛び掛かる

「流石に海兵達を見捨てる訳にはいかないか」
 
 オーバの周りには海軍の兵士達が多く、武器を握る海兵達は陸軍兵士のように武器を使った訓練をしない。 海軍兵士達は戦い馴れていない陸、しかも全く今まで縁の無かった魔物との戦いに悲鳴を上げ、それでも武器を振るっていた。
 だが熟練の兵士であるオーバすら手こずる魔物、それを海軍兵士にどうにかできるはずはなかった


 立っていた地面が震え、巨大な物体がまた飛び出してくる。
 2度目のワームの上昇、運悪くその真上にいた兵士達がその餌となる。
 オーバのいる場所から離れた所での上昇だったが、飛び出すときの地響きは凄まじく、更に地面に落下する時の衝撃は離れた場所であっても腹の中に響くほどであった

 
 あんなのが地中に潜っているとは‥‥、これはもう人の手には負えないな

 離れていたからこそ分かるそのワーム巨大さ、その規格外の大きさに戦慄を覚えつつ、本来その場にいるはずだった隊長であるハヤトの事を思い浮かべる

 こんな時こそ隊長の━━
「━━出番なんだがな!」
 
 海兵に襲い掛かろうとしていたアントの太い首の隙間に刀で切り付ける。硬い外皮とは違い、足の関節部分や首や腹の隙間にはすんなりと刀が通った。
 これも前にハヤトが深部を抜けた時、有効と書かれていた攻撃方法である。硬いのは外皮だけで稼働部分はそれほどでもなかった

「あ、ありがとうご━━」
「礼を言う暇があったら立て! 次は食われるぞ!」

「━━っ! はい!」

「足の関節や胴体のつなぎ目を狙え、そうすればその刀でも通る」

 オーバに助けられた海兵は頷き、武器を持つ手に力を入れた

  
 とは言ったものの、海兵にどうにかできる相手では無いのだがな‥‥‥

 
 オーバに助けられた海兵は武器を握り締め、果敢にもアントに対し切りかかったが‥‥‥
 横から別のアントの顎の餌食となった。
 一度海兵を助けたオーバだが、もう助けない。強力な顎の力により体を挟まれた海兵は一度助けてくれたオーバに手を伸ばすが、そのまま連れ去られる

 助けられるならそうしたいが
「シッ!」
 オーバに襲い掛かってくるアントの胴に刀を入れそのまま切る

 そんな余裕はオーバにも無かった。誰もが必死で目の前の魔物と戦い、そして命を落とす。
 ここで弱い者、戦えない者は死に、本当に強い者だけしか生き残れない。
 だから皆必死になる

 生きるのに必死になるが故に、仲間を庇い、逆に仲間を盾にする。
 仲間を突き出し自分だけ助かろうと思う者がいても誰も何も言わない、それだけその場は混乱し阿鼻叫喚の地獄と化していた

 
 そんな状況でもオーバは1人でも助けようと刀を振るう。
 ただそれは仲間の為では無い、純粋に自分自身の為であった


 オーバの目的は生き残る事、巨額のローンが残っているし、まだまだ働かなくてはいけない。だからこの場から『餌』がいなくなってしまうのが一番不都合になるから。
 正直、自分以外がどうなろうと構わない、まずは自分が第一であり、その次に同じ部隊であるサコナ・ソルセリー。
 最低でも自分を含めた2人が残っていればいいとオーバは考える。その為に魔物の餌である他の兵士の数は、深部を抜けるまで持たせたいという気持ちがあった。
 だからこそオーバは奮闘する

 本来なら今頃は、残りの人生をゆっくりと時間が流れるように生きるはずだった。
 それが浪費家の妻のせいで今この状況にある、いくら好きで結婚したとしても、もう妻には愛情など無い、自分がこの場にいる原因となった妻を恨み、帰ったら絶対に離婚しようと決意。
 家のローンは妻と折半、一度も外で働いたことが無い妻がどうやって借金を支払うのか? 今から楽しみで仕方ない

 そう考えると不思議と刀に力が入る、逆にそんな事を考え続けないと今の状況を乗り越えられない気がした。
 気が狂いそうになりそうな気がした


 隊長‥‥どうして‥‥‥
「この場にいない!」

 オーバは知っている、隊長であるハヤト本人から聞いていたから


 ◆◇

「という訳でさ俺が残る事になったから」
 あっけらかんと何事も無いような顔でオーバに伝えるハヤト

「‥‥‥」
 突然の事に直ぐには言葉が出ないオーバだが
「本当に、それでいいんですか?」

「まあ仕方ないよ、元々破壊の一族の隊長ってそんなもんだし、今回は俺がその役目って事だけで」

 隊長であるハヤトが言うには、この事を知っているのはタクティアとライカ、そしてもしかしたら気付いているかもしれないこの作戦に携わっている幹部達数名、そして今話を聞いたオーバだけだと

「だからさ、ソルセリーの事よろしく頼むよ、オーバだって知ってるでしょ? ハルツールにとってのソルセリーを」

「それは‥‥十分に」

「うん、ライカにも頼んだけれどさ、なんて言うか‥‥少々不安でね。ほら、ライカって周りをあまり見ないし、出来れば補助に回って欲しいんだよ、オーバなら安心してそれを頼めるし」



「‥‥‥分かりました」

「そう言ってくれると思ってたよ、悪いね負担掛けちゃって」

「そんな事は‥‥‥」
 オーバは何故ハヤトが自分を頼るのか理解できなかった。自分は頭が悪い、だから先頭に立って戦うしか能がないのに

「そんなオーバにお詫びと言ったらいいのか━━」
 ハヤトは自身の『収納』から長細い物を3つ取り出し、その端を人差し指と中指で挟むと『付与』魔法を発動させた。
 一瞬だけ光ったそれをオーバに差し出す

「これあげるからさっ」

 それを受け取りよく見てみると
「こ、こ、これ天然の魔石じゃないですか」

「そうだね、それ3つで結構な金額になると思うよ、別に使わなかったら売ってローンの足しにしてもいいし、投擲武器として使っていいし」

「投擲!?」
 こんな高価な物を?

「元々レールガンの弾として作った奴でさ、失敗作なんだ。威力をもっと出そうと思って中に『雷』魔法を付与したんだけど逆に飛ばなくなってさ、レールガンとしては使えなくなったんだよね。でも結構きつめに付与してあるから投擲としては威力があると思う。
 それと『放出』も付与しておいたから、普通に投げるよりも速度が出るし、敵に向けて魔力を込めるだけだからノーモーションで放てるよ。
 でも、もし使わずにハルツールに戻れたら、俺が付与した価値も含めるとローンなんかそれだけで何とかなるだろうね」

「隊長‥‥‥」

「俺に出来るのはこれくらいかな? 色々迷惑かもしれないけど、頼むよオーバ」

「ありがとうございます」

「いいっていいって、こっちこそ感謝してるんだから、本当だったら中隊かもしくは大隊の隊長を務めるような人間がこの部隊に来てくれたんだから、随分と助かったよ━━」


 違う、俺ははそんな器じゃない。俺はそんなに立派な人間じゃないんだ


「━━出来る事なら破壊の一族の部隊長を変わって欲しいくらいだったし━━」


 俺なんかよりも隊長の方が合っている


「━━て訳だから‥‥‥、  オーバ・パイルプス」

 ゆったりと話をしていたハヤトだが、急に凛とした空気が流れる。それにつられオーバも肩に力が入る

「死ぬことは許されない。必ず生きてサコナ・ソルセリーをハルツールまで導け、これは命令だ」
 
 



 ◆◇



 なんて面倒な事を押し付けられてしまったんだ





 噛みつこうとするアントの顎下に急激に『土』魔法を発生させ、頭が持ち上がった所にその喉めがけ首に刀を深く入れ、そのまま貫いた。
 神経が集まっている場所をうまく突いたため、頭より下は動けなくなるアント。
 止めは刺さず次のアントへ狙いを定める

 オーバの後ろではワームの3度目の上昇が起きていた。兵士と一緒にその場にいたアントまで飲み込み、その大きな口の淵からは一緒に飲み込んだであろう土が溢れている。
 その位置からサコナ・ソルセリーのいる場所から離れてしまっているだろうと予想、オーバの考えではワームの一度目の上昇の時、サコナ・ソルセリーは隊列の右側に移動せざるを得ない状況だった筈と予測する。
 だが自分だけアントと戦ううちに先頭の方に流されてしまった

 一度後退し、ソルセリーと合流しようとしていた時、隊列の先頭が押されている事に気づいた

「どうした、先頭は何をしている!」
 ワームとアントから逃れるためにはここから早く移動しなければならない。にもかかわらず進むどころか逆に押されていた。
 前に進めないという事は、ここで足止めを食らいそのままワームとアントの餌食になってしまう。このままソルセリーの所まで戻るか迷ったが、熟練者の勘が『前に行け』とささやいたように聞こえ、オーバは勘に逆らわず隊列の前方へ駆けた




 ・・・・・

 ・・・・



「やってしまったか?‥‥‥」
 自分の勘に頼った事に後悔する

 そこには本物の地獄が待ち構えていた。
 最前列には無数に転がる兵士と魔物の死骸、そしてオーバが到着した今、1人の女性兵士がアントの餌食になろうとしていた

「ああああああああ!!」
 無茶苦茶に刀を振りアントを叩く。当たるたびに『ガン!』という金属を叩く音が聞こえ、アントはそれに怯むこともなくその口を開け━━

「シッ」
 オーバは迷いなく投擲武器をそのアントに向かい放った。
 放たれた投擲武器は炎を纏いながらアントの開いた口目掛け飛び、最初から決まっていたかのようにアントの口の中に吸い込まれ、口内で炸裂した

『ギィィィ!』
 悲鳴を上げるアントはその場でのた打ち回り、丁度そのアントを攻撃しようとしていた別の男性兵士によって首に刀を入れられ力尽きた。
 首を落とした男性兵士は直ぐに別のアントへと攻撃に移る

 寸前でオーバの投擲に助けられた女性兵士は
「ありがとうございまし━━」

「礼を言う暇があったら構えろ! 次が来てるんだぞ!」

「は、はい!」


 先ほども同じような事を言ったなと感じたオーバだが、その女性兵士の胸にはその部隊にしかつける事を許されないバッチが付いていた

「リクレク隊?」
 カシの部隊か、アイツは何をやってるんだ! 隊列が動いてないんだぞ!

「カシはどうした!」

「えっ!?」

「カシ・ヒタミアだ、お前の隊長の事だ」
 迫りくるアントに、また下から『土』魔法を顎下にぶつけ、頭が上を向いたところに外皮が無い喉元に刀を入れる。
 我ながら上手いと思うオーバに、その女性兵士から帰ってきた言葉は

「カシ大佐はアントの攻撃により重傷、今治療を━━って、あっ!」

 それを聞いたオーバは直ぐに走り出した



 カシが負傷した? どうした!? カシ!



 ・・・・

 ・・


「カシ! カシィ!」

 オーバはかつての戦友の名を呼びながらカシ・ヒタミアを探す、そこに一か所だけ戦いが続いているにも関わらず、戦いとは無縁ともいえる空間があった

「そこか!」
 その場に立っていた兵士を弾き飛ばすようにどかし、倒れている1人の男に駆け寄る。回復魔法を掛けられているその男の傷はかなり深く、腹を完全に切り開かれていた

「カシ!」
 オーバは男の側に膝を付く

「‥‥オーバか、俺の最後によく来てくれた」

 傷が深いカシ・ヒタミアを見ても、オーバは「喋るな」とは言わない、普通これほど重傷を負った場合喋るだけでも負担が掛かる。
 だが、オーバは分かっていた

 カシはもう助からないと
「ああ、何とか間に合ったようだな」

「何故ここに居る? ‥‥お前の部隊はどう‥‥した、ソルセリーは」

「ワームに分断されてしまってな、戻ろうとしたところにお前の事を聞いて来ただけだ。直ぐに戻る」

「そうか‥‥わざわざすまないな。 はぁ  はぁ  少し‥‥ゆだんしてしまってな。変種のアントのせいで、こうもみっともない姿になってしまった」

 
 変種?

 オーバは気づかなかったが、隊列の先頭に現れ、隊の頭を押さえつけていたのは変種のアントだった。先ほどリクレク隊の女性兵士を助けた時に戦ったアントも変種であり、外皮が更に固く、魔物であるにも関わらず統制が取れていた。 
 だからこそ先頭を進むリクレク隊は苦戦し、それに怖気づく仲間を鼓舞するためカシ・ヒタミア隊長自身が前に出て戦っていた。
 そしてカシ・ヒタミアが負傷した原因は仲間を守る際受けたものだった


 
「本当にみっともない姿だ。カシ、後ろにはワームとアントが湧いて先に進まないとこのまま俺達は食われてしまう、早く立って指揮をしろ」

「はは‥‥‥ひどい事を言う」

「ひどいも何もないだろう、それがリクレク隊の隊長がすべきことだ。お前はそれに自分からなったんだろ? なら当たり前だ」

「違うぞ‥‥‥仕方なく、‥‥‥仕方なくやるしかなかった。前のダリル中隊長が突然辞めるとか言い出してな━━ゴフッ!」

 カシ・ヒタミアが吐血し、その地がオーバの顔にも掛かるが、オーバは気にすらせず、カシの話を聞き続ける

「━━無理やり押し付けられたんだ。あのクソ爺‥‥今頃のんびりと過ごしているだろうさ、俺達がこんなに苦労しているのに」
 苦しそうに話すカシの体からは血が流れ続けており、回復魔法を掛けても喋るたびに血が流れる。それでもカシ・ヒタミアは会話を止めない。
 周りの兵士達もコレが最後だと知っているからカシを止めない。カシ・ヒタミアの最後の話を続けさせるためだけに回復魔法を掛けている


「そうだ‥‥‥オーバ、リクレク隊を引き継いでもらえないだろうか?」

「は? お前は何を言っている」

「言葉の通り、リクレク隊の隊長を務めてくれ」

「俺に務まる訳ないだろう、そもそも俺は一族の部隊者だぞ」

「いや、出来る‥‥お前には判断力もあるし人をまとめ上げる事も出来る、なーに、ハルツールまでたどり着くまでだ。━━っ!」
 痛みが強くなったのかカシの顔が悲痛に歪む

「そんな事、出来る訳ないだろう、隊をまとめるならリクレク隊の中にも━━」

「いないんだよ‥‥だからまだ俺が隊長を務めているんだ。もう‥‥‥俺も退役しているはずなんだがな‥‥はぁ  はぁ」

「それにしたって!」
 突然の事にオーバは困惑するが

「そもそも‥‥今のリクレク隊と、昔のリクレク隊では違う、初代のリクレクは頭よりも体が先に動く人だったらしい。
 だから自分から先頭に立って戦っていた。そっちの方が自分に合っていると‥‥‥、本来リクレク隊の隊長である人物は、先頭に立ち仲間をまとめ突き進む‥‥そんな兵士こそリクレク隊の隊長にふさわしいんだ。
 リクレク隊で第二小隊の先頭を務めていたお前こそが隊長にふさわしい!」

 いつの間にかオーバの手を握っていたカシは、その手に力を込める

「頼む‥‥‥友よ‥‥‥俺の最後の頼みだ‥‥‥」





 まったく‥‥‥
 ハヤト隊長も‥‥‥カシも‥‥‥

 勝手な奴ばかりだ

 全く持って面倒だ





 でも


 これから死にゆく者の頼み位聞いてやらないと‥‥どうせこれが最後の頼み、もうこれっきり面倒な事を頼まれる事はこれでないのだから
 




「分かった。引き受けよう」

 苦しそうだった顔に少しだけ無理をした笑顔が戻ったカシは、そのままカシの周りに控えていた者達に宣言する

「リクレク大隊、隊長であるカシ・ヒタミアが命ずる。これより部隊長の権限をハルツールに帰還するまで、オーバ・パイルプスに委譲する。
 オーバ・パイルプスに従いハルツールまで帰還せよ!」

 周りにいたリクレク隊の者達はカシに向け敬礼する

「さあ、受け取れオーバ」
 カシは胸についているリクレク隊の隊長バッチを手渡してくる

「あとは任せろ」
 オーバはその血濡れのバッチを受け取った

「‥‥‥やっと、肩の荷が降りたよ、リクレク隊の隊長などやるものではないな」
 
「それを今からやらなきゃいけない俺の前で言うか?」

「‥‥‥そうだな、頑張れよ‥‥‥」
 他人事のように言うカシだが、もう限界に来ている様子、もう思い残すことは無いのかその体からは力が抜けかけている。
 まだオーバの手を握るカシの手から力が弱まっているのを感じた

「所で‥‥‥竜騎士はどうした‥‥こうした時何かしら道を開いてくれるのが竜騎士だった」

「ああ、隊長は別の仕事があってな、今頃飛び回っているだろうさ」
 もう死んでいるだろう、我々を逃がす為に犠牲になったのだから

「そうか、そういえば何時も忙しそうに‥‥飛び回っていたな‥‥あれも隊長の枠にはピッタリの人物だった。
 次のリクレク隊の隊長に推薦しようと‥‥‥思っていたのだが」

「止めてやれ、本人は隊長なんかやりたくないと言ってたぞ」

「そうか‥‥‥ははは‥‥‥そうか、俺達と一緒だな」

 そして、カシの手から力が殆ど無くなって‥‥‥
「しかし、最後に‥‥‥あの英雄の━━」
 カシが言いかけた時

「竜騎士だぁぁぁ! 竜騎士が来たぞぉぉぉぉ!」
 突然周りに響く悲鳴のような声、それは誰もが待った。待っていた声だった

 ハヤト隊長が!?
 オーバはそんなはずないと目を開く

「竜騎士‥‥だと!」
 力が無くなっていた手に再び力が戻るカシ
「確認を!」

「━━間違いありません! あれは竜騎士の召喚獣であるデュラハンです!」
 魔法で土台を作り、高い場所から双眼鏡で確認した兵士が叫ぶ



 そんな‥‥ハヤト隊長が‥‥‥生きていたか!
 
 腕に寒気がするような震えが来たオーバのその手を握っていたカシから、物凄い力で手を握られ
「やった! やったぞオーバ! 俺達は生き残れる!━━」
 
 本当に死んでしまったのだろうか? 
 そう思わせるような期待の表情のまま、リクレク隊隊長であるカシ・ヒタミアはそのまま息を引き取った
 


 ・・・・・

 ・・・


「良く持ちこたえた! ここはリクレク隊が受け持つ、負傷者を下がらせろ!」
 
 血濡れのリクレク隊のバッチを付けたオーバ・パイルプスは、残っているリクレク隊を引きつれ、隊列左側の先頭に立った。
 良く見てみると確かに隊列の中列で戦ったアントとは違い、頭に角が付いている個体、つまり変種だった。
 体も更に大きく動きも普通とは違う、一対一ならともかく、あれだけの数と戦うのは自分たちに取って不利になる。
 ましてや魔物の数などどれほどいるのか分かっていない。
 まず最優先するのはこの場から動く事、この場に留まる事はつまり死を意味する。何としてもあの変種のアントを越えなければならない

「ソルセリーを連れていけとか、隊長をやれとか‥‥‥全く隊長と言うのは自分勝手な奴ばかりだ」
 愚痴のように呟いたオーバは、ハヤトから譲り受けた投擲武器を一つ手にする

 オーバの勘では、これは投擲武器には使えない。オーバ自身、完全に天然魔石を使った武器などを使った事が無いので分からないが、通常の投擲武器と違い破壊力が桁違いのはず、それに加えて、ハヤトが結構魔力を込めたと言っていた。
 ハヤトの魔力量の多さは知っているし、有りえないくらいの高出力の魔法を扱える事も、この身で確認している。
 ならば、人がいない場所でしか使えない代物だということも自ずと分かる、売ればかなりの金額になる代物だが、オーバは迷わず手にする

「前を開けろ!」
 叫んだオーバに反応した兵士達が左右に割れ、その直後。
 オーバは投擲武器に魔力を流した


  

 ゴッ!!


 そんな音がしたと思う。
 放たれた投擲武器(?)は、直後に巨大な光を放ち放電し、一直線に変種のアントに向かい飛んだ。
 周りにいる者全てに放電する巨大すぎる雷は、前にいて左右に分かれた兵士達にも魔法が降りかかる程のもので、そのまま射線上のアントを貫き尽くした


 オーバは知らない、天然魔石を使った武器という物を


 オーバは知らない、ハヤトの『結構』という言葉の意味を




「‥‥‥なんて物を渡してくれた」

 射線上にいたアントは、直撃したアント以外は死んではいないものの、その雷に当たったアントは焼け焦げほぼ死にかけている状況であり、まったく動いてなかった




 目を見開き、あんぐりと口を開けている周りの兵士達が自分の方に視線を移すのを感じ


「ぼけっとするな! 道を開くぞ!」

 オーバは駆けだした


 
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