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会社の為に働いたが「働きもしないあなたを解任する」と言われ追放された。他会社に肩入れしたら一流企業になる。今更帰って来いと言われても遅い ②
しおりを挟む公園で一人寂しく昼食を取る老人がいる。見た目130歳頃の老人で地球基準で言ったら80歳程。
ベンチに座りその横には愛用の杖を預け、熱々の辛いスープを啜っていた。
公園で熱々のスープに口を付ける老人は、他の公園を使用している母親や小さな子供からは奇異な目で見られていたが、老人はその事をまったく気にしていない。それどころか公園内の母子達を観察するように見ていた
その老人が俺です
『変化』の魔法により姿を変え、少し遅れた昼食を取っていた。この年齢の姿だと真昼間からこの場所で食事を取っても目立たないと思ったから、地球基準で50歳の姿で食べていた時は結構変な目で見られたものだが、この80歳の姿でも結局は変な目で見られている。
でもそれがどうした? いいじゃない何も悪い事してないのに
さて、姿はどうでもいいとして、何故この場所で昼食を取っているかと言ったら、『何もすることが無い』これに限る。
軍からはまだ要請もないし、それ以前に注文していた装備が完成していない。武器防具の設計図がノームの収納に預けていたのでまた一から書く事になったが、そこで少し思い付きで悪戯をする事にする。
最初に普通の設計図を出し、そろそろ出来上がるかな? という時期に追加で素材を渡す。
「これ使ってください」と。
出したのは深部で倒した魔物の体の一部、何かに使えるだろうと思って取っておいたものだった。
そうすれば戦場に出る時期がずれるかな? と思ったから
要は戦場に出たくないので時間稼ぎのためにした行為であって、コレをすればまだ出なくてもいいだろうと考えたのだが、同時に俺の装備を作ってくれている職人さんには嫌な顔をされる覚悟があっての事だった。
だが、素材を渡した軍の人からは
「物凄い喜んでいましたよ、こんなめずらしい物を使えるなんてって言ってましたよ」
そんな訳で俺も出動が遅れて喜び、職人さんも未知の素材を使えて喜んでwinWin
という事でやる事が無い俺は公園のベンチで暇つぶしをしていた。
話は変わるが、オヤスグループの顧問を解任された時、やけに食い下がっていたのは理由があった。数日前に首相から俺宛てに封筒が送られてくる、その内容だが‥‥
『この度、貴殿の戦場よりの帰還誠に━━』
から始まり
『━━これからの活躍を願う』
という文で締めくくられていた。
10枚の紙に長々と書かれていた内容を要約すると
『これまで連絡できなくてごめんね、色々こっちも忙しくてさ、ほら、マシェルモビアが攻めて来てるおかげで国内大変じゃない? それでさ、こんなご時世だから君だけ贔屓する事が出来なくなっちゃって‥‥だから今まで払っていた給料は無しでいいよね? それと君の家は売却したから、君の買った備品も捨てちゃったけどゴメンねという事で住むところは自分で決めてね』
と書かれていた。つまり給料無しの家無し家具無しになった。別に家具は大したことは無い、ほとんどラグナの収納に入れている訳で、ただ家を失ったのと首相からの給料が無くなったのは痛い。
更に首相の封筒が送られてきた2日後、軍に呼びされ給料の事で話があった。
それまでは高額の給料を首相と折半して払っていた軍だったが、こんなご時世だし給料は君の階級と同じ中尉の給料でいいよね? しょうがないよね? あとこれ以上昇進したかったら軍大学に入ってね、でも今は大変な時期だから軍大学に入るのは後かな
とのこと、何でも『このご時世』と言う魔法の言葉でかたを付けるのはどうかと思う。
まあそれはいいとして、いや、良くはないけれど
それと別に昇進したくはないから軍大学には興味が無い、それに中尉以上の階級の給料でも前に軍から貰っていた給料には届かない、要は軍で一番給料が多かった。
それが大幅に給料が減った所にオヤスグループの話があった訳であって‥‥必死に抗ったが結局は駄目だった。
それまではいつもオヤスグループ系列のスーパーで買い物をしていたが、買い物はそれ以外の店に変えた。もうあんな店使ってやるか!
もうグループの商品も不買しているし必ず製造元を確認している。今贔屓にしているスーパーは召喚獣のラグナが行っても騒ぎ立てずに買い物をさせてくれるようになったので、1人で行かせている。ラグナもその方が楽なようだった
「旦那様と一緒に買い物が出来るのは嬉しいのですが、食材を吟味しながら選ぶのが楽しみの一つになっているので」
と言っていた。俺は目についた物を買う癖があるからラグナの性格的には合わないようだ。そしてラグナが買い物から帰って来たその日の夕食、いつもと味が違う様な気がした俺は━━
「ちょっと味変えた?」
と聞いてみた。ラグナは自分で味を変えたりすることは出来ない、レシピ道りにしか作れないはずなのに味が少し変わっていた。他の人からレシピを貰ったのだろうか? と思ったら
「いえ、変えておりません。ただ油が━━」
と言い収納からその油を取り出して見せてきた時、俺は思わず涙が溢れてしまった。それはいつもの一番高い炒める為の油ではなく、人差し指程の容器に入っている最も安いメーカーの油だった
「ああ゛あぁぁぁぁぁあ゛いやぁぁぁぁ!」
料理を床に落とし両手で目を覆う
「だ、旦那様! どうされたのですか!」
「俺はここまで落ちぶれてしまったのかー!」
泣くどころか号泣した
「違います旦那様! たまたまいつもの食用油が無かっただけです! 明日また買いに行きますから落ち着いてください!」
給料の合計が今までの2割程になり、家も無くなり精神的に落ち込んでいた時に、ラグナが気を使って安い油を買ってきたのだろうと勝手に勘違いし、無性に悲しくなってしまったが、よくよく考えたら別に泣く事も無かった。
ゴルジア首相は俺が死んだとなった時から給料は振り込まれていないが、軍は俺がいなかった5年間は前の給料を出すと言ってくれたし、オヤスグループは前会長のオヤスが捕まる前の給料は、オヤスが横領していた分もまとめて払ってくれると言ってくれていたので、結構な給料が振り込まれている。
5年間は一切お金を使っていないし、それよりも貯金がかなりある。もう働かなくてもいいくらいじゃないかな? 欲しい物があったら首相にねだって買ってもらっていたし、使うと言ったら食費位? あっ、デュラ子の服代ぐらいだったか。
そんな訳で普通に考えたら別にお金に困っているわけではない、ただ一度大きな給料を貰ってしまうと、今の給料ではやって行けるかと不安になってしまう。お金があっても不安になるのだ
日本に居た時、よく会社の社長とか会長とか金持ちが脱税するニュースが流れていたが、今ならその気持ちが分かる。お金は沢山あっても不安になる。
だからさっそく新しいスーパーのポイントカードを集めているラグナには感謝する。オヤスグループ系列のスーパーで使っていたポイントカードは一応捨てないで持っておくらしい
そんな訳でお金をあまり使わず、時間を潰すのは公園でのんびりするのが一番いい。もちろん毎日のトレーニングはしてます。
でも、こうしてぼーっとしてると‥‥何だか早くボケそう
「おかわりは必要ですか?」
スープの皿が空になったのでラグナが耳元で囁く、その声にビクッと体を震わせてしまう。
ラグナが完全に出てきてしまうと俺だとバレる可能性があるので、口だけ小さな魔法陣から出して声を掛けて来た
「いらないよ、あと、耳元で囁くのは止めて」
「分かりました」
ラグナは皿だけ受け取って戻って行った
「さてと」
あまり長居すると、不審に思われて昨日みたいにお巡りさんに話しかけられてしまう。
「おじいさん大丈夫ですか?」
までは大丈夫だけど、「身分証明書見せて貰えますか?」とか言われたらちょっと都合が悪いので移動する。
今寝泊まりしている役場の宿舎にいてもいいんだけど、今は皆仕事中で誰もいないしどちらにしろやることが無い。
ただし、このまま役場の宿舎にお世話になる訳にはいかない、善意で部屋を貸してくれているだけなので今後は家をどうするか? ってなるんだけど‥‥、野宿するとまた捕まるし‥‥軍の宿舎にお世話になるか? でもあそこ門限があるんだよなー
「家を‥‥借りてみるか?」
日本では実家暮らしだったし、こっちに来てからは与えられた場所に住んでいたし、よく考えるとちゃんと一人暮らしとかしたことが無い。となると家を借りて住むという事は本当の意味での一人暮らしになるんじゃないだろうか?
そう考えるとなんだかテンションが上がってきた。好きな都市の好きな場所に物件を借りて住む。近くにスーパーがあり、移転門も近くにあり、尚且つ公共機関や公共の建物が近くにある所を借りれば‥‥
「いいね! そうしよう。治安も完璧な場所を選べるし、何だったら家を建てちゃってもいいね、あっ! 凄い、憧れのマイホームだ!」
夢がどんどん広がり、大きな庭付きの一戸建てが頭に浮かんできた
「でしたら大きなキッチンなどが欲しいのですが」
するとちょっとだけ後ろからラグナが声を掛けてくる、耳元で囁くなという言い付けをさっそく守ったようだ
「どうして? お前自分の『収納』で料理とか出来るじゃん」
「はい、ですが欲しいのです」
「あら、そう、まあいい、じゃあめちゃめちゃでかいキッチン追加だな」
「ありがとうございます」
「よしよし、なら寝室にはデカいダブルベッドを入れて、書斎何かあったりして、首相に借りていた家位の規模がいいな」
「でしたら庭に畑でも作りませんか? 私が丹精込めて育てますから。『収納』の中にある農園だと味がどうしても落ちてしまいますので、やはりお日様の下で光を沢山浴びた野菜などを調理したいですね」
「いいよいいよ! もっと案を出してよ」
凄い! どこまでも夢が広がってゆく、これはどこまで行くのだろうか? 俺の家はどんな豪邸になってしまうのだろうか? プールとかも欲しい! 泳がないけど。
そう言えばエクレールも今の俺より若い時に家を買っていた。そう思うと何故今まで買わなかったのか不思議に思う。
もっと早くすべきだった!
気分が最高潮になった時、エクレールの事をふと思い出したのだが
『隊長‥‥その、少しばかり野菜を分けて貰えないだろうか?』
「はっっっ!!!」
休暇に入る前のエクレールの言葉がフラッシュバックのようによみがえった
「ど、どうされましたか旦那様!」
突然、引きつった声を出したせいでラグナが心配するが
そうだ、そうだった。
エクレールは家の為に多額のローンを組んでおり、日々の支払いで首が回らない程だった。困ったらお金を貸すよと言ったが、物で要求されるとは思っても無かった。
ローンで全てお金を使い、食べる物も無いのだろう。自分の事では無いのに何故か物凄く悲しい気持ちになったのを覚えている。
最初は申し訳なさそうに、恥ずかしそうに分けてくれと言っていたエクレールだが、2回目以降は普通に要求してきた
『今回はダイモを多めにくれないか? それとパナンの実も少しばかり欲しい』
という感じで休暇前は俺が『成長促進』魔法で野菜をその場で作り、手渡していた。だがその後チョコレートを大量に箱買いしていることが分かり、実のところ本当はあまり困って無かった事が発覚して少しばかりホッとしたものだ
その記憶のおかげか、あれだけ盛り上がっていた俺の気持ちも急激に冷めてしまった
「ラグナ、家を建てるのは止めよう、アパートでも借りよう」
調子に乗って家を建ててローン地獄にはなりたくない、お金は大事、節約しなくちゃ
◆◇
がっかりしてしまったラグナには申し訳ないが、結局アパートを借りることにした。
まず不動産屋さんを探そうと思ったが、あったと思ったらオヤスグループの不動産ばかりで他が見つからない。不動産業の社長を務めるゴダイブには悪いが、傘下の不動産はパスさせてもらう
「ホントに無いなー」
いつもは探さなくてもある不動産だが、いざ探すとなると中々無いものだ。あっち方面にあった気がするなーと思っても全く違ったり、どうやらオヤス不動産が今辺の業者を駆逐ししてしまったようだ。
ならサーナタルエ以外の場所で探すしかない
よし、ちょっとだけ遠出しよう、首都のサーナタルエを離れる為、移転門で別の都市に移動し交通機関を使い知らない街へ
という事で、いつもは行かないような場所にいくことにする。
するとどうなるか? といったら
「迷っちゃったよ」
「旦那様、引き返した方が良いのでは?」
ラグナは魔法陣から顔だけ出し引き返せと言う
「いや待ってよ、このまま真っすぐ行けば建物とかあるから」
直感に頼りどんどん進むが、行けば行くほど木々が鬱蒼と生えている
「旦那様、流石に引き返された方が」
周りにはもう誰もいないのでラグナは魔法陣から出て普通に歩いていた
「いやいや待ってよ、もうちょっと進めば町とかあるから」
・・・・・
・・・
「もうこれ町ないだろ」
「だから言いましたのに‥‥」
進んでも町どころか人っ子一人居なかった。時間はまだ日中なのだが、背の高い気のせいで夕方のように薄暗くなっていた
「しゃーない、今日は不動産は諦めよう、野草取って帰ろうぜ」
迷ってしまったら仕方ないと思い、『照明』魔法を使い辺りを照らし、野草を採取し始めることにする
辺りには所狭しと食べられる(?)野草が生えており、今日の夕飯は豪勢な野菜炒めになりそうだ。
完全に暗くなったら空飛んで移転門まで帰ればいいし、サーナタルエじゃないから都市条例にも当てはまらないし、今日は色々と縁がなかったのだろう
ところで話は変わるが、この星の人達も絶望し自ら命を絶つ人がいる。魔法、特に氷魔法や土魔法を使える者はギロチンのように自分の首に向かい放つらしい。
で、それ以外の人は高い所から身を投げたり、首を吊ったりするらしい
何でそんな話を急に‥‥と思うかもしれないが、目の前にはまさに木から下げられた輪っかに、首を掛けている男性がいたからだ
「待ちなさい!」
ダッシュで駆け寄り、今まさに足場を外そうとしていたその人の足をガッチリと掴んだ。突然大声をあげた俺にビックリした人は、足を滑らせ少し首に負担が掛かるが、俺はグイッとその足を持ち上げる
「は、放して下さい! 俺はもう駄目なんだ。生きててもしょうがないんだ!」
暴れるその人は足をもがく
「いいから少し話を聞きなさい!」
暴れるその足を『身体強化』の魔法を使いガッチリとホールドした
「は、放し━━い、痛い! 折れる、放して! 足放して! なんて力を出すんだこの爺さんは!」
「放したら死んでしまうだろが!」
「その前に足が折れるから!」
・・・・
・・・
「落ち着いたかのぉ?」
爺さんと言われ、今自分が老人の姿になっているのを思い出し、話し方を変えてみた。ちなみにラグナは直ぐに魔法陣に戻っており姿を見せてない
「はい、すみませんでした」
男の人はひどく痩せており、顔色も悪かった。死のうとしていたくらいだったので、その目には生きる希望というものが無いように思えた
「良かったら話を聞かせて貰えんか? このジジイでいいんだったら話を聞くぞ」
「・・・・」
「話した方が死ぬより楽になると思うがのぉ」
「━━実は」
男性は観念したかのように、何故死のうとしたのかを話し出してくれた
この男性の名前はセラ・オイナーという名前で、今年で60歳丁度、とは言っても見た目魔法のおかげで20代にしか見えないが。
そのセラ・オイナーだが父が事故死してしまい、父が経営していた会社を引きついたらしい。だが、自分が引き継いでから会社の経営は傾き、来月の社員の給料さえ払えないらしく、融資の相談もしたが、結局お金を調達できず、それにより仕入先からは仕入れを止められ商品を作りたくても作れない状態になってしまった。
しかも作っても商品が売れないので回収出来ない
絶望した彼はこの森で命を絶とうと考えたらしい。妻と子供、そして従業員には申し訳ないがこの場に縄を掛け、朝からあの体制だったと
という事はだ。別に俺が止めなくても死ななかったんじゃないかな? と思ったがそれは言わないでおく。もしかしたら本人もそろそろ帰ろうかな? とか思っていたのかもしれない
「なるほどのぉー」
話を聞いてみたけど、だからと言って俺に出来ることなど無い。話を聞くだけ、特に何もしません
「仕入れを止められてからは同業者から残った廃棄される原料を買い取って、そこからわずかに取れるのを薄めて売っていたんですが、それが決定的になりました。やはり混ぜ物をした商品は格段に質が落ちてしまうんです」
当たり前じゃん
心ではそう言っても口には出さない、そうかそうかと頷く。
でも話を聞いてたけど、結局何を売ってるんだろ?
「ところでお前さんのとこでは何を売ってるんじゃ?」
「はい‥‥食用油を作ってまして」
「食用油のう? 儂の知ってる商品かな?」
「多分見た事があると思います『フラベリン社』で出している━━この食用油です」
自身の『収納』から自社の商品を出して来た
携帯してんのかい! と思ったが
「あっ!」
「えっ、ど、どうしましたか?」
「あ‥‥いや、何でも無い━━無いわい」
ラグナが買って来たクッソ不味い商品だ。あのせいで料理の味がガラッと変わってしまった。あれじゃ売れないわ、仕方ない。このまま会社は潰れるしかない
「油を搾った作物は油を搾った後すぐに腐ってしまうので、凍らせて工場まで運ぶのですが、その凍らせる過程で風味が変わってしまって」
「混ぜ物をすると言っておったが、一体何を入れておるのじゃ?」
「水を加えて混ぜると薄まるのでそれで量を‥‥」
水と油って混ざるの? 普通混ざらないと思うんだけど。まぁこっちの世界の油は混ざるんだろうさ
いい加減帰りたかったのだが、その後も色々溜まっていたのかずっとその男セラ・オイナーは話し続けた。
でもその人の話を聞いていると、自分の給料が80%ダウンしたことなど些細な事に思えてくる。上には上がいるし下には下がいる。
福沢諭吉の有難いお話である、だから諭吉先生は勉強しろとおっしゃった
だが勉強してもどうにもならない人もいる、この人のように
そして話を聞いている間に本当に可哀そうになってきた
何かないかなー
うーん‥‥と頭から捻りだしていたが
「‥‥凍らせると言っておったな?」
「はい、廃棄品を預かる時に」
「それは魔道具でいいのじゃな?」
「そうです」
「水の魔道具もあるんじゃな?」
「食品関係の会社には大体あります」
そうだった、オヤスの所にもあった
「ならちょっと見とれ (ラグナスープの残りを頂戴、後お湯も用意して)」
あたかも自分の『収納』から出すように見せてラグナからスープを渡してもらう
「ここにスープがある、確かめてみるか?」
スプーンを渡すとセラ・オイナーはふるふると首を横に振る
「まずじゃ、これを凍らせる」
皿を凍らせず、スープだけ一瞬で凍らせたことにセラは少し驚いたが、それに構わず話を続ける
「そして水だけを抜き出す」
『氷』魔法で凍らせたスープを、今度は『水』魔法を使い水分を一瞬で抜いた。するとサラサラした乾燥した物だけが残る
「触ってみぃ」
セラが乾燥したスープの残骸に触ると壊れるように崩れる
「これが?」
「まぁここからじゃ、よく見ておれ」
ラグナから沸騰させたお湯をこっそり受け取ると、乾燥したスープの残骸に掛けた。すると乾燥し固まっていた部分は徐々にほぐれ、そして、また熱々のスープに戻った
「なっっっ!! 何ですかこれは! また、またさっきのスープに戻りましたよ!!!」
「ふぉっふぉっ、儂の故郷に昔あった食べ方じゃよ、お主にコレをやろう」
「━━━っっっっ! い、いいんですか!!」
「よいよい、これで会社を立て直しなさい」
「あ‥‥ああ‥‥あ、ありがとうございます」
セラは涙を流し頭を垂れた
一方
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!! すげぇぇぇぇぇ!! 俺すげぇぇぇ!!
俺は歓喜していた。氷と水の工業用魔道具を持っていると聞いたからそれでピンときた。
フリーズドライ製法というのがポンと頭に浮かんで、何となくやって見ただけ、凍らせて水を抜く。
まぁ、それっぽいのが出来るだろうと思っていたけど、なんと完璧に再現できた!
俺天才! 俺天才!
「ほれ、確認してみるか?」
俺がスプーンを差し出すと
「はい! 是非!」
セラはスプーンを持ちそのスープを━━
「あっ、ちょっと待った! そのスープはワシ専用の味付けが━━」
・・・・・
・・・
色々あって
「すまんのう、儂は甘いのが苦手での」
「それでもあれは無いかと」
水を飲んだセラだが、まだ口の中がおかしいようだ
新商品のアイディアを渡して終わりでも良かったが、どうせなら成功して欲しいのでちょっとだけお節介してみる
「お主の会社の商品もう一度見せてもらえんかのう」
「どうぞ」
渡されたマズイ食用油のパッケージには青色で会社の社名が表に書いていた
「この会社の社名じゃがな、青色じゃ無く赤色で表記してみたらどうじゃ?」
食品会社の社名とか商品名は赤が多い、青は食欲を減退させるとか何とか。ちょっと聞いただけで詳しくは俺も知らない、でも周りがそうやっているんだから多分そうなんだろ
「赤ですか?」
「そうじゃ、それと可愛らしいキャラクターが必要じゃな、フラベリンだから‥‥フランちゃんじゃな。書く物は持っておるか?」
丁度持っていたようで一式受け取ると、紙にラグナをデフォルメした可愛らしい絵をかいてみた。絵は結構得意なんですよこれでも。
それで出来上がったのは、二頭身になった頭でっかちのラグナがニッコリと笑っているものだった。いつもの怖い悪魔の様な顔とは一線を画す可愛い顔
「コレを会社の顔にするとよい」
「えっ‥‥これですか?」
一瞬セラは戸惑っていたが
「分かりました、この絵を前面に出してみます」
「うむ、ならお主がやるべきことは死ぬことでは無いな」
「はい! 会社を立て直してみます」
「そうじゃ、とりあえずは魔道具での製法を完成させて、それを見せて融資を受けられるようにせんとな」
「はい、‥‥本当に、ありがとうございました。この御恩は必ず、━━そうだ! お名前は、お名前を聞かせて貰えますか!」
「ワシの名前はフリーズ・ドライじゃ」
「フリーズ・ドライ‥‥」
「商品が完成したら儂にも食べさせておくれ、サーナタルエの役所にいるミャマーに言えばワシに取り次いでくれるじゃろう、主の成功を祈っておるぞ」
その後、フラベリン社からお湯で戻すだけで、直ぐに熱々のスープが飲める商品が発売される事になる。この製法はフリーズドライ製法と呼ばれ、オヤス食品以外の会社が珍しくヒットを飛ばす商品となった。
そして、それはオヤス食品が狙っていた、軍への食料への提供を奪い取る事になる
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