異世界陸軍活動記

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豆腐ハウスと地下室を見つけました

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「昔はね、僕たちヒュケイは人に狩られる側だったんだよ」

「今とは違うんだ?」

「そうだね、今と違って体も小さかったし、大体この位?」
 マイナは手を使って大きさを伝える、大体生まれたばかりの人の子の大きさだ



 


 俺が目を覚ましてから多分1年が経過した、あの戦いからは多分2年だ。
 多分というのは、誰も日にちを数えていなかった為である。
 俺が寝ていた1年間? はラグナが1年と言っていたからそうだと思っていた。ところが、多分2年が過ぎた所で俺がラグナに、あの時からどのくらい経ったかを聞いた事から、誰も数えていなかった事が判明した

 最初の1年間でラグナが持っていたその年のカレンダーが途中で終わってしまい、ラグナは日数を数えることが出来なくなってしまった。
 それよりも、いつまでたっても目を覚まさない俺が心配でそれどころではなかった。ラグナが最初1年が過ぎたと言えたのは、畑で育ったパナンの収穫回数で計算した物だった。多分1年だろうと‥‥‥

 俺の目が覚めてからは、俺が日数を数えていた訳ではないしラグナも当然数えていない。マイナに至っては日数などどうでもいい、という訳でパナンの収穫回数を数えた所、多分2年が経過している






「あの時は人が一番怖かったからね、いつも葉の多い木の上に止まって隠れるようにしていたよ、この辺にも至る所に人の集落があって、安全な場所なんか殆ど無かったね」

「この辺って、やっぱり今とは違ってたの?」

「うん、木が沢山生えていてね、他の生き物も沢山いたんだよ、それでも人は僕たちヒュケイを狙って食べようとしていたんだよね、他にも大きくて食べ応えのある生き物がいたのにわざわざ小さい僕たちを狙うんだよ、酷いと思わない? 食べる所なんかちょっとしかないのに」







 この星の3分の1は、昔現れたグラースオルグによって飲み込まれてしまった。それが大体7千から8千年前だとされている。
 となるとマイナはそれ以前から生きていたという事になる、マイナが何千年生きていようと俺は嘘を言っているとは思えない。そもそも50年間寿命が延びる魔法陣があり、それを自分達が使用しているから。
 ネクターに直接貰ったペンダントが寿命を延ばす力を持っているなら、そんな事もあるんだろうと思うしかない





「それにね、僕たちが寝ている夜を狙ってくる人もいるんだよ、わざわざ木を登ってね。だから高い木は人気があっていつも場所の取り合いだったよ、みんなそこに集まって寝ていたからね」

「でもそれだと逆に目立たない?」

「うん、葉っぱからはみ出すから良く見つかってた。今思うと‥‥あれは見つかってもしょうがないね」






 俺が眠っていた約1年間で今思うと色々夢を‥‥特に悪夢を見ていた気がする。この世界に来てから見るようになった首ちょんぱの夢の他に、新たに猛獣に首を食いちぎられる夢、それと雪山で凍死する夢が加わっていた。
 目を覚ました今はもう見る事は無いが、その時は何度も同じ夢を見ていた気がする。
 
 目が覚めてからはリハビリをし、ようやく元の体付きになってきた。回復魔法で失った体の部分を治す時もそうなのだが、魔法で治す場合、全て元の状態に戻る。
 つまり筋肉も失う前の状態に戻る為、ほとんど筋肉は衰えない
 
 だが俺の場合、体が完治してもその後にずっと寝ていた為、完全に筋肉が衰えてしまった。だから今の今までリハビリをしていた

 それまで自分の体の事で精一杯だったが、体が回復し余裕が出てくると心にも余裕が出てくる。『天使の隠れ家』と呼ばれたこの場所を隅々まで調べたし、外にも出てみた。
 外に出てみるとこの緑豊かな場所とは一転、草木も生えていない荒地が広がっている。そして今までいた『天使の隠れ家』も消えていた。
 少しだけ空気が歪むような、例えるなら熱で視界が揺れるような感じの場所があるだけだった。そこにまた入ると隠れ家がある

 マシェルモビアが使用した魔道具でこの原理と一緒の物があったが‥‥これを元にしているのだろうか?
 




「それでね、僕たちの体が大きくなってからは狙われなくなったんだけど」

「まぁ、危ないからね、狙わないよ」

「でもね、ヴァンギエル族だけは今でも狙ってくるんだよね」

「ヴァンギエル族? ヒュケイって都市に現れる事って無いはずだけど? 緩衝地帯にはいるみたいけど、ヴァンギエル族がわざわざそこまで捕まえに行くとか聞いたこと無いし、どのくらい前の話なの?」

「今もだよ、人が深部って言っているこの場所にもいるし」

「普通、深部では生きていけないと思うけど? 危なすぎて」

「ううん、いるよ」

「死ぬだろう、魔物に食われて」

「ヴァンギエル族はね、魔物には襲われないんだよ、逆に魔物が逃げるから」

「なんで?」

「知らない」

 マイナが嘘を言うはずがないし、本当だとしたら逆に凄い事だけど‥‥

「俺が前に深部を通過した時は見た事なんかないんだけど」

「ヴァンギエル族も普段は『天使の隠れ家』で身を潜めていると思うよ、でね、強い者の体を食べると自分達も強くなれると思っているらしくて、僕たちが捕まると足だけ切り取って持っていくんだよ、僕たちの足の爪って結構鋭いからね。
 まだ僕が天使に会う前に、人が人を食べている所を見た事があるけど、多分あれが昔のヴァンギエル族だったんじゃないかな?
 今みたいに頭が大きくなかったから違うかもしれないけど」







 マイナは時折、ヒュケイの姿になり魔物を食べに行く。中でもワームがお気に入りで、見つけたらかなりの幸運らしい、中身がトロッとしてコクがあるようでそれがやみつきになるとか。
 俺はワームの中に取り込まれた時があるが、かなり臭い。あんなものを食べようとするヒュケイのマイナの話には同意できないが、それでもあのワームの体はどことなくシチューに似ているので完全に否定はできない、ああ‥‥なるほどなとは思っている

 ただ、人の姿になったマイナの場合、ワームは臭くて近寄れないと言っていた。鳥の姿の時と人の体ではやはり違うのだろう。
 それと、出張してワームなど魔物を食べた後、人の姿になると、胃の中にあった食べ物は全て消えてしまうのだという。
 そりゃあの巨大なヒュケイの姿では胃袋も大きいだろうし、そのまま人の姿に戻ったら破裂すると思う。
 体の中にあるものがすべてなくなる為、出張から戻って来て人の姿になった後は、お腹を鳴らしながらラグナに食事を頼んでいる。
 だったら、最初からヒュケイの姿になってまで食べに行かなければいいじゃない、と思うのだが‥‥
『ワームもワームで美味しいんだよ、ラグナの作った物に比べたら劣るけど』
 と、食事を趣味の一つとして捉えている所があった







「そうだ! ハヤトも今度一緒に食べ物を取りに行こうよ、僕だけだとよく分からないところがあるからさ、一緒に行けばもっと取って来れるかもしれないよ」

「そう言われてもねー、深部だろ? ただでさえ危険なのに俺今防具もないし、武器だって槍とランスしかないからね」

「大丈夫、魔物が出てきたら僕が食べておくからさ」

「う、うーん、まあ、ね。じゃあ行こうか‥‥な?」

 ・・・・・

 ・・・


 翌日
 
 俺はマイナと共に『天使の隠れ家』から出て、新たな食料を探す旅に出ることになる。旅と言っても夜には帰って来れる距離だと思うが

 マイナが今まで食料を見つけて来た中で、大当たりの食料が2つあった。
 一つはそのままでは苦くて俺でも食べられなかったが、焼くととても甘くなり、どことなくゴーヤに似ていた。
 俺はそのまま『ゴーヤ』と名付けた。食べた後に少し舌が痺れる感じがするが、まぁ大丈夫だろう

 そしてもう一つは菌類で、シイタケに似た味のキノコだった。天使の隠れ家にもキノコは生えていたが、どことなく味が薄く食べた感じがしなかった。調味料をガバガバ入れたらそれなりだったが、マイナがどこからか持って来たそのキノコはかなり味が濃く、俺好みだった。
 食べると口いっぱいにキノコの味が染みてきて、ほんのりと甘いという俺のお気に入りのキノコ。
 ただ‥‥食べた後、何だかちょっと気分が高揚するというか楽しくなるというか‥‥

 俺はそのキノコを『ワライダケ』と命名した。
 味がシイタケに似ている事から、乾燥させたらよい出汁が出ると思った俺はラグナにお願いしてワライダケを乾燥させ、それを出汁に使いスープを作ってもらった。
 これが大成功で物凄くスープが深い味に変わる、マイナも同じだったようで次々とスープを口に運んだ。
 しかもドンドン気分がハイになって行き、物凄く気持ちがいい。
 だが、俺とマイナがスープを飲み干す直前、二人は突如意識を失う事となる


 ああ‥‥毒なんだな、と目が覚めた時思った。
 目が覚めた時思ったというか、それ以前に何となく分かっていた。ワライダケって命名した位だし、ゴーヤだって舌が痺れる辺り毒だと思う。
 「でもそれがいいんだよ」
 とマイナが質の悪いフグの料理人のような事を言っていたが‥‥

 まさにその通りであって完全にそれは俺も同意見だった。どうやら俺と人の姿のマイナは舌の構造が一緒の様だ。
 試しにとラグナに渡しておいた俺専用のチョコレートを食べさせたが、マイナは絶賛していた。甘い物を食べる習慣が無かったからか尚更だろう。食べる時の顔は子供が驚きながら大喜びするようなテンションで頬張っていた。
 一方で、市販のゲロ甘なチョコレートの方は口に入れて少し考えた後、吐き出していた
「何これ、毒でも入っているの?」
 と言っていた

 普通の毒は普通に食べ、砂糖の塊である市販のチョコレートは食べられないという、しかも毒だと言っていた。
 となると、市販のチョコレートをバクバク食べるこの星の人達とは一体何だろう? 一度思った事が再度頭をよぎる、悪食が過ぎるのではないだろうか?


 

 そんなこんなで食材探しの旅に出るのだが

「ねえマイナ、口に咥えるのは止めて欲しいな」
 
 大体の場所まではヒュケイの姿になったマイナに乗って移動することになったけど、口に咥えて運ぼうとするマイナに待ったを掛ける。餌になった気分になるのでやめて欲しいとお願いし、代わりに俺が土魔法でゴンドラを作り、それに乗り込んでマイナが足で挟み、運ぶことになった。
 でも飛んでいる時に思った

 やっぱり餌を運んでるようにしか見えない、次からは普通に背中に乗せてもらおうと思う


 俺とマイナが空を移動し、召喚獣のポッポがその優れた目で低空から食べられそうな物を探す。そうして食材になりそうな物を発見しようとしていた。
 大陸深部を空から見たのはこれが初めてだったが、所々に植物があるだけでどこまで行っても荒地に近い感じだった。
 7.8千年前にグラースオルグが現れ、大地を飲み込んでからかなり時間が経つというのに自然はあまり回復していない、少し赤茶けた大地が広がっていた。
 それでも少しは回復しているのだろう、魔物以外の生き物の姿が見える、小型の動物から鳥まで、数は少ないが生息していた。
 マイナが食用として時折拾ってくる動物もたまに姿を見せていた

 日帰りで探そうと思っていた食材探しだが、「この先にあるかも、もうちょっと先にあるかも精神」が出て来て、結局は泊りがけでの食材探しの旅になる

 そんな中、偶然その場所を見つける事となった

 ポッポの見ている景色を自分の目に写し出し、地面を凝視していた俺だが、突如景色が緑へと変わる

「おっ!!」
 ビックリした俺はマイナの背から落ちそうになった

「マイナ! あそこに降りて」
 着地地点を指示するとマイナはその場所を目指し降下する、すると降りる途中でガラッと景色が変わった

「やっぱり、ここも『天使の隠れ家』か」
 マイナが地面に着地し、俺は背から飛び降りた。同時にポッポが魔法陣に戻って行き、代わりにラグナが現れる。
 ラグナは直ぐに人の姿になったマイナに蒸かしたパナンを差し出すと、マイナは満足気にパナンを口にした

 もぐもぐ
「凄い! こんな所にもあったんだね、良く見つけたねハヤト、ん?‥‥ハヤト? ねぇハヤト‥‥ハヤト━━━」


 ・・・・・

 ・・・・

「━━ねえってば!」

 急にマイナに肩を掴まれ揺すられた

「えっ‥‥ど、どうした?」

「どうしたじゃないよもう、急にぼーっとして呼んでも気付かなかったんだよ」

「そう‥‥ま、まぁ何でもないよ大丈夫」

「本当に? 大丈夫?」

「うん問題ない、それよりさ家が見えたんだよ」
 ポッポがこの新しい『天使の隠れ家』に突入した時、確かに家のような建物を発見した

「家? 誰か住んでるとか」

「そこまでは分からないけど、多分こっちの方だと思う」

 マイナとラグナを引きつれ、家のあったと思われる方へ移動する。するとそこには確かに木造の家があった。
 ログハウスのように丸太を積み上げたま四角な豆腐のような形で、これまたどこから出て来たのか、家の前には小川が流れそこには魚が泳いでいた

「この魚はどうやってここにいるのかな? ずっとこの場所にいるとか? 食べられると思う?」

「さあ、この川の水がどこから来るのかも不思議だけど‥‥その前に家の方に行ってみるか」

「そうだね」
 何の躊躇も無く家に向かうマイナを、ちょっとちょっと待ちなさいと制止する

「こんな場所に家とか普通無いだろう、見た目も朽ちた様子もないし俺が様子を見てくるからここで待ってて」
 槍を取り出し警戒しつつ家に近づく、もしかしたら魔法の一つでも飛んでくるかもしれない

「いってらっしゃーい」
 蒸かしたパナンを食べながらマイナは警戒心も無く手を振る

 四角い家には窓らしき穴があるが、人影は見えない、今は出かけているのか? それとも俺達が来たことを察知し隠れているのか? どちらにしろ不意の攻撃には注意したい、今の俺には防具が無いし一撃が致命傷になりえない。念のために体に『耐壁』魔法を掛け攻撃に備える。
 出来るだけ窓の死角になるような場所から近づき、壁に張り付いた。そして俺に続いて壁に張り付くマイナとその後ろに付いたラグナ

「‥‥ちょっと、待ってて言ったでしょ」

「いやだって、ハヤトは何してるんだろうって思ったから」

「だから、危ないかもしれないから待っててねって言ったの」

「じゃあちょっと戻るね‥‥」

「もう遅いよ‥‥」

 お互いに家の中に聞こえないよう小さな声で話す。ついてきちゃったのはしょうがない、戻られてもそこで家主に気付かれるかもしれない。
 しょうがなく腰を落とし、足音を立てないように進み窓の真下まで来た。ここから家の中を覗き確認する、その為にハンドサインで後ろに付いてきているマイナとラグナに合図する。
 後ろに向けて手のひらを向け『マテ』の合図をした。するとマイナは俺の『マテ』をした手に、自分の指を絡めて来た

「ちっがーう! 恋人繋ぎじゃないよ!」

「えっ! 手を繋いで欲しかったんじゃないの?」

 あーっ、もう! そんなことしたらバレるだろうに!

 まぁ実際大声を先に出したのは俺なのだが‥‥

 
 完全にバレてしまっただろう、こうなったら普通に玄関から尋ねるしかない。でもよくよく考えた場合、この家の住人からしたら、槍を構えた人が家に近づいてきているのだ。
 もし自分が家の住人だったら恐怖でしかない、即警察に電話をする「不審者がいます助けて下さい」と

 もういいやと槍を収納し、普通に歩いてドアの所まで行き普通に木のドアにノックした
 ドンドン!
「すみませーん、どなたかいらっしゃいますかー?」

 ドンドン!
「すみませーん」

 1分程待ってみたが返事が無かった

「いないならお邪魔しまーす」
 多分鍵が掛けてあるだろうと思ったが、ドアノブを回し押しても引いてのそのドアはやはり開かなかった‥‥

 ━━いや、普通に開いた。引き戸だった。
 このノブの回る意味は?

 ガタゴトと開けずらい音が鳴る、若干設計の甘い引き戸を開けると、そこには大きめのテーブルが一つと椅子が二脚あり、更に奥にドアらしきものが2つあった。逆にその二つしかなかった

 更に奥にある2つのドアを確かめるために家の中に足を運ぶ、このドアも引き戸だった。ドアノブは何のために付いているの?

「入りますよー」

 ずかずかと家に入り躊躇なく2つの戸を開いたが、そこには何も無かった。あったのは窓が各部屋に一つずつ

「何にもないなぁ、でも家の中が奇麗だし‥‥やっぱり誰か住んでいるのかな?」

「いいえ、それは無いでしょう」

「何でそう━━」
 思う? と後ろから声を掛けてきたラグナに振り返ると、ラグナは四つん這いになり床を食い入るように見ていた

「‥‥一体なに‥‥まあいいや、どうしてそう思う?」

 床を凝視していたラグナは
「少しではありますが土埃が床に在ります、しかも床全体に満遍なく、無いのは旦那様が歩いた所だけですね、家はキレイですが、この土埃からして掃除はされていません。無人だと私は思います」

「そう言われると家具も無いしな、もしかしたらそうかも」
 引っ越したかもしれないが、家がきれいすぎる為、引っ越したとしてもつい最近? でも周りは深部だし危ないよ
 
 そこで、今まで後ろに居たはずのマイナがいなくなっているのに気付いた

「マイナはどうした?」

「はて? さっきまで‥‥」

 いなくなったマイナを探そうと思った矢先

「おーいハヤト、こっちに穴が空いてるよ」
 マイナの声に呼ばれ、声の聞こえる方に行ってみた

 ・・・

 ・・


「ほら、これ」
 マイナが指を指す先には、石で出来たハッチがあった

「ホントだ、しかもこれは‥‥ハシゴだね。降りて‥‥みる?」

 『照明』魔法で暗闇を照らし梯子を下りる、すると途中から階段になっていた

「なんだ梯子の先が直ぐ階段なんだよ、普通踊り場とかあるでしょ、ちょっと危ないじゃない」
 
 そしてその階段は更に下へと続いていた

「結構深いね、どこまで続いてるんだろう? ああ、引き戸があったか、それほど深くもなかったね」
 距離にして50メートル程だったと思う、階段を降りるとそこにはドアノブの無い引き戸があった。躊躇なくその戸を横に引こうと手を掛けたらそのまま奥に戸が開く

「ここは引き戸じゃないのかよ」
 押しても引いても開く両扉だった

「ハヤトなんか怒ってる?」

「怒るってよりも呆れてるよ、この家の施工主に、一体どうしたらこんな設計するのかね」
 
 そのままドアを開けて入ってみると上の家同様、部屋の中身は何も無かった。俺が部屋に入ると同時にまたラグナが隙間から滑り込むように入り込み、四つん這いになって床を確認している

「人がいた形跡はあったか?」
 ぱっと見、カビも生えていないし汚れも一切ない

「いえありません」

「ふむ‥‥上も下もいないか、ここって何だろうね、深部にポツンと家があったりさ。マイナなんか知ってる?」

「さあ、僕が知ってるのはあの場所の隠れ家だけだからね、ねえ、どうせならココに住まない?」
 マイナがちょっとだけ興奮した感じで聞いて来た

 住むねぇ‥‥地下室は浪漫があるけれども‥‥、こんな場所に家があるってのが何だか怪しい気がするし

 うーんと俺が悩んでいると、マイナの顔が少し不安げになり、瞳が微かに揺れる
「あーっと‥‥もしかしてハヤト国に帰りたいの?」

「ん? 国」

「そう、自分の国に」

「あ、いや俺は━━」

「いや、いいんだよ。いつか帰るんだろうなーとは思ってたんだよね、ただほら‥‥何だか寂しいなーと思ってさ。ラグナの料理は美味しかったし、ポッポと一緒に飛ぶのも楽しかったし、それにハヤトと話をするのも何だか嬉しかったんだよね、ここら辺には人がいないから話す相手もいないし、こんな大きな体だから同じヒュケイにも怖がられるからずっと1人だったんだ。
 一人で起きて、1人で獲物を狩って食べて、夜になったら一人で寝て‥‥そんなのがずっと続いていたからさ、ハヤト達と一緒に暮らすまでこんなに楽しかったのは生まれて初めてだったんだよ。
 だから‥‥僕は‥‥」

「別に帰らないけど?」

「えっ? で、でも今一緒に住もうって言ったら悩んでたよね」

「こんな所に家があるのが怪しいとは思ってたけど、帰ろうとは思って無いよ。そもそもハルツールは俺の国じゃないしね、そこで暮らす為に兵士をやってただけで、とは言っても思い入れが無いという訳では無いけどね、それなりに愛着はあるよ」

「そ、そー、そうなの!? じゃあさ! 僕と一緒に暮らしてって言ったら一緒にいてくれるの!?」

「そうだね、別にハルツールに帰る気持ちももう無いし、どうせ死んでる事になってるだろうし」
 それにもう戦争するのは疲れたよ

「だったらずっと一緒にいてって言ったらいてくれるの!?」
 不安そうだったその顔は驚きの表情に変わり

「そうだね」

 マイナはその表情をパーッと明るくした
「くぅぅぅぅううううっっ!!」
 そして変な声を出し
「だったら僕とずっと一緒に居て!」

 そして俺は
「いいよ」
 とだけ短く答えた

 ただそう返事をした俺は深く考えてそう答えた訳ではない。ここから出て行ってもハルツールにしか帰る場所は無いし、帰っても待っているのはまた兵士としての戦場。
 それとマイナの事はずっと一人だから、寂しかったんだろうと思っているだけだった

 だが言った後、嬉しそうに俺の手を取るマイナを見て、
 ああ~そういう意味も入っているのかな、と思った。
 マイナは人の姿になった時は女性の姿、そして俺は男なわけで‥‥

 マイナの赤い髪と赤い瞳には珍しい事から惹かれる部分もある、見た目も人基準でいったら悪くはない、むしろ見た目は良い方だろう。
 でも異性として見れるか? と言われたらそこまででもない。もちろん異性としては見ているが、男と女としてではなく、人の2種類に分かれている内の一つというだけだった
 
 マイナと会ったその日から、そして今まで、多分これからもその気持ちは変わらないと思う

 ・・・・・

 ・・・



 その日の夜

 夕食を取った後、俺は地上の家の部屋の一つにベッドを作りそこで眠る事になる。そしてマイナはいつもどうりヒュケイの姿になって木の上で眠る事に‥‥

 でもその日の夜は違った

 引き戸の向こうから
「ハヤトまだ起きてるかな?」
 マイナの声がして

「起きてるけど、どうした?」
 お腹でも減ったのだろうか、ラグナを呼び出そうかと考えたが

 マイナはゆっくりと引き戸を開けると
「‥‥今日は、一緒に寝てもいいかな?」

 


 ・・・・

 ・・・

 ・・ 

 
 


 翌日の朝

「んふふふっふぅー」

「こらマイナ、そんなことしてたら料理が冷めちゃうよ」

「冷めたらラグナにまた温めて貰えばいいじゃない、ハヤトも卵を温めるように僕を温めて欲しいな」

 食事中に引っ付いてくるマイナを引き剥がそうとするが、マイナは離れようとはしない。それに俺も本気で剥がそうとはしていない


 一夜明け、俺とマイナは仲が良くなった。
 凄く良くなった。

 アレをああしてああなって、結果こうなった
 
 マイナは元が鳥だからか、啄むように俺の頬にキスをしてくる

 良い、凄く良い、イイネ! なんて可愛いんだろう、この可愛らしい女性があのどでかい凶鳥とは思えない。
 昨日俺が思っていた事とは真逆になってしまったが、そんなろくでもない考えはこの目の前の素敵な女性を前にしたら全く意味のない事。
 いいじゃない手のひらを返したって、昨日の事は無かったことにしてもいいじゃない
 
「おいやめろよ」
 キスを続けるマイナにそう言ってみるが本心ではない、むしろマイナがキスをしやすいように頬を若干出している。
 もっとしていただきたい、なんならほっぺに感覚が無くなる位してもらいたい


「旦那様、奥様。出来れば冷めないうちに頂いて欲しいのですが」
 ラグナは冷めてしまう料理に対してそう言ってくるが、言葉とは裏腹に嬉しそうにしていた。
 というかラグナの中ではマイナはもう奥様になるのね? いいよそれでも、俺もそれで問題ないし


 人の人生というのは一瞬で変化をする、昨日まで俺の心の中には喪失感が常にあった。でも今はそれが無い。
 ずっと蓋をされていた心がようやく開くように感じている
 
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