異世界陸軍活動記

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 遠方からは曇ったような音が伝わってくる。
 ついにハルツールとマシェルモビアの国を掛けた戦いが始まった。これほど大規模な部隊が一つの場所に集まり展開し戦うのは、歴史上初めての事であり、双方とも経験のない事態だった。
 それほど今回の戦いは国の運命を左右する重要な戦いでもある

 ここで負ければ国の存続が危うくなるハルツールと、何としてもこの場を耐えたいマシェルモビア。
 戦力差では前回、前々回の作戦で大損害を受けたマシェルモビアが不利となっている。余程の事が無い限りはハルツールの敗北は無いであろうと予想されている、それでなくとも今のハルツール軍の士気は高い。
 『ようやく国土を取り戻せる』、その気持ちが士気に現れていると思う

 今回内陸な為、海軍は出る事は出来ないが、この場には陸と空の部隊が集結している。歩兵はもちろん戦車や特殊兵器など普段目にする事の無い車両も数多くある。
 空の覇者、竜翼機も後方で待機しているが、両軍とも後方に高射砲を控えているので、竜翼機は飛び立つことすら出来ない。頭を出した時点で狙い撃ちされてしまう、竜翼機を出すにはまずは高射砲を叩く必要がある。
 どちらかの竜翼機が飛び立つ時‥‥それは、飛び立った側の勝利が確定した時である


 その戦いを遠くから双眼鏡で覗くが、あまりにも遠すぎて戦いの流れを見る事は見えなかった。目から双眼鏡を離し、双眼鏡から手を放す。
 ぶらりと首に垂れ下がる双眼鏡、『収納』魔法が使えない為、首にかけて置く事しか出来ない。6万の兵士と戦い、ハルツールでは最大の魔力量を持つと言われた男も、今では何もできないハッタリ野郎になってしまった。
 それを様々な魔道具で誤魔化し、皆が戦っている中、安全な後方で護衛として国のトップの側に居る。
 もしも何かあったとして、全身魔道具で身を包んでいたとしても、この自分に何が出来るとも思わない、結局のところ、この世界では魔法無しでは兵士などやってゆけない。
 他の兵士達が今置かれている戦場は、ここからでは見ることなど出来ないが、それでも何が起こっているかは想像がつく、それは自分が様々な戦場を経験したからであり、もし魔法が使えるのであれば自分もその場にいただろう。
 『地獄』と感じた戦場も経験したが、今遠くで行われている戦闘も間違いなく『地獄』だろう‥‥

 自分だけ隠れるように後方におり、申し訳ないという気持ちが溢れてくる。だが‥‥『助かった』という安堵の気持ちが少しあるのも確かだった


 遠方から視線を戻すと、目の前にいるのは護衛対象であるリテア・ネジェン主席、ただじっと遠方にある戦場を見つめていたが、その細く華奢な体は少し震えているように見える。
 そしてその隣にいるのは、俺が最初の頃お世話になったゴルジア・サト首相、今回この場にいる事を提案した人物であり、タクティアに気を付けろと言われている人物でもある。
 正直な所、俺は首相がそこまで危険な存在だとは思っていない、それはお世話になったという恩もあるし、まず首相の事を悪く言うような人はあまり見たとが無い。
 タクティアの考え過ぎだと思うが‥‥

 その二人の他に、この首相が用意した高台には俺を含め何人もの護衛と、前後左右離れた場所に軍が置いた小隊が4つある。
 それに高台を守るように無数のなにかしらの魔道具が配置され、そして真後ろには巨大な魔道具‥‥、これほど大きなものはあまり見ない。
 いったいどのような能力を持つ物なのか、でも何かしらの性能はあるのだろう、今の俺には見当がつかないが‥‥

 遠くから聞こえる戦いの音、その音も実際は数秒前の音で、今行われている事はまた別の事があの場所で起きている。
 その遅れてくる音の中、この高台にいる人たちは何一つ言葉を放つ事は無い。ただ目の前遠い場所で起きている事を見ているだけだった。
 その中で一人だけ、側近であろう人物とメモのやり取りをしている者‥‥。ゴルジア首相だけはこの止まった空間で動いていた。
 側近とのやり取りで動いていた首相だが、少しだけ手が空いた様子。そこで一度周りにある魔道具と後ろに控える巨大な魔道具について、その能力を聞いておこうと思った

「ゴルジア首相」

「なんじゃ?」

 俺の呼びかけに無視することなく首相は答えてくれる

「この周りの魔道具と後ろの魔道具についてお聞きしたいのですが、どのような効果があるのでしょうか?」

「お主にも分からぬか?」

「はい」

「ふん、そうか」

 リテア様が控える場所は首相が用意すると言っていたが、この魔道具の事はその資料も無いし一切の情報が無い。護衛の為の参考として聞いておきたかった

「‥‥‥」

「‥‥‥」


 あ、あれ? 言ってくれな━━

「そうじゃのう‥‥」

 ━━あっ、言ってくれるのね

「周りに~設置してるのは、防護壁のような物かのう‥‥」

 『耐壁』魔法のような物だろうか? でも『耐壁』とは言って無いし別の物だろう

「後ろにある魔道具は‥‥我が国の軍の切り札‥‥じゃのう‥‥、これが無いと勝てぬじゃろうから

 なんと! 後ろの魔道具は切り札らしい、やるじゃんゴルジア! 最終兵器みたいな感じ? 

 でも

「そうですか、ですがこの戦い間違いなくハルツール側が勝つでしょうから、出番は無いでしょうね」

 余程の事が無い限り、今のハルツールの戦力差をひっくり返すことなど無理だろう。もしもマシェルモビア側が勝てるとしたら、特殊オーガを何体か用意する必要があるのではないだろうか?。しかし、以前トルリに会った時、話の様子から特殊オーガのような個体は何体もいるとは感じなかった。
 つまり特殊オーガはあの一体だけ、それでは今のハルツールに勝てる事はないだろう

「そうじゃのう、我が国の勝利はこれがあれば確実じゃろうな‥‥」



 ◆◇

 両国の存続を掛けた戦いが始まり、3時間ほど経過した。
 通常は砦や拠点を攻略する時、何十時間もしくは何日もかかる事がある
 
 『赤い柱』により更地になったこの場所では、遮蔽物も何も存在しないだだっ広い場所になった。
 そうなると遠方からの魔法による攻撃や戦車による砲撃が有効になる、相手がまとまっているなら尚更だろう。
 更に数が多ければ多いほど有利になる。数に勝るハルツールが勝つのは時間の問題だと思われる。
 そして3時間が経った時、高台に一方が届く

 『ハルツール軍優勢』

 意外なほど早かったと思った。もっと時間が掛かるものだと思ったが‥‥。
 後退を余儀なくされたマシェルモビア軍は、移転門まで撤退すると思われる。移転門はハルツール領土だった時から要塞化されているが、マシェルモビア軍が侵攻の際、特殊オーガにより要塞を破壊されている。その後マシェルモビアがどの程度修復したのかは分からないが、その場所が今作戦の最大の難所と言えよう。
 移転門さえ押さえる事が出来れば、マシェルモビアは輸送が困難になる。緩衝地帯という距離を進まなければ補給するらままならない


 『優勢』の一報を受け、目の前で椅子に座っているリテア様は安堵のため息をつく。後ろ姿からしか判断できないが、やはり戦場という事で緊張しておられたようだ

 そして隣に座っていたゴルジア首相は
「やはりこうなったか」
 側近から一枚のメモを見て呟く

 そして





 右手を上げた


 ギン!!

「うわっ!」
 
 俺の防具に付与されていた『耐壁』魔法が発動し、更に強い衝撃で吹き飛ばされる。一瞬の出来事に近くに敵兵が放った爆発物でも落ちたのかと思われたが、そうではなかった

 ゴルジア首相の護衛達が一斉に俺を含めたリテア様の護衛に襲い掛かっていた。完全に不意を突かれたリテア様側の護衛はあっという間にその半数が息絶えた

「貴方達! 何をしているのですか!」
 いきなり起きた出来事に驚きながらも、リテア様は声を上げる

 リテア様は生き残っている専属の護衛の後ろに隠され、守るようにリテア様の前に立っている

 吹き飛ばさた俺は、高台の金属製の手すりにぶつかり下に落ちるまではいかなかったが、その手すりが衝撃でひん曲がっていた。
 タクティアが用意してくれた防具のおかげで俺自身は怪我も無かったが、もしこの防具が無かったらこの金属の手すりの曲がり具合から見ると、重傷を負っていただろう。
 俺は直ぐに立ち上がり、背負っていた大剣を握ぎり構える

「リテア様! っ! お前たちは何者だ! もしやマシェルモビアの━━!?」

 そこまで言ってふと違和感を感じた。リテア様が奇襲を躱した護衛の後ろに庇われているにも拘らず、もう1人の国のナンバー2であるゴルジア首相が、誰にも守られず座っていた。
 その首相がゆっくりと杖を頼りにして立ち上がる

「ハヤトよ‥‥お主はやはりしぶといのぅ」

 首相が立ち上がってもいきなり襲っていた者達は動かなかった

「‥‥首相?」

「あれほど攻撃を受けても傷一つ無いとはのう‥‥おい、何発ぶつけた?」

 首相の問いに後ろにいた首相の護衛は
「4発です」
 と答える

「4発も受けておいて無事とは」

 その時俺の白いコートの裏側から何かが割れる音がし、そしてパラパラと足元に落ちてくる

「なるほど‥‥『耐壁』を付与した魔石か、よく準備して来たものじゃ、最初から儂の事を怪しいと思っていたからこその装備か‥‥残念じゃよ、お主にそう思われていたとは」

「首相‥‥」

「タクティアに儂の召喚獣が通用しなかったから怪しんでいるのは知っとったが、その男が送り込んできた人間じゃからのう、儂の事をも薄々感づいておったか」

「首相、あなたは‥‥」

「残念じゃのう‥‥本当に残念じゃ、あんなに目に掛けてやったのに、とっとと儂の駒になっとけばよかったのに」

「そんな‥‥本当にあなたは‥‥」

 『首相を信用するな』
 タクティアから見せられた一枚の紙きれ。 
 その紙きれに書きなぐるようにして書かれた文章は真実だった


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