異世界陸軍活動記

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記憶の回廊

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「順調すぎるくらい順調ですね‥‥」

 ハルツール、マシェルモビア両軍が、今まで経験した事の無いほどの大規模な戦闘が行われているなか。
 ハルツール軍の参謀の一人であるタクティア・ラティウスは、そのハルツール軍の一部を戦場で直接指揮していた。
 ありとあらゆる策を張り巡らせ、完璧な状態で挑んだこの戦いであるが、蓋を開けてみればあっけない物だった。
 『赤い柱』によりほぼ完全に壊滅した元都市ブレドリアのあった大地、遮蔽物が全く無いこの戦場では、遠距離からによる攻撃が主になる。
 そうなれば、今数で勝るハルツール軍が絶対有利になる

『タクティア、戦争とはね質ではなく数で決まるんだよ』
 そうハヤトは昔得意げに言っていた

 知ってますよ
 と言いたかったが、あまりにもハヤトが得意げに言っていたのでその時は声に出さなかったが、その時の事をふと、思い出しながら今の状況を見ていた

「もう少し粘ってくると思ったのですが」

 開戦から約3時間、既に勝利はハルツール側に傾きている。用意した策の殆どは使わずに終わるのではないか?。
 現在ハルツール軍はマシェルモビア軍の左右を囲みつつあり、そこで敵の固定式対空砲さえ破壊してしまえば、こちらの竜翼機が飛ばせる。
 そうすれば上空からの爆撃が行われる事になり、完全にハルツールの勝利になる。この戦いは相手の対空砲を破壊し、最初に竜翼機を飛ばし頭を押さえた方が勝ちとなる。
 砲撃を加え続けている戦車の砲弾がそれに届きそうなくらい、ハルツール軍は攻めているのでそれも時間の問題か?

「それにしても本当に歯ごたえが無いのですが‥‥、マシェルモビアは移転門まで下がる気でいるのでしょうか?。移転門なら要塞化されていれば少しは持ちこたえる事は出来るでしょうが、周りを全て囲まれる事になる‥‥。
 そうなればハルツールの勝利は確定するのですが」

 順調すぎる過程にタクティアは少し不安があるが、この状況に勝利しつつあるのは確か。そしてタクティアが最も不安を覚えていたのが、遥か後方に陣を敷くハルツール政府のトップ二人が居る場所

「後方に動きがあったか確認してもらえますか?」

 タクティアがそう言うと、一人の召喚者が自身の召喚獣『イデラム』を通じ、後方にいる小隊の一つに連絡を取る

「はい‥‥‥‥はい、了解」

「どうでしたか?」

「主席・首相に動きはありません」

「そうですか」

 『首相を信用するな』
 というメモを残し、処刑されたタクティアの仲の良かった元同僚。そのメモで多少の不安を覚え、万が一という事もあり、4つの小隊を左右前後に配備し、更にハヤトを直接送り込んでいたがそれもどうやら不要であったのかもしれない

 ハヤトからよく聞いていた『セキガハラの戦い』の話。一つの国の中で、覇権を握ろうとする権力者が、東と西で別れ最後の戦いをしたという。
 その中で有利と言われた西軍が負ける要因となったのが、『コバヤカワ』という武将、このコバヤカワの裏切りで西軍は負ける事になる。
 その世紀の大戦の話が好きで、タクティアは何度もハヤトにその話を聞いたが、ハヤトはコバヤカワという裏切り者の苗字は知ってても名前はうろ覚えだったらしく、『ムネアキ』の時もあるし『ヨシアキ』だったり『テルヒコ』の時もあった

「わが国には『コバヤカワ』はいませんでしたか」

 それならその方がいい、用意したのは無駄になったが、何も無かったことにこしたことはない

「まあそれでも‥‥何かあったとしてもハヤト中尉が何とかしてくれるでしょう」

 今まで無理難題を押し付け、それをいつも何とかしてくれたハヤトに対しての信頼は、タクティアの中では高かった。 
 だからもし、今回何かあったとしても━━



 ◆◇


「首相‥‥どうして‥‥」

 タクティアから首相は怪しいと言われていたが、俺はその話を聞き了解しつつも、『そんな事ある訳ないだろう』と心の中では思っていた

 信じていた

 次の言葉が出せない俺の代わりに声を出したのはリテア様だった

「ゴルジア首相! これはどういう事なのですか!」
 
 前に足を踏み出し、今にも掴みかかろうとしていたリテア様をリテア様の護衛が押しとどめる。リテア様の護衛とゴルジアの護衛の者は武器を構え、双方魔法を発動させる準備は完了していた

「どう‥‥とは? 見たままだと思いますがリテア主席」

「見たまま‥‥? ゴルジア首相‥‥いえゴルジア、こんな事は許されるはずが無い! 国家に対し反逆する気があるとという事ですね!」

「ほほぅ‥‥許されるはずが無いと、とは言ってものぅ。特に許してもらおうとは思ってもおらんし、ハルツールに忠誠を誓ったわけでもないしのぅ‥‥だが許さないと言うのならご自由に」

 ギリッという音が聞こえそうなほど歯を食いしばり、リテア様からは今まで見た事の無い怒りの表情を表していた

「この反逆者を捕えなさい!」

 ゴルジアを捉えろと指示するリテア様に、ゴルジアは直ぐに反応する

「どうやって捕えるおつもりで?」

 ゴルジアの護衛が不意打でリテア様の護衛を倒したため、人数ではゴルジアの方が勝っている

「ッ‥!」
 リテア様は声を一瞬詰まらせたが
「フェルド! 貴方なら何とか出来るでしょう!」
 俺に視線を移した

「ほう‥‥」
 ゴルジアも俺の方を見る
「ハヤトが儂を捕まえる気なのか?」

 信じていた者に裏切られたという事で思考が止まっていたが、名を呼ばれたことで現実に引き戻される。
 二人の視線を受け、そのうちの一人に視線と言葉を返す

「ゴルジア首相‥‥何故、こんな事を‥‥?」

「こんな事とは?」

「しゅ、首相のしている事は国家に仇名す行為ですよ?」
 自分でも気づいたが、俺の声は少しだけ震えていた。声だけではなく手も震えている

「何を言っておるハヤトよ、お主には最初に会った時に儂は心を開き、言っておったじゃろうが?」

「え?」

「儂はこの国は憎んでいる、復讐したいとな」
 
 

『儂はな‥‥この国を憎んでおる』
『この国に復讐してやろうと思ったが‥‥方法が分からん‥‥、だからワシはこの国で偉くなろうとした』



 最初に首相に会った時の事が思い出される、確かに首相はそう言っていた。でもそれは━━

「ですが、だからこの国を変えたいって!」

「ふむ、だから今変えようとしておるじゃろうが」

「‥‥‥そんな」

 首相の目は本気だった。
 これでもまだ信じられなかった俺だが、背中に背負っている大剣を震えるてで掴む。
 直後、首相の護衛から魔法が放たれ、それに反応した『耐壁』が発動する。今度は威力が小さかったためか、コートの内側に取り付けられている魔石は破壊されなかった

「まだ『耐壁』があったか、どれだけ用心しとるんじゃ」
 呆れるようにため息をつく首相

 今首相の護衛の半分は俺に警戒している、いつでも攻撃が出来る構えだ。数ではこちら側が不利の状況、しかしこの高台の周りには軍が配備した4つの小隊がいる。
 だから首相の反逆もこれまで━━

「ん?」
 横目でチラリと小隊の一つを見ると、その小隊に動きは全く無かった

「え?」
 反対側にいる小隊にも動きは見えない

 おかしい

 振り返り後方にいる小隊も動きは全く無かった

「これは‥‥」
 少し離れた場所に待機しているが、先程の騒ぎが届かない程の距離ではない。むしろ気づかない方がおかしい

「周りにいる奴らを気にしておるのか? 残念ながら音も声も奴らには届かないぞ」

「どうして動かないんだ‥‥」

「ハヤトも知っておろう、外からは姿も声も届かないマシェルモビアが作ったあの魔道━━」

「天使の隠れ家か!?」

 それはまさに深部にあった天使の隠れ家だった。マシェルモビアが使っていた魔道具も知っているが、天使の隠れ家の名前が先に出てしまった

「━━っ! 何故その名を」
 驚く首相だが直ぐに落ち着き
「ま、まあ、お主は不思議でよくわからん所があるからのう、そうじゃ、これは女神から授かった『天使の隠れ家』という魔道具でのう、この高台を囲んでいる魔道具がそれじゃ。
 これがあれば中の音も声も聞こえぬし、外からは儂らがただ座っているようにしか見えぬ。ハヤトが望む助けなど来ぬぞ? こんなにも近くにいるのにのう‥‥ふっふっふっ」

「首相‥‥貴方は何をしようとしている」

「何を? か‥‥、そうじゃのう、その前にもう一度だけ聞いておこうか。ハヤトよ、儂の元に来る気は無いか?」

「無い」

「ならお主を殺さねばならぬ、お主はいてもらっては困る存在じゃからのう。まあどうせ死ぬなら教えてやろうか」

 ゴルジア首相はゆっくりと後ろを振り向く

「あの巨大な魔道具、あれはのう‥‥移転門じゃ」

「っ! 移転門!」
 リテア様が驚き声をあげる

「移転門‥‥」
 実際、簡易移転門という物は知っている。直接見た事は無いが、見た者の証言からそれはそれほどまで大きな物では無かった。
 だが後ろにある首相が移転門と呼んだものは、遥かにその証言を越える大きさだった

「大軍を一度に入れるには、これくらい大きな物でないと不便でのう、使う時はこれを展開させればもっと大きくなるぞ」

「それで後方から軍を攻撃するつもりか?」

「そうじゃ、大量に兵士をここから送り出し、ハルツールの後方に引きこもっている対空砲を叩くんじゃ、そうすればマシェルモビアの竜翼機が飛びたてる。
 あとは固まっているハルツール軍の兵士達を空から‥‥ドカンじゃ。それで我が軍が勝つということじゃ、はっはっはっ」

 年老いたせいか、その笑い声も掠れ覇気が無いように見える

「やっとこれで儂の夢も叶う、いやはやもう間に合わんかと思ったが、何とか生きている間に成功する事が出来たのう」

 この移転門から大量のマシェルモビア兵が‥‥、そうなれば俺はともかく、リテア様は

「リテア様はどうなる? どうするつもりだ?」

 当のリテア様はその魔道具が移転門と聞き、驚きで目を見開いたまま動かない

「マシェルモビア軍に引き渡すに決まっておる、マシェルモビアは強い奴や偉い奴は痛めつけて殺し、それを晒し物にする歴史があるから、かわいそうじゃが主席も当然そうなるじゃろう、そしてその映像はハルツールでも流すじゃろうな、我々に楯突けばこうなるとな。
 リテア主席の後は既に決まっておるが、それは数年先の話。ハルツールの法では、もしも主席が任期途中で死亡した場合、その穴埋めでナンバー2の首相が次の主席が決まるまで国のトップになる。
 つまり、その時まで儂が主席ということじゃ。これでようやく夢が叶う。‥‥長かったのう。
 本来ならその予定であったが、ここまでハルツールが押し込まれておったら、そのままマシェルモビアがこの戦いに勝って、ハルツールという国を滅ぼすというのもいいかもしれん」

「そ、そんな事、認められる訳ないだろう!」

 大剣を握る手に力を込め、ゴルジア首相に切りかかった。手の震えはもう無い、その手には迷うことなど無い。今この場所で首相を倒しておかねば、という思いだけだった

「フッ!!」
 
 首相に切りかかろうとすると、案の定首相の護衛が立ちふさがる。
 白いコートの裏についている魔石を一つ取り、護衛と打ち合う振りをしてその魔石を投げつける。その魔石には『幻惑』の魔法が付与されており、相手の足元で弾けその効果を発揮する。
 そのまま弾けた魔石に俺自身も突っ込んで行く、それは俺も『幻惑』の魔法効果を受けるが、敵の護衛の場所と首相の位置は分かっている。
 魔法の効果範囲に入り直ぐ目の前が真っ暗になるが、『放出』が付与されている魔石を使い、立ちふさがろうとしていた護衛を吹き飛ばす

 手ごたえあり!

 確かな音の手ごたえを感じ、1人吹き飛ばした事を確証する。
 更に属性魔法が付与された魔石を掴み、首相がいるであろう場所へと投げつける。これで首相のカバーに入ったであろう護衛はダメージを受けるだろう。
 『幻惑』効果の範囲を抜け、暗闇から出ると案の定首相を守ろうと下であろう護衛二人に魔法が直撃している所だった。
 俺と首相の間にはもう何も無い、このまま首相の首を━━

 ダン!!!!

「ん゛っ!!」
 いきなり強く床に打ち付けられた。あまりにも突然だったのと強すぎる衝撃に声も出ない。他の奴から攻撃を受けたのか?

「おぉ~怖いのう~、こんな年寄りにそんな物騒な物を振り回そうとして」
 首相はその場所から一歩も動いておらず、床に倒れている俺を見降ろしていた

「くそっ」
 すぐに立ち上がろうとしたが、体が全く動かない。というか動く事が出来ない。
 体の上から強く押さえつけられているようで、ほんのわずかでも動く事がままらなかった

 背中に乗られたか━━

 首の可動範囲ギリギリまで動かし、背を確認したが‥‥俺の後ろには誰もいなかった

 な、何だこれ

「か、体が‥‥」

 誰も背中に乗ってないにもかかわらず、俺の体はどんどん強く沈むように押さえつけられていた

「ハヤトよ、どうじゃ? 動けんじゃろう? お前の為だけにに用意した魔道具じゃ」
 
 首相は弱くなった足を庇うかのように杖をつきながら、ゆっくりとした歩調で俺に近づいて来た。
 手が届く範囲にいるというのに、体が全く動かなかった。その力は徐々に強くなっていき、声を出すのも辛いほどだった

「な、何を‥‥した」

 言葉を発した後に、肺が押しつぶされそうにな感覚をあじわい、思わずむせそうになる

「遥か太古の昔、突如現れたグラースオルグ‥‥。その厄災を止めた200人の勇者達。
 その勇敢な者が厄災を止める為、自らの命と引き換えに使用したとされる『止』の魔法‥‥その魔道具。その装置がこの高台の下にある、しいて言えば魔道具の上に儂らがいるという事じゃ」

 全く聞いたことのない名前の魔法だった。ハルツールにそんな魔法陣があると聞いたことは無いし、もしかしたらマシェルモビアにあるのかもしれない。
 そう思ったのだが

「この魔法はハルツールにも、マシェルモビアにも無い魔法じゃよ。女神サーナにより儂が賜ったものじゃ」

 あの邪神が! そんなに俺の邪魔をしたいか!

「ゴルジア首相、女神とはどういうことですか」
 それまで放心状態に近かったリテア様だが、首相に食いかかるように尋ねる。
 それに反応しゴルジアの護衛が前に出て、対するリテア様の護衛も握る武器に力を込める

「ほうほう、そういえばリテア主席には言っとらんかったな。マシェルモビアに女神から神託を受けている者がいると聞いておるじゃろうが、ハルツールにもおってのぅ‥‥それが儂じゃ」

「なっ!!」

「その女神が滅ぼすことを許可したのじゃよ、ハルツールをな」

「‥‥そんな事が‥‥」

「あるんじゃよ、だからこの魔道具を授けてくれた。信じられぬか? じゃが事実」

 リテア様を口を閉ざし、護衛達も武器を持つ手の力が抜ける。
 神として信仰し、信じていた者に裏切られた、捨てられたという感情が渦巻く。
 足の力が抜けたのか、リテア様はストンと床に膝を付いた。護衛対象の体が崩れてもリテア様の護衛達は動かなかった。
 リテア様同様、護衛達も心が折れているように見えた

 まずい、リテア様を逃がさないと‥‥

 押さえつけられている体を無理に動かそうとし、肘に力を込めると、パリンという割れる音、位置的には『硬化』が付与された魔石が割れた音だろう。
 『耐壁』ではなく、『硬化』の付与された魔石が割れたとなると、既に『耐壁』魔法が付与された魔石は全て使ってしまった、残りは防具を強化するための『硬化』の魔石しかない。
 これ以上動けば体ごと潰されるのではないのだろうか? この『止』の魔法とは押さえつけるだけの魔法なのか? それとも体ごと潰すことの出来る魔法か? 知らない魔法ゆえ判別が出来ない。
 その魔石が割れた音に反応したゴルジア首相は━━

「ほう、まだ動けるのか? お主は本当に元気じゃのう、しかしそうでなくては200人の死者は報われん」

「し、死者‥‥?」

「そう死者、さっきも言ったようにこの『止』の魔法とは、自分の命を引き換えに相手を止める魔法。
 当然この魔道具にも犠牲となるべく魂が必要、という訳でこの魔道具を使用するにあたっては人の犠牲がある。そう‥‥何処じゃったかな? ‥‥あっ、そうそう、クジュじゃったな。
 ほれ、ハヤトお主が一度軍に入る前に駐留しとった場所じゃ」

「なっ!」

「この魔道具を稼働させる為に、村の者全てが犠牲にならなくなったのは残念じゃが、仕方のない事だからのう」

 全て? 犠牲に?

 パリンと魔石が割れる音がしたが、それでも構わず、押しつぶされそうな感覚がしつつも首相に問いただす

「しゅ、首相‥‥貴方は自分に起こった事を忘れたんですか? 自分が緩衝地帯付近の村の出身で、魔物のせいで親を、妹を失ったって‥‥。
 クジュの村だって、緩衝地帯の辺境の町で、魔物や貧困で村民は苦しんで生きているのに‥‥。それを緩衝地帯出身の貴方が、そんな、そんな事を」

 その質に、首相は不思議そうに首を傾げ
「それは儂の出身の村ではなく、よその村じゃろう? 儂と何が関係ある?」

「首相‥‥」

「そもそもハヤトよ、お主がいなかったらこうはならなかったんじゃぞ? お主がいるからクジュの村の者は魂を奪われる事になった。そう思うだろう? というか‥‥今思えばお主は最初から儂の事を邪魔ばかりしとったのう━━」

 根本的に俺は首相の事が分かって無かったようだ。人徳があり、皆に慕われ、政治に対する能力もある。
 そう人物像を作り上げていたが‥‥どうやら俺の人を見る目は無かったようだ

 更に首相は話を続ける

「━━イディ主席暗殺の時もそうじゃ」

 イディ主席!?

「あの時、移転門の反応があった場所にイディを誘い出し、待ち伏せていたマシェルモビアの兵士と、オーガを使い暗殺する計画だったが‥‥丁度お主が現れおった。
 そのせいで誘導に失敗し、そしてなぜかマシェルモビアの兵士が消えのう‥‥思えばあの時からか」

 暗殺計画だと‥‥?

「そしたらお主は変な召喚獣を手に入れるし、それが竜騎士とか言われるようになり、そんなのがいたら邪魔になるから、今度はお主を殺す事になってのう‥‥そしたらお主は生き残ってしまった」

「は?‥‥」

 俺を殺す事になった? 俺が‥‥生き残って?

「ほれ━━」

 そんな‥‥

「お主の最初の━━」

 やめろ‥‥

「部隊が赴いた作戦じゃよ、出現した簡易移転門があった場所の調査の━━」

「ゴルジア━━━━!!」

 何も考えられなくなった。ただ頭が真っ白になるほど怒りがこみ上げ、自分の全てが解放される。
 カナル隊が赴いたあの作戦。カナル隊長・オリバー・ブライ、そしてミラが戦死したあの任務、それを裏で操っていたのはゴルジアだった

 全身の毛が逆立つように、一瞬で俺の体から赤黒い物が吹き出す。まるでそこだけ漆黒の闇が覆うように、かつての厄災の姿、グラースオルグに

「ひぃぃぃ!」

 手が届くところまで近づいていたゴルジアは、突然の変化に驚き腰を抜かし、後ろに倒れ込んだ

『オマエダケハ、ゼッタイニ、イカシテオクカ!!』

 完全に厄災グラースオルグとなった姿は、ゴルジアだけではなくその周りにいた護衛すら恐怖に陥れる。
 一度俺の姿を見た事のあるリテア様でさえ、この姿に青ざめた。
 腰を抜かし動けなくなっているゴルジア、そして手を伸ばせば届く距離にあるその足を掴むため、俺は赤黒くなった自分の腕を伸ばし━━

 ダン!!

 ゴルジアに伸ばしたその手は、グラースオルグの力に反応したかのように『止』の魔道具により、叩きつけられるように床に張り付いた。 
 それも先ほどよりも更に強力な力によるもの

『グギギギ!!』

 動きが完全に止まった俺に対し、我に返ったゴルジアは、焦ったように尻もちを付いたまま体を引きずりゴキブリのように後退してゆく

「な、何じゃ! 驚かせおって!」
 
 ゴルジアは立とうとするが、腰をぬかしてしまったせいか立つことが出来ず

「は、早く儂を起こさんか!」

 自身の護衛達に当たるように命令する。すると護衛達は慌てて駆け寄りゴルジアを立たせた

「あ痛たたた‥‥」

 尻もちを付いた時腰を痛めたのか、自分で腰をさすっている

『ゴ、ゴルジアァァ! ゴルジアァァ!!』

 何としてもこの場で、こいつだけは殺しておかなければならない。そうは思っていても、体が完全に固定され動けずにいた。今できる事はゴルジアの名を憎しみという感情で叫ぶことだけだ

「恐ろしい奴じゃ‥‥ふぅ、汗が止まらんわい」

 吹き出す汗を袖で拭うと、マシェルモビアからの通信か? 護衛の一人が

「ゴルジア首相、向こうの準備が整ったとの連絡が入りました」

「おお、そうか、はぁ‥‥」
 自信を落ち着かせる為か、一呼吸つき
「移転門を展開させよ」
 そう命令する。そして俺の方を見下ろし
「お前の処理はマシェルモビアの兵士に任せよう」
 そう口にする

 ゴゴゴゴ‥‥

 何か大きなものが動く音、明らかにそれは高台の後方に在った魔道具『移転門』だった。
 これだけ大きな魔道具が動いているにもかかわらず、高台の四方に配置された小隊は動く気配がない、おそらく移転門にも『幻惑』の魔道具が付いているのか?_

「や、止めなさいゴルジア!」
 リテア様が震えながらもゴルジアに抗うが

「止めたければいつでもどうぞ、止められればの話ですが? 望みのグースもあの有様、どうやって止めるのかな? それより残り少ない自信の人生を嚙みしめておられよ、どうせマシェルモビアに連れていかれて拷問の後処刑される身ですからのう‥‥リテア主席?」

「うっ‥‥」



 
 ・・・

 ・・

 だめだ‥‥このままでは

 後ろを取られたハルツールは敗北する、それにリテア様はマシェルモビアに連行され、そこで殺されてしまう

 また‥‥またか

 
 力が足りず仲間と恋人を失い

 その場におらず愛する人を失い

 そしてまた無力な俺は失おうとしている

 

 嫌だ!
 あの時と同じ気持ちはもう味わいたくない

 もう失いたくない

 もうあんな思いは━━


『ダレガスルカァァ!!』

 動かない体に力を込めた。
 押しつぶそうとするその力を、払いのけるように腕に力を入れ持ち上げる。無理やり動かした腕には、巨大な大岩が乗っているかのような重圧がのしかかり、また床に落とそうとするが、俺の手のひらは床を捕え手のひらにグッと力を込める

「こ奴まだ動けるのか‥‥」
 ゴルジアは俺から一歩後退する

『グアアアア!』

 叫びながら腕に力を込め、上体を起こそうとし━━

 バギッ

 腕の骨が折れそのままぐしゃりと地面に伏する

「ふん、大人しくしとれどうせ動けんじゃろう」

『ダレガ!』

 腕が折れたなら、足を使えばいい

『ハッテデモ、オマエヲツカマエテヤル』

 足を折り曲げ、それを伸ばし床を蹴るようにゴルジアに近づこうとするが‥‥

 ミシッ

 圧力に無理やり抗った為、足の骨に亀裂が走り、更に力を込めたせいで足がおかしな方向に曲がる。
 それでも骨が折れてない部位を使い、ゴルジアににじり寄ろうとする

「気持ち悪い奴じゃ」
 壊れた虫のように動く俺を、心底嫌そうな顔で見つめるゴルジア
「ええい! 展開はまだか! 早くしろ!」
 少しでもここに居たくないのか、ゴルジアは作業を早めよと指示している

『オマエダケハ!』

 そして発動するマイナのネックレス。所有者を守ろうとその力を発揮し、破損した部分を修復してゆく。
 それは普通の『癒し』魔法とは違い、回復速度が異常だった。
 折れた腕の骨は直ぐに治癒され、曲がった足は元通りにまっすになる。そして治った腕で、足で起き上がろうとしまた折れ、グシャリと潰れる。そしてその負傷をペンダントが回復させる。ほんのわずかな間に何度も立ち上がろうとし、何度も体が崩れる。
 腕が折れ、足が折れ、背骨が折れ、そして首が折れる。それでも俺は死ななかった。
 破損した部分が光り輝き修復されていくが、それが徐々に体全体に伝わり━━

 俺を白い光が全身を包む


 そして役目を終えたかのように、マイナのペンダントは消滅した





 ◆◇
 

「気持ち悪い奴じゃ」
 
 ゴルジア・サトは形容しがたい化物を目の前にし、怯えていた。動けないと分かっていても、それが自分の命を奪おうと動いている姿は恐ろしいと感じた

「ええい! 展開はまだか! 早くしろ!」

 体が壊れても動こうとするハヤトに、安全と分かっていても焦り、それを自身の部下にぶつける。
 ハヤトの破損した体の部分が白く光り、その後動くようになっている事に対し、何か強力な魔道具を身に着けていると思ったが、今はそれどころではない。
 一刻も早くこの場にマシェルモビア兵を呼び出し、コイツを━━

 
 その時、より強い光がゴルジアの後ろから放たれる

「んっ、何じゃ!?」

 あまりにも光の強さに思わず振り向いたゴルジア、その先にはハヤトがおり、立ち上がっていた。
 その姿は、グラースオルグの姿ではなく、いつものハヤトの姿だった

「な‥ぜ、立ち上がっておる‥‥?」

 魔道具で完全に抑えていたはずのハヤト、ゴルジアの独り言のような消えるような声で問うが、ハヤトから帰ってきたのは

「なるほど‥‥」
 という短い一言、それはゴルジアの質問の答えではなく、何か納得したような感じを受ける一言

 そしてその高台にいた全員が、ハヤトの異常を確認していた。何かこの世の者とは思えないようなそんな雰囲気を漂わせていた

 
 この世界には女神が存在し、そして天使が存在する。
 過去に存在していた天使は、自身の魂を消費し大地に魔法陣を敷いた。そして、その魔法陣を完全に模した物を女神が世界中に広める

 人は魂が弱いものほど魂に穴が空いており、そこに神々が敷いた魔法陣から穴を埋めるように魔法を契約する事が出来た。
 つまりそれは魂の空いた穴に、天使の魂の一部を取り込むという事‥‥

 だから、自身の魂に食い込む欠片が、目の前の人物の一部である事実を、はっきりと理解した。
 そして女神サーナから神託を受けていたゴルジアは、女神の存在に免疫があったおかげで、いち早く目の前の存在に気づいた

 ゴルジアの唇が動き━━

「天使‥‥」

 ゴルジアから出た言葉はその一言であり、その目はハヤトを見ていた

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