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しおりを挟むあれから暫く社交界では、クロヴィスとユリウスの男色の噂で持ちきりになったが、程なくして収束をした。余り現実味のない話だった故、早々に飽きたのだろうと思われる。
「今お帰りですか?叔父上」
クロヴィスが仕事を終え、帰ろうと城の廊下を歩いていた時だった。良く知る声に呼び止められた。
「アルフォンス、僕に何か用かい」
立ち止まり振り返るとそこには、甥であり第二王子のアルフォンスの姿があった。暗い銀色の髪と蒼眼の瞳と目が合う。
「噂、聞きましたよ。大変でしたね」
「まあね。でももう大分落ち着いたし、心配は要らないよ」
「そうですか。ですが、実の所はどうなんですか?本当は男が好きだったりして」
まるで期待するかの様な物言いに、呆れる。
「そんな訳ないだろう。それに僕には妻がいるんだから」
「……妻って言っても、形だけですよね。歳も離れているし、そもそも父上に押し付けられたから仕方がなく結婚しただけですよね?」
半笑いでまるで莫迦にしている様な態度に、内心ため息を吐いた。
昔からアルフォンスはこうやってクロヴィスに突っ掛かってくる事が多々ある。理由は何となく分かっているが、知らないフリをしている。
「確かにあの時、自分の意思だった訳じゃない。兄上からの命令で断れなかった。でも、それでも今、僕とリゼットが夫婦である事に変わりない。例えそれが形だけだと言われようともね」
クロヴィスは普段軽口を叩き、外では愛妻家として振る舞っている。先日ユリウスに言った様に「妻は世界一可愛い」など恥ずかしげもなく宣う。だが、今はそんな気分にはなれない。アルフォンスの言動に苛ついて仕方がない。
「実際の所、叔父上は彼女の事をどう思っているんですか」
「勿論好きだよ」
間髪入れずに即答し、貼り付けた様な笑みを浮かべる。
「それは女性としてですか?それとも、家族としてですか?」
「君に答える謂れはない」
「それって、答えられないって事ですか」
何時もならそろそろ引き下がる筈だが、今日はやけにしつこい。アルフォンスが引き下がる気配はまるでなかった。
「アルフォンス、君は一体何が言いたいんだい?その答えを聞いてどうなると言うんだ」
「僕、聞いちゃったんですよ。叔父上と父上が話しているのを」
瞬間、クロヴィスは顔を顰める。アルフォンスの言動からして何を聞いたのかなど聞かずとも分かる。面倒な人物に知られてしまったと、舌打ちをしたい気分だ。
「成る程……でも、今はまだ口外はしないで欲しいんだ」
「しませんよ。だって敵が増えるのは、僕も望んでいませんから」
「……」
「安心して下さい。僕なら、彼女を幸せにしてあげられます」
自信に満ちた挑発的な笑みを浮かべたアルフォンスは、丁寧にお辞儀をするとその場から去って行った。
「お帰りなさいませ、クロヴィス様」
屋敷に帰るとリゼットが笑顔で出迎えてくれた。今は笑う気分ではないが、無理矢理笑みを浮かべた。自慢ではないが、作り笑顔は慣れている。幼い頃からそうだった……。
「ただいま、リゼット」
そう言って徐に彼女を抱き締めた。
「クロヴィス様?」
何時もと少し違う様子に戸惑っているのだろう。彼女の不思議そうな声が聞こえる。
「何か、悲しい事があったんですか……」
「っ……」
クロヴィスは驚いた。ちゃんと笑えている筈だ。それなのに、何故……。
「どうしてそんな事、聞くんだい?」
努めて明るく話すと、腕の中の彼女は身動ぎ真っ直ぐな瞳で見上げてくる。
「だって、クロヴィス様……今にも泣きそうな顔されています」
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