62 / 81
61
しおりを挟む
殺人事件の翌日から学院は大変な騒ぎになっていた。その理由は次から次へと、被害者が増えていったからだ。
「ねぇ、聞いた?今日の被害者、ロザリー様だったんですって」
フィオナが廊下を歩いていると、そんな声が聞こえて来た。聞き覚えのある名前に、心臓が跳ねた。彼女は、以前フィオナを廊下で呼び止めヴィレームのパートナーは自分だと宣言していた、公爵令嬢だ。
「また、心臓がなかったんだろう」
「これで何人目だよ」
オリフェオと他言無用だと約束したが、あれはもはや何の意味もない。これだけ数が増えれば隠す事など無理だ。家族だって黙っていない。学院に乗り込んできた身内も何人か見た。
「えー、九人目じゃないか」
半月で九人。まだ正式に通達は出されていないが、今日にでも学院を暫くの間、閉鎖するのではないかと聞いた。
自主的に休む生徒もかなり増えて来ている。フィオナとシャルロットが教室に着くと席はガラガラで三分の一程しか生徒がいない。
こんな状況下で登院している人間は、相当な変わり者とも言える。こんな中で、授業などまともに出来る筈もない。故に授業をする為にではなく、事件への興味本位で登院していると考えてもいいかも知れない。
人間の心理とは面白いもので「自分は大丈夫」だと楽観的に捉えているのだろうか……。
ただフィオナが登院する訳は、興味本位などではない。それにヴィレームにも暫く休む事を勧められているのだが、それでもフィオナにはどうしても毎日登院しなくてはならない理由があった。
「フィオナ」
昼休み、フィオナの教室にヴィレームとブレソールが来た。ここの所は、心配だと言ってヴィレームが迎えに来てくれる事が殆どだ。申し訳ない気持ちになるが、嬉しくも思う。
「始めからこうしていたら良かったんですわぁ」
フィオナとヴィレームが並んで座る中、背中合わせになりシャルロットとブレソールが座った。何時も通り裏で昼食を摂るのだが、最近はこうして背中合わせでシャルロット達と食べている。
「これなら、フィオナちゃんとお喋りしながら愉しくお弁当を食べる事ができますわよねぇ!」
奇妙な光景ではあるが確かにこれなら、二人に顔を晒す事なく一緒に食べる事が出来る。
「まあ、苦肉の策だがな」
シャルロットは実に嬉しそうに、またブレソールが苦笑している声が背中越しに聞こえる。隣に座るヴィレームを盗み見ると、実に複雑そうだ。気持ちは分かる。
「本当はフィオナと。二人っきりが良いんだけど……」
そっちなんですね。
フィオナは、そんな事を呟く彼が可愛く見えて、くすりと笑った。
「ねぇ、フィオナ」
その夜、自室にて何時も通りヴィレームと話をしていた。夕食の後、応接間でシャルロット達と雑談後、ヴィレームに部屋まで送って貰いそのまま過ごす、二人だけの貴重な時間だった。普段は甘い空気が漂っているのだが、今夜は違った。
「はい、ヴィレーム様」
何時になく深刻な面持ちの彼に、フィオナは居住まいを正す。
「先日も話したけど、やっぱり暫く落ち着くまでは、学院を休んだ方がいいと思うんだけど……」
彼は遠慮がちにそう話した。だが意を決した様に、フィオナの返事を待たずにまたヴィレームが口を開いた。今度は先程よりもハッキリと少し強い口調だ。
「正直に言えば、行って欲しくない」
「ヴィレーム様……」
「無論学院内では姉上が側を離れずにいるから、心配はないかも知れない。でも、未だに事件の全貌は明らかにはなってないし……。これから先、何が起こるかも僕にも分からない。だから、何かあってからでは遅いんだよ。……僕は、フィオナの事が心配でどうしようもない」
何の他意も感じない。ただ純粋に自分の身を案じているヴィレームにフィオナは心が揺れた。
「ねぇ、聞いた?今日の被害者、ロザリー様だったんですって」
フィオナが廊下を歩いていると、そんな声が聞こえて来た。聞き覚えのある名前に、心臓が跳ねた。彼女は、以前フィオナを廊下で呼び止めヴィレームのパートナーは自分だと宣言していた、公爵令嬢だ。
「また、心臓がなかったんだろう」
「これで何人目だよ」
オリフェオと他言無用だと約束したが、あれはもはや何の意味もない。これだけ数が増えれば隠す事など無理だ。家族だって黙っていない。学院に乗り込んできた身内も何人か見た。
「えー、九人目じゃないか」
半月で九人。まだ正式に通達は出されていないが、今日にでも学院を暫くの間、閉鎖するのではないかと聞いた。
自主的に休む生徒もかなり増えて来ている。フィオナとシャルロットが教室に着くと席はガラガラで三分の一程しか生徒がいない。
こんな状況下で登院している人間は、相当な変わり者とも言える。こんな中で、授業などまともに出来る筈もない。故に授業をする為にではなく、事件への興味本位で登院していると考えてもいいかも知れない。
人間の心理とは面白いもので「自分は大丈夫」だと楽観的に捉えているのだろうか……。
ただフィオナが登院する訳は、興味本位などではない。それにヴィレームにも暫く休む事を勧められているのだが、それでもフィオナにはどうしても毎日登院しなくてはならない理由があった。
「フィオナ」
昼休み、フィオナの教室にヴィレームとブレソールが来た。ここの所は、心配だと言ってヴィレームが迎えに来てくれる事が殆どだ。申し訳ない気持ちになるが、嬉しくも思う。
「始めからこうしていたら良かったんですわぁ」
フィオナとヴィレームが並んで座る中、背中合わせになりシャルロットとブレソールが座った。何時も通り裏で昼食を摂るのだが、最近はこうして背中合わせでシャルロット達と食べている。
「これなら、フィオナちゃんとお喋りしながら愉しくお弁当を食べる事ができますわよねぇ!」
奇妙な光景ではあるが確かにこれなら、二人に顔を晒す事なく一緒に食べる事が出来る。
「まあ、苦肉の策だがな」
シャルロットは実に嬉しそうに、またブレソールが苦笑している声が背中越しに聞こえる。隣に座るヴィレームを盗み見ると、実に複雑そうだ。気持ちは分かる。
「本当はフィオナと。二人っきりが良いんだけど……」
そっちなんですね。
フィオナは、そんな事を呟く彼が可愛く見えて、くすりと笑った。
「ねぇ、フィオナ」
その夜、自室にて何時も通りヴィレームと話をしていた。夕食の後、応接間でシャルロット達と雑談後、ヴィレームに部屋まで送って貰いそのまま過ごす、二人だけの貴重な時間だった。普段は甘い空気が漂っているのだが、今夜は違った。
「はい、ヴィレーム様」
何時になく深刻な面持ちの彼に、フィオナは居住まいを正す。
「先日も話したけど、やっぱり暫く落ち着くまでは、学院を休んだ方がいいと思うんだけど……」
彼は遠慮がちにそう話した。だが意を決した様に、フィオナの返事を待たずにまたヴィレームが口を開いた。今度は先程よりもハッキリと少し強い口調だ。
「正直に言えば、行って欲しくない」
「ヴィレーム様……」
「無論学院内では姉上が側を離れずにいるから、心配はないかも知れない。でも、未だに事件の全貌は明らかにはなってないし……。これから先、何が起こるかも僕にも分からない。だから、何かあってからでは遅いんだよ。……僕は、フィオナの事が心配でどうしようもない」
何の他意も感じない。ただ純粋に自分の身を案じているヴィレームにフィオナは心が揺れた。
36
あなたにおすすめの小説
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
特技は有効利用しよう。
庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。
…………。
どうしてくれよう……。
婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。
この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる