187 / 253
番外編【ファンが増えました】7先生の素性と引き換えに……
しおりを挟む
「とまあ、こんな感じで冒頭はいいかな」
ざっと書いてみたが、なかなか良い出来ではないだろうか。とはいえ、名前は決めないまま書き始めてしまった。投稿は名前を決めて、もっと書き溜めてからになるだろう。ここまでの執筆時間、一時間弱。まあ、底辺作家としてはまずまずの早さだろう。
トントン。
ちょうど良いタイミングで部屋のドアがノックされる。大鷹さんはいつも律儀にドアをノックしてから入ってくれるのでありがたい。
「どうぞ、入っても大丈夫です」
ガチャリ。
「そろそろ、お風呂が沸きます。ああ、執筆中でしたか。お邪魔でしたか?」
大鷹さんは私がパソコンの前に座っているのを見て、満足そうにしている。よほど私の次回作を楽しみにしているのだろう。
「いいえ、ちょうどキリがよいところまで書けて読み直していたところです。お風呂、先に入ってもいいですか?」
「いいですよ」
大鷹さんは素晴らしい夫だ。ということで、私は書きかけの小説をいったん保存して、先にお風呂に入るのだった。
「おはようございます、先輩。少しお話したいことがあるのですが」
次の日の朝、いつものように出社後、更衣室で着替えをしていたら、河合さんに話しかけられた。彼女が、わざわざ「お話ししたいことがある」などと言ってくるなど珍しい。私のことは構わず、好き勝手に話していることが多いのに、何かあったのだろうか。
「おはようございます、河合さん。悩み事でもあるのですか?私に話して解決するのなら、話してもらって構いませんが」
「いや、話して解決するとかそういう問題ではな」
「オハヨウゴザイマス!江子先輩。今日も素敵ですね!」
ここ最近、毎日のように梨々花さんが私と河合さんの出勤時刻に合わせてやってくる。そして、毎度のように私は無視して、河合さんにだけ挨拶する。もう慣れっこな光景なので、いちいち目くじらを立てても仕方ないとあきらめている。
「おはよう、梨々花ちゃん。昨日はごめんね。あれから、当間さんとどうなった?」
「ああ、そういえば、そんなことがありましたね」
つい、言わなくてもいい言葉が口から出てしまう。慌てて口を押えるもすでに遅かった。
「紗々先輩は、陰からこっそり見てましたもんね」
「ええええ!盗み見なんて、今時そんなお下品なことする人、いるんですねえ」
二人にばっちりと聞かれてしまった。
昨日の事なのに、彼女達の言葉を聞くまですっかり忘れていた。河合さんと目が合ったと思ったのは本当だった。とはいえ、私の言葉に対して、梨々花さんがいるところでわざわざ盗み見のことを言わなくてもいいではないか。梨々花さんは河合さんの言葉に、大げさなほどのリアクションをして、私をじいと見つめてくる。
「そのことで、先輩にお話があ」
「当間君とは、現在、別れ話が進行中なんですけど、どうにも彼には、私の別れたい理由を理解してもらえなくて、困っているんですう」
話の途中に自分の言葉を重ねて邪魔するのはいい加減、やめて欲しい。自分が邪魔されるわけではないが、河合さんが完全に被害者だ。いや、河合さんの話しをきちんと聞けないので、私も被害者だ。大迷惑である。
「そうなんだ。じゃあ、今度、三人で一緒にご飯を食べよう!私と先輩と梨々花さんで」
「江子先輩と一緒なのは嬉しいですけど、倉敷さんを呼ぶのはどうしてですか?」
河合さんがこの場にいる三人での食事会を提案し始めた。勝手なことを言うのは相変わらずだが、梨々花さんは私が嫌いなので了承はしないだろう。そうなれば、河合さんの提案は破棄される。
「紗々先輩と一緒に食事をしたら、例の作者の素性、教えてあげてもいいけど」
しかし、私の淡い希望はあっけなく砕け散ることになる。河合さんがこっそりと梨々花さんに何か耳打ちした。とはいえ、私にも聞こえるようになのか、わざと少し大きめの声を出していた。
「ちょ、ちょっとそれってまさか」
「ほ、本当ですか?江子先輩は【紗々の葉先生】が誰か知っているということですか?」
「当たり前でしょう?なんなら、私は先生の一番のファンなんだから!」
とんでもないことになってしまった。河合さんには聞きたいことが山ほどあるが、今この場で聞かなければならないことは。
「梨々花さんって、その人の作品を読むのですか?」
「倉敷さんには関係ないでしょう?」
聞き捨てならないことを聞いてしまったので、確認しなくてはならない。私のファンは一定数いるのだが、リアルで知っているのは大鷹さんと河合さんの二人のみ。それが今回、三人に増えるかもしれないのだ。
「そういうことだから、紗々先輩、よろしくお願いしますね」
しかし、梨々花さんには関係ないと言われ、河合さんに謎の圧を受けた私は、三人での食事会に「ハイ」と頷くしかなかった。
ざっと書いてみたが、なかなか良い出来ではないだろうか。とはいえ、名前は決めないまま書き始めてしまった。投稿は名前を決めて、もっと書き溜めてからになるだろう。ここまでの執筆時間、一時間弱。まあ、底辺作家としてはまずまずの早さだろう。
トントン。
ちょうど良いタイミングで部屋のドアがノックされる。大鷹さんはいつも律儀にドアをノックしてから入ってくれるのでありがたい。
「どうぞ、入っても大丈夫です」
ガチャリ。
「そろそろ、お風呂が沸きます。ああ、執筆中でしたか。お邪魔でしたか?」
大鷹さんは私がパソコンの前に座っているのを見て、満足そうにしている。よほど私の次回作を楽しみにしているのだろう。
「いいえ、ちょうどキリがよいところまで書けて読み直していたところです。お風呂、先に入ってもいいですか?」
「いいですよ」
大鷹さんは素晴らしい夫だ。ということで、私は書きかけの小説をいったん保存して、先にお風呂に入るのだった。
「おはようございます、先輩。少しお話したいことがあるのですが」
次の日の朝、いつものように出社後、更衣室で着替えをしていたら、河合さんに話しかけられた。彼女が、わざわざ「お話ししたいことがある」などと言ってくるなど珍しい。私のことは構わず、好き勝手に話していることが多いのに、何かあったのだろうか。
「おはようございます、河合さん。悩み事でもあるのですか?私に話して解決するのなら、話してもらって構いませんが」
「いや、話して解決するとかそういう問題ではな」
「オハヨウゴザイマス!江子先輩。今日も素敵ですね!」
ここ最近、毎日のように梨々花さんが私と河合さんの出勤時刻に合わせてやってくる。そして、毎度のように私は無視して、河合さんにだけ挨拶する。もう慣れっこな光景なので、いちいち目くじらを立てても仕方ないとあきらめている。
「おはよう、梨々花ちゃん。昨日はごめんね。あれから、当間さんとどうなった?」
「ああ、そういえば、そんなことがありましたね」
つい、言わなくてもいい言葉が口から出てしまう。慌てて口を押えるもすでに遅かった。
「紗々先輩は、陰からこっそり見てましたもんね」
「ええええ!盗み見なんて、今時そんなお下品なことする人、いるんですねえ」
二人にばっちりと聞かれてしまった。
昨日の事なのに、彼女達の言葉を聞くまですっかり忘れていた。河合さんと目が合ったと思ったのは本当だった。とはいえ、私の言葉に対して、梨々花さんがいるところでわざわざ盗み見のことを言わなくてもいいではないか。梨々花さんは河合さんの言葉に、大げさなほどのリアクションをして、私をじいと見つめてくる。
「そのことで、先輩にお話があ」
「当間君とは、現在、別れ話が進行中なんですけど、どうにも彼には、私の別れたい理由を理解してもらえなくて、困っているんですう」
話の途中に自分の言葉を重ねて邪魔するのはいい加減、やめて欲しい。自分が邪魔されるわけではないが、河合さんが完全に被害者だ。いや、河合さんの話しをきちんと聞けないので、私も被害者だ。大迷惑である。
「そうなんだ。じゃあ、今度、三人で一緒にご飯を食べよう!私と先輩と梨々花さんで」
「江子先輩と一緒なのは嬉しいですけど、倉敷さんを呼ぶのはどうしてですか?」
河合さんがこの場にいる三人での食事会を提案し始めた。勝手なことを言うのは相変わらずだが、梨々花さんは私が嫌いなので了承はしないだろう。そうなれば、河合さんの提案は破棄される。
「紗々先輩と一緒に食事をしたら、例の作者の素性、教えてあげてもいいけど」
しかし、私の淡い希望はあっけなく砕け散ることになる。河合さんがこっそりと梨々花さんに何か耳打ちした。とはいえ、私にも聞こえるようになのか、わざと少し大きめの声を出していた。
「ちょ、ちょっとそれってまさか」
「ほ、本当ですか?江子先輩は【紗々の葉先生】が誰か知っているということですか?」
「当たり前でしょう?なんなら、私は先生の一番のファンなんだから!」
とんでもないことになってしまった。河合さんには聞きたいことが山ほどあるが、今この場で聞かなければならないことは。
「梨々花さんって、その人の作品を読むのですか?」
「倉敷さんには関係ないでしょう?」
聞き捨てならないことを聞いてしまったので、確認しなくてはならない。私のファンは一定数いるのだが、リアルで知っているのは大鷹さんと河合さんの二人のみ。それが今回、三人に増えるかもしれないのだ。
「そういうことだから、紗々先輩、よろしくお願いしますね」
しかし、梨々花さんには関係ないと言われ、河合さんに謎の圧を受けた私は、三人での食事会に「ハイ」と頷くしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結保証】存在しないことにされていた管理ギフトの少女、王宮で真の家族に出会う 〜冷遇された日々は、王宮での溺愛で上書きします〜
小豆缶
恋愛
「願った結果を、ほんの少しだけ変えてしまう力」
私に与えられたギフトは、才能というにはあまりにも残酷な自分も人の運命も狂わせるギフトだった。
そのあまりの危うさと国からの管理を逃れるために、リリアーナは、生まれたことそのものが秘匿され、軟禁され、育てられる。
しかし、純粋な心が願うギフトは、ある出来事をきっかけに発動され、運命が動き出す。
二度とそのギフトを使わないと決めて生きてきたのよ
だが、自分にせまる命の危機ーー
逃げていた力と再び向き合わなければならない状況は、ある日、突然訪れる。
残酷なギフトは、リリアーナを取り巻く人たちの、過去、未来に影響し、更には王宮の過去の闇も暴いていく。
私の愛する人がどうか幸せになりますように...
そう、リリアーナが願ったギフトは、どう愛する人に届くのか?
孤独だったリリアーナのギフトが今、王宮で本当の幸せを見つけるために動き始める
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
女性が少ない世界でVTuberやります!
dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉
なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。
※恋愛大賞ラストスパートなので24日火曜~27日金曜日まで連日投稿予定!
参加してるみんな!あと少し頑張ろうね!(>▽<)/作者ブル
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
そう名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる