結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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番外編【ファンが増えました】7先生の素性と引き換えに……

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「とまあ、こんな感じで冒頭はいいかな」

 ざっと書いてみたが、なかなか良い出来ではないだろうか。とはいえ、名前は決めないまま書き始めてしまった。投稿は名前を決めて、もっと書き溜めてからになるだろう。ここまでの執筆時間、一時間弱。まあ、底辺作家としてはまずまずの早さだろう。

 トントン。

 ちょうど良いタイミングで部屋のドアがノックされる。大鷹さんはいつも律儀にドアをノックしてから入ってくれるのでありがたい。

「どうぞ、入っても大丈夫です」

 ガチャリ。

「そろそろ、お風呂が沸きます。ああ、執筆中でしたか。お邪魔でしたか?」

 大鷹さんは私がパソコンの前に座っているのを見て、満足そうにしている。よほど私の次回作を楽しみにしているのだろう。

「いいえ、ちょうどキリがよいところまで書けて読み直していたところです。お風呂、先に入ってもいいですか?」

「いいですよ」

 大鷹さんは素晴らしい夫だ。ということで、私は書きかけの小説をいったん保存して、先にお風呂に入るのだった。



「おはようございます、先輩。少しお話したいことがあるのですが」

 次の日の朝、いつものように出社後、更衣室で着替えをしていたら、河合さんに話しかけられた。彼女が、わざわざ「お話ししたいことがある」などと言ってくるなど珍しい。私のことは構わず、好き勝手に話していることが多いのに、何かあったのだろうか。

「おはようございます、河合さん。悩み事でもあるのですか?私に話して解決するのなら、話してもらって構いませんが」

「いや、話して解決するとかそういう問題ではな」

「オハヨウゴザイマス!江子先輩。今日も素敵ですね!」

ここ最近、毎日のように梨々花さんが私と河合さんの出勤時刻に合わせてやってくる。そして、毎度のように私は無視して、河合さんにだけ挨拶する。もう慣れっこな光景なので、いちいち目くじらを立てても仕方ないとあきらめている。

「おはよう、梨々花ちゃん。昨日はごめんね。あれから、当間さんとどうなった?」

「ああ、そういえば、そんなことがありましたね」

 つい、言わなくてもいい言葉が口から出てしまう。慌てて口を押えるもすでに遅かった。

「紗々先輩は、陰からこっそり見てましたもんね」

「ええええ!盗み見なんて、今時そんなお下品なことする人、いるんですねえ」

 二人にばっちりと聞かれてしまった。

 昨日の事なのに、彼女達の言葉を聞くまですっかり忘れていた。河合さんと目が合ったと思ったのは本当だった。とはいえ、私の言葉に対して、梨々花さんがいるところでわざわざ盗み見のことを言わなくてもいいではないか。梨々花さんは河合さんの言葉に、大げさなほどのリアクションをして、私をじいと見つめてくる。

「そのことで、先輩にお話があ」

「当間君とは、現在、別れ話が進行中なんですけど、どうにも彼には、私の別れたい理由を理解してもらえなくて、困っているんですう」

 話の途中に自分の言葉を重ねて邪魔するのはいい加減、やめて欲しい。自分が邪魔されるわけではないが、河合さんが完全に被害者だ。いや、河合さんの話しをきちんと聞けないので、私も被害者だ。大迷惑である。

「そうなんだ。じゃあ、今度、三人で一緒にご飯を食べよう!私と先輩と梨々花さんで」

「江子先輩と一緒なのは嬉しいですけど、倉敷さんを呼ぶのはどうしてですか?」

 河合さんがこの場にいる三人での食事会を提案し始めた。勝手なことを言うのは相変わらずだが、梨々花さんは私が嫌いなので了承はしないだろう。そうなれば、河合さんの提案は破棄される。

「紗々先輩と一緒に食事をしたら、例の作者の素性、教えてあげてもいいけど」

 しかし、私の淡い希望はあっけなく砕け散ることになる。河合さんがこっそりと梨々花さんに何か耳打ちした。とはいえ、私にも聞こえるようになのか、わざと少し大きめの声を出していた。

「ちょ、ちょっとそれってまさか」

「ほ、本当ですか?江子先輩は【紗々の葉先生】が誰か知っているということですか?」

「当たり前でしょう?なんなら、私は先生の一番のファンなんだから!」

 とんでもないことになってしまった。河合さんには聞きたいことが山ほどあるが、今この場で聞かなければならないことは。

「梨々花さんって、その人の作品を読むのですか?」

「倉敷さんには関係ないでしょう?」

 聞き捨てならないことを聞いてしまったので、確認しなくてはならない。私のファンは一定数いるのだが、リアルで知っているのは大鷹さんと河合さんの二人のみ。それが今回、三人に増えるかもしれないのだ。

「そういうことだから、紗々先輩、よろしくお願いしますね」

 しかし、梨々花さんには関係ないと言われ、河合さんに謎の圧を受けた私は、三人での食事会に「ハイ」と頷くしかなかった。
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