朔夜蒼紗の大学生活⑤~幼馴染は彼女の幸せを願う~

折原さゆみ

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9帰宅

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「ただいま」

 玄関のカギを開け、家の中にむかって帰宅の挨拶をする。当然、家には誰もいない。しかし、私の習慣となっている挨拶に誰も気にすることなく、九尾たちは私より先に靴を脱いで家の中に入っていく。

「そういえば、いつから少年の姿に戻っていたのでしょうか」

 ファミレスではあまりの可愛さに気付かなかったが、家を出たときは青年姿だったはずだ。そのまま青年の姿をしていたら、私はファミレスであんな失態を犯すことはなかった。家の中だということで、ケモミミと尻尾を生やした通常の姿に戻った九尾たちを眺める。ぼそりとつぶやいた独り言に対して、ふふふと笑う声が耳に入る。

「朔夜って、案外、桜華と似ているのかもしれないな」

「彼女の方が、性質が悪かったと思います。私は他人に服装などを強要していません!」

 笑ったのは雨水君だった。いきなりの言葉だったので、つい正直に返答してしまう。しかし、冷静になってみると、今、彼は桜華という言葉を口にした。雨水君は遠い目をして何かを思い出しているようだった。

「懐かしいな。桜華が亡くなって、もう一年以上が経つんだな」

「そ、そうですね」

 他にかける言葉見つからず、しばらく私たちの間に気まずい空気が流れる。それを壊したのは、そもそもの元凶の私の家の居候だった。


「おい、蒼紗。腹が減ったのではないのか?」

「そ、そうでした!う、雨水君は食べたいものがありますか?」

「ええと、何か食べたいもの……」

 九尾の声に慌てて私たちも玄関から上がって家の中に入る。雨水君をリビングに案内すると、そこにはいつもの私の癒し空間が広がっていた。

「う、雨水君。とりあえず座って」

 ケモミミ美少年パラダイスの空間で、私は平静を装って雨水君をソファに座らせる。自分も少し離れた席に座ってスマホを取り出す。九尾に言われた通り、空腹を満たすことが先決だ。音こそ立てないが、腹は空腹を訴えている。私はピザのLサイズを二枚注文することにした。届くまでは時間がかかるので、その間に少しでも空腹を満たすためにコーヒーを煎れて待つことにした。

「お主が気にかかっていたことだが、簡単な話だ。青年姿だと注目されやすい。だから」

 少年姿に戻ってファミレスでご飯を食べていた。

 コーヒーをテーブルに置くのを待って、九尾が私にファミレスでの姿の説明をしてくれた。そういうものだろうか。私としては青年のイケメン姿よりも少年姿の方が目立つし、興奮する人が増えてしまう気がして仕方ないが、無理やり納得することにした。

「そんなことはどうでもいいけど、面接はうまくいったの?まあ、静流がいて失敗することはないと思うけど」

 話題を変えるように七尾が口を開く。そういえば、ファミレスで話そうと思っていたことがあったのだった。七尾に質問された私は、ちらりと雨水君の様子をうかがう。彼らに話してはいけない内容はなそうだ。特に何も言われることはなかった。私は出前のピザが届くまでの間、面接での出来事を話すことにした。

「ええと、面接は雨水君の言う通り、組合の代表の方とすることになって……」

 代表の玄田という男の特徴や印象、質問された内容などを詳しく九尾たちに説明していく。そして、面接が終わって帰ろうとしたときに、邪魔が入ったことも。

「私たちが帰ろうとしたら、急に別の男が部屋に乱入してきて。あれ?あの人って結局誰だったのでしょうか?」

 今更ながらに、部屋に乱入してきた男の正体を雨水君に聞いていなかったと気づく。突然、私に近づいてきたから思わず能力を使ってしまったが、あれはやはりまずかったかもしれない。

「慌てて部屋から出てきたから、あいつについての説明をしていなかったな。どうせ、七尾たちにも話さなくてはいけないと思っていたんだ」

 私の独り言を聞き取った雨水君が、その後の状況を九尾たちに話していく。

「面接を終えたオレ達が部屋を出ようとしたら、突然、あいつがやってきた。ああ、朔夜はあの男の姿を見るのは初めてだろうが、声は聞いたことがあっただろう?」

 声、と聞いてもあまりピンとこない。確かに見た目に対して、声が妙にしわがれていた気がするが、そんな特徴的な声の主を私が忘れるはずが。

「ああ、もしかして!」

 一人だけ、思い当たる人物がいた。いや、一人と言っても、その男の容姿はわからない。その男の声は頭の中に直接響いてきたため、直接見たのは初めてのはずだ。私の表情を見た雨水君がその通りだというように頷く。

「ようやくあいつが誰かわかったみたいだな。部屋に入ってきた男が唐洲(からす)だ」

「じゃあ、私は雨水君と敵対している人に自分の能力を」

 使ってしまったということか。しかし、それは不可抗力だ。私が悪かったとは思えない。

「まったく、面倒なことをしてくれたな」

 九尾は私の心を勝手に読んで大げさに首を横に振っていた。その反応に翼君と狼貴君もなにかを察したのか、じっと私の方を見つめてくる。あまり話したくはないが、仕方なくことの顛末を彼らに伝えることにした。


「ええと、その、唐洲という男が私に急に近づいてくるから、つい」

 能力を使ってしまった。

 私の言葉に翼君と狼貴君は呆れたようなため息を吐く。そこまであからさまな態度を取らなくてもいいではないか。

「まったく、蒼紗さんはもっと、周りに注意して行動した方がいいですよ」

「ただでさえ、目立っているのだから」

「そうだよねえ。目立ち具合でいえば、あの桜華と同じくらいにはなってきているかもねえ」

 言いたい放題に言われて、黙っていられるわけがない。反論しようと口を開こうとしたが。


「ピンポーン」

 ちょうどタイミング悪く、玄関のインターホンの音がリビングに響き渡る。壁にかけられた時計を見ると、注文してから30分以上が過ぎていた。

「ハイ、朔夜です」

 リビング中央の壁に設置された画面をのぞき込むと、箱を抱えた男性が玄関に立っていた。慌てて玄関に出て商品を受け取る。

「ありがとうございました」

 アツアツのピザが入った箱を受け取ると、配達員の男性はそのまま立ち去っていく。ピザのチーズのいい香りに忘れかけていた空腹が顔を出す。

 そのままリビングに持っていくと、雨水君のお腹も空腹を訴え始める。思わず笑ってしまう。

「では、冷めないうちにいただきましょう」

 九尾たちからの熱い視線を感じたが、当然、彼らに分け与えることなく、私と雨水君でピザは完食した。

「唐洲という男には気をつけろよ。こいつらがいるから、大丈夫だとは思うが」

 ピザを完食すると、雨水君と七尾は私の家から出ていった。面接の結果は3日ほどでわかるらしい。代表から連絡き次第、こちらにも連絡をくれるそうだ。

「心配しなくても、こいつも我らもただの能力者に負けるほど弱くない」

 帰り際に雨水君に忠告されたが、九尾の言葉通り、心配されなくても私たちなら大丈夫だろう。

 玄関を出て空を見上げると、どんよりとした雲間からうっすらと太陽の光が見えていた。


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