朔夜蒼紗の大学生活⑤~幼馴染は彼女の幸せを願う~

折原さゆみ

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【番外編】もしも、高校生だったなら……3

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「今日も一日頑張りましょう」

 教壇で駒沢が話しているのを見ると、大学を思い出す。まさか、夢の中までこいつが先生になっているとは驚きだ。

「蒼紗、一時間目は数学だけどちゃんと宿題はやってきた?」

 朝のHRが終わると、駒沢は教室から出ていった。駒沢の担当教科は気になるが、一限目から駒沢の授業ではなくてほっとした。例え、夢の中では無害なただの高校教師でも、現実が嫌らしい怪しい男なので、なるべく一緒に過ごす時間は少ないほうがいい。

 親切にも、ジャスミンが一時限目の授業を教えてくれる。数学らしいが、宿題など知ったことではない。

「その顔、やってないみたいね。蒼紗、いくらテストがよくても、自分の叔父さんの授業をいい加減に受けるのは、やめたほうがいいと思うけど」

「そうですよ。でも、羨ましいです。あんなに可愛らしい叔父さんがいるなんて」

 オジサン。

 はて、私に叔父などいない。いや、いないわけではないが、既に亡くなっている。いったい誰が私の叔父を名乗っているのだろうか。


「席に着け。授業を始めるぞ」

 可愛らしい叔父さん。それが大きなヒントだったらしい。教室にやってきた人物を見て納得する。確かに可愛らしい見た目だが、中身は年齢不詳の気まぐれな狐の神様だ。

「朔夜、この問題を解いてみろ」

 それにしても、どうして見た目が少年で、ケモミミ尻尾まで生えた奴を先生だと学校は認めているのか。夢だからそういった設定も許されるのだとしたら、なぜ私の弟設定の翼君や狼貴君は高校生でケモミミ尻尾が消失してしまったのか。解せない。

「蒼紗、九尾先生に指名されてるわよ」
「蒼紗さん、急がないと」

 教壇で授業を始めたケモ耳美少年の姿を見ながら、つい考え事をしてしまった。ジャスミンと綾崎さんの声に我に返ると、慌てて席を立って黒板の方に向かう。黒板に書かれていたのは、なるほど、高校時代に習った記憶がある。しかし、当の昔に忘れてしまった。最後に数学を勉強したのは二度目の大学受験の時だ。そこからすでに二年が経過している。xやらyやら記号が並んだ計算式が黒板に書かれているが、まったくわからない。

「わかりません」

 適当に解いて、間違えていたら恥ずかしい。それなら最初からわからないと言った方がいい。そんな考えのもと、私は潔くわからないと九尾先生に申告する。ジャスミンと綾崎さんは頭を抱えているが、相手は九尾だ。すでに一年以上一緒に生活を共にしている。何をされても対応できるだろう。それに、さすがに問題が解けなかったところで、殺されはしないはずだ。

「もう少し、考えるということを覚えろ。まあいい。じゃあ、朔夜の代わりに解いてくれる奴はいるか?」

 九尾はあきれたように大きなため息は吐くが、それだけだった。とはいえ、お咎めなしならそれに越したことは無い。おとなしく席に戻ろうとしたら、ジャスミンの視線に気づく。何か訴えようと口をパクパクしているが、何を言っているのかわからない。

「朔夜は頼りがいのある友達がいるみたいだな。じゃあ、佐藤。代わりにこの問題を解いてみろ」

「ワカリマシタ」

「ありがとうございます」

 どうやら、ジャスミンが代わりに問題を解いてくれるようだ。嫌そうな顔をしていたが、さすが私を好きなことだけはある。すれ違いざまにお礼を言うと、顔を真っ赤にして無視されたが、照れているのだろう。現実でも夢の中でも同じ表情に思わずくすりと笑ってしまう。

「佐藤さんだけずるい」

 ぼそりと聞こえた言葉に、そういえば私のファンはジャスミンだけではなかったことを思い出す。とはいえ、今私に出来ることはない。昼休みにでも彼女のフォローをするとしよう。

「次に私が困ったときは、綾崎さんにお願いしますね」

 とりあえず、席に着く前に綾崎さんにこっそりと耳打ちしておく。しかし、自分で言っていて思うが、こんな言葉一つで頬を赤くする綾崎さんに同情してしまう。

「正解だ。ちゃんと勉強はしているようだな」

「当り前です。朔夜さんの身内に失礼な態度はとれませんから!」

 無事席に戻って顔を上げると、黒板ではジャスミンがどや顔で黒板に書かれた問題を解き終わり、満面の笑みを浮かべていた。


「四時間目の授業を終ります」

 一時間目はどうなることかと思ったが、ジャスミンのおかげで事なきを得た。宿題については、過去の私はやっていたようでカバンに入っていたので提出できた。その後の授業についても、適当に受けて居たら何とかなってしまった。

「朔夜さんの代わりに私が答えてもいいですか?」
「朔夜さんは体調が悪いので、私がその問題を解きます」

 どうやら、今日は私の出席番号が当たる日らしい。出席番号は28番。40人学級で男子から名簿が始まるので妥当な数字だろう。男子20人、女子20人で男女比は半々だ。

 ちなみに今日の日付は28日だった。10月28日。現実では確か10月の半ばを過ぎた辺りだった気がするが、夢なので時間が進んでいるのかもしれない。まあ、出席番号の関係で28日になっている可能性もある。

 ということで、まさかの午前の授業すべてで私は先生に指名された。当然、高校の勉強などすっかり忘れてしまっている。だから、当てられても答えようがない。そんな私を救ってくれたのが、私を慕うジャスミンと綾崎さんだった。

「佐藤も綾崎も、朔夜をあまり甘やかすな」
「まったく、お前ら二人は朔夜の保護者か」

「また、佐藤さんと綾崎さんが朔夜さんの問題を代わりに答えてる」
「本当に仲いいよねえ」

 先生もクラスメイトもこの光景は既に見慣れたものらしい。先生は皆、あきれたような視線を私によこしたが、私が答えられなくても叱られることは無く、ジャスミンと綾崎さんに代わりに問題を解かせていた。クラスメイトの私たちに向ける生温かい視線が恥ずかしい。


 というわけで、午前の授業が終了したわけだが、私は今、非常に困っている。昼休みになったのだから、お腹が減っている。昼休みは昼食を取るための時間でもあるので、速やかに食事がしたいわけだ。

「蒼紗、今日こそ一緒にお昼を食べましょう。お弁当を頼んだから、生徒会室で」

「蒼紗、あんたのことだから、お弁当を今日も忘れて来たでしょう?仕方ないから、余分に持ってきたおかず分けてあげるわ」

「蒼紗さん、今日、コンビニで新発売のお菓子を見つけたんで、お弁当を食べたら一緒に試食しましょう!」

「蒼紗姉ちゃん、僕たちと一緒にお昼を食べる約束でしょう!」

「一緒に食べよう」

「蒼紗、我と一緒に外のファミレスにでも昼食を食べに行くぞ」

 隣のクラスの西園寺桜華、同じクラスのジャスミンに綾崎さん、一年生の翼君に狼貴君、さらには九尾まで教室に集まってきた。

 さて、私は誰と一緒にお昼を食べるべきだろうか。
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