完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

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3章 すろうらいふを目指しましょう

10話 書簡と喜劇と期限②

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[もちろんです。ぜひお送りください]

 貸し出された大型書は、一見白紙だった。しかし公爵が手を翳し、読み取ってみせた。
 封印の解き方でなく、魔力源の期限が書かれていると。

 魔法で読み取ったとは言わずにおいた。公爵が魔力を解放した方法も。だって来年には公爵を除きすべて消えるのだ。

『願ってもない申し出だな。パルラディとの関係安定化が進む』
 公爵はシメオンと同じ反応をした。

『これでステヴァン殿下が関わるフラグも折れる』
 当のステヴァン殿下はというと、あくまで書簡での印象だが。

「少々残念がっておられました。もっとも、両国の融和へ向けて切り替えていらっしゃいます」
「ほう。まあ、パルラディ派としては口惜しいでしょう」

 シメオンが、ステヴァン殿下の鼻を明かしたとばかりに言う。
 実は、わたしも魔力がなくなるのは少し残念に思った。でも、すろうらいふを叶えるためなら、手放すのも厭わない。

「王族の魔力が消えるとなれば、今後はこれまで以上に卿ら貴族と力を合わせ、父や兄を支える必要があると考えています。よろしくお願いします」
「もったいないお言葉です。ユーリィ殿下のご婚約も国にとって重要案件になってきますゆえ、その暁には私にご相談くださいね」

 ちょっぴり痛いところを突いて、シメオンは席を立った。

 ふうう、と肩の力を抜く。
 公爵は逆に、すうう、とわたしの首もとを嗅ぐ。何が言いたいかわかりやすい。
 あやすように黒髪に触れる。

「死亡ふらぐが復活しては困りますから、令嬢と婚約はしませんよ」
「……いいんだ。ユーリィが生きているなら」

 そこは「そうせよ」と言ってほしかった――いや。公爵にとって私は何でもない。予知した死の危機を見逃せないだけだろう。

「ともかく、シメオンに関わるフラグを完璧に折れた。君の死亡フラグもだいぶ減らせたな」

 ほら。公爵が気に掛けているのは、私の命のみだ。
 すべての死亡ふらぐを壊せたらこうして会う機会も減ると思うと、さみしくなる。死の危機なぞひとつもないほうがいいのに。

 いやいや。頭を振り、後ろ向きな考えを追い出す。
 終戦という最大の安寧を得た後、少しずつでも公爵に想いを伝えていこう。
 その結果初恋に破れても、何もできず秘めるきりだったのと比べれば、幸せだ。

 公爵は、わたしの死亡ふらぐが減って元気が出たかのように、つっと顔を上げる。

「この調子で、次はペトル関連のフラグを壊そう」
「ペトルが関わるふらぐもあるのですか!? 知らず多方面で恨みを買っていたとは、お恥ずかしい……」

 公爵が未来予知してくれなければどうなっていたかと、俯く。

「違う。世界が悪いのだ。君は、優しい」

 一方の公爵は声を荒げた。ずいぶん真剣だが、わたしにはその自覚もない。

「優しいのは、エドゥアルド公爵ですよ」

 公爵こそご存知ですか? という声色で告げる。
 公爵の紅眼を、わたしが独占している。指先がちりりと痺れる。
 しかし今日は、口づけはなかった。


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