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1章 酒の力を借りて暴走
2 最後に残るのは
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「酔い醒めました? 陽先輩」
「……ほし、川?」
やわらかな声。ゆっくり目を開けたら、イケメンフェイスが視界を占めた。
下アングルでも整っている。背景できらきら瞬くのは本物の星だろうか。
(下、アングル?)
って、叶斗に膝枕されてる!
慌てて起き上がる。叶斗の高そうなバギーデニムによだれを垂らしていないか、素早く確かめた。セーフ。
(それはいいんだけど、)
芝生に囲まれている。座っているのは居酒屋の角椅子じゃなく、大学の中庭のベンチだ。
大学構内に入れるってことは、まだ日付は変わっていない。
……それしかわからない。混乱でいっぱいになる。
「いつの間に、どうやって、ここに、おまえと」
「三十分前に、俺のおんぶで。先輩ん家どこか知らないんで、起きるの待とうと思って。はいどうぞ」
叶斗がすべての疑問に的確に答えてくれた。
移動中に買ったのか、冷たいミネラルウォーターのペットボトルまで差し出してくる。
(う、うう、うわ~っ)
僕は両手で顔を覆った。
何でもないふうに微笑まれるほど、申し訳なさで押し潰されそうになる。
酒に呑まれ、よりによって好きじゃない後輩に借りをつくってしまうなんて。
――ていうか、今日の目標。
「他の先輩たちは……」
「女子を駅まで送っていきました」
うちの大学は、最寄り駅まで結構歩く。路線バスも運行してるけど夜は本数が少ないから、飲み会後は男子が女子を護衛する流れになる。
(隣に座ってた叶斗だけ残って、僕を介抱してくれたってわけか)
さぞ女子はがっかりし、男子は僕に感謝したはず。
叶斗にとっては、とんだとばっちりだ。
好きじゃないとか言っていられない。まだ少し火照っている頭を、勢いよく下げる。
「悪い。ありがとう」
「いえいえ」
叶斗は嫌味なく笑う。
はあ、それがずるいんだって。
(しっかし僕、あの二杯で潰れたのかよ)
頭が痛いとか吐きそうとかは、ないものの。潰れた瞬間をまったく思い出せない。
ちょっと、気になる。
学生が行き交う昼間と打って変わって静かな中、おそるおそる訊いてみる。
「……僕、どうなってた?」
「酔っ払った先輩ですか? 可愛くなってましたよ」
「はァ゙!?」
予想外過ぎる返答に、野太い声が出た。
可愛くなってた、だと?
長い脚を投げ出した叶斗が、「あはは」と吹き出す。
(こいつ、揶揄いやがって……!)
叶斗は「可愛い」なんて「おはよう」並みに言い慣れてるだろうけど、僕には刺激が強い。冗談はやめてほしい。
(ふつう、男が男に可愛いとか言わないんだよ)
ぺち、と手の甲を頬に当て、切り替える。
「そうじゃなくて。変なこと言ったりしてなかったかって」
「変なこと……」
叶斗は今度はじっと見つめてきた。
何だその間は。そわそわするではないか。切り捨てるならひと思いにやってほしい。
かと思うと、無駄にさわやかな笑みを浮かべる。
「心配するようなことはなかったです」
「ふ、うん。そっか」
何も憶えていないので、納得するほかない。
叶斗がわざわざ嘘を言う理由もない。よな?
とりあえず、もらったミネラルウォーターをひと口飲む。ほっと息を吐いた。
でも、気持ちは沈んだままだ。
……結局、先輩たちとほとんどしゃべれなかった。
可愛い女の子ではないし、面白い話もできないし、と行動しないできた僕にとって、今日は大きな転機だったのに。
(スピリタスは強過ぎたっぽい)
うなだれていたら、「それより、はい」と透明なプラスチックフォークを握らされた。
「何これ?」
「……ほし、川?」
やわらかな声。ゆっくり目を開けたら、イケメンフェイスが視界を占めた。
下アングルでも整っている。背景できらきら瞬くのは本物の星だろうか。
(下、アングル?)
って、叶斗に膝枕されてる!
慌てて起き上がる。叶斗の高そうなバギーデニムによだれを垂らしていないか、素早く確かめた。セーフ。
(それはいいんだけど、)
芝生に囲まれている。座っているのは居酒屋の角椅子じゃなく、大学の中庭のベンチだ。
大学構内に入れるってことは、まだ日付は変わっていない。
……それしかわからない。混乱でいっぱいになる。
「いつの間に、どうやって、ここに、おまえと」
「三十分前に、俺のおんぶで。先輩ん家どこか知らないんで、起きるの待とうと思って。はいどうぞ」
叶斗がすべての疑問に的確に答えてくれた。
移動中に買ったのか、冷たいミネラルウォーターのペットボトルまで差し出してくる。
(う、うう、うわ~っ)
僕は両手で顔を覆った。
何でもないふうに微笑まれるほど、申し訳なさで押し潰されそうになる。
酒に呑まれ、よりによって好きじゃない後輩に借りをつくってしまうなんて。
――ていうか、今日の目標。
「他の先輩たちは……」
「女子を駅まで送っていきました」
うちの大学は、最寄り駅まで結構歩く。路線バスも運行してるけど夜は本数が少ないから、飲み会後は男子が女子を護衛する流れになる。
(隣に座ってた叶斗だけ残って、僕を介抱してくれたってわけか)
さぞ女子はがっかりし、男子は僕に感謝したはず。
叶斗にとっては、とんだとばっちりだ。
好きじゃないとか言っていられない。まだ少し火照っている頭を、勢いよく下げる。
「悪い。ありがとう」
「いえいえ」
叶斗は嫌味なく笑う。
はあ、それがずるいんだって。
(しっかし僕、あの二杯で潰れたのかよ)
頭が痛いとか吐きそうとかは、ないものの。潰れた瞬間をまったく思い出せない。
ちょっと、気になる。
学生が行き交う昼間と打って変わって静かな中、おそるおそる訊いてみる。
「……僕、どうなってた?」
「酔っ払った先輩ですか? 可愛くなってましたよ」
「はァ゙!?」
予想外過ぎる返答に、野太い声が出た。
可愛くなってた、だと?
長い脚を投げ出した叶斗が、「あはは」と吹き出す。
(こいつ、揶揄いやがって……!)
叶斗は「可愛い」なんて「おはよう」並みに言い慣れてるだろうけど、僕には刺激が強い。冗談はやめてほしい。
(ふつう、男が男に可愛いとか言わないんだよ)
ぺち、と手の甲を頬に当て、切り替える。
「そうじゃなくて。変なこと言ったりしてなかったかって」
「変なこと……」
叶斗は今度はじっと見つめてきた。
何だその間は。そわそわするではないか。切り捨てるならひと思いにやってほしい。
かと思うと、無駄にさわやかな笑みを浮かべる。
「心配するようなことはなかったです」
「ふ、うん。そっか」
何も憶えていないので、納得するほかない。
叶斗がわざわざ嘘を言う理由もない。よな?
とりあえず、もらったミネラルウォーターをひと口飲む。ほっと息を吐いた。
でも、気持ちは沈んだままだ。
……結局、先輩たちとほとんどしゃべれなかった。
可愛い女の子ではないし、面白い話もできないし、と行動しないできた僕にとって、今日は大きな転機だったのに。
(スピリタスは強過ぎたっぽい)
うなだれていたら、「それより、はい」と透明なプラスチックフォークを握らされた。
「何これ?」
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