完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!

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1章 酒の力を借りて暴走

3 律儀な後輩②

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 追及はできない。教授がやってきて、叶斗は前に向き直った。
 彼女と連番指定の高橋と違い、どこに座ってもいいのに、僕の隣で講義に耳を傾ける。
(なんか、どの女子も選ばず済ませる言い訳に使われた気がする)
 そういうことか。やっぱりずるい男だ。

 講義後、そーっと荷物をまとめ、叶斗の反対側の通路から立ち去ろうとする。
 イケメン後輩の隣に居座る理由はない。二限は別々だし、歳下はタイプじゃないし。
「陽先輩、今日サークルのミーティング出ます?」
 でも、叶斗に顔を覗き込まれた。いやでも目が合う。
(……この仕草、癖なのかな)
 「近づくとめんどう」判定されたら、たとえ相手が好きじゃない後輩でも、へこむ。
 でもふつうに話されたら話されたで、罪悪感が募る。弱みを握られた気分で、神妙に答えた。
「いや、今日は五限まで教職科目入ってるから出れない」
「え、すご」
「別に……」
 忙しいだけで何もすごくはない。視線が泳いだ。
「今週末のツーリングの行き先決めるみたいですけど。ツーリングは参加ですよね?」
「あー、うん。あとで高橋に聞いとくわ」
 なおも濁す。
 実は、サークルに顔を出すのがちょっと気まずい。
 飲み会で潰れた僕を、叶斗は「心配するようなことはない」って言ったけど。
 月曜、佐藤先輩に行き合うなり「あの後だいじょぶだったんか?」って爆笑された。
 やっぱり記憶のない間、陽気になって踊ったりとか、暗くなって呪詛を唱えたりとかしたんじゃないか。もしそうなら、恋愛対象として見てもらうどころじゃない。
「高橋先輩は、デートで今日も週末も不参加って言ってましたよ」
「え」
 しかし友は頼りにならないと、後輩の口から聞かされる。
 うちは部活系サークルと違ってゆるく、ツーリング自体月一回だし、ミーティングも飲み会も毎回出席しないといけないわけじゃない。
 でもそんな予定、僕は聞いてないんですけど? 友よ。
 口を尖らせていたら、叶斗がすっとスマホを差し出してきた。
「俺が教えてあげます。LINE交換しましょ」
「えっ?」
 今日も今日とて整った叶斗の顔とスマホ画面を、交互に見る。
 その代わり、と何か要求してくるでもない。するなら介抱の時点でできるか。
 先輩のために後輩が動くのは当然、という顔に見えてきた。
 意外と上下関係を重んじる男なのかもしれない。
「……ん」
 もったいぶるのも自意識過剰みたいだから、ぽちぽちとIDを提示する。
 叶斗が素早く登録した。[叶斗です]と初メッセージが届いたところで、
「おーい叶斗、教室移動すんぞ~」
 社会学部の友達だろう、いかにも一軍な男子グループに連行されていく。
 また独りになった僕は、スマホ画面に目を落とす。
(叶斗です、だって。本物だ)
 サークル一イケメンの連絡先を入手してしまった。
 でもやっぱり、恋につながる予感はしない。
 叶斗はずるいところがあるし、地上の石と空の星では遠過ぎる。

[行き先、箱根はこねに決まりました]
 その夜、叶斗がミーティング結果を知らせてきた。
 ああ見えて律儀だ。印象を少し改める。
 シンプルな一文に、僕も[ありがとう]スタンプのみ返す。
(箱根かあ。絶景スポットも温泉もあって、新入生連れてくなら鉄板だよな)
 去年もサークルで繰り出した。楽しい思い出がよみがえる。
(愛車、メンテナンスしとこ)
 弾む足取りでアパートの駐輪場へ出向く。
 ここだけの話、自動二輪の免許は、推し俳優が出演したドラマの影響で取った。
(教職といい、僕って単純)
 少しでも近づけたら、と思ったのだ。
 ただ、都会では電車のほうが便利だったりするから、バイク本体はレンタルで足りるかな、と考えた。
 それがサークルでツーリングに出てみて、マイペースに寄り道したり季節を肌で感じたりできるのに惹かれた。普段もいろいろ出掛けたくなって、バイトを頑張って購入した。
 国産の、250ccタイプ。
 高速道路も走れる中型バイクの中では、初心者でも扱いやすい。
 チェーンを磨いていたら、ポケットのスマホが震えた。
 見れば、今回の週末ツーリング参加者用のLINEグループがつくられている。
[星川と陽先輩、参加です]
 叶斗が僕のぶんも参加表明する。そこまで頼んでないけど。まあいっか。
 サークルツーリングは一泊だから、夜は宿で部屋飲みだ。
(二.五軍な僕の恋は、自分から動かないと進まない。よし!)
 一回の失敗でめげてはいられない。先輩たちとの距離を縮める目標に、再挑戦しよう。
 イケメン後輩には邪魔されませんように。

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