完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!

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1章 酒の力を借りて暴走

4 二回目の飲み会

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 土曜朝。箱根山麓のコンビニ駐車場に、サークルメンバー十五人が集まった。
 梅雨真っただ中だけど、晴れてよかった。なんて空を見上げていたら、
「陽ちゃん先輩、晴れ男だったりします?」
 つなぎのバイクウェアが様になる叶斗が、気安く話し掛けてくる。
「だからちゃん付けやめろって」
 いくら律儀でも、目標を邪魔されては困る。
 なのに僕の愛車を「よく手入れされてますね」とか、しげしげ眺めている。
 それだけに留まらず。
「後ろ乗せてください」
「はァ? なんで」
 このお願いには、さすがに目を丸くした。
 うちのサークルは、バイクを持ってなくても、自動二輪の免許がなくても、ツーリングに興味があれば入れる。
 特に一年生は教習所に通い中だったり、バイト代を貯めているところだったりする。
 そういう子は上級生が後ろに乗せてやって、タンデム二人乗りするんだけど。
(星川は免許取得済みで、洋画みたいなでっかいバイク持ってたよな?)
 むしろ叶斗の後ろに乗りたい女子だらけのはずだ。
「おまえのハーレーは?」
 排気量1000ccもある、外国製の大型バイクをきょろきょろ探す。
「じいちゃんと共有で、今週はじいちゃんが乗ってます」
「あ、そ」
「じゃ、失礼します」
 まだ「いいよ」とは言っていないのに、叶斗は僕の愛車の後部シートに跨った。
 電車集合組の一年女子は、当てが外れたような面持ちだ。
 それを横目に、叶斗が僕の手から鞄を取り、車体のサイドにするする括りつける。
「はいどうぞ」
 革張りのサドルをぽんと示された。僕のバイクだってば。
(余計なことを……、でもないか)
 先輩たちは、それぞれこだわりのカスタムバイクに乗っている。僕が後ろに乗せてあげる必要はない。先輩の後ろに乗ることもできない。
 しぶしぶハンドルを握った。途端、叶斗の長い腕にすっぽり包み込まれる。
(なんか、)
 後部シートには、つかまるところがない。走行中のバランスを取るため、運転手と同乗者はくっついたほうがいい。とはいえ。
(バックハグみたいだな)
 体格差を見せつけられたようで、唾を呑み込まざるを得ない。
 実際、この自然な密着によって、カップルに発展することが少なくない。
(いやいや、星川は選り取り見取りなのに、僕なんか好きになるわけない。ていうか、僕だって別に好きじゃないし)
 小さく首を振る。運転に集中しないと。
 背後で、叶斗がくすりと笑った気配がする。腹に回った大きな手をぺしりと叩いてから、エンジンをかけた。

 四年の先輩を先頭に、風を切る。
 峠道はうねうねとカーブが続くけど、スピード控えめで運転すれば問題なし。
 先輩が全体を見てコントロールしてくれている。おかげで快適だ。
 途中のパーキングエリアPAで、腹ごしらえがてら休憩を挟む。
「陽先輩って、すごく安全運転ですね」
 ヘルメットをしていたのに髪がぺちゃんこになっていない叶斗が、当たり前のことを言ってきた。
「ふつうだろ。後ろにおまえ乗せてるんだし」
 当たり前に返せば、ほんのり微笑む。
 ……それ、ずるいからやめてほしい。
 また抱き込まれ――じゃない、つかまられ、走りを再開する。
 「スカイライン」と名のついた、見通しのいい道に差し掛かった。
 今回のツーリングの、いちばんの見どころ。
(見えた!)
 快晴の空を背景に、雄大な富士山がくっきりとそびえている。去年も見たけど、いいものは何回見てもいい。
「富士山ー!」
「富士山!」
 ん? 被った。ヘルメット越しでも、複数のエンジン音に囲まれていても耳に届いたのは、叶斗のはしゃぎ声だ。
 ひとつも共通点がなさそうな一軍イケメンが、同じ反応をするなんて。一ミリだけ親しみを感じた。

 夕方には無事、温泉宿に到着した。
 山間部に位置し、緑豊かで気持ちいい。
「先輩、運転お疲れ様でした」
「これくらいぜんぜん」
 労いを口にする叶斗の前では、恰好つけたものの。
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