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1章 酒の力を借りて暴走
6 取引デート?
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※これからイケメンと会いますが取引です、恋愛の相手から最も遠い存在です。努力の方向を間違えないように。
……って注釈を自分で自分につけて、家を出た。
パーキングエリアにすべり込む。途端、居合わせた人たちの目が僕の隣に集まる。
駐輪スペースに並ぶバイクの中で、いちばんでかいハーレー。
アメリカ製で、パーツもごつい。ガソリンタンクとタイヤの泥除けは、鮮やかな赤だ。
それに跨っているのが、目の覚めるようなイケメンときた。プロテクターが仕込まれたナイロンジャンパーと赤いライダーグローブが、また似合っている。
(待ち合わせただけで、この注目されよう)
大学の前期試験を片づけ、八月を迎えた。
今日は叶斗との約束の日だ。
試験期間中お預けだったツーリング自体は楽しみにしていたのだが、何だか怯んでしまう。相棒の国産バイクとともに縮こまった。
「おはようございます、陽ちゃん先輩」
ヘルメットのシールドを上げた叶斗は通常運転で、顔を覗き込んでくる。
「……次ちゃん付けしたら、叶斗って呼ばないから」
「え、それは困る」
憎まれ口を叩いていたら、いいなー、と僕をうらやむ女の子の声が聞こえた。
(ほんとに、ふたりでツーリングするんだ)
春先は、同じサークルでも話せもしなかった。
飲み会で迷惑をかけてしまって、避けられるかと思いきや、不思議なものだ。
「行きましょ。まずはポテト屋さん」
叶斗がフェイスシールドを下ろす。きらりと午後の陽光が反射した。
「おはよう」って言ったけど、指定された集合時間は、日帰りにしても遅めだ。コンパクトな行程なのだろう。
(それはそう。単なる貸し借りだし)
がっかりはしていない。
ただ、心臓の辺りがむずむずする。
試験期間中はラウンジや大学図書館でたまに見かけるくらいで、イケメンを間近にするのは久しぶりだからかな。
それより、とっておきだというポテトだ。
「よーし、連れてけ」
でかいハーレーについていく。
二台で走るときは、斜めに位置取る。お互いよそ見せずとも視認できて、距離も近い。
沿岸の国道に出た。真夏のぬるい風でも気持ちいい。
目当てのポテト専門店は、入り組んだ道の先の丘に、ぽつんと建っていた。
見晴らしがいいが、国道からは死角だ。
なのに知る人ぞ知る店らしく、駐車場はほぼ埋まっている。
「先輩、座って待っててください」
「いやなんでだよ」
「なんでって……」
注文くらい自分でできる。
律儀が過ぎる後輩は無視して、蛇行する行列の最後尾に着いた。
ただ、小さいスタンドで、自然の中でのんびり経営するつもりだったのか、店員は二名のみ。列の進みは早いとは言えない。じりじりする。
「ママぁ、まだ食べられないの?」
後ろに並ぶ家族連れの子どもが、ついにぐずり出した。
(すぐそばで香ばしい匂いがしてるのになかなかありつけないの、つらいよな)
列は日陰だけど、屋外だから暑いし。
なんて思っていたら、
「先輩。順番譲っても構いませんか?」
叶斗が、ハンディファンの音に隠して耳打ちしてきた。
……って注釈を自分で自分につけて、家を出た。
パーキングエリアにすべり込む。途端、居合わせた人たちの目が僕の隣に集まる。
駐輪スペースに並ぶバイクの中で、いちばんでかいハーレー。
アメリカ製で、パーツもごつい。ガソリンタンクとタイヤの泥除けは、鮮やかな赤だ。
それに跨っているのが、目の覚めるようなイケメンときた。プロテクターが仕込まれたナイロンジャンパーと赤いライダーグローブが、また似合っている。
(待ち合わせただけで、この注目されよう)
大学の前期試験を片づけ、八月を迎えた。
今日は叶斗との約束の日だ。
試験期間中お預けだったツーリング自体は楽しみにしていたのだが、何だか怯んでしまう。相棒の国産バイクとともに縮こまった。
「おはようございます、陽ちゃん先輩」
ヘルメットのシールドを上げた叶斗は通常運転で、顔を覗き込んでくる。
「……次ちゃん付けしたら、叶斗って呼ばないから」
「え、それは困る」
憎まれ口を叩いていたら、いいなー、と僕をうらやむ女の子の声が聞こえた。
(ほんとに、ふたりでツーリングするんだ)
春先は、同じサークルでも話せもしなかった。
飲み会で迷惑をかけてしまって、避けられるかと思いきや、不思議なものだ。
「行きましょ。まずはポテト屋さん」
叶斗がフェイスシールドを下ろす。きらりと午後の陽光が反射した。
「おはよう」って言ったけど、指定された集合時間は、日帰りにしても遅めだ。コンパクトな行程なのだろう。
(それはそう。単なる貸し借りだし)
がっかりはしていない。
ただ、心臓の辺りがむずむずする。
試験期間中はラウンジや大学図書館でたまに見かけるくらいで、イケメンを間近にするのは久しぶりだからかな。
それより、とっておきだというポテトだ。
「よーし、連れてけ」
でかいハーレーについていく。
二台で走るときは、斜めに位置取る。お互いよそ見せずとも視認できて、距離も近い。
沿岸の国道に出た。真夏のぬるい風でも気持ちいい。
目当てのポテト専門店は、入り組んだ道の先の丘に、ぽつんと建っていた。
見晴らしがいいが、国道からは死角だ。
なのに知る人ぞ知る店らしく、駐車場はほぼ埋まっている。
「先輩、座って待っててください」
「いやなんでだよ」
「なんでって……」
注文くらい自分でできる。
律儀が過ぎる後輩は無視して、蛇行する行列の最後尾に着いた。
ただ、小さいスタンドで、自然の中でのんびり経営するつもりだったのか、店員は二名のみ。列の進みは早いとは言えない。じりじりする。
「ママぁ、まだ食べられないの?」
後ろに並ぶ家族連れの子どもが、ついにぐずり出した。
(すぐそばで香ばしい匂いがしてるのになかなかありつけないの、つらいよな)
列は日陰だけど、屋外だから暑いし。
なんて思っていたら、
「先輩。順番譲っても構いませんか?」
叶斗が、ハンディファンの音に隠して耳打ちしてきた。
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