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1章 酒の力を借りて暴走
6 取引デート?②
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はっとする。心の中で思うばかりの僕とは違う。
僕がこくこく頷けば、颯爽と振り返った。
「お先どうぞ」
「え、いいんですか?」
「俺たち急がないので。あと、大人なので」
「ふふ。ありがとうございます。助かります」
悪戯っぽい声色で母親を笑わせ、申し出を受け入れやすいようにもする。
「やったー!」と喜ぶ子どもを、にこにこ見守る叶斗が――眩しい。真夏の日差しのせいだけじゃない。
叶斗は、いつでもどこでも誰が相手でも、自信を持って行動する。
新歓の頃から、その自信に目が引かれていたのを、認めざるを得ない。
(こんなふうに、なりたかった)
でも、なれない。僕には自信の素になるものがない。
バイクが好き。芋が好き。それと同じように、ふつうのことみたいに「同性が好き」っていうのは、僕には難しい。「陽ちゃんね」って無邪気でいられたのは遠い昔のこと。
現実のしょっぱさをまぎらわすように、叶斗の袖まくりした二の腕をはたく。
「おまえ、イケメンで優しいとか何なの?」
冗談めかして褒めれば、叶斗は少し考えるそぶりをした。
「……じいちゃんの教えなんです」
「へえ。叶斗はじいちゃん子なんだな。おっ」
バーテンダーでバイク乗りのじいちゃんだっけ。
どんな教えか聞いてみようとしたところで、メニュー表が回ってきて、話を中断した。
注文でもたつかないよう、外国の絵本みたいなメニュー表を熟読する。
「形は何だかんだプレーンタイプだな。トッピングは十種類もあって迷う……オリジナルBBQソースとガーリックパウダーで。飲み物は、うーんと、バニラシェイクにしよ」
「もっとさっぱりしてるのがよくないですか」
叶斗が口を挟んできた。じ、と見返す。
「しょっぱいポテトと甘くてクリーミーなシェイクの相性のよさ、知らないだろ」
「……前は水が合うって言ってたのに」
「は?」
それから順番が来るまで、ポテトで頭がいっぱいになった。
前に並ぶお客さんがトルネードタイプとかアボカドマヨソースとか買っているのを見ると迷うけれど、初志を貫く。
「お願いします!」
ついに僕たちの番だ。よどみなく注文する。
窓越しに作業の様子を眺める。暑い中、頑張ってくれている。
ほくほくと湯気の立つポテトを受け取った。
(美味しそう)
トレイを手に、パラソルつきガーデンテーブルに着く。
「いただきます。……! ……っ!」
スマホで映え写真を取るのも待ちきれず、頬張った。
噛むと芋の甘さが染み出し、トッピングと引き立て合って、期待以上に美味しい。手が止まらない。
「気に入りました?」
それはもう。はるばる食べに来たくなるのも納得だ。口いっぱいなので、何度も首を縦に振った。
「あはは。頬袋あるみたい」
叶斗のほうは優雅にアイスコーヒーを飲みながら、さっき子どもに向けたような――何ならもっと優しい眼差しを向けてくる。
僕が喜ぶのを、喜んでいる。
(だから、それがずるくて、……)
叶斗は僕にないものを持っていて、ずるくて好きじゃないなんて思って。
でも、ほんとうは、憧れてしまっている。
胸がきゅうっとした。こうはなれないって口惜しさに違いない。
これ以上、可愛くもかっこよくもなく、そのせいで恋愛の一歩目も踏み出せない自分自身を突きつけられたくない。
もくもくとポテトを口に押し込んだ。
桃狩りもして大満足で果樹園を発つ頃には、空の色が変わり始めていた。
来た道を引き返しながら、ふと思う。
(サークルの先輩たちじゃなくイケメン後輩と話せるようになって、ペアツーリングもできたの、何これ)
酒の力を借りようとした結果、勢いよく横道に逸れている気がしてならない。
それがツーリングの醍醐味ではあるけれど……。
その間に、見通しのきく一本道に差し掛かった。
道路と地平線が並行する。空も海も茜色に染まっている。アスファルトも、叶斗のバイクも、僕の身体も何もかも。
もやもやが一発で吹き飛ぶ、壮観だ。
「すご……!」
「でしょ」
感嘆の声を上げれば、叶斗が得意げにする。
帰りにこの光景を見られるよう逆算して、集合を遅めにしたんだとわかった。
こういう道はだいたい、「サンセットライン」とか名づけられ、観光客が多く集まる。
でもここは単なる国道の一部で、地元民が仕事や買い物帰りに通るだけ。
こんなにきれいなのに。
「連れてきてくれて、ありがとう」
空の色が替わっていくさまを目に焼きつけつつ、礼を言う。
「……いえ。何か食って帰りましょ」
叶斗の反応の前に、妙な沈黙があった。
きっと夕陽に見惚れていたんだろう。「どした?」と口には出さず、後を追う。
(寄り道に異論はないし、な)
僕がこくこく頷けば、颯爽と振り返った。
「お先どうぞ」
「え、いいんですか?」
「俺たち急がないので。あと、大人なので」
「ふふ。ありがとうございます。助かります」
悪戯っぽい声色で母親を笑わせ、申し出を受け入れやすいようにもする。
「やったー!」と喜ぶ子どもを、にこにこ見守る叶斗が――眩しい。真夏の日差しのせいだけじゃない。
叶斗は、いつでもどこでも誰が相手でも、自信を持って行動する。
新歓の頃から、その自信に目が引かれていたのを、認めざるを得ない。
(こんなふうに、なりたかった)
でも、なれない。僕には自信の素になるものがない。
バイクが好き。芋が好き。それと同じように、ふつうのことみたいに「同性が好き」っていうのは、僕には難しい。「陽ちゃんね」って無邪気でいられたのは遠い昔のこと。
現実のしょっぱさをまぎらわすように、叶斗の袖まくりした二の腕をはたく。
「おまえ、イケメンで優しいとか何なの?」
冗談めかして褒めれば、叶斗は少し考えるそぶりをした。
「……じいちゃんの教えなんです」
「へえ。叶斗はじいちゃん子なんだな。おっ」
バーテンダーでバイク乗りのじいちゃんだっけ。
どんな教えか聞いてみようとしたところで、メニュー表が回ってきて、話を中断した。
注文でもたつかないよう、外国の絵本みたいなメニュー表を熟読する。
「形は何だかんだプレーンタイプだな。トッピングは十種類もあって迷う……オリジナルBBQソースとガーリックパウダーで。飲み物は、うーんと、バニラシェイクにしよ」
「もっとさっぱりしてるのがよくないですか」
叶斗が口を挟んできた。じ、と見返す。
「しょっぱいポテトと甘くてクリーミーなシェイクの相性のよさ、知らないだろ」
「……前は水が合うって言ってたのに」
「は?」
それから順番が来るまで、ポテトで頭がいっぱいになった。
前に並ぶお客さんがトルネードタイプとかアボカドマヨソースとか買っているのを見ると迷うけれど、初志を貫く。
「お願いします!」
ついに僕たちの番だ。よどみなく注文する。
窓越しに作業の様子を眺める。暑い中、頑張ってくれている。
ほくほくと湯気の立つポテトを受け取った。
(美味しそう)
トレイを手に、パラソルつきガーデンテーブルに着く。
「いただきます。……! ……っ!」
スマホで映え写真を取るのも待ちきれず、頬張った。
噛むと芋の甘さが染み出し、トッピングと引き立て合って、期待以上に美味しい。手が止まらない。
「気に入りました?」
それはもう。はるばる食べに来たくなるのも納得だ。口いっぱいなので、何度も首を縦に振った。
「あはは。頬袋あるみたい」
叶斗のほうは優雅にアイスコーヒーを飲みながら、さっき子どもに向けたような――何ならもっと優しい眼差しを向けてくる。
僕が喜ぶのを、喜んでいる。
(だから、それがずるくて、……)
叶斗は僕にないものを持っていて、ずるくて好きじゃないなんて思って。
でも、ほんとうは、憧れてしまっている。
胸がきゅうっとした。こうはなれないって口惜しさに違いない。
これ以上、可愛くもかっこよくもなく、そのせいで恋愛の一歩目も踏み出せない自分自身を突きつけられたくない。
もくもくとポテトを口に押し込んだ。
桃狩りもして大満足で果樹園を発つ頃には、空の色が変わり始めていた。
来た道を引き返しながら、ふと思う。
(サークルの先輩たちじゃなくイケメン後輩と話せるようになって、ペアツーリングもできたの、何これ)
酒の力を借りようとした結果、勢いよく横道に逸れている気がしてならない。
それがツーリングの醍醐味ではあるけれど……。
その間に、見通しのきく一本道に差し掛かった。
道路と地平線が並行する。空も海も茜色に染まっている。アスファルトも、叶斗のバイクも、僕の身体も何もかも。
もやもやが一発で吹き飛ぶ、壮観だ。
「すご……!」
「でしょ」
感嘆の声を上げれば、叶斗が得意げにする。
帰りにこの光景を見られるよう逆算して、集合を遅めにしたんだとわかった。
こういう道はだいたい、「サンセットライン」とか名づけられ、観光客が多く集まる。
でもここは単なる国道の一部で、地元民が仕事や買い物帰りに通るだけ。
こんなにきれいなのに。
「連れてきてくれて、ありがとう」
空の色が替わっていくさまを目に焼きつけつつ、礼を言う。
「……いえ。何か食って帰りましょ」
叶斗の反応の前に、妙な沈黙があった。
きっと夕陽に見惚れていたんだろう。「どした?」と口には出さず、後を追う。
(寄り道に異論はないし、な)
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