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2章 近づくほど遠ざかる迷走
9 一歩ずつの変化②
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五日目、ついに青森に到達した。
今回のツーリングコースの最北地点だ。
「こうやって走ってみると、日本って山の国だよな」
「はい。山あり谷ありですね」
もはや当たり前に隣にいる叶斗と、感想を語り合う。僕の目標への道のりみたい。
展望台から、奥入瀬渓流っていう水辺まで足を延ばした。大小の岩が転々とした、すごく澄んだ川がある。
木陰にバイクを停めて、徒歩で岩場へ降りていく。
みんな着くなりバイクブーツを脱ぎ、ライディングパンツの裾をめくって、水に素足を浸した。
「はあ゙ぁ……沁みる」
「冷たくて気持ちよくても、おっさん声出るんですね」
「え、そんな声出てた?」
「出てました。無意識ですか」
「聞き耳立てるな」
「ちょあ」
ぱしゃりと水をかけてやる。
叶斗は切れ長の目を悪戯っぽく細め、水をかけ返してくる。
「フェイント、ずるい」
「先輩も不意打ちしたでしょ」
親切してないときの叶斗も、眩しい。跳ね上げた水が木洩れ日に反射してきらめいてるからかな。
じゃあ、また胸がきゅっとする理由は?
(――もしかして)
唐突に顎を上げ、周囲を見渡す。
「ここ、推し俳優の写真集のロケ地かも」
スマホの画像フォルダに保存したデジタルカット(※初版特典)を引っ張り出し、目の前の風景と照らし合わせる。
(やっぱり、同じだ)
ってことは、推し活に嵌まっていたときのときめきがよみがえったに違いない。
自然豊かなロケーションだと、人がきれいに見えるんだな。うん。
先輩たちにスマホカメラを向けてみる。
(あれ? それほどきらきらして見えない)
今回のツーリングで、「うーん」って思う面を垣間見たからか?
そもそも、サークルの先輩たちとなら恋愛が始まりそうって前提自体、ふわっとしている気がする。
でも、叶斗の言葉を借りれば「平和」と言うか。
「誰撮ってるんですか?」
「……別に誰も」
はっとしてごまかしたら、叶斗は唇を固く結んだ。口もとのほくろがむにってなるから、真顔とは違うとわかる。
ほったらかしたのを、拗ねた? 僕以外にも遊べるメンバーはいるだろうに。
夜は、ツーリング折り返し飲み会だ。
明日の出発は午後に設定してある。多少羽目を外しても大丈夫。
(叶斗は……)
民宿の宴会場で、習慣のように叶斗の姿を探す。別に、世話を焼かせてやるため以上の意味はない。
と思っていたら、「石田、こっち座れや」と佐藤先輩に手招きされた。
(え、こんなのはじめて。先輩たちとしゃべれる……!)
佐藤先輩の横には、同じグループの三年生もいる。走行中は事務連絡以外なかなか話せずにいたけど、興味を持ってくれたのかな。
気づけば部屋飲みはあと五回。このチャンスは逃せない。先輩たちとの距離を縮める目標のほうを優先させてもらおう。
日中よぎった疑念は頭から追い出す。
「お邪魔、します」
いそいそ先輩の間に正座する。佐藤先輩が「乾杯すっぞー」と立ち上がった。慌てて近くにあった缶ビールを持ち上げる。
叶斗が、つまみの皿を挟んで正面に来た。
今回のツーリングコースの最北地点だ。
「こうやって走ってみると、日本って山の国だよな」
「はい。山あり谷ありですね」
もはや当たり前に隣にいる叶斗と、感想を語り合う。僕の目標への道のりみたい。
展望台から、奥入瀬渓流っていう水辺まで足を延ばした。大小の岩が転々とした、すごく澄んだ川がある。
木陰にバイクを停めて、徒歩で岩場へ降りていく。
みんな着くなりバイクブーツを脱ぎ、ライディングパンツの裾をめくって、水に素足を浸した。
「はあ゙ぁ……沁みる」
「冷たくて気持ちよくても、おっさん声出るんですね」
「え、そんな声出てた?」
「出てました。無意識ですか」
「聞き耳立てるな」
「ちょあ」
ぱしゃりと水をかけてやる。
叶斗は切れ長の目を悪戯っぽく細め、水をかけ返してくる。
「フェイント、ずるい」
「先輩も不意打ちしたでしょ」
親切してないときの叶斗も、眩しい。跳ね上げた水が木洩れ日に反射してきらめいてるからかな。
じゃあ、また胸がきゅっとする理由は?
(――もしかして)
唐突に顎を上げ、周囲を見渡す。
「ここ、推し俳優の写真集のロケ地かも」
スマホの画像フォルダに保存したデジタルカット(※初版特典)を引っ張り出し、目の前の風景と照らし合わせる。
(やっぱり、同じだ)
ってことは、推し活に嵌まっていたときのときめきがよみがえったに違いない。
自然豊かなロケーションだと、人がきれいに見えるんだな。うん。
先輩たちにスマホカメラを向けてみる。
(あれ? それほどきらきらして見えない)
今回のツーリングで、「うーん」って思う面を垣間見たからか?
そもそも、サークルの先輩たちとなら恋愛が始まりそうって前提自体、ふわっとしている気がする。
でも、叶斗の言葉を借りれば「平和」と言うか。
「誰撮ってるんですか?」
「……別に誰も」
はっとしてごまかしたら、叶斗は唇を固く結んだ。口もとのほくろがむにってなるから、真顔とは違うとわかる。
ほったらかしたのを、拗ねた? 僕以外にも遊べるメンバーはいるだろうに。
夜は、ツーリング折り返し飲み会だ。
明日の出発は午後に設定してある。多少羽目を外しても大丈夫。
(叶斗は……)
民宿の宴会場で、習慣のように叶斗の姿を探す。別に、世話を焼かせてやるため以上の意味はない。
と思っていたら、「石田、こっち座れや」と佐藤先輩に手招きされた。
(え、こんなのはじめて。先輩たちとしゃべれる……!)
佐藤先輩の横には、同じグループの三年生もいる。走行中は事務連絡以外なかなか話せずにいたけど、興味を持ってくれたのかな。
気づけば部屋飲みはあと五回。このチャンスは逃せない。先輩たちとの距離を縮める目標のほうを優先させてもらおう。
日中よぎった疑念は頭から追い出す。
「お邪魔、します」
いそいそ先輩の間に正座する。佐藤先輩が「乾杯すっぞー」と立ち上がった。慌てて近くにあった缶ビールを持ち上げる。
叶斗が、つまみの皿を挟んで正面に来た。
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