完結|好きから一番遠いはずだった

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2章 近づくほど遠ざかる迷走

10 この気持ちの正体②

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「はい。いいなあって」
 まじか。居たたまれずしゃがみ込んだ。
 そりゃあ、うらやましくないって言ったら嘘になる。でも。
「僕さ、いつも思うだけで、行動しないできたんだ」
「……はい」
 叶斗も長い脚を折り畳む。みんなの歓声にまぎれそうな僕の話を聞いてくれる。
「なかなか変われなくて。酒の力借りて、先輩たちとしゃべるので精一杯だし」
「そうだったんですね」
 叶斗の態度も勘違いしないって、言い聞かせてきたし。
(言い聞かせてきたし?)
 本人には明かせないと、心の中でのみ続けた一言を、繰り返す。
 僕は叶斗を好きにならない。そう言い聞かせないといけないってことは、つまり。
 おずおず叶斗を見遣る。
 優しい表情で、悩みを打ち明ける僕を見守っている。僕が黙り込んだからか、「ん?」って小首を傾げさえした。
 新しく花火に火を点けていないのに、眩しい。胸がきゅっとする。
 この「きゅっ」の正体は。
(僕、叶斗を、好きになっちゃったんだ――)
 言葉にしたら、みるみる実感が湧く。
 気があるから優しくしてくれてるって勘違いしたわけじゃなく。誤解されてもなお優しい行動ができるところに、惹かれた。
 むずむずも、もやもやも、そのせいだ。
 やっと見つけた「この人!」って相手が、よりによって一軍のイケメン後輩とは。
「あ゙ー……」
「あはは。行動しようとしてる先輩、じゅうぶん可愛いですよ。……ぐわ」
 叶斗の笑顔を手で押し退ける。でも自覚した気持ちは消えない。
(こんなんじゃ、親切にされてやるのはできないか?)
 それは寂しい。できるのは僕だけ、って自負もある。
(これまでどおり、隠しておけばいい)
 叶斗は、二.五軍の僕とも分け隔てなく話したり、一緒にバイクで走ったりしてくれる。でも、同じ想いを返してくれるのはさすがにあり得ない。
 叶うことはない片想いだ。
 そう思い直したら意外とすっきりして、残りの花火を楽しめた。


 七日目は朝一で、宿のそばの牧場を訪ねる。
「もし雨でこの予定流れたら泣いてました」
「そんなに?」
 大げさな叶斗に苦笑した。もふもふに目がないらしい。
 先輩たちが濃厚なソフトクリームを食べにいく中、僕は叶斗とふれあい小屋に向かった。
 この牧場は、放牧されているジャージー牛に加え、うさぎやモルモットもいる。
 八畳ほどの小屋は、もふもふたちが快適に過ごせるようクーラーが設定されていた。スタッフの姿はない。
「ふれあいはマナーを守ってご自由に。だそうです」
 叶斗がきらっきらな目で張り紙を読み上げる。
「どの子から行く?」
「俺、犬より猫よりネズミ派なんです」
「僕も」
 顔を見合わせる。正反対の叶斗と、思わぬ共通点があった。
 しっかり手指消毒し、「失礼します」とモルモットエリアにお邪魔する。叶斗も「あはは、そっちのマナー」とか笑いつつ続く。
「おいで」
 人懐っこいモルモットたちが、いっせいに駆け寄ってきた――僕の膝に。
「動物にはモテないのか、星川くん~?」
 いちはやくもふりながら、叶斗を揶揄う。こんな状況めったにないし。
 動物は、可愛い。こっちのスペックを気にせず愛でられる。
「仲間だと思われてるんじゃないですか? この黒毛の子とか、先輩に似てる」
「何て? 撫でるのに忙しくて聞こえなかった」
「いいですよー、俺はこの子もふるんで」
「……」
「ほんとに聞いてない」
 動物たちが疲れない程度にもふらせていただいたのち、
「昨日はレインコート、ありがとう。荷物に余裕あるから僕が持っとくよ」
 と叶斗に伝えた。
 叶斗は「何も返してくれなくていい」って言ってたけど、感謝は返してもいいよな。
「え、俺が勝手に貸したんで」
「また雨降ったら着るから」
「じゃあ……、はい」
 気持ちを自覚しても、自然に振る舞えてる。この調子でいこう。
 牧場を満喫したら、再びグループに分かれて、山形を縦断する。
 昨日のリベンジで海沿いを走った。風力発電の風車が建てられるほどの強風のせいか、荒波という印象だ。
(僕の恋愛事情っぽい……なあんて)
 夕方には、新潟に突入した。
 今日泊まるのは、日本海に面した、ひなびた温泉街。
 海の幸をいただく。全員アルコールなしと定められた日なので、早めに就寝――とはいかない。
「童貞諸君、先輩に聞きたいことあるか?」
 大部屋に敷き詰めた布団に入るや、四年生の先輩が口火を切った。
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