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3章 嫌いな自分から逃走
15 学祭の落とし穴
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うちの大学は、十一月に学祭が開催される。
サークルは任意参加だ。去年はバイクにあんまり関係ない、焼きそば店をやった。
僕は接客も呼び込みも調理もいまいちで、高橋とともに食材の補充役をして終わった。
(愛季ちゃんの呼び込みが抜群で、高橋は恋に落ちたんだよな)
学祭の後しばらく、愛季ちゃんがいかに溌剌として可愛かったか聞かされたっけ。
それから一年、二人は順調。
ふ、と嬉しいような切ないような笑みを漏らし、アパートの布団で寝返りを打つ。
今年の学祭は参加しないつもりだ。二.五軍には荷が重い。去年、痛感した。
(この間にバイクのメンテナンスしよ)
ちょうど点検のタイミングでもある。日々の手入れに加え、消耗品の交換とか、各部位の動作確認をしっかり行ってこそ、安心して走れるってものだ。
ネットで口コミのいい整備士さんを探す。
[おつ。佐藤先輩が、このURL高校とかの友達に広めてだとさー]
その途中で、高橋からLINEが届いた。
サークルの事務連絡か? いや、それならサークル外に広める必要はない。
首を傾げつつ、添付のURLをタップしてみる。
「はぁ゙!?」
表示されたテキストと画像に、大声が出た。
<ミス&ミスターサークルコンテスト 予選開催中!
学祭ステージに立つファイナリスト五名を選ぼう。投票はこちら>
<エントリー№9/社会学部一年 星川叶斗>
――って。叶斗が、サークル代表としてミスターコンに駆り出されているではないか。
「おまえ、誤解されたくないんだろ。こんなのイケメンイメージが加速するだけだって。なんで断んないんだよ」
布団から跳ね起き、画像に向かって言う。もちろん返答はない。
黒髪を掻き混ぜ、高橋に[なんで]と送る。
[今年のミス&ミスターコンの副賞、旅行券があるんだよ。三十万円分]
旅行券。サークルツーリングの宿泊代に充てられる。
実は去年も模擬店コンテストがあったものの、上位入賞はできなかった。というかそもそもメンバーが楽しむことに重点を置いていた。副賞に興味がなかったのだろう。
(今年は本気っぽい)
ミスターコンに叶斗を、ミスコンにも愛季ちゃんをエントリーさせている。
画面をスクロールして、ルールを確認した。
Web投票は、うちの学生以外も一端末一回できる。投票期間は今日から一週間。
(まだ阻止できるよな?)
叶斗に辞退を勧めようと思った。
顔が良過ぎる後輩の悩みを知っているのは、僕だけだから。
ただ、次の日もその次の日も、叶斗がつかまらない。
「星川見なかった?」
「あれ、さっきまでいたのに」
「星川ってこの授業取ってるよな」
「うん。でも急いで移動しちゃった。学食かな」
学年も学部も違うし、後期は被っている授業もない。
(僕、避けられてたりとかする?)
学食の長テーブルでひとり、頬杖を突く。
叶斗はいない。空振りの間に、投票期間半分過ぎてしまった。
LINEのIDは交換しているのだから、[今、どこいる?]ってメッセージを送ればいい。何なら通話でもいい。
(理屈では、そうなんだけど)
やり取りは十月の連休で止まっていて(それもこっちの未読スルー)、連絡しにくい。
(もうちょっと学内探そ)
浮かせた腰を、慌てて椅子に戻す。
(ふわわ)
真横を一軍集団が通り過ぎて、圧に負けたのだ。
叶斗の友達とは別の男子たち。ミスターコンにエントリーしているらしく、
「まだ投票してない人お願いしま~す。御礼のファンサします!」
って宣伝して回ってる。旅行券以外にもいろいろ副賞があって、白熱しているようだ。
(……叶斗も案外、旅行券ゲットに積極的だったりして)
集団の後ろ姿を眺めていて、ふと我に返る。
(ていうか、たとえ困ってても、好きでもない相手を助けないだろ。叶斗じゃあるまいし)
二.五軍のただの先輩が、あやうく出しゃばるところだった。
嫌いでいないと。
そそくさと三限の教室へ向かった。
ミス&ミスターコンの本選は、学祭当日。
ただし予選も生配信イベントがあるという。
web投票の中間結果では、叶斗はエントリー二十名中三位に入っている。
結局気にかかって、中庭に組まれた特設ステージまでこっそりイベントを見にきてしまった。
サークルは任意参加だ。去年はバイクにあんまり関係ない、焼きそば店をやった。
僕は接客も呼び込みも調理もいまいちで、高橋とともに食材の補充役をして終わった。
(愛季ちゃんの呼び込みが抜群で、高橋は恋に落ちたんだよな)
学祭の後しばらく、愛季ちゃんがいかに溌剌として可愛かったか聞かされたっけ。
それから一年、二人は順調。
ふ、と嬉しいような切ないような笑みを漏らし、アパートの布団で寝返りを打つ。
今年の学祭は参加しないつもりだ。二.五軍には荷が重い。去年、痛感した。
(この間にバイクのメンテナンスしよ)
ちょうど点検のタイミングでもある。日々の手入れに加え、消耗品の交換とか、各部位の動作確認をしっかり行ってこそ、安心して走れるってものだ。
ネットで口コミのいい整備士さんを探す。
[おつ。佐藤先輩が、このURL高校とかの友達に広めてだとさー]
その途中で、高橋からLINEが届いた。
サークルの事務連絡か? いや、それならサークル外に広める必要はない。
首を傾げつつ、添付のURLをタップしてみる。
「はぁ゙!?」
表示されたテキストと画像に、大声が出た。
<ミス&ミスターサークルコンテスト 予選開催中!
学祭ステージに立つファイナリスト五名を選ぼう。投票はこちら>
<エントリー№9/社会学部一年 星川叶斗>
――って。叶斗が、サークル代表としてミスターコンに駆り出されているではないか。
「おまえ、誤解されたくないんだろ。こんなのイケメンイメージが加速するだけだって。なんで断んないんだよ」
布団から跳ね起き、画像に向かって言う。もちろん返答はない。
黒髪を掻き混ぜ、高橋に[なんで]と送る。
[今年のミス&ミスターコンの副賞、旅行券があるんだよ。三十万円分]
旅行券。サークルツーリングの宿泊代に充てられる。
実は去年も模擬店コンテストがあったものの、上位入賞はできなかった。というかそもそもメンバーが楽しむことに重点を置いていた。副賞に興味がなかったのだろう。
(今年は本気っぽい)
ミスターコンに叶斗を、ミスコンにも愛季ちゃんをエントリーさせている。
画面をスクロールして、ルールを確認した。
Web投票は、うちの学生以外も一端末一回できる。投票期間は今日から一週間。
(まだ阻止できるよな?)
叶斗に辞退を勧めようと思った。
顔が良過ぎる後輩の悩みを知っているのは、僕だけだから。
ただ、次の日もその次の日も、叶斗がつかまらない。
「星川見なかった?」
「あれ、さっきまでいたのに」
「星川ってこの授業取ってるよな」
「うん。でも急いで移動しちゃった。学食かな」
学年も学部も違うし、後期は被っている授業もない。
(僕、避けられてたりとかする?)
学食の長テーブルでひとり、頬杖を突く。
叶斗はいない。空振りの間に、投票期間半分過ぎてしまった。
LINEのIDは交換しているのだから、[今、どこいる?]ってメッセージを送ればいい。何なら通話でもいい。
(理屈では、そうなんだけど)
やり取りは十月の連休で止まっていて(それもこっちの未読スルー)、連絡しにくい。
(もうちょっと学内探そ)
浮かせた腰を、慌てて椅子に戻す。
(ふわわ)
真横を一軍集団が通り過ぎて、圧に負けたのだ。
叶斗の友達とは別の男子たち。ミスターコンにエントリーしているらしく、
「まだ投票してない人お願いしま~す。御礼のファンサします!」
って宣伝して回ってる。旅行券以外にもいろいろ副賞があって、白熱しているようだ。
(……叶斗も案外、旅行券ゲットに積極的だったりして)
集団の後ろ姿を眺めていて、ふと我に返る。
(ていうか、たとえ困ってても、好きでもない相手を助けないだろ。叶斗じゃあるまいし)
二.五軍のただの先輩が、あやうく出しゃばるところだった。
嫌いでいないと。
そそくさと三限の教室へ向かった。
ミス&ミスターコンの本選は、学祭当日。
ただし予選も生配信イベントがあるという。
web投票の中間結果では、叶斗はエントリー二十名中三位に入っている。
結局気にかかって、中庭に組まれた特設ステージまでこっそりイベントを見にきてしまった。
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