完結|好きから一番遠いはずだった

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3章 嫌いな自分から逃走

16 酒とバイクの縁

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 十一月になった。五限ともなれば、教室の外はすっかり暗い。
(今月のサークルツーリング、どうしよっかな)
 街灯で見えにくい星を窓越しに眺めながら、物思いに耽る。
(……まただ)
 窓ガラスに、別の星――星は星でも星川叶斗が像を結んだ。
 この間のミスターコン予選で駆け寄ってくる姿や、タンデム中の体温、こちらの顔を覗き込む眼差しが、繰り返し思い出される。
 その度に、胸がきゅっとする。
 この状態で、たとえ隊列の端と端でも叶斗と長い時間過ごしたら、「好き」を断ち切れない。
(だって、頑張って行動しようとしてるの見ててくれて、世話焼かれるのはかっこ悪いだけじゃないって教えてくれて、僕にはない自信があって)
 それでいて、同じように悩んでいる。
 僕にできることがあったらしてあげたいって思ってしまう。
(別にないか、できること)
 ミスターコンは僕が勝手に連れ出した。
 叶斗は僕が勘違いしないようにか、教室まで会いに来ないし、LINEもしないでくれている。その親切を受け取るくらいだ。
 一方で、そうやって叶斗から逃げていたら、自分の弱さからも逃げたままで、変われない気もする。
 自分を変えて、「好き」を抑えず表現して、好きな人にも受け止めてほしい。
 でも、自分が傷つかないことばかり考えてきた僕なんか、誰も好きになってくれるはずがなくて。
 ていうか、好きになってほしい相手はたったひとりで。
 でも、その人を嫌いでいないといけなくて。
「ぬあ゙あ……!」
 恋愛、難し過ぎる。
 つい呻いて、「説明わかりにくいですか」って教授を心配がらせてしまった。


 土曜日。愛車のキーをつかんだ。
 気持ちを整理して、叶わなかった初恋をいい思い出に変えよう。そのためにソロツーリングに出ることにした。
 サークルツーリングじゃなくても、走ることはできる。
(どこに行こう。この時期でも割とあったかい海かな)
 ひとりなら気ままだ。中学生のときより遠くへ行ける。自由に走れば前向きになれる――と、思ったのに。
「おっ、みかん狩りだ、って……」
「『一キロ先 もふり園』って何だ?」
 目に入った看板の文字を、誰にともなく報告してしまう。
 何を見ても、何を食べても、感想を共有しないと完成しない感じがする。
 間違いなく、叶斗とのペアツーリングが楽しかったせいだ。長距離ツーリングでもほぼ同じグループだったし。
 これでは、叶斗が恋しくなって、逆効果。
「ああもう……、ずるいぞばかー!」
 自棄で海に向かって叫ぶ。
 好きにならずにいられないどころか、ちっとも嫌いになれない、ずるい男だ。
(星は遠いって、わかってたのに。地上からですらきらきらして見えるんだもんな)
 好きだー、と叫んで、恋心を吐き出し海の底に沈められたらよかったものの、それはできなかった。
 早々に帰って、次の手段に出る。
 二十歳になった今の僕はツーリングだけじゃない。酒によってすっきりもできる。
 ただし家飲みだとしゃっくりが止まらない。
 この機に、行きつけの店を開拓しよう。新しい出会いもあるかもしれない。
 次の「好き」を見つけたら、叶斗への「好き」は過去になっていくはず。恋愛経験0の僕には推測でしかないが。
 サークルの先輩たちは、申し訳ないけれど「叶斗のほうがかっこいい」と思ってしまう。
 もっと別の、僕が「この人!」って夢中になりそうな、自信のある男の人がいるのは。
(六本木とか!)

 ――三十分前の自分は、短絡的だった。
 ここは少なくとも二.五軍大学生がひとりで歩く街じゃない。学生街とはまったく雰囲気が違い、親しみの欠片もない。来たばかりだが帰りたい。
(でも、進まなきゃ)
 路地に入ってみる。こちらにも店がある。
 コンクリート打ちっぱなしの外壁に、細いドア。白色の外灯がカクテルグラスのグラフィティアートを映し出す。
(ここも、バーなのかな)
 店そのものより、駐車場に停まっているハーレーに目が行き、足を止めた。
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