完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!

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4章 嫌いで好きな君へ疾走

19 追い出しツーリング

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 ご来光&四年生追い出しツーリングは、実家に帰省しているメンバーもいるため三が日は外し、冬休み明け直前に一泊二日で行われる。
 「あけおめ」と、パーキングエリアに集まった。
「みんな、一緒に走りたい四年生のグループに入れてもらえ」
 佐藤先輩の号令で、わっと四年生のもとに駆け寄る。相変わらず叶斗にくっついていく女子もいるけど、僕には関係ない。
 愛車のエンジンをかける。
 行き先は、本州最東端の岬だ。厳密にはご来光じゃないけど(ご来光は山から見る)、細かいことは気にせずということで。
「石田ー」
「ん?」
 冬のツーリングは、気持ちいいが、寒い。ネックウォーマーにうずまるような姿勢で走っていたら、同じグループの高橋が声を掛けてきた。
「正月何してた?」
「実家でごろごろ」
 こたつで温まりつつスマホを抱えていたのは、別に何かを待っていたわけじゃない。
「おれも」
「クリスマスも正月も同じだな」
 クリスマスは高橋と遊んだ。「なんでおまえと」って言い合いながらも楽しかった。
(大学二年、いろいろあったなあ)
 海岸線を走りながら振り返る。
 まだ後期試験と春休みが残っているものの、もう終わった気分だ。
 酒が飲めるようになって、恋愛の可能性がいちばんない相手と話すようになって、まんまと好きになってしまって、始まる前に終わらせるしかなくなった。
(二.五軍男子には濃過ぎる経験だよ)
 日の出に新年の目標を誓おうと思っていたけれど、追いコンで四年生を送るとともに、恋心の残滓を胸から追い出すので精一杯かもしれない。
 夕暮れ前に、宿に着いた。
 早速、大部屋に持参の酒を並べる。
 追いコンを盛大にしたいし、明日は日の出を拝むべく六時起きだしで、忙しいのだ。
(さてと。どこに座ろう。四年生には、二年間お世話になった挨拶を一言伝えられればいい)
 とにかく叶斗に隣を押さえられるのを避け、隅っこに居ついた。
「それじゃあみんな、盛り上がりましょう! 乾杯」
 四年生が乾杯の音頭を取る。
 僕も紙コップを掲げ、平和に飲み始めた。バイク乗りといっても陽キャばかりではなく、のんびり飲みたい人もいる。
「はい注目~」
 乾杯から少しして、運転の緊張感もほぐれたところで、佐藤先輩が立ち上がった。
 その横に叶斗と愛季ちゃんが並び、思わせぶりに両手を後ろに回している。
 四年生への記念品贈呈だ。
 ミニグラスと、サークルツーリングで回った場所での写真を収めたアルバム。三年生以下は四年生の卒論提出後も部室に集まり、こっそり制作した。
「四年間、お疲れ様でした」
 叶斗が四年生に包みを手渡す。
(こういう役任せてもらえて、よかったな)
 拍手しながら、蛍光灯の下でも眩しい後輩を見守った。
 顔が良いだけでなく、可愛いがられている後輩だからこその指名だろう。十か月このサークルで過ごして、少なくともメンバーには表面のみで嫉妬されたり嫌われたりしなくなったんじゃないか。
(告白を断り続けてれば、女子も諦めてくよな、きっと)
 長距離ツーリングで玉砕していた子も、今は別の男子と屈託なく笑い合っている。
(それに引きかえ、僕は……何も変われてないし、未練たらしいし)
 飲もう、酒を。
「高橋」
 友の隣に陣取り、肩を組む。「うおっ」と叫ばれたけれど、逃がさない。
 紙コップにビールを注ぐ。もくもくと喉に流し込む。高橋はちらちら僕の肩の向こうを気にしている。
「元カノ見つめても仕方ないだろ、陽ちゃんのほう見ろ」
「うん、見てないけどな」
 じゃあ誰を見てるんだろう?
 振り返ると、四年生が部屋の中央に集まっていた。空にした酒瓶をマイク代わりに口もとに当てる。
 四年生の一言スピーチか。ちゃんと聞かないと、と身体の向きを変える。
 ちょっと、うとうとしてきた。
 最後に全員で集合写真を撮る段取りだ。それまで、頑張ら、ないと――。
 一瞬、目を瞑る。
(え?)
 一瞬だったのに、再び開けると、大部屋は無人になっていた。
 みんなどこへ、と不安いっぱいできょろきょろする。
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