完結|好きから一番遠いはずだった

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4章 嫌いで好きな君へ疾走

21 十九歳の誕生日

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 行動できないできた僕が、回り道の末に玉砕覚悟で恋心を言葉にした結果、いちばん遠かった相手とはじめての恋愛が始まった。
(さすが大型のハーレー、障害物ハードルに正面から突っ込んでも揺らがないわ)
 その数日後。
「叶斗、一月十一日生まれなの」
い」
 暖房の効いた学食で、人気ナンバー1メニュー・ふわとろオムライスを頬張る叶斗が、得意げに人差し指を立てた。「1」って数字がよくお似合いで。
「十九歳の誕生日は、恋人にお祝いしてもらいたいです」
 口の中のものを呑み込むや、すかさずねだってくる。
 恋愛にそれほどのめり込むタイプじゃありません、という顔をして、いざ付き合い始めたら叶斗のほうが要求が多い。
 昼ごはんふたりで食べたいとか。おやすみLINEしてとか。
(まあ、もとが寂しがりだもんな)
 それで僕なんかを失いたくないって……訂正、悩みを理解してくれる可愛い先輩を逃したくないって、遠回りしたらしい。
 そんな恋人のご所望を叶えてやるべく、「いいよ。何したい?」と尋ねた。
「何でも言いな」
「何でも」
「やっぱものによる」
 叶斗の食いつき方に圧され、身構える。二.五軍として生きてきた僕には限界があります。
「おうちデートしたいです。先輩のアパートで」
 出てきた案は意外に控えめだった。てっきりツーリングとかテーマパークとかを予想していた。一月限定・冬の新じゃがグラタンをごくんと飲み込む。
「それくらい構わないけど。むしろいいのか?」
「はい。外は寒いですし」
「ふうん」
 そう言われると、掃除や料理のみならず、飾りつけも頑張ってやらないといけない気がしてくる。
 授業終わりにバラエティショップで材料を買い込み、当日に備えた。

 一月十一日。休日なので、朝から準備に勤しむ。
(よし! 「1」「9」の風船も、レターバナーもペーパークラフトもうまくいった。保育バイトで磨いたスキルが活きたな)
 ふふん、と腰に手を当てて自画自賛する。
 壁の飾りつけは、赤を基調に仕上げた。私物はまとめて隅に追いやってスプレッドで覆った。僕の部屋じゃないみたいだ。
 正午前、近所のコンビニへショートケーキを買いに行く。
 手づくりは練習期間が短過ぎる。有名パティシエの洋菓子店と迷ったものの、僕たちの思い出のケーキを選んだ。
 会計するおばさま店員は、買ったのがイケメンじゃなく二.五軍でちょっと残念そうだ。食べるのはイケメンなので許してほしい。
(星っぽいアラザンで少しだけアレンジして……ん?)
 アパートに戻ると、駐輪場に男がしゃがみ込んでいた。
 ふつうなら不審者だけど、イケメン――叶斗なら雑誌の一ページに錯覚する。
 僕に気づくや、眩しいほどの笑顔になった。
「早く着いちゃいました」
 よほど楽しみだったようで、駅まで迎えに行くと言ったのに、自ら出向いてきた。
 僕の愛車を風よけにしていたらしい。
「寒いだろ、中入れ」
 家の鍵を取り出しかけて、ふと止まる。
「おまえ僕の家なんで知ってんの」
「なんででしょうね」
「は?」
 するりとかわされた。しかも、僕が手を突っ込んだのと逆側のポケットから鍵を持ち出され、扉を開けられる。
「お邪魔します。わ、壁に『HAPPY BIRTHDAY』って!」
「……うん」
 一軍イケメンは歴代の恋人や一軍友達に豪華に祝ってもらってきただろうに、律儀に目を輝かせた。
(ていうか僕、歴代の彼女たちより可愛い自信、一ミリもない)
 アパートの場所を知られていた疑惑より、付き合い始めてから生まれた不安がもたげる。
 夏の長距離ツーリングでの男子部屋恋バナ会を鑑みるに、叶斗は経験豊富だ。それらを超えるいい思い出、なかなかつくれないんじゃないか。
「元カノの祝い方のほうがよかったんじゃとか思ってます?」
「な゙ん!?」
 正確に言い当てられ、提げていたケーキを落っことしかけた。危ない。
「まあ、その、思わなくもなくもなかったり」
「俺、恋人に祝ってもらうのはじめてですよ」
「う」
 佇むだけで六畳の部屋を撮影スタジオみたいにするイケメン様を、じろじろ見る。
「っっっそだあ」
「ほんとです。大げさになりがちでめんどうで。一緒にいてくれたら充分なんですけど」
「一年に一回ってなったら気合も入るだろ」
 見分けつかないかもしれないけど、僕だって新しい服を着ている。見分けつかないかもしれないけど。
「でもなんか、面映ゆいんですよ」
 叶斗が口もとのほくろをぽりぽり掻く。親切もただ受け取ってほしがる性質なのを考えると、褒められたり祝われたときどう振る舞えばいいのかわからないとみた。
 僕はそれでも、見返りを求めず祝い尽くさせていただきますが。
 さっきつくっておいた、今日の主役用三角帽子を取り出し、背後から被せようともくろむ。
 でも、僕を安心させるための叶斗の自白はまだ終わっていなかった。
「てか、元カノ自体、」
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